83:ウゴンの力
怪我をして寝込んでいる薬草師ってのの話しだと、採取技能レベル15で、目的となる薬草を採取できるらしい。
幸い俺は19で、受付嬢も15ある。ナツメは技能すら持ってないが、採取中の俺たちの護衛という事で森に同行してくれた。
「ウゴン草……ウコンをもじってるのか?」
『実際に存在する薬草と似た名前のほうが、親しみやすいのかもしれませんよっ』
「なに焦ってんだ受付嬢?」
『べ別に焦ってなどいませんよっ』
いや、無駄に早口だし、目線合わせようとしないし。図星だったんだろう。
ってことか、効能は胃もたれ解消とかか?
「見た目もウコンに似ているのかなぁ?」
「ナツメはウコンがどんな草なのか、知ってるのか?」
っと尋ねてみたが、へらへら笑って首を横に振られてしまう。もちろん、俺も知らない。
TVコマーシャルで見る限りだと、黄色というイメージしかない。
《ウコン知らない。でもウゴンは知ってるぉ》
「マジか!?」
「アオイちゃん、ナイスだよ!」
『さすが月光の森の次期聖獣ですね』
俺たちに褒められご満悦なアオイは、鼻を高らかに掲げて森の中を歩いて行く。
アオイの後ろを着いて行き、時折モンスターとの戦闘をしながら森の奥へと進んでいった。
暫く進むと、アオイがある植物に鼻を近づけて匂いを嗅ぎはじめる。
《これ》
っとだけ言うと尻尾を振る。なんか麻薬捜査犬だな。
《これも。あとこれ》
次々にアオイが周囲の草の匂いを嗅ぎ分ける。
どうやら白い花を付けた、大きめの葉っぱを持つ草がそれらしいな。
ただ、同じ草でもアオイが《これ》と言わない株もあったりする。何が違うんだ?
「『ポイント発見』」
採取可能な草かどうか見極めるためにスキルを使ってみると、同じ白い花を付けた草でも、光るのと光らないのがある。
アオイが《これ》と言った草は光り、スルーした草は光ってない。
おいおい、アオイは採取ポイント発見器かよ。
じゃーって事で、俺と受付嬢が採取を行い、ナツメは後ろでモンスターを警戒。
さくっと採取を済ませ――
「よっしゃ! ウコンゲットだぜっ」
『カイト様っ。ウ・ゴ・ンでございますっ。ワタクシは『小さなウゴン草』というものでした』
「んあ? 小さい? 俺は只の『ウゴン草』だったぜ?」
「小さいのは……クエスト画面見ても『ウゴン草』を10枚集めろって書いてるし、違う物っぽいね」
ナツメがタブレットでクエスト内容を確認してくれた。
一種類の薬草から採取できる草は、実に複数種類ある。『ウゴン草』と『小さなウゴン草』がこの薬草の、デフォで採取できる草なんだろう。
三回目の採取で『ウゴン草』が10枚を突破し、クエストが完了したというメッセージが出た。
「なんだ。このクエスト、薬草師の所に持って行かなくても、入手した時点でクリアするのか」
「え? ボクは採取してないからどういう状況か解らないんだけど?」
「あぁ、すまん。――っと、10枚はクエストアイテム化してしまって、取引不可になってしまった。まってくれ……」
アイテムボックスを確認すると、『ウゴン草』が10枚だけ別の枠にあって、『クエストアイテム』という区分になってて取引不可設定になっていた。ナツメに渡す分を採取し、10枚を渡す。
渡し終えると、他のプレイヤーの分もと思って採取に精を出す。隣では受付嬢も採取を続行していた。
10分足らずで俺の手持ちの『ウゴン草』は150枚を超え、受付嬢の分と合わせても200枚以上に。小さい方はそれより少し多い数になった。
「もうちょっと採取したら帰るか」
『そうでございますね。しかしこの余った『ウゴン草』はどうなさるのですか?』
「ん? いや、その……採取技能持ってない奴も多いからさ……まぁ先着になっちまうが、クエスト用に欲しい奴いたら、その……」
「あぁ、売るんだね。うん。売れると思うよ」
え?
う、売る?
い、いや俺は、タダで譲ろうと思ってたんだが……。
そういや、別のネトゲでもクエストアイテムを売ってるのを、露店やオークションで見た事あるな。
クエストを完了することでEXPを獲得できるようなのだと、かなりの金額になっていた気がする。
けど『レッツ』じゃEXPは手に入らないし、報酬だってどうなるのか解ったもんじゃない。
柵の修復作業だって、僅か1000Gにしかなってないしな。レベル2の『ライフポーション』を30本売ったのと、同じ収入じゃん。
そんなはした金しか手に入らないだろうクエストアイテムに、金払う奴いるのかね?
アオイの案内で追加の『ウゴン草』が生る場所へと向かい、採取を終わらせて帰ろうとした時――
ガサゴソという草を掻き分ける音が近づいてきた。
素早く身構える俺たち。
茂みの奥から現れたのは……
「おや? 先客はいたとは思わなんだ」
薄灰色の髪に金色の毛並みの大きな耳。毛先が白い耳と同じ毛並みの大きな尻尾。
俺と同じ狐がベースになったケモミ族――しかも男が立っていた。
「旦那さま、どうしたの? あら……」
男の後ろからケミモ族の女が現れた。
『旦那さま』ってのは、ご主人様という意味なのだろうか? それとも夫という意味なのだろうか?
落ち着いた雰囲気の口調だったが、やっぱり見た目は14、5歳ぐらいの少女だ。寧ろ先日見た、俺を囲ってた連中よりは幾分年上に見える。
「あらぁん。立ち止まっちゃったりして、どうしたのぉ〜?」
「ぬ? 見かけないケモミ族の男だな? もしやリンたちが言っていた、先日村にやって来たと言う男か?」
後ろから追加でケモミ族の女が二人、現れた。
あぁ、やっぱり公認ハーレム族なのね。
「なるほど。村の薬草師が怪我をね……」
「それで代わりに君が採取をしに? 大変ねぇ」
「あらん? そっちの子は、聖獣さまのお子じゃない?」
《アオイだぉ》
突然現れたケモミ族の一団は、案の定、灰色狐男のファミリーだった。つまり女3人は、狐男の妻……。
まぁそのお陰で、俺は囲まれずに済んでいる。
相手一向も同じ『ウゴン草』を採取しに来たのだというので、俺たちの事情も簡単に話した。
「うーん、困ったね。明日はこちらの村に彼が来てくれる事になっていたんだけどなぁ」
「え? 村の薬草師がか?」
「うん。頼まれていた薬が出来上がったからね。それを受け取りに来てくれる事になってたんだ」
俺の言葉に男が頷く。そして後ろからはナツメが肩を叩いて耳打ちをして来た。
「これ、クエストの続きだよ。ケモミ族の村に行って、薬を受け取って来いってなってたから」
「うげっ! マジか?」
嘘だろ……あの村にまた行かなきゃならないのか?
慌ててタブレットを出し、クエスト欄を確認――
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【薬草を届けろ! 3】
ケモミ族の村に行き『オタル』から薬を受け取り、
サマナ村の薬草師『ダノ』に渡せ。
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っげげ。マジで村に行かなきゃならないのか。
いや、オタルってのがもしこの狐男なら、ここで受け取ればいいんじゃね?
「あ、あの……もしかして『オタル』さんですかね?」
別人だったら恥ずかしいので、恐るおそる尋ねてみた。
「旦那さまをご存知?」
「薬の世界ではダーリンの右に出るものは居ないものぉ。有名人よねぇ」
「んむ。オタルはケモミいちの薬師だからな」
おぉ、本人か!
奥さん達にベタ褒めされても動じる事無く、涼しい顔をしている狐男のオタル氏。
早速、薬を届けてやるから渡してくれと言うが、苦笑いを浮かべられてしまった。
「あははは、すまないね。薬草の採取をしに来ただけで、完成した薬は持ち合わせてないんだよ」
「そりゃそうだよね。カイト君、ケモミ村にお邪魔しようよ。ボクもちょっと村に興味あるしさ」
俺は嫌だっ!
行きたくないいぃぃぃーっ!




