思い出
シボラの園
宇宙の中で待った
時間のない次元で
必然と偶然の狭間で
出会いの時がやって来た
運命の秋と共に
思い出
シャナスたち四人はコロニー・シボラの郊外にあるルーベル山の頂にいた。そこはシボラで唯一自然のままに残された山だった。標高は一千mに満たないが、シボラ建設当初、そこで最初に発見されたある鉱物に、地球の汚染を除去する可能性が見出された。この山はそれからその鉱物を採掘し尽くされ、今では閉山され放置されていた。
「これが『ブリオングロード』の原石なの?」
フィオナはそう言って紅い色の石を地面から一つ手に持った。
「たぶん…だけど、もうここにある物はあまり役に立たないんだって」
シャナスは彼女に答えた。
「この透き通ってる部分が、ブリオングロードなのかしら?」
フィオナは彼にその石を渡しながら訊ねた。
「そうかも…これが地球に希望をもたらしたんだ」
アナムは彼らの会話に加わった。
「この石のせいでシボラは地球と戦うことになったって、お父さんが言ってた」
クレアも会話に参加した。
「けど、今じゃ地球人もこの火星に手を出せないんでしょ?」
フィオナはシャナスが持っている紅い石を見つめながら言った。
「火星が正体不明のシールドに覆われてしまったからだ。僕らはこの星から出ることも、地球人がここに来ることもできなくなったんだ」
アナムは説明口調で言った。
「そのお蔭で火星は平和になった…」
クレアはアナムを見つめた。
「そうだ。だけど、その代わりに何か変なエネルギーが大きくなってるって、父さんが言ってるのを聞いたことがある」
アナムは周囲を何気なく見回した。
「そして、そのせいで地球との交信もできなくなった」
シャナスは手に握っている石を見つめた。
「今の地球がどうなっているのか誰にも分からない」
アナムはそう言うと空を見上げた。
「全部、私たちが生まれる前から続いてることだわ」
フィオナが言った。
「だから私たちには関係ないって言いたいのか?」
クレアは彼女に訊ねた。
「ううん。これからもずっとこの状態が続くのかなって…」
フィオナが少し不安げな表情で答えた。
「そうだよな…あんまり考えたことないけどな」
シャナスは無邪気な口調で言った。
「父さんたちが地球と戦っていたことも、このシボラに残ってる戦火の痕跡と僅かな記録でしか知ることはできないんだ。だけど、どんな平和でも平和って大切なんだと思う」
アナムは偉そうに言った。
「お前って、本当に大人びたこと言うよな」
シャナスは呆れ顔で言った。
「悪いか? お前も少しは考えたらどうだ?」
アナムは彼を詰った。
「僕らはまだ子供なんだ。そんな難しいことは大人に任せておけばいい。僕らの仕事は遊ぶことさ。さあ、暗くなる前に山を下りるぞ」
シャナスはそう言うと来た道を戻り始めた。
「あ、待ってよ、シャナス!」
フィオナは慌てて彼の後を追い駆けた。アナムとクレアも彼らに続いて山を下り始めた。
山頂に積まれていたケルンが夕日に照らされて紅く光り始めた。その周囲の紅い砂塵が風に宙を舞い、山頂を紅く染めていった。




