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7:NPCのやる気スイッチ

 生産をするだけして、転職の事をすっかり忘れてた。思いっきりポーション投げに行く気満々だったからな。

 急いでとある路地裏へと向う。

 人気の無いこの路地裏で、ひっそりと盗賊への転職試験は行われる。

 まぁ盗賊に転職するプレイヤーが押し寄せたら、ひっそりも何も無いんだが。


 その路地裏に鋭い眼光を放つ30代前半ぐらいの男が一人、腕組をして立っていた。

 男の下まで行って「盗賊になりたい」と用件を言う。


「っふ。いいだろう。ではこれから幾つかの質問をするから、素直に答えるんだ」


 俺は無言で頷く。

 隣の受付嬢は鉄仮面のまま、じっと動かない。こいつも転職試験を受けるのだろうか?


「質問だ。目の前には宝箱がある。鍵は掛かってないようだ。さぁ、どうする?」

「罠がないか調べ、有れば解除してから開ける」

『同じくです』


 受けるのかよ!?

 NPCなんだし、ちょいちょいっとシステムいじってサクっと転職すりゃいいのに。


「次だ――」


 男の質問は続く。

 ぶっちゃけ、この質問に正しい答えなんて無い。適当に答えてもちゃんと転職できると、wikiに報告があった。

 質問の内容だって、他のネトゲで盗賊系職業やってれば直ぐに答えられるものばかりだ。

 回避に必要なステータスは何だとか、盗賊の得意な武器はなんだとか。

 で、最後に――


「よし、質問はこれで終了だ。盗賊は人を騙しても、騙されるな。忘れるな」


 っと男がにやりと笑みを浮かべながら手を差し出す。


「盗賊ギルドへの登録料として、一人100Gを支払って貰おう」


 って言われる訳だ。

 そのままお金を払わず、暫く放置しておく。


「っち。騙されなかったか」


 そう言って男は苦笑いを浮かべた。

 つい今しがた『騙されるな』っつったばっかりだろう。


 この瞬間、ピコンというシステム音が鳴りメッセージウィンドウが現れる。


《全プレイヤー最速で一次職業へと転職いたしました。称号『最速転職者』の称号を獲得しました》


 なんだ?

 また称号か。効果は後で確認しよう。転職したからスキルポイントとかも振らなきゃならないしな。


「よし、今日からお前は晴れて盗賊として生きていく事になる。これは俺からの餞別だ」

「え? 餞別?」


 男がタブレットを呼び出し、俺と取引するように促す。

 言われるがまま、何か罠があるんじゃないかと思いつつ取引に応じる。


『カイト様。このレベル帯では装備を一新するためのお金をお持ちでないプレイヤーも多かったので、オープンベータからは各職業に転職後、装備を配布する事になったのです』

「マジか。それは助かる。なんたって所持金1Gだからな」


 安心して男との取引を終ると、一瞬だけ男の動きが止まった。

 まるでテレビの映像が乱れるように、男の姿にノイズが入る。

 な、なんだ?

 不具合か?


 男の姿がまともに戻ると、俺の顔を見つめて哀れむような表情を見せた。


「お前、所持金が1Gってのは……。何に散財したらそうなるんだ」

「ポーション瓶だ!」


 俺は即答してやった。

 意味を理解できないようで、男はぽかんと口を開けている。


「もう行くぞ。俺には大いなる目的があるんだからなっ」


 NPCではない、プレイヤーの友達を得るという目的が。

 だが男はしつこく俺を引き止める。


「まぁ待て。後輩となる奴が冒険に出て早々、飯も食えないようなはした金しか持ってねーなんて、泣けてくる」


 そう言って男がもう一度取引の要請を出してきた。

 何かくれるのか?

 そう思ったら、なんと100Gくれやがった!

 ちょっと、感動。


「あ、ありがとう、先輩!」

「あぁ。達者でな」

「押忍!」


 所持金が101Gになった!

 男に深々と頭を下げ、胸を躍らせ歩き出す。

 

「なぁ、途中で男の姿にノイズが走ったのって、不具合か?」


 一緒に歩く受付嬢に尋ねながら、タブレットを操作して新しい装備に着替える。

 やぼったい初心者装備から、やっとまともな装備になったぜ。

 黒のノースリーブにこげ茶色のベスト。ベストと同じ色のズボン。黒い膝丈まであるブーツの組み合わせだ。

 受付嬢は――やっぱりメイド服のままだな。


『さきほどの転職スタッフに起きた現象は、学習機能の表れです。プレイヤーの反応を見ることでAIが学習し、より自然な反応が出来るようプログラムされているのです』

「その学習してバージョンアップした瞬間が、映像の乱れになるってことか」

『はい……できればあのような乱れはお見せしたくなかったのですが』


 眉を顰め、物悲しそうな表情を見せた受付嬢に違和感を抱く。

 こんな顔、できたのか? ――と。


「まぁ気にすんなよ。お陰で俺は100G貰えて感謝してる」

『そう言っていただけると有り難いです』


 そう。100G増えたのだ。更に装備も一新できたし、お古を売却すれば金になる!


「受付嬢、工房に行くぞ!」

『え……はい』


 彼女は首を傾げて俺の後を付いて来る。


 その後、旧装備を全部売却し、所持金325Gとなったところで162本のポーション瓶を買って再び所持金が1Gとなった。

 だ、大丈夫。このポーションが友達100人に化ける。そう、化けるに決まってるんだ!


 ポーションの製薬は、作業41回目で熟練度が上がりMAXの3になった。

 意外とあっさりだったな。

 121本が成功。手持ちのポーションは合計226本になった。

 っくくく。投げまくるぞぉ。


 次はステータスとスキルだ。




◆◇◆◇◆◇◆◇


 名前:カイト

 レベル:11

 職業:盗賊 / 種族:ケモミ族

 

 HP:1750 → 2350

 MP:480 → 630


 STR:28+8 → 28+15

 VIT:17+7 → 17+19

 AGI:23+8 → 23+15

 DEX:15

 INT:5

 DVO:5

 LUK:10


 SP:35

 スキルポイント:0 


●アクティブスキル●

『石投げ』『足払い』『スティール:LV1』


●パッシブスキル●

『短剣マスタリー:LV5』


●修得技能●

【格闘:LV8→15】【忍耐:LV12→19】【瞬身:LV8→15】

【薬品投球:LV1】

【岩壁登攀:LV2】【ポイント発見:LV3】【採取:LV4】【製薬:LV3】


○技能スキル○

『巴投げ:LV1』『ポーション投げ:LV1』『素材加工:LV2』『ポーション作成:LV2』


●獲得称号●

【レアモンスター最速討伐者】【最速転職者】【ファースト・クラフター】

【ファースト・アルケミスト】



◆◇◆◇◆◇◆◇




 盗賊シーフは転職時にスキル『足払い』を自動で獲得できる。

 あとスキルポイントが6付与される。5ポイントは転職ボーナスで、1ポイントはレベル10から11に上がったことで付与されるポイントだ。


 シーフといや、やっぱ『スティール』だろ。対象のアイテムを何か一つ奪い取るっつー、ロマンスキルだ。

 スキルレベルを上げれば盗める確率も上がるが、ここは1で止める。他にも必要なスキルがあるからな。

 あとはパッシブスキルの『短剣マスタリー』をMAX5まで取った。短剣装備時の攻撃力や攻撃速度を上げてくれる、武器依存スキルだ。

 これでダメージ量をある程度確保できるだろう。

 武器は『シーフズダガー』で、装備レベル10の攻撃力+49だ。『ソルジャー・ソード』の約2倍の攻撃力だな。

 

 さて称号は――っと、


【最速転職者】:誰よりも早く一次職業に転職できた者に与えられる称号。少しだけ良い事がある。


 あー……その少しだけってのが100Gだったりするんだろうか。

 すっげー微妙な称号だな。

 まぁ、これぐらいじゃなきゃ他のプレイヤーへの不満が出るだろう。


 ステ振りスキル修得も終わったし、『ライフポーション:LV1』も無事に星三つまでなったし、


「いざ、ポーション投げ実演に!」

『はい。ワタクシもどのような効果になるのか、楽しみです』


 お、良い事言ってくれるじゃねーか。と思って彼女を見たが、口元を引き攣らせた笑みを浮かべていた。

 つまり、嘲笑っていると?

 いや、考えるな。こいつはNPCなんだ。感情なんてある訳ねーし。

本日の更新はここまで。

明日からは1話ずつの更新になります。

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