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87:男の子の性。

 烏の行水並の速さで風呂を上がり、一人先に部屋へと戻ってきた俺。

 程なくしてナツメ、受付嬢とアオイ組も戻ってきた。戻ってきてからナツメは笑いっぱなしだ。


「カ、カイト君の尻尾って、本当にお尻から生えてたんだよ。当たり前といえば当たり前なんだろうけどさ、もう……おかしくって」

『はぁ……。女性プレイヤーのケモミ族もお尻から生えておりますよ。浴場にたくさんいらっしゃいますし、見せていただくとよろしいです』

「「え?」」

「アオイもお尻から尻尾生えてるよぉ〜。見る?」

「「いやいやいやいや」」


 どっちも犯罪だろ!

 このNPCどもはなんて事を言い出すんだ。ナツメも苦笑い浮かべて、どう答えていいか困ってるじゃねーか。


「あー、えっと……ア、アオイちゃんはまぁお子様だし、NPCだし……良くないけどいいとして、女風呂に行くのは拙いでしょ。ほら、『VRゲーム性犯罪抑制システム』に引っかかっちゃうじゃん?」

『……あっ。そ、そうでした。性的興奮を引き起こす行為は、全て禁止事項でしたね』

「そうだよ。そうそう」


 受付嬢の様子にナツメがほっと胸を撫で下ろす。

『VRゲーム性犯罪抑制システム』ってのが、VRゲームの全てに備わっているシステムだ。これは国からの強制で、開発会社はこのシステムを導入しないとサービスできないようになっている。

 このシステムは一定行為に対して強制的に執行され、体が動けなくなるっていうものだ。

 性行為はもちろんのこと、覗き行為にも反応するらしい。

 それとは別に、性的な意味での興奮状態になると発動する、強制制御ってのもある。ただある程度の妄想は個人の自由としているようだ。俺はそんな妄想はしない派なので、よく解らない。クィントならお世話になってそうだな。


「けど、覗き見とか、どうやってシステム的に判断するんだろうな」

『簡単ですよ。例えばお風呂の覗きでしたら、異性の風呂エリアに侵入しようとした時点で解りますし』

「あぁ、確かにそうか。どこのエリアに誰が通過しても、キャラデータで丸解りだな」


 他にも覗き見をするにあたって、やっぱり興奮が抑えられなくなる訳で――警告メッセージなんかで視界を防ぐらしい。


「妄想は自由。でもある程度の興奮に達すると警告――か。警告の基準が解んねぇな」

「ボクらゲーマーには解らない、難しいシステムなんだよ。清く正しくプレイしていれば、なんら問題ないよ」

「それもそうだ。っはははは」

「あははははは」


 笑いながら、俺は警告を食らいまくってそうな奴の顔を思い出す。

 元気にしてるだろうか。あいつのブースト支援、また味わってみたいなぁ。


 ひとしきり雑談をしたあと、明日はNPCの命名イベントに皆で行こうぜとなって早めに休む事に。

 だがここで思わぬ言葉をナツメが口にした。


「え? こ、このまま受付嬢さんも、その、同じ部屋で一緒に寝る……の?」

『はい。ワタクシはカイト様の友人ですから、同じ部屋で寝泊りさせて頂きます』

「アオイもだよ!」

「あーうん。アオイちゃんはね、お子様だし、NPCだしね。別にいいんだ。いいんだけど……受付嬢さんは、その、女性なわけだし。流石に拙くない?」


 ちらっと俺を見るナツメ。

 そう、ナツメは知らない。受付嬢もNPCであるという事を。

 NPC相手なら、女として見れないだろ? だから恥ずかしくないだろ?

 そうだと言ってくれ、俺!

 ナツメが「受付嬢さんは女性だし」とか言うもんだから、俺まで意識しはじめちまったじゃねえかっ!


 受付嬢はNPC。受付嬢はNPC。AI搭載サポートNPCなんだ!


『ナツメ様。お気になさらずに。何かあれば、先ほどの性犯罪抑制システムが作動するだけでございますから。下手な気を起さなければよろしいのですよ』

「よろしいって……まぁ、その通りなんだけどさ」

『カイト様は昨夜、ワタクシとアオイと三人で普通に眠っておりましたよ』

「え? カイト君、一緒に寝たの!?」


 一緒、寝た……


「いやいやいやいや、俺は彼女と寝たりしてない! 本当だ、潔白なんだ!」


 そんなえっちな展開にはなってないんだからなぁー!


「いや、そこまでは誰も言ってないし」

『何に対して潔白なのでしょうか?』

「カイト君、スケベェ」

『? とりあえず、カイト様のスケベェ』

「カイト、スケベなのぉ?」

「聞くなっ!」


 ああぁぁぁぁっ。俺の馬鹿っ。

 二つある二段ベッドの一つに潜り込み、全力で寝たふりを行う。

 シーツからはみ出た尻尾がぷるぷると震え、狸寝入りはまったく成功していなかった。それでもシーツを被ってあいつ等の攻撃を躱す事に集中した。






 夜更け。

 隣の二段ベッドには下にアオイが、上に受付嬢が眠っている。

 アオイは言うまでもなく、受付嬢も寝息を立てている。ナツメは俺の上の段で寝ているが、途中までは起きていたようでぼそぼそと声が聞こえたりもしていた。

 俺はと言うと、いまだ眠れずにいる。

 もうね、ナツメのせいで受付嬢が同じ部屋で寝てると思っただけで、心臓バクバクもんですよ!

 どうすればいいんだよコンチクショー。


 睡魔状態になってどのくらいの時間が経ったのか。かなり前からステータスにマイナス表示が出ている。

 暇なのでタブレットのステータス画面を見ていたら、30分毎にステータスのマイナスは更新されていた。

 睡魔ゲージが現れて1時間後に最初のマイナスが付く。どうもマイナス数は、技能なんかで付いたボーナス分とステ振りで割り振った分の合計ポイントの10%分らしい。

 それから30分毎にマイナス数値が増えていく。増える数値は最初に付いたマイナス分と同じ数値だ。


 今の俺のSTRが77+47で、合計124だ。最初に-12されて、30分後に再び-12。さらに30分後にも-12。端数は切り捨てられているみたいだな。

 INTやDVOなんかは結局、何度更新されてもマイナスは付かなかった。


 何度目の更新まで覚えているだろうか?

 窓の外がカーテン越しに白みはじめる頃、遂に俺の意識は遠のいていった。


【睡魔の限界点に達しました。意識をシャットダウンいたします】っというメッセージが見えた気がする。


 次に意識が戻った時には、目の前に受付嬢の顔が――


「おおおおおおお俺、ななななな何もしてませんっ! 卑猥な事もやましいことも、何も無いぞっ!」


 首を傾げる彼女は、俺の額に手を乗せ、次に自らのおでこを俺のおでこに触れさせ――フレテル、フレテマスヨ奥サン。近イデスヨ奥サン。ア、睫毛ナガイデスネ。蒼イ瞳ニ吸イ込マレソウデスネ。


「うあああぁぁぁぁぁぁぁっ」

『カイト様! 気をお確かにっ』

「大丈夫だよ受付嬢さん。カイト君は一人で悶絶してるだけだから。男の子の性ってやつだよ」

『はぁ……では放っておけばよろしいのですね?』

「うんうん。少しだけぼっちにさせておけばいいよ」

「ああぁぁぁぁぁっ! ぼっちは嫌だぁぁぁぁぁっ」


 今やっと我に返った。

 どうやら受付嬢は俺を起そうとしていたらしい。そのタイミングで目を覚ましただけだ。

 目覚めのどアップ。なかなか……なかなか良い……いやいや、そうじゃなくって。

 俺を残して部屋を出て行ってしまったナツメと受付嬢。アオイだけは俺の足元にまだ居る。

 って、受付嬢とナツメを二人っきりにさせておくのか!?

 クィントじゃないが、ナツメだって男だぞ。ケモミには興味ないみたいだし、ロリではないんだ。だったら受付嬢も攻略対象になるのか!?


「おおおおお、おお、お追いかけるぞっ」

「んにぃ〜……ご飯かぉ〜?」

「ご飯だ! 行くぞ、アオイ!」

「わぁ〜い、ご飯だぉ〜」


 っぴょんと跳ね起きたアオイを抱え上げ急いで部屋を出て行く。廊下のすぐ先に二人はいた。

 二人が連れ立って歩く姿を見て、何故か胸が締め付けられるような感覚に襲われる。これはアレですか。ホラー映画を見たときのような……。


「ほら、追いかけてきた」

『まぁ、ナツメ様の言う通りですね。どうして直ぐに追いかけてくると、お分かりになったのですか?』

「ん〜……それは本人の目の前じゃかわいそうだし、ボクの口から言うべき事じゃないからね。っさ、皆で朝ご飯食べよう。それから冒険者支援ギルドに行くよぉ〜」

「ごはんだぉ〜」

「え? あの? なんの事?」


 あれ?

 俺が直ぐに追いかけてくるって、最初から解ってた?

 その理由をナツメは知ってて、俺の前じゃ言えない?

 え?

 どういうこと?


 へらへらと笑うナツメに手招きされて、俺たちは食堂へと向った。

妄想による興奮と、如何わしい事をしようとする際の興奮に違いはあるのだろうか?

まぁ若干の脳波が違うのだろうという事で。

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