雪
雪
深夜になってから調査団のベースキャンプを暴風が襲った。キャンプ地は猛烈な砂嵐が巻き起こり視界が殆ど利かなかった。
「全員塹壕に入れ! 砂嵐だ、身体がバラバラになるぞ!」
小隊長は漆黒の闇の中で叫んだ
「皆、大丈夫か?」
暗闇の中で誰かが叫んでいたが、風の音に邪魔されて聞き取り難かった。
「ライトが消えた! 補助電源に切り替えろ!」
「駄目だ! 動作しない! 機材も吹き飛ばされそうだ!」
「見張りは何をやっていたんだ!? どうしてもっと早く気づかなかったんだ!」
「嵐の発生源がここだったんです! 何の前触れもなく!」
暗闇の中で誰が言っているのか分からない叫び声だけが交差していた。
「全員塹壕に退避したか!?」
「ウワァアアアア!!」
「どうした、何があったんだ!?」
嵐は次第に収まり、辺りは静けさを徐々に取り戻した。
「何が起こったんだ?」
「誰かライトを点けろ!」
少し経って周囲はライトで明るくなった。小隊員たちは周囲を確認して、全員無事だったことで少し落ち着きを取り戻した。
「どうなってるんだ…こんな突然…?」
小隊長が隊員の顔を見回しながら訊ねた。
「分かりません。気が付いたら、嵐が…」
「調査団員たちはここにいるのか? 皆、生きてるのか?」
「こ、これは何だ?」
空から白く光る何かが降って来て辺り一面が白く染まり始めた。
「…これは?」
「雨じゃないな…。霧とも違う…」
「雪ってやつかな?」
シャナスは両掌で降って来た白い物質を受け止めていた。
「火星に雪だと…何十年ぶりのことなんだ?」
小隊長は空を仰ぎ見た。
「ギャアアアア!!! か、身体が…!!」
誰かが叫び声を上げた。
「おい!! どうした!!?」
小隊長を始め隊員たちが叫び声の方に顔を向けると、遠くにいた一人の調査団員の身体が紅い鉱物に覆われていた。
「何だ!! どうなってるんだ、これは!?」
小隊長が叫んだ。
「アッ、ウッ、ウワァアアアア!!!」
今度は小隊長が絶叫した。
「隊長ぉおおおお!!」
シャナスは叫び声を上げて、小隊長を呆然と見つめた。小隊長の身体も紅い鉱物に覆われてしまっていた。次々と絶叫が響き渡った。シャナスは為す術もなく、ただ呆然と立ち竦んでいた。その時、頭の中とも外部からとも分からない轟くような声が聞こえた。
「ム・カ・ユー」
シャナスのライトブルーの瞳は光を帯び始めた。




