シボラ人
シボラ人
シャナスの小隊と調査団のキャラバンは、目的地に到着してから予定通りブリオングロード鉱床の調査を続けていた。
「驚いたな。この鉱床の純度はこれまでに発見されたものの中では、最高のものかもしれない」
調査団員の一人が言った。
「これを調査してどうするんだ?」
シャナスの部隊の小隊長はその団員に訊ねた。
「『ブリオングロード』が地球の汚染を浄化する作用があることは既に周知の事実ですけど、それ以外にもいろいろと役立つ可能性があるらしいのです。もしかすると、火星の自然環境の変化にも何か関わりがあるかもしれない、と指摘する研究者もいます。
我々の仕事はこうして鉱床を調査してその量、質、位置、そしてその分布の正確なデータを作成して、クラン化学工業に届けることです。もし『ブリオングロード』が多用途できる物質であるなら、そんな素晴らしいことはありません。そうは思いませんか?」
その団員は目を輝かせて説明した。
「まあ、そんな夢みたいな鉱物なら、火星の貴重な天然資源ということになるな。ウーム、なるほどな。まあ、じっくりと調べてくれ。君たちの安全は我々が確保する」
小隊長はそう言って肩に担いでいるアサルトライフルを二、三度軽く叩いた。
「ええ、頼りにしています。私はこの調査に携わるのは、これで二度目なんです。一度目はいつ行方不明になった調査団のようになってしまうのか怖くて、調査してても恐ろしくて気が気じゃありませんでした」
「大船に乗った気でいてくれ! 俺の小隊は陸軍屈指の精鋭部隊だ。もし君たちに危険が及んだら、生命に代えても守れと命じられている。君たちが無事に帰れるかどうかには俺たちの名誉にも関わることだ」
「それを聞いて安心できます! 私たちも調査を出来るだけ急いで予定の日数を一日でも短縮できるように努力します」
「ああ、ゆっくり急いでくれ。互いに確りと役目を果たそうな。この星は俺たちシボラ人の故郷だ。俺たちの親が死守したから俺たちもここにいられるんだ。今度は俺たちがシボラを守っていく番だ!」
小隊長はそう言って空を仰ぎ見た。
「はい! 私もシボラ人としての誇りを持っています。シボラの発展のために役に立てれば本望です」
団員がそう言うと、隊長は彼にウィンクをして見回りのためにそこを離れた。
その夜、小隊長は初日の警護の結果報告のため、シボラの陸軍基地にある司令本部に交信した。
「今のところ異常はありません。調査は順調に進んでいるようです。ベースキャンプを中心に半径三km内を隈なく調査しましたが、特に危険なものは見当たりませんでした」
小隊長は本部の中隊長に報告した。
「了解した。ただ、気象観測所の予報ではその周辺の大気が不安定だということだ。天候に注意しろ。砂嵐が起こる可能性もある」
「了解しました。その時はキャラバンを塹壕内に退避させます」
「ああ、そうしてくれ。この任務が終わったら、一緒にまた酒でも飲もう。いい酒が手に入った」
中隊長は嬉しそうに言った。
「ありがとうございます、中隊長殿! 楽しみにしています!」
小隊長は報告を終えるとテントの外に出た。
「嵐か。冗談きついぜ」
彼は火星の嵐の凄まじさを想像するだけで身震いした。それは何もかも吹き飛ばしてしまう爆弾のような風力がある。彼は部下を集めて翌日の予定について定例ミーティングを開いた。
「本部から天候に注意するように指示があった。見張り番はその点についても注意を怠るな。シャナス少尉、お前は新米だから分からんだろうが、嵐になったら出来るだけ厚着で塹壕に潜れ。嵐が通り過ぎるまで絶対に地上に出るな。身体がバラバラになるぞ」
「どうして、厚着なんですか?」
「お前、凍死したくないだろう? 火星の地下は冷蔵庫の何倍も寒いんだぞ」
「そうなんですか? でもそれなら厚着しただけで大丈夫なんですか?」
「それがシボラ人だ。この火星の厳しい環境でも生き残れるようにアルフ細胞が身体を守ってくれるんだ」
「フム…なるほどぉ。了解しました! 指示に従います」
「全くお前みたいな奴は初めてだ。優秀なのに適当で、何にもできないように見えて何でもできる。お前、一体どういう人間なんだ?」
「さあ…自分でも良く分からないんです…」
「……まあ、そんなことより絶対にこの任務を全うするんだ、いいな!!」
「イエッサー!」
小隊員はそれぞれ席を立ち上がり隊長に敬礼すると解散した。




