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82:薬草クエ、始めます。

 朝日の下、その辺の木材で適当に作った『お盆』を持って列に並ぶ。並んでいるほかのプレイヤーも、やっぱり同じようにお盆を持っている。


「いやぁ、まさかゲーム内で味噌汁が飲めるなんてなぁ」

「料理人の和食メニューも、段々と豊富になってきたよなー」

「そのうち寿司が出たりしてな」

「天麩羅とか、案外簡単そうなのに、まだ天麩羅屋さんって見た事ないねぇ〜」

「そういえばそうね。野菜と小麦粉と油があれば出来るのに」

「卵もいるわよ。天麩羅粉は確かに卵不要だけど、小麦粉使うなら卵もいるんだからね」


 皆、活き活きとしているなっ!

 それもこれも、昨夜、俺がカジャールから料理人を連れて来たからだろう。

 昨夜はすっげー感謝されたぜ。

 主に教授モリアーティーと料理人3人が。


『カイト様の順番です。ぼぉ〜っとして、どうかなさいましたか?』

「んあ? あ、いや、昨日の事をちょっと思い出してて……あ、あの、白飯と味噌汁……あ、あと、目玉焼きを」

「あら、昨日の狐さん。おはよう。ご飯は大盛りにする?」


 列の先頭には三つの屋台がある。

 それぞれの屋台で『白飯』が販売され、おかずとして一軒は味噌汁を、一軒は目玉焼きと卵焼きを、一軒では鮭の塩焼きを販売していた。

 どこの列で注文しても、全ての注文ができるようにした――らしい。

 既に飯を食い終わってる人が手伝いに入ったりして、混乱を招く事無くスムーズに注文も出来ていた。


「ほいっ。アオイちゃんの分のから揚げだ。本当にこれだけでいいのかい?」

「あ、どうも秀さん。これだけあれば十分。っというか、デブる量だから」


 秀さん――カレー屋の彼が、かなりの量のから揚げを渡してくれた。それこそ、カレー皿大盛り分ほどのから揚げだ。


《コンコンコォ〜ン! はやく、はやくっ》

「ちょ、待て。俺の飯がまだ出来て――」

「お待たせ〜。熱いから気をつけてね」

「ど、ども、メルさん」


 味噌汁屋のメルさん。金髪碧眼の耳の長いエルフらしい彼女が味噌汁をもつ姿は、なんとも違和感が半端無い。

 目玉焼きを作るのはうどん屋のバーミアーン。

 名前からして中華料理人じゃね? っと昨夜はいろんな人に突っ込まれていたっけか。

 秀さんが人族で、バーミアーンはエルフ族。元々別ゲーからの知り合い同士らしい。


 3人の救世主のお陰でサマナ村は救われた。

 なんて大袈裟ではあるが、実際カジャールから戻って来る頃には、NPCの食堂は閉店しちまってて大変だったんだ。

 閉店理由も、食材が無くなったからってものだし、店を責める事もできねぇ。

 そこに登場したのが料理人3人だった訳で、もう拍手喝采だったねっ。


 受付嬢とナツメも朝飯をゲットし、俺たちは行列から離れて食うことにした。

 

「飯食ったらサラーマに移動するか」


 家畜クエストは終わった。なので新しい町への移動を提案。

 だが直ぐに受付嬢は首を傾げる。


『昨日もそう仰っていましたが、カイト様、何かお忘れではございませんか?』

「ん? なんか忘れてるか?」


 何を忘れていたっけ?

 んー、んー。

 味噌汁を飲みながら考える。お、この汁、しっかり出汁から作ってるっぽいな。出汁はかつおか、煮干か……そんなのゲーム内で手に入るんだろうか。

 ……あ、出汁と言えば――


「あぁあぁあぁ、豚骨だ!」

『それもございますが、他にも――』

《あむあむあむあむ、カイトォ、あむあむ、薬草、あむあむ、忘れてるぉ〜》

「アオイちゃん、食べながらお喋りするのは、行儀悪いんだよ。喋る時はお口の中の物を飲み込んでからにしようね」


 俺の代わりにナツメがアオイを躾けている。その言葉にアオイは、から揚げをもごもごさせながら《あい》と返事をしていた。

 アオイが薬草と言ったが……あぁっ!


「薬草クエスト! 村に居る薬草師に会えって奴だったな。伐採やらモンスター襲撃やらですっかり忘れてたぜ」

『思い出されたようで良かったです。まずはクエストを終わらせてから移動しませんか?』

「そうだな。後になってまた村に来るのは面倒だし」

「あれ? 支援ギルドのクエスト? 薬草を届けろっていう」

「お? ナツメも受けてたのか?」


 にこにこして頷くナツメ。

 やっぱりフラグだったんだ! 今度こそナツメと友達になれという、ネトゲ神のお告げだったんだっ!






 飯を食い終え少し腹を休ませてから、村の薬草師なる人物を探す。

 しかし、薬草師がどんな人物かも解らないし、村には薬屋なんてのもない。雑貨屋も武器屋も、防具屋も無い。

 どうやって探すかなー。


「そんなの、人に聞けばいいんだよ。他にも同じクエストやってるプレイヤーもいるだろうし、村人に聞いても教えてくれるんじゃないかな?」

「ナツメ……お前、すげーなっ!」

『いえカイト様。極初歩的な事かと』


 うんうん頷くナツメと、真顔な受付嬢。

 人に聞くのが初歩的……ぼっち属性の俺には思いつかない事なんすけど。


 人かー。聞くのならNPCだよなぁ。プレイヤー相手だと緊張しちまうし、NPCなら相手はAIだから緊張する事もない。

 よしっ!


「あ、カイト君。あのプレイヤーが薬草の話してるよ。ちょっと聞いてきてよ」

「うぇーい!? ま、また俺ですかぁー?」


 しかもプレイヤーにかよ!

 たった今、NPCに聞こうと思ってたとろこだったのにぃ!


 ナツメが指差す方向に二人の男プレイヤーがいる。彼らが薬草の話をしているのは、俺の耳にも届いた。

 ぐっ……昨日のカジャールでのお役目の後、実は心労でなかなか寝付けなかったんだよな。

 もう少しポーション露店で経験値を稼いでから、知らない人とのコンタクト訓練をしたがった……。


「わ、解ったよ。聞けばいいんだろ、聞けば」


 渋々男たちのほうへと向かい、深呼吸してから声を掛けてみる。

 ファーストコンタクトは大事だぞ。まずは礼儀正しく、挨拶からだ。


「ここここ、こ――」


 ここで「こーん」とは言ってはいけない。


「こんにちはっ!」


 よし! 言えたぞっ。

 二人組みは俺をじっと見て、それから何故かタブレットを取り出した。


「こんにちはにしては、まだ時間的に随分早い気がするんだけど?」

「まだ8時半だぜ? 挨拶するなら、おはようございますの間違いだろ」


 のおぉぉぉぉっ!

 しまったぁぁぁぁっ。俺としたことが、ファーストコンタクトを意識しすぎて、選ぶ言葉を間違ってしまったぁぁぁっ。


「いい、いや、あ、お、おはようございます」

「あっはっは。まぁまぁ緊張しないで。ちょっとツッコミ入れただけだから」

「寧ろ第一声は狐らしく、コーンってのを期待したんだけどな」


 いや、昨日はそれで恥ずかしい思いしたので、遠慮させていただきます。はい。

 ちょっと滑った感のあるファーストコンタクトだが、まぁいいだろう。次が重要だからな。


「ああ、あのさ。薬草のさ、クエストがあるんだけど」

「ん? 薬草を届けろっていうヤツ?」

「そそそそそうっ! 村の薬草師ってのが、誰か解んなくって――」

「あぁ、それなー。実は昨日の襲撃イベントでモンスターに襲われて」


 え?

 NPCは襲われた?

 しかもクエストに関わってるNPCが!?

 まさか、モンスターに襲われ死んじまって……クエスト続行不可能とかに!?


「あっちの青い屋根の家で怪我して寝込んでるぜ」

「あ……生きてるんだ?」

「生きてる。けど、寝込んだ事でどうもクエスト内容が変わってしまったみたいなんだよなぁ」

「え?」


 二人の話だと、NPCが怪我をする前に話しかけてて、その時点では森で薬草を採取する間、護衛をしてくれというものだったらしい。

 が、怪我をした事でNPCが動けなくなり、どうするのか尋ねに行ったら――


「代わりに薬草を採取してくれって……採取技能持ってないのになぁ」

「しかもNPCの話だと、採取初心者じゃ見つけ難い、珍しい薬草だって言うし」

「俺らも困ってたところなんだ」


 これじゃクエストが進められないプレイヤー続出か。

 技能レベルどのくらいいるんだろうな。俺の採取レベルは19。生産系技能はレベル50がMAXだし、初心者って程じゃないだろう。

 先ずはNPCに話を聞くか。


「あああ、ありがとう。採取技能は持ってるし、も、もし俺のレベルでも十分採れるってなら、その、薬草、採ってくるけど」

「え? マジで? 他のクエストやってるから、今日も村に一泊する予定なんだ」

「たくさん採れるようなら頼むよ」

「お、おうっ」


 た、頼まれた!?

 ひ、人に頼まれる事が、こんなに楽しい事だったなんて。


 高揚する気持ちを抑えて皆の下へと戻る。


『カイト様、とてもご機嫌ですね』

「なにかあったのカイト君?」

《カイト、嬉しそう。アオイも嬉しい〜》


 尻尾をぶんぶん振るアオイを見て、あぁ、俺の尻尾って今あぁなってんのかというのが解った。

あわわわわ。

ここにきてランキングに再び入るとは。

ジャンル別下位のほうでこそこそはしておりましたが、まさかの3位浮上。

ありがとうございます。

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