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シボラの雪  作者: 新条満留
第四章 滅びの星
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四つの心

四つの心


 フィオナはアナムとクレアの分も椅子を用意した。四人は笑顔で互いに見つめ合った。

 「こうして四人揃うのも久しぶりだな」

 シャナスは三人の顔を順に見回した。

 「ああ、お前が陸軍に転向して以来だな。やっぱり、こうして揃うと懐かしい気持ちになる。僕たちが一緒に遊び回ってたあの頃に心が戻っていく」

 アナムは安心感を覚えた。

 「そうだな。あの頃はフィオナもお転婆だったもんな。今ではお淑やかさが板に付いてるけどさ」

 クレアはフィオナに流し目を送って意味ありげ見つめた。

 「な、何よ! 私は昔と全然変わってないわ。クレアこそ、言葉遣いを除けばすっかり色っぽくなっちゃって」

 フィオナは頬を膨らませて言った。

 「あはは、俺にはそれほど皆が変わったとは思えないけどな。皆あの頃のままだよ」

 シャナスが嬉しそうに言った。

 「戻りたいな、あの頃に。毎日が平和で何も考えずにいられた、あの頃に…」

 クレアが懐かしむように言った。彼女の言葉で彼らは感慨深くなり、それぞれ思いに耽って少し沈黙が続いた。

 「シャナス、今日はお前の見舞いも兼ねて少し話があって来たんだ」

 アナムが沈黙を破って話し始めた。

 「あいつのことだな?」

 シャナスの目は鋭くなっていた。

 「そうだ。お前は何か知ってるんだろ、あの生き物のことを? 僕は一月ほど前にお前が怪我したという噂を耳にはしていたが、陸軍の訓練中のものだと思っていた。あの生き物が都市まちを襲った日、僕はお前があれとよく似たものに遭遇したことがあると父から聞いた。だが父は機密事項に関わることだと言って、それ以上詳しいことは教えてくれない」

 アナムは自分がこの件について知っていることを話した。

 「確かに俺はあの生き物と遭遇したことがある。だけど俺にもあいつが何なのかは分からない。だが俺のいた部隊はあいつのせいで全滅したんだ」

 シャナスはその時の光景を思い出して苦渋の表情を浮かべていた。

 「全滅か……確かにあんな化け物じゃ、生身の人間ではどうにもならないな」

 クレアはあの生き物と戦った時の状況を思い出していた。

 「今思い出しても悪夢としか思えない。俺のいた小隊は護衛のために、調査団と一緒に赤道付近のブリオングロードの鉱床に行った。到着した日の深夜、今回のように突然に猛烈な嵐が襲ってきた。それが収まると今度は雪が降ってきたんだ。それに触れた俺の仲間や一緒にいた調査団員たち全員の身体が紅い鉱物に変わってしまった。そして、雪が沢山集まってあいつが現れた。あいつが現れると同時に、紅い鉱物に変貌した全員の身体が砕け散った。そしてそれらはすぐに光の粒みたいになって消えてしまったんだ、跡形もなくな。

 俺は仲間を殺された怒りであいつに飛び掛かった。だが、そこからのことがどうしても思い出せない」

 シャナスが話している間、三人は信じられないといった表情を浮かべていた。しばらく、それぞれが考えに耽って沈黙した。

 「だが、どうしてお前だけ無事だったんだ?」

 クレアが不思議に思って訊ねた。

 「分からない。どうして俺が生きているのかも。俺の身体はもう純粋な人間じゃなくなってしまった。『人工生命体』になってしまったらしい。その上、心臓が停止したままなのに身体は機能し続けている。分からないことだらけさ」

 シャナスは頭を左右に振ってから寂しげな表情をして俯いた。

 「じゃあ今、お前の心臓は動いていないのか? あの時、お前が言った言葉の意味はそういうことか?」

 アナムが驚愕の表情を浮かべて訊ねた。

 「ああ、自分のことなのに自分で分からない。原因もこれからどうなってしまうのかも」

 シャナスは自分の腿に拳を打ち付けた。

 「シャナス、あまり思い詰めないで! …まだ絶望と決まった訳じゃないわ。あなたはここにいるのよ! 生きているのよ!」

 フィオナは身を乗り出して声を張り上げた。

 「そうだ。誰がどう言おうと、ここにいる皆はお前が死んでるなんて思ってない! 私たちと同じ人間だ!」

 クレアは涙を浮かべてが叫んだ。

 「ああ、存在がある限り、心がここにある限り、お前はお前だ! 僕たち三人はそう思ってる。それを忘れるな! 誰かがそう信じてる限り、その人間は死なない、絶対に!」

 アナムが大声で言った。

 「ありがとう、皆…」

 シャナスの頬を涙が伝わった。彼は心を許した仲間たちの言葉が嬉しくて両手でシーツを握りしめた。

 四人は幼い時からいつも一緒だった。まるで兄妹のように心と心で結ばれていた。一時は離れ離れになったとしても、再び会えば時間を飛び越えて以前のような仲に戻る。彼らはそんな結び付きで今もここにいた。

 彼らの頬を涙が伝っていた。一人も欠けさせてはならない。彼らの心は今そうした想いに溢れ再びその友情を確認していた。

 「シャナス、もう一つ訊いていいか?」

 アナムは涙を拭いながら言った。

 「ああ…何だ?」

 シャナスも涙を拭った。

 「あいつをどうやって倒した? あいつは不死身だ。何度傷つけても身体が再生する。それをお前は一撃で倒した。どうやったんだ?」

 「見えたんだ。あいつの心臓が。身体の中で光ってる紅いものが、俺はそれを貫いただけだ」

 「僕たちには見えなかった。お前にだけはそれが見えるのか?」

 アナムは驚いていた。

 「俺だけにしか見えないのかは分からない。だが、あいつに近づいた時、紅く光るものが人間の心臓のように動いているのが見えたんだ」

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