表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/160

85:やきもち。ちょんぱ。ママァ。

 夕方にはサラーマへと到着。

 荷馬車を狙うモンスターに何度か襲われたが、俺と受付嬢、そしてナツメの3人で十分対処できた。

 町の周辺に生息するモンスターのレベルは32前後と、なかなか良い具合にレベリングも出来そうだ。

 町の規模はカジャールと同じぐらいだが、行き交う人はほとんどがNPCだってのが服装でも解る。


「南のサイノスに比べると、プレイヤーは少ないねぇ」

『ナツメ様はサイノスに行かれたことがあるのですか?』

「うん。鉱山から帰って君たちと分かれた後は、サイノス方面に向ったからね。あっちには2次職の転職NPCも居るっていうし」

「2次職はレベル40だしなぁ、まだ慌てて南に向う必要も無いし」


 最近じゃ1日1レベル上がるかどうかって感じだ。今が29なので、まだ10も上げなきゃならない。

 暫くこっちでレベル上げしてから南に向ってもいい気がする。


「そうだね。サイノスの周辺はレベル30以下のモンスターばかりだから、レベルを上げるならその先か、北に行くしかないし。40になってからでもいいかもしれない。でも――」


 先にあっちの町に行ってれば、転送装置使って楽に移動もできるしね。っと、ナツメはにこやかに補足した。

 あぁ、その手があったのか。

 っくそぅ。俺はカジャールから歩いて行かなきゃならねーよ。


 まだ明るいうちに用事を済ませてしまおうって事で、まずは肉屋に向った。場所はタブレットでタウンマップを出せば一目瞭然だ。

 肉屋は町の入り口に程近い所にあった。豚がぶひぶひ、牛がモーモー、鶏がコケコケ五月蝿い状況で、入り口から近いのは助かるぜ。

 村人御者が馬車を止め、肉屋に家畜を収めていく。

 俺たちは肉屋の主人に村長からの手紙を渡して、豚骨を報酬に――っと思ったが、流石に直ぐには無理だと言う。

 明日、昼過ぎに改めて取りに来てくれという事だ。


 次、薬屋へと向う。

 店の主人にサマナ村の薬草師から頼まれた『ウゴン草』と、オタル氏経由の薬を渡す。


「モンスターに襲われて怪我をしたのか……それは難儀だなぁ。とにかく、ご苦労だったな。あんたらは冒険者支援ギルドからの紹介だったんだろ? これを持ってギルドに行けば、無事依頼を完了したという証になるから、忘れずに持っていくんだぞ」


 50代ぐらいのおっさんがそう言って紙切れを渡してきた。枚数は3枚ある。

 そこには丁寧に日本語で『サマナ村の薬草師ダノからの薬を、代理人冒険者から確かに受け取りました。』と書かれてあった。

 しかも、ゴシック体でだ。明らかに手書きじゃなく、パソコンで書いた文字をプリントアウトしたような字体だ。

 ファンタジーな世界観台無し。まぁ所詮ゲームだしな。

 受け取った時点でクエストが全て完了。だがご丁寧に『冒険者支援ギルドで報告を行ってください』という、青いメッセージがクエスト欄に残ったままだった。


『ウゴン草』の買取価格は僅か500G。まぁ10枚しか無いんだし、そんなもんだよな。

 オタル氏個人から預かった薬は、かなりの数もあったし、ケモミ族の物というプレミアもあるらしくって、なんと65万Gにもなった!

 っすげー。俺の懐が一時的だが潤ったぞ。


「1Gでも減ったら、ホワイトタイガーから首ちょんぱされるぞぉ」

「ちょ、やめてくれよナツメっ」

『ちょんぱですね』

「お前までやめろって」

《ちょんっぱぁ〜》


 ……止めてさしあげて。






『では、確かにお三方のクエスト完了手続きを行わせて頂きます』


 カジャールの支援ギルドと違い、カウンターのなんと短い事か。

 サラーマの支援ギルドには5人の職員が見えるだけ。利用者であるプレイヤーも、20人ほどしか見当たらない。

 俺たちの応対をしてくれているのは、20代半ばに見える、落ち着いた雰囲気の美人NPCだ。


『お待たせいたしました。クエスト【家畜を守れ】と【薬草を届けろ】を全て完了いたしました』

「お、柵の補強作業も手続きしてくれたのか」

『はい。こちらは――村人からの報告を受けておりますので。っという事にしておいてください』


 おいおい、なんだよその「っという事に〜」ってのは。


「あはは。なんか手抜きだねぇ」

『申し訳ありません。まだまだ試行錯誤が必要なコンテンツでして』

「まぁ仕方ないか。ぶっつけ本番みたいなものだしね」

『そう言って頂けると助かります。では、お三方にはクエスト完了報酬として、支援ギルドから専用ポイントを2ポイント付与をさせて頂きます』

「「ポイント?」」


 俺とナツメの声が混じり、カウンター向こうのNPCは微笑む。

 エリュテイアとは違い、やや濃い赤色の髪が、なんとも妖艶さをかもし出している。


『専用ポイント、通称『Bポイント』は、今後実装されるコンテンツで必要になるポイントでございます』

「今後実装されるコンテンツって?」

『秘密でございます』

「おいおい、秘密って……ここまで話しして内緒とか」

『秘密でございます。どうぞ、実装をお楽しみください』


 キリっとした顔を俺たちに向け、これ以上は話さないぞと言わんばかりに口を噤んでしまった。

 っく。こやつ、出来るな。受付嬢やカジャールのオレンジちゃんのような、うっかり属性ではないらしい。

 が、Bポイントってのは先日、受付嬢がうっかり喋った『支援ポイント』ってやつだろう。だとすると、アイテムとの交換に使うポイントだな。

 大事に取っておかなきゃ……べ、別に受付嬢の名前を変更してやりたいからとかじゃないし!


 報告を済ませ、支援ギルドを後にしようとしたが、ナツメは暫くここに残ると言う。


「NPCを少し観察して、名前案を考えようと思ってね」

「あぁ、なるほど。せっかくだし俺も――」

『カイト様っ』


 受付嬢が強引に俺の腕を掴み、そのまま建物を出て行こうとする。


『ワタクシたちは宿の手配をいたしましょうっ。ナツメ様、宿はどうされますか? ご一緒されますか? そうですか、では決まったらご連絡しますので、ごゆっくりっ』

「あ、うん。受付嬢ちゃん、お願いね……」


 有無を言わさない受付嬢の態度に、ナツメは生返事のような言葉しか出ていなかった。

 どうしたってんだ? 何で焦ったように……あ、そうか。こいつは俺が他のNPCに名前を付けるのを嫌がってたんだっけか。

 アオイみたいな演出用NPCにはそういった感情は無いようだが。そもそも演出用NPCには、アオイみたいな例外を除いては名前があるんだったな。


 やきもちっていうのかね、こういうのを。

 ……やきもち……なんだろう、この甘酸っぱいようなきゅんとするような響きは。


「よ、よし。宿を探すか。安すぎず高すぎず、小奇麗な所を探すぞっ」

『はいっ』


 さっきまでと違い、嬉しそうに返事をする受付嬢。その足元で跳ねるアオイ。

 そして――


「え? 動物連れはお断り?」


 アオイを見て一軒目の宿の主人がそう言った。

 二軒目でも、そして三軒目でも。

 サマナでは文句言われなかったのに!


『そもそもサマナでは、アオイは聖なる獣の子として恐れられていましたし。断れば村が破壊されるとか、そう思われていたかもしれませんしね』

「あぁ、それはあるか」

《アオイ、そんな事しないもんっ。強くないから出来ないし》

「強くなれたら?」

《あいつの家はぐっちゃぐちゃの、めっきめきにするぉ》


 恐れられるはずだ。

 っかし、どうすっかなぁ。動物持ち込み禁止……あ、動物じゃなきゃいいんだ。


「おいアオイ」

《ぅ?》


 俺はアオイに、人化するように言った。

 これで四軒目の宿屋でようやく部屋を借りる事に成功。ただアオイも人数にカウントされてしまったので、宿賃が発生してしまう。


「ま、一人50Gなら高くもないか」

『食事代は別料金ですが』

「ごはん! から揚げあるかなぁ〜」


 借りた部屋へ向うと、アオイは早速食堂へ行こうとはしゃぎ始める。

 ナツメに連絡しなきゃならないし、どうせから揚げはNPCの経営する食堂には出てこないぞと伝えると、尻尾と耳が垂れてベッドで丸くなってしまった。


「まだ空腹にはなってないし、露店通りでも見てみるか」

『――ナツメ様への連絡は終わりました。パーティーを組んだままですし、お互いの位置はマップで判りますから、町を散策されても大丈夫です』

「よし、じゃあ行こう」

「わぁ〜い! から揚げ、探すぅ」


 こいつの頭にはから揚げしか無いのか。

 まぁステーキだのフォアグラだの言わないだけ、まだ可愛気があるか。






 この町でも露店通りは、町の中央にある大きな交差点の東西と南に伸びた通りになっていた。

 とはいえ、拠点にしているプレイヤー数が少ないのもあって、当然露店の数も少ない。

 噴水の代わりに騎士みたいな像が中央に立っていて、それを囲むように花壇があり、いくつかのベンチなんかも置かれた中央広場。

 中央広場には露店が出せない仕様だが、東西、南に伸びた大きな通りには幾つかの露店が並んでいる。カジャールだったら、ずっと向こうの方まで露店が並んでいるんだが……。


「広場に近い辺りにだけ、露店がちらほらしてる程度だなぁ」

『左様でございますね。ここサラーマでは現在、48軒の露店が出ております』

「から揚げは〜? から揚げあるのぉ〜?」


 48軒か。やっぱ少ないな。

 から揚げ魔と化したアオイにせかされ、受付嬢が辺りをきょろきょろと視線を泳がせる。

 お目当ての店が合ったようで、とある場所を指差してアオイを連れて行った。俺もその後ろを追いかける。

 あれ……なんかこの光景って……まるで俺ら、親子みてーじゃね?

 俺パパ、受付嬢ママ、アオイ娘。


「マママママママママァァァァ!?」


 そそそそそそそれって、おおおおお俺と受付嬢が、ふふふふふふ夫婦っ!?

 ぶわっという効果音とともに、俺の尻尾が爆発したように逆立った。

『Bポイント』のBは、冒険じゃの『B』です。

英語じゃなくローマ字書きです!


ジャンル別日間1位になっておりました。

どうしてこうなった?

総合もじわっと上がって24位です。

本当にありがとうございます。

これからも生暖かくこっそりお見守りください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ