友達
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レックス、ナディム、そしてエリノアは、シボラのほぼ中央に位置する人造湖『マーテル湖』にボートを浮かべ三人で休日を楽しんでいた。
レックスはオールを手慣れた感じで動かした。彼の向かい側に座るエリノアは満足そうにその様子を見つめた。
「あなたにこんな特技があったなんてね」
エリノアは揶揄い気味に言った。
「馬鹿にするなよな。俺は結構器用なんだぞ」
レックスは自慢げに言った。
「まあね、否定はしないけど、お調子者だし、見栄っ張りだし、普段のあなた見てると、褒めるところが見当たらないのよね」
エリノアは彼を批判した。
「ちぇっ、きついこと言うよな」
レックスは横を向いて不貞腐れたように言った。
「お前はエリノアにいいところを見せようと思って、こんな寒い日なのにボートに乗ろうって言ったんだろ?」
エリノアの後ろに座っていたナディムが言った。
「ば、馬鹿野郎! そんなんじゃないわ!」
レックスは顔を赤くして怒鳴った。
「……」
エリノアは少し俯き、上目遣いにレックスの顔を窺った。
「いいよなぁ…俺も恋がしたいよ」
ナディムはそう呟くと、溜息を吐いた。
「あら、あなた、クレアが好きだったんじゃないの?」
エリノアはナディムの方に顔を振り向けて訊ねた。
「うーん……彼女には好きな人がいるって話を聞いたことがあるし…それに彼女っていつも毅然としてるし、俺になんか興味を持ってくれないんじゃないかな……」
ナディムは湖面に映じた自分の顔を見つめた。
「話し難いってこと?」
エリノアは訊ねた。
「うん……あんな風に毅然としていられると、話しを切り出せなくなるんだ」
「ああいうタイプってね、意外とね好きな人の前だと骨抜かれたようになるんだよ」
「そうなのか? …それじゃあ…俺のことは好きじゃないのかな?」
「そういう意味じゃないわ。彼女の鎧さえ外せれば、あなたにもチャンスがあるっていうことよ!」
「じゃあ、他に好きな人がいるって訳じゃないのかな?」
「そうねぇ、もしいるとすれば、アナムかなぁ…もしかすると、シャナスって可能性も…」
「アナムは分かるとしても、シャナスって…一番あり得ないだろう! それにあいつはフィオナと付き合ってるんだし…」
レックスは思わず話に加わった。
「あら、彼のようなタイプにクレアみたいな女の子は弱いのよ。それにシャナスとフィオナは正式に付き合ってる訳じゃないみたいよ」
エリノアは片目を瞑ってレックスに説明した。
「あんなボーっとしてる奴にか?」
「分かってないのね。彼って、可愛い顔してるし、それにああいうタイプって母性本能を擽るのよ。何か守ってあげたくなっちゃうような」
エリノアは両手を胸の前で組んで言った。
「おい、お前、まさか…」
レックスは身を乗り出して彼女に詰め寄った。その動きでボートが左右に大きく揺れた。
「キャッ、こら、ちゃんと漕ぎなさいよぉ!」
エリノアははボートの縁を慌てて掴んだ。
「あ、ご、ごめん! つい…」
レックスは慌ててオールを動かしてボートの揺れを止めた
「もう、そんなことで動揺するなんて、嫌いになっちゃうぞ!」
「えっ!? …じゃあ、今は…?」
「知らない!」
エリノアは顔を赤らめて横を向いた。
『マーテル湖』の湖面を冷たい風が吹き抜け、青い夕焼けが湖面に幻想的な光を映じて浮かんでいた。
アナム、クレア、レアード、キーフ、レックス、ナディム、そしてエリノア、これがシボラで最初に選ばれたMBパイロット候補生たちである。シャナスは陸軍に属しているが、検査の結果でMBパイロットとしての適正が最も高く、空軍の推奨により特別枠で候補生として登録されていた。
シボラの未来を担うこれら若干十七歳の候補生たちは、それぞれシボラの平和で穏やかな環境の中で順調に成長を遂げていた。




