81:から揚げ。
ブクマ3000突破してました!
調子に乗って追加で1話更新です。
「みみみみみみみ……すぅーはぁー。みみ皆さんっ、こここここここここーん」
《コォォォン》
教授に指名され、俺は屋台が並ぶ通りで声を上げた。
第一声は……失敗。緊張すると相変らずどもりと上ずった声でどうしようもない。
「なんだ? 狐男が狐のモノマネ?」
「やだ、子狐可愛いっ」
「や〜ん。親子みたい〜」
失敗――では無かったらしい。
だが集まってきたのは屋台の客側になるプレイヤーばかりで、俺たちの求める人材ではない。
しかも、大道芸を見に来た的なノリだ。
一発芸とか、何も出来ないからなっ!
極度の緊張からか、尻尾がぶわっと音を立てて逆立つ。
一斉に沸きあがる笑い。
……糞。俺の尻尾は見世物じゃねーぞっ。
《カイト! から揚げのために、がんばるぉ!》
「から揚げの為か……」
何かの発表会とかで、緊張をほぐす為に観客をピーマンだと思え――とかってのはネタとしてよく見る。
よ、よし。ここは集まってきた連中を、から揚げだと思って頑張るぞっ!
から揚げっから揚げっから揚げっ!
「から揚げの皆さんこんばんはっ!」
よし!
喋れたぞっ!
ん?
反応が、何も、無い?
っぴこんっとシステムメッセージが鳴って、チャットメッセージが届く。
誰からだろう?
視界の隅に浮かんだアイコンに触れると、メッセージが宙に表示される。
【モリアーティー:から揚げの皆さんというのは、どこの肉のことだ!】
え? から揚げの皆さ……
「ああぁぁぁっ!? ち、違っ! か、から揚げじゃなくって、あの、うぎ、ひぃー!?」
俺が尻尾を抱えてその場に蹲ると、このタイミングで笑い声が聞こえてきた。
どうしてこうなった……サマス村にいるプレイヤーの為に、いや、本音では自らの空腹の為に頑張らなきゃならないところだろっ!
あれ?
俺自身の為だったら、別にここで飯食えばいいんじゃね?
……いやいや、今頃受付嬢もナツメも腹を空かせて待ってるはずだ。
彼らのためにも俺がここで頑張ってから揚げをっ――いや、から揚げの事は忘れよう。
「そんなにから揚げ食いたいのかよっ」
「狐なら稲荷だろ?」
「おい、子狐のほうは涎垂らしてんぞ。あっちもから揚げ派なのか」
「あっはっは。そんなにから揚げ食べたいなら、俺が揚げてやろうか?」
「プレイヤーを見てから揚げを思い浮かべるとか、肉食系男子かよ」
「アァーッ!」
いろんな声が聞こえてくる。同情しているようなのもあれば、笑いものにしているのもある。だからホモじゃねーって!
アオイの小さな手が俺の膝の上にちょこんと乗った。
「や〜ん。狐ちゃんがお父さん慰めてるぅ」
「可愛いすぎ〜」
親子じゃねーぞっ!
《カイト。から揚げ、作ってくれるって!》
「は?」
アオイは乗せた手を下ろし、その手を観衆に向けた。
「から揚げ、誰か作ってくれるのか?」
そう尋ねると、一人の男が軽く手を上げて頷いた。
マジか!
な、なんてことだ。俺の思いが通じたのかっ。
「っくぅー。これでサマナ村の皆も救われるぜ」
猛烈に感動した俺は、拳を突き上げついガッツポーズを決めてしまった。
「狐なのに月に向って吠えるのか?」
「やだぁ、物凄い勢いで尻尾振ってるし」
「そんなにから揚げが食えることに感動してんのか」
外野から聞えてくる言葉に、ちょっと恥ずかしくなってテンションを抑える。それに関してもすぐに反応をされてしまい、またもやテンションダウン。
えぇい! もう何とでも言うがいいさ。今はとにかく、相手に事情を説明せねば。
「っじ、実は……こ、ここじゃなくって、その、北にあるサマナって村で、から揚げを――」
「え?」
「あの、だから……」
えっと、どこから話せばいいんだ?
《サマナ村でお腹を空かせた人がいっぱいなんだぉ。ちっさい食堂しかなくって、もうペコペコなんのぉ〜》
「は? え? 狐が喋った!? え? この狐、モンスターか何かかい?」
え? い、今更?
いや、今までは離れてたし、聞えてなかっただけか。
アオイに驚く男に、説明しなきゃいけない事が増えてしまった。
《アオイはモンスターじゃないもんっ》
「あー、えっと。ど、どっちかというと精霊に近いらしい。クエストをクリアすると、懐かれてしまって……」
「はぁー……それで、サマナ村ってのは?」
「そうっ! えーっと――」
とりあえずクエストが発生してて、村にプレイヤーが大勢居て……NPCの食堂は一軒だけ。しかも店員一名だから、客を捌ききれてないっていう。
「そ、それで、その、カジャールで屋台持ちのプレイヤーに、その、サマナ村の方に来て貰おうと思って」
「あぁ、なるほどね。けど、その村まで徒歩で行くとなると、時間かかるんじゃないかい?」
「あ、それなら――」
「私に任せたまえっ!」
「ぎゃーっ!」
《きゃーっ!》
「うわっ」
魔法使いのスキルで瞬間移動できるんだ――と説明しようとした時、突然背後からマントをなびかせた教授は登場した。
見知らぬ人との会話に全神経を集中していた俺は、奴の気配を察知できずに思わず叫んでしまう。同じようにアオイも声を上げていた。
更に、俺たちの声に驚いたのか、それとも教授に驚いたのか、相手の男も声を上げて一歩後ずさりしていた。
「魔法使いにも瞬間移動を可能とする魔法があるのだよ。パーティーを組んでいれば、仲間も移動させられるスキルだ。これを利用して、料理人をサマナに連れて行く作戦である」
「あ、ああ、そう、なんだ」
やっぱり、突然湧いてきた教授に驚いているようだ。
「しかし狐男君よ。から揚げ屋だけでは皆の腹は満たされないだろう。他の料理人も呼ばなきゃな」
「そ、そうだな……えーっと……」
「あ、その事なんだけど。俺、メインはカレー屋なんだ。付け合せでから揚げやコロッケなんかを出してる程度なんだ」
「え? カレー……おぉぉっ!」
カレーって、主食じゃねーか! もうカレーだけでよくね?
「流石に一人で大人数を捌くのは大変だしなぁ、知り合いに声掛けてみるからちょっと待っててくれるかい?」
「え……えぇ!? まままままままじですかっ」
それから男はタブレットを取り出し、画面の操作を始めた。
そこまで見ていた外野は、もうコント漫才は終わったのかと口にしながら解散していく。初めから漫才じゃねーっつぅの。
「連絡取れたよ。今から噴水の所に来るってさ。ちなみに知り合いはうどん屋だけど、平気か?」
「ぜんっぜん! 大丈夫っ。皆飢えてるから、何でも大歓迎っ」
うどんっ!
ラーメン屋があるんだから、うどん屋だってあってもおかしくは無い。けど、やっぱ不思議と感動するなぁ。
ファンタジー風のゲーム内でうどんか。この分だと蕎麦もあるんだろうか?
そんなどうでもい事を考えながら噴水広場に向おうとすると――
「あの〜、良かったら私も参加していいですか? やっとオリジナル料理項目が出て、お味噌汁を作れるようになったんです。和定食屋さんとか、やってみたいな〜っと思って」
「お、おぉぉぉ、味噌汁ぅー!?」
朝飯にもよし。晩飯にもよし。昼飯には……どうだろう? けど昼の定食とかにも出てくるんだし、悪くは無いっ。
なんてオールマイティーな一品なんだっ!
「だ、大歓迎っ」
「カレーにうどん、そして和定食か。ゲームに不似合いなメニューが揃ったな」
「不似合いで結構っ。食い慣れたメニューでいいじゃないか」
「んむ。けっこうけっこう。では噴水でうどん屋を拾ったら、さっそくサマナへ戻ろう」
こうして俺の大仕事は無事に終わった。
よかった……料理人が3人も見つかって。
皆待ってろよ。俺が上手い飯を食わせてやるからなっ!
作るのは別の人だけどなっ!
書き溜めが減りました。
後悔するだろうがだがこれでいいっ!




