戦火の予感
戦火の予感
シボラ管理委員会は定例委員会を開いていた。
「シールドの消滅に伴う地球との交信が回復してから早三ヶ月、我々は現在火星に最も近い地球の宇宙ステーション・アーズⅣに交信を続けています。それにも拘らず依然として交信拒否の状態が続いています。これを総督はどう思われますか?」
委員の一人が質疑した。
「シールドの発生から既に二十年近くが経っていますが、それ以前は地球軍と長い間交戦状態でありました。私は地球側は最早シボラ人を同胞とは考えていないのではないかと思います。もしかすると我々に新たなる脅威が迫っているのかもしれません。
もしそうだとすればそれは何か? 再びの戦乱の到来ではないでしょうか? 地球側もシールドの消滅のことを既に知っていることでしょう。彼らは今このシボラへの攻撃の準備を整えているのかもしれません」
ラルフは話を終えると委員たちの顔を見回した。誰も口を開く者がなかった。それは誰もが予感し危惧していた事態だったからだ。総督は答弁を続けた。
「恐らく委員の方々もそのことを予感していた筈です。『シボラ戦争』は決着が付かないままに謎のシールドの発生によって中断されました。しかもその時、あのシールドの発生がなければ、我々は地球軍が放った核の炎に焼かれていたでしょう。この三か月に及ぶ地球側の沈黙は彼らのシボラに対する軽視と侮蔑を示唆するものと考えた方が良いでしょう。楽観は禁物です。彼らは一度シボラに向けて核を放っているのですから。我々は最悪の事態に備えねばなりません。
だが我々は二十年前とは違います。我々にはこの二十年の間にシボラの知恵を結集して創られた秘密兵器マルチバトラーがあります。そして、その他にも地球軍に対抗しうる武器も、十分ではないにしても必要な物は揃っています。もし地球側が再びシボラを攻撃したとしても、我々はこの二十年の間に蓄えた力を使い地球軍を撃退することも可能かもしれません。どんな脅威が迫ろうとも我々シボラ人は黙って滅ぼされはしません。我々にも生きる権利があるのです。我々は我々を滅ぼそうとする者たちに敢然と立ち向かおうではありませんか!」
議場に大きな拍手が巻き起こった。興奮した委員の一人が立ち上がり声を張り上げた。
「我々の先代が命を懸けて守ったシボラを我々の代で終わらせる訳にはいかない! このシボラをその未来を担う子供たちに残すためにも、我々は決死の覚悟で戦い抜こうではありませんか!!」
委員たちは全員が立ち上がりラルフとその委員に大きな拍手を送った。




