シャナス
シャナス
火星の表面を覆う酸化鉄の砂塵が、巨大な砂嵐によって宙を舞い渦を紅く染めながら、遠くの地平線を高速で移動しているのが見えた。調査団のキャラバンを乗せた陸軍の輸送機は、火星の赤道付近で新たに発見されたブリオングロードの鉱床に向かっていた。管理委員会の決議を受けて、今回から調査団には陸軍の護衛部隊が同行することになり、団員たちも安心して調査に赴くことができた。
シャナスは陸軍士官学校の二年生になっていた。彼は卒業を間近に控え、少尉の階級を戴き陸軍の特殊攻撃部隊に属する小隊の一つに配属された。
「君は若いのにどうして陸軍に?」
団員の一人が隣りの座席に座っている若い士官に訊ねた。
「父さんがそうだったから、何となく…」
若い士官は彼に笑顔で答えた。
「そうか、偉いな。だが、どうせなるんなら、今じゃ空軍の方がいいんじゃないのか?」
「まあ一応、空軍にも特別に籍を置かせてもらってるんですが、俺には動いて戦う方が性に合ってるみたいで」
若い士官はそう言って苦笑した。
「ほお、だけど君は敵の攻撃を生身で受けることが怖くはないのか?」
団員は彼の顔を見つめた。
「怖くないって言えば嘘になりますけど……俺は父さんの気持ちが知りたいって思ってるんです」
若い士官は爽やかな表情を浮かべて空を見上げた。
「父さんの…それで、今、君のお父さんは?」
「死にました。地球軍との戦いで……たった一人で仲間を守って…俺は父さんが、その時どんな気持ちで戦っていたのかを知りたいんです。それが分からないままだと、何をやっても中途半端になる気がして…」
「そうか…悪いことを訊いちゃったな…。許してくれ、悪気はないんだ。…ところで、君の名前は?」
「シャナスです! シャナス・ファレル!」
彼は自分の名を告げて調査団員に向かって微笑んだ。
「そっか。私はハリーだ、よろしくな!」
団員は右手を彼の方に差し出した。二人は固く握手を交わした。
その時、機内にアナウンスが流れた。
「これより本機は降下シークエンスを開始します。全員シートベルトを着用して下さい」
シャナスたちの乗っている輸送機は地上に向けて降下を始めた。輸送機は紅い砂塵を巻き上げながらゆっくりと着地した。




