リアとセシル
リアとセシル
リアと彼女の親友のセシルはルーベル山に登っていた。火星が謎のシールドに覆われてから、シボラ人はその山にいろいろな苗木を植林した。今ではルーベル山はそれらの樹木が成長して山は木々に覆われていた。
彼女らはルーベル山の中腹に来ていた。学校の課題で火星の植物の成長を観察しに来ていた。
「ねえ、リアちゃん、何を探してるの?」
セシルが訊ねた。
「うふっ!」
リアは彼女の質問に答えなかった。
「そんなに石ばかり拾ってると手が汚れちゃうよ。ここには手を洗う所なんてないんだよ」
「あなたも探してみれば? ここには珍しい石が沢山あるよ」
リアは楽しそうに辺りに転がっている石を拾っては興味深そうに眺めていた。
「ねえ、課題をちゃんとやろうよ。遅くなっちゃうよ」
セシルは彼女が楽しそうに石ばかりを見ているので注意した。
「あはっ、見つけたわ! 『ブリオングロード』の原石よ」
リアは目を輝かせて紅い鉱石を拾い上げた。
「わあ、初めて見たわ! これが『ブリオングロード』なのね。綺麗な紅色…透き通ってるわ!」
セシルは彼女に近づくとその手にある紅い鉱石を見つめた。
「セシル、これをあなたに上げるわ! これを私だと思って大切にしてね!」
リアは笑顔で彼女にその鉱石を渡した。
「リアちゃん、それはどういう意味?」
セシルは鉱石を受け取りながら不思議そうに訊ねた。
「今は意味なんて考えなくてもいいわ。とにかく受け取っておいて」
「…でも、こんなに綺麗な原石って珍しいんじゃないの? 本当に貰っていいの?」
セシルは丁度片手で持てるくらいの大きさの綺麗な紅い鉱石を見つめた。
「うん! この石があなたを守るわ。もう綺麗に浄化されたから安心して持ってて」
リアは後ろ手を組んで微笑んだ。
「もう、リアちゃん、さっきから意味分かんないよ。どういう意味なの?」
セシルは眉根を寄せて訊ねた。
「さあ、課題を済ませましょ! 遅くなっちゃうよ」
リアは彼女の質問には答えず、今度は植物を弄り始めた。
「もう、リアちゃん、それ私の台詞だよ!」
セシルは苦笑して抗議した。
「あっ!」
リアは植物を弄っていた手を止めて寒空を見上げた。
「どうしたの、リアちゃん?」
セシルは彼女の視線を辿って同じように空を見上げた。
「……雪が降ってくる…」
リアは真剣な眼差しで虚空を睨んだ。
「『雪』……何なの、それ?」
セシルはリアの横顔を見つめた。
「白い結晶」
「もしかして、地球で降るっていうやつ?」
「それとは違う……セシル、もう帰りましょう!」
「だって、課題はどうするの?」
「それどころじゃない…シャナスが…」
リアはセシルの手を掴んで山を下り始めた。
「痛いよ、リアちゃん。本当にどうしたの? 今日は何か変だよ」
リアは質問には答えず足早に歩き続けた。




