84:お使いクエスト。失敗すると食べられちゃうです。
俺の周りを小さい少女達が取り囲む。
きゃいのきゃいのと楽しそうに、だがお互いを牽制しているような雰囲気だ。
時に睨みあったり、時に微笑みあったり。
マジ、女って怖い。
オタル氏に連れられて再びケモミ族の村へとやってきた俺は、到着するやいなや先日のケモミ女たちに囲まれてしまった。
いや、人数で言えば前回より多いかもしれない。
もしかして、年頃の独身ケモミ女が勢ぞろいしたのか?
「カイト君、モテモテだねぇ〜。でも嬉しそうに見えないのは、やっぱり同族のケモミは趣味じゃないのかな? 胸の大きな女性が好きだって事らしいし」
「「え?」」
俺とケモミ女たちが一斉に声を上げる。声を上げたケモミ女たちは、先日は居なかった連中だ。
ってか、ナツメに俺の好みの話なんて、したっけ?
周りでは「胸なら私が!」とか「私のほうが大きいわ!」とか、どうみてもどんぐりの背比べ的な争いが勃発している。しかもかなり小ぶりのどんぐりだ。
「あれ? 胸の大きな人が好きなんじゃ……掲示板のガセネタかな?」
「え? 掲示板?」
「うんうん。この前、カイト君が支援ギルドの建物前で、月姫一行にギルド勧誘されてたって――掲示板のギルドスレに書いてあったんだよ」
確かにそんな事もあったな。
あ、そういやその時に、おっぱい大きいのが好きだって……うわぁ、俺、叫んでたよ。
そんな事まで掲示板に書かれてたのか。そんな事まで……。
そう思った途端、俺の顔から火が出たかのように熱くなった。
「俺、他のプレイヤーからおっぱい星人だと認定されちまったのか……」
「まぁいいんじゃない? 掲示板の反応としては、わりと受けてたよ。ネタとして」
おっぱい星人orお笑い芸人認定かよ。どっちにしても、恥ずかしい事に変わりは無いな。っとほほ。
「さぁ着いたよ。ここが我が家だ。さぁさぁ君たち。お客様に迷惑になるから、行った行った」
オタル氏の家に到着すると、彼はなんと、俺を狙う女たちを撃退してくれたのだ!
神だっ。
ぶつぶつ文句を言いながらも、女たちは一瞬怯えた顔をすると蜘蛛の子を散らしたように解散していった。
「ライラ、ご苦労」
「いや、このままでは客人にではなく、オタルが迷惑すると思っただけだ」
姐御肌というか、へたすると男装の麗人かと疑うような印象のケモミ女がオタル氏に言われて頬を染めた。
何が起こったのかは解らないが、彼女が女たちを蹴散らしてくれたのは間違い無さそうだな。
「ライラは村一番の戦士なのです」
そう言って俺たちを家に招いてくれたのは、さっきオタル氏の直ぐ後ろから現れた女だ。
清楚というか、若干古風な印象の人で猫がベースになっている。なんか血統書とか付いてそうな、ふさっふさした猫。国の名前が付いた、なんだっけか、スウェーデンだったかノルウェーだったか。そんな名前が付く猫だ。
「そういうモネは、村一番の精霊使いよねぇん」
「わ、私は別に、一番とは思っておりませんわ。チャナイ、貴女こそ酔っていなければ村一番の弓の名手ですのに」
ふさ猫がモネか。甘ったるい喋り方をする、鹿っぽい耳のケモミがチャナイだな。確かに酒臭い。
ライラと呼ばれたのは、白い猫っぽい耳と尻尾を持つケモミだ。ただ、こげ茶色というか、黒というか、そんな縞模様がが入っている。茶トラの白バージョンか?
家の中に通されると、そこには更に別のケモミ女が……おいおい、奥さん何人いるんだよ。しかも子供もわんさか居るぞ!
どうやら子供たちの面倒を見るグループと、オタル氏を守って採取に付き合うグループに分かれていたみたいだ。
恐ろしい。公式ハーレム恐ろしいっ!
よし。俺はハーレムが嫌でケモミの里を抜け出した、野良ケモミってことにしよう。
「えーっと、カイト君だったね。悪いがさっき採取した薬草の加工工程までやっておきたいんだけど、時間いいかな?」
「え? あ、あぁ。いいですよ」
そうか、この人は薬剤師なんだっけな。
この森で採れる薬草で薬をあれこれ作ってるなら、『小さなウゴン草』の使い道も知ってるだろう。聞いてみるか。
「あの、オタルさん。この『小さなウゴン草』で何が作れますか? 一応俺も製薬技能を持ってて……」
アイテムボックスから『小さなウゴン草』を1枚取り出し、それをオタル氏に見せながら尋ねてみた。
家の奥、壁際に専用工房らしきものがあり、そこでオタル氏は道具一式を用意している。
羨ましい。自分専用工房とか。俺も欲しい。
「それ単体で製薬すれば、飲みすぎ食べすぎでもたれた胃を解消する薬になるよ」
「やっぱウコンか……ん? 単体で? ってことは、他の薬草を合わせると別の効能に?」
「あぁ。『ライフ草』と『活力草』と合わせれば、状態異常に対する耐性を一時的に上げる効果の薬になるよ」
「「状態異常耐性!?」」
俺だけではなく、ナツメも驚いて声をあげた。
つまり、戦闘でモンスターからの状態異常攻撃を、事前に防ぐ事が出来るのか!?
一時的っていうから、効果時間がそれほど長くは無さそうだが、なら、消耗品として売れるぞっ。
「そ、そのポーショ、薬は、製薬レベルがいくつで作れるんだ? 教えてくれっ」
「んー……これは口伝のレシピでね。私も父親から学んだものなんだ」
口伝レシピ? そんなものがあるのか。
いくら製薬レベルを上げても、覚えられないポーションって事、だよな?
そんなの、ますます知りたくなるじゃねーか。
教えて欲しいと頼むと、案外あっさりと受諾された。拍子抜けだなと思ったが、そこには裏があった。
「サマス村に薬を届けた後でもいいから、北のサマーラの町に薬を納品してきてくれないか? まぁ村に届ける薬も、最終的にはサマーナまで届けてくれるよう頼まれると思うけどね」
「薬を?」
『ケモミ族の村は、男性の作る薬で生計を立てていると聞きますね』
「そういう設定だったねぇ」
あぁ、そういう事か。
「いつもは村の女性達が行ってくれるのだが、最近は聖獣がモンスターを狩らなくなったので数が増えてね。一人でも村に残って、守りを固める必要があるんだ」
《ははさま悪くないもん》
「えぇえぇ、解っていますよ。大丈夫。冒険者も増えてきましたし、そのうちモンスターの数も減ってくるでしょう」
モネがアオイを宥めるように優しく撫でる。この人は少女のような外見をしているが、大人な雰囲気がしっかり伝わってくるな。
なるほど。そういう事なら依頼を受けよう。
「明日にはカジャールやサラーマの町で、冒険者支援ギルド主催のお祭りがあるらしいね。お金は急ぐ訳でも無いから、ゆっくり祭りを楽しんでも構わないからね」
「お祭り? なんかあったっけ?」
『カイト様、お忘れですか?』
「支援ギルドの人たちの命名イベントだよ。ボクはせっかくだし、サラーマのギルド職員さんの名前も応募したいなぁ」
「あ、あぁ! あれね」
発案者だってのに、すっかり忘れていた。
そうか、もう明日なのか。だったらサラーマのギルドイベントを見に行ってくるか。
『しかし、初対面の冒険者にそのような金銭のやり取りが発生する依頼をされて、大丈夫なのですか?』
「おいおい受付嬢。まるで俺が金を持ち逃げするような言い方やめろよ」
『いえ、カイト様に限ってそのような事は無いですが、単純に不思議に思いまして』
不思議って、NPCがクエストを依頼する仕組みを知らないのか?
「ふむ。簡単な事だけどね。君たちは冒険者としてギルドに登録してあるだろう? 今の会話で名前も解ったことだし、もしお金を持って戻ってこなければ――」
「こなければ?」
ごくり。どうなるんだろう?
まさかこの村で一生過ごさなきゃならなくなるとかだったら、地獄だな。
「冒険者支援ギルドを通じて、君たちを指名手配するだけの事だ」
「オタルが丹精込めて作った薬の代金を持ち逃げなどしたら、私が追いかけていってその首――斬るっ」
ライラさんの真っ蒼な瞳が光る。
それは明らかに獲物を狙う肉食獣の目だ。
あぁ、解った。この人猫じゃなくって……
「ホワイトタイガーだよ……」
「ボクも今それ思ったところ」
オタル氏から大量の薬を受け取り、まずはサマナ村へと戻った。
怪我をした薬草師の家に向うと、オタルさんの言った通り、預かった薬と薬草の両方をサラーマの町に届けて欲しいと頼まれる。
こっちの納品代がそのまま報酬になるらしい。再びサマナ村には戻って来る必要は無いようだ。
余った『ウゴン草』は他のプレイヤーに譲ってやろう。
そういや、他のプレイヤーにもオタル氏のクエストが発生するのだろうか?
試しに情報を聞いたプレイヤーに草を10枚ずつ渡し、その後のクエスト内容を聞くと――
「草を受け取ったらクエスト完了して、次は薬草師に報告だったよ」
っとなり――
「報告したらサラーマの町の薬屋に渡してきてくれってなった。売った金が報酬なんだってさ」
「そこは同じか」
「いやぁ、助かったぜ。どうせ報酬はしょぼいだろうけどさ。一度受けたのに放棄するのも、なんとなく心残りになっちまうし」
「あー、いや……あ、あの、ポーション屋やってるの見かけたら、その、よろしく」
「やっぱあんたが狐のポーション屋か。見かけたらっていうか、是非売って欲しいぐらいさ。次の拠点はサラーマかい?」
「た、たぶん」
お、おお。俺のポーション屋も有名店になったもんだ。
ポーション屋をするためにも、近いうちに採取をしにいかなきゃな。
村を出る前に豚骨をどこで手に入れるか思案する。
まぁ手に入れるためには、豚にお亡くなりになってもらわねばならないんだが……自分で豚をさばくのか?
困った時には村長だっ。
一際大きな家に向かい、村長を呼び出した。
「なななな、なんでございましょうか?」
「いや、そんなに怯えなくても……」
村長は俺ではなく、足元のアオイを見て怯えていた。
アオイの気分一つで、母親がやってきて村を破壊する――とでも思っているのだろうか。いや、思ってるんだろうな。
「実はかくかくしかじかで、豚の骨が欲しいんだが……」
「骨、でございますか? えーっと、骨となると豚をさばかにゃならんですし……あっ、でしたらこういうのはどうでしょう?」
何かを思いついたらしい村長が一旦家の中へと戻ると、暫くごそごそと物音が聞こえてきた。
「豚骨、まだ探してたんだ?」
「んあ? あ、ああ。豚骨探してたら家畜が襲われてるって話しになって、クエストやったりしてるうちに骨の事すっかり忘れちまっててさ」
「そういえば、カジャールでも豚肉料理だけはやたら高かったなぁ。この村の家畜が襲われてて、値段が吊り上がってたのかぁ」
『その様です。しかし、柵や小屋が頑丈になっていますし、討伐クエストなども発生しておりますから、次第に出荷数も増えてくるでしょう』
「安くなると露店の肉料理の価格も、下がってくれるかなぁ」
プレイヤー露店が高いのは肉に限ってじゃないしな。ったく、ぼったくりやがって。
どたばたと村長が家から出てくると、なにやら手紙のようなものを手に持っていた。
「サラーマの町に出荷する家畜を、これから荷馬車で運ぶところだったでごぜぇます。豚も何匹かおりますけん、良かったら護衛なんぞお願いできますでしょうか?」
「それと豚骨と、どう繋がるんだ?」
「肉屋がさばいてくれますけん、骨を受け取ってくだせぇ。この手紙にその旨を書いておきましたけん、護衛の報酬ってことで」
なるほど。それなら俺が肉をさばかなくても済む。
けど、受付嬢はまだいいとして、ナツメにはタダ働きになってしまうし、申し訳ない気がする。
「いいよいいよ、気にしないで。ボクもとんこつラーメン食べてみたいし」
「ナツメ、サンキューなっ」
やっぱり彼とはお友達にならねばっ!
護衛依頼を受諾すると、クエスト受諾メッセージも浮かぶ。
突発的なクエスト発生か。
こうして俺たちは一路、北のサラーマを目指して出発した。3台の荷馬車とともに。
日間総合26位に上がっております。
本当に、本当にありがとうございます。
嬉しくてつい調子に乗って2話更新なんかしちゃったりしてますが
そろそろ息切れするのでこのあたりで通常営業に戻ろうと思います。
来週はしっかり火曜日木曜日をお休みするぞ~




