80:サマナ村の食堂は大繁盛でした。
「いやぁ、良い汗掻いたなー」
「そうだねぇ。日がな一日大工仕事で終わるのかと思ったけど、良い具合に襲撃イベントが発生して楽しかったねぇ」
「まったくだ」
日暮れ前、ナツメとパーティーを組んで連続クエストを完了させた。
尤も、わざとクエスト完了を遅らせただけで、本当ならもっと早い時間に終わってただろう。
『クエストに参加するプレイヤー数に応じて、モンスターの襲撃間隔も短くなっておりましたね』
「みたいだな」
「うんうん。だからボクたちもクエストを終わらせないで、追加の補強作業を申し出たりしたんだもんね」
そう。パーティーを組んでクエストを行うと、一人につき50メートルの作業ではなく、全員で50メートルという仕様だった。
お陰で俺、受付嬢、そして加わったナツメの3人と村人一人、あと構ってくれと走り回る子狐……は戦力外として、4人で作業すれば10メートル分の作業も、僅か10分たらずで終わった。
その辺りで一回目のモンスター襲撃イベントが発生。
他のプレイヤーとも協力戦みたいな感じで、何処からとも無く支援スキル貰ったり、ソロで作業してたプレイヤーにポーション投げて回復してみたり、なかなかワクテカする戦闘だった。
周囲のプレイヤー数が多くなってきたなと思えば、襲撃頻度も増えた。
俺とナツメはダメ元で村人に、
「50メートルと言わず、100メートルでも200メートルでも作業手伝うよ」
っと言えば、
「本当でごぜーますか? それは助かりますだ」
っという返事があって、クエスト欄のクリア条件が200メートルに書き換えられた。
で、この時間までに襲撃は7回。
受付嬢のレベルが上がり、俺のレベルが上がり、最期にナツメのレベルも上がった。
「受付嬢と俺のレベルが上がるタイミング、ずれたな。なんでだろう?」
『一昨日、カイト様は精霊戦の際に戦闘不能になっておりますから。デスペナルティで経験値がマイナス10%されております』
「……あぁ、そうか。泉の水の効果で、即復活しただけで、死亡扱いになってたんだっけか」
「あれ? カイト君、死んじゃったの? 良かったねぇ、デスゲームじゃなくって」
まったくだ。これがデスゲームだったら、今頃リアルの俺は死んでただろうな。
『プレイヤーの皆様を楽しませる事が目的で、ログアウト出来ないようにした訳ですから。現実の皆様に危害を加えるような仕様には、していないのでしょう』
「ログアウト? ん? あれ? ボク、何か忘れてる気がする。なんだったっけ?」
「ん? いや、俺見られても困るし……」
そういや、俺も何か忘れてる気がする。
えーっと、なんだっけ?
クエスト報酬は、さっき村長から1000G貰ったし?
『そろそろ夕食の時間帯ですね』
「「おぉ! それそれっ」」
俺とナツメが同時に声を上げ、その声に反応して走り回ってたアオイが戻って来た。
尻尾をぶんぶん振りながら《お仕事おわった? ご飯か?》と尋ねてくる。
「あぁ、終わったよ。今日までは村に一泊して、明日は北のサラーマに行こう」
《やったぁ〜! から揚げ、ありゅか?》
いや、流石にそこまでは解りませんが?
まだサラーマを拠点にしてるプレイヤーは少ないだろうし、っとなれば露店の数も少ないだろうな。
まぁ一度行ってしまえば、あとは転移装置で移動可能になるし、不便だと感じればカジャールで買い物、狩りの時にサラーマに移動ってのもいいしな。
ナツメを迎えた4人――いや、3人と1匹で宿に戻り、食堂へと向った。
広くもない食堂には空いた席が一つも無く、主人もてんてこまいになっていた。
「あっちゃー、ちょっとのんびりしすぎたかな」
「空腹タイムは大体の人の場合、時間帯だしねぇ」
『食堂は生成エリアタイプではないので、席が空くのを待つしかありませんね』
「マジかぁ」
《ふぇぇぇ〜》
今にも泣き出しそうな声になるアオイを、受付嬢が撫でながら抱きかかえる。俺も鳴きたいぜ。主にお腹が。
「はぁぁぁぁ。カジャールの屋台がこっちに来てくれればなぁ」
『左様でございますね。今だと稼ぎ時でもありますし。でも……』
「カジャールからここまで、歩くと三時間は掛かるしなあ」
サラーマからなら近いだろうが、どっちにしろ飯時には間に合わない。
今なんだ。今すぐ飯を食いたいんだ!
「せめてここにも転送装置があればなあ」
「村には無いねぇ。せめて神官の『リターン』が使えれば……」
っというナツメの言葉に、近くにいた神官職の女プレイヤーが「その魔法も町限定でしか移動できないのよ」っと、残念そうな顔で答えてくれた。
やっぱ、ダメかぁ。
いや、だったらカジャールに魔法で送って貰うってのは?
そう思って女神官に声を掛けようとしたが、それより先に妙な声が聞こえてきた。
「っふっふっふ。遂に来たか。この私、モリアーティーの出番だね!」
表は黒、裏地は赤という定番っぽいマントを翻し、一人の男が立ち上がった。
骨付き肉を片手に――。
モリアーティーって、どこの推理小説に出てくる悪役だよ。
黒い髪に赤い目の人族の男、モリアーティーは肉を持ったまま俺たちのほうへとやって来た。
「カジャールから料理技能を持つ屋台持ちプレイヤーを呼ぶ。その案、良いではないか。乗ってやろう」
「はい?」
骨付き肉を平らげた男は、骨の処分に困ったのか、骨を見ては当たりをきょろきょろと視線を泳がせている。
皿の片付けていた店主を見つけ、骨を皿の上に置いて戻ってきた。なにやってんだか……。
いつの間にか俺の足にしがみついていたアオイが、骨の移動をじっと見つめていた。こっちは俺以上に限界が近づいているようだ。
「っふ。任せたまえ。私が君たちの食事を安泰な物にしてやろう!」
「いや、全然意味解んねーし」
「ふーむ。ん、君、目立つ姿をしているな。発案者だし、一緒に来たまえ。それとそこの神官殿、ちょっと――」
「は? え?」
「え? あ、はい?」
君、と呼ばれたのは、どうやら俺らしい?
指差された俺とさっきの女神官は、モリアーティーと名乗る男に連れられて店の外にでた。
もちろん、受付嬢やナツメ、腹を空かせたアオイも着いて来る。
「申し訳ないが『テレポート』のスキルは、パーティーメンバーだけ同行できる仕様なのだ。あっちで人を集めなきゃならないし、余分な人数は連れて行けない。狐君以外は留守番をしててくれないか」
「テレポート? 魔法使いにも瞬間移動系スキルがあったんだ?」
『発生条件が厳しいので、取っているプレイヤーは少ないで……と思います』
「っふふふ。その通り。三属性の魔法全てを、最高レベルにしていないと発生しないらしいのだ。まぁ兎に角だ、神官殿、我等をカジャールに送ってくれないだろうか?」
「あ、はい」
唐突過ぎる展開に、俺の頭は付いていけない。
女神官が『リターン』を唱えると、地面に転移用の魔法陣が浮かぶあがる。
モリアーティーは俺の首根っこを掴んで魔法陣へと乗った。当然、引っ張られた俺も魔法陣の中へ……。
俺、拉致られた!?
「魔法使いの持つ『テレポート』は、神官の『リターン』と違って指定した場所に瞬間移動するというスキルだ」
「はぁ……」
「スキルレベル1で位置情報を記憶させる玉を生成し、レベル2で玉に記憶させた場所に飛ぶことが出来る」
「はぁ……」
カジャールに到着した俺たちは、屋台が並ぶ通りへと向っていた。向いながらモリアーティーがドヤ顔で『テレポート』スキルの説明をしはじめた。
なかなか仕様が面倒で、玉は最大三つしか持てず、四つ目を生成すれば自動的に、最初の一つ目が砕け散るらしい。
つまり、自由に瞬間移動できるのは三箇所までだという事。
「だが、町や村、比較的安全な街道上であれば、どこでも位置情報を記憶できる。拠点となる町と、狩場に近い街道を記憶させていれば、移動時間を省いてレベリングも出来るのだ。便利なものだろう」
確かに、便利だな。
狩場はレベルが上がれば移動しなきゃならない。けど、ある程度レベルが高くなれば、同じ狩場に何日も通うようになるだろう。
記憶できる位置が三箇所でも、十分事足りる。
で、このスキルがどうしたのかっていうと――
「パーティーを組んでいれば、私一人がスキルを使用することで、他のメンバーも同じ位置に瞬間移動できるようになるのだ」
「おぉぉ、べ、便利だな」
「だろうっ!」
目を輝かせるモリアーティーは、拳を振り上げてポーズを決めた。
なんか、熱い男だな。名前然り、魔法使い然りだが、もっと沈着冷静なイメージなんだが。
「で、君は屋台持ちのプレイヤーを集め、私のところに連れて来たまえ」
「え? え……えぇぇぇぇ!? おおおお、俺が?」
モリアーティーが頷く。
だって発案者だろ? と言って。
え? つまり、モリアーティーとパーティーを組んで、屋台持ちのプレイヤーをサマス村に連れて行こうっていう事なのか?
俺の役目は――
「屋台持ちのプレイヤーに声を掛けて、あっちで屋台を開いてくれるようお願いする役」
「……うううううううううぇーい?」
モリアーティーは親指を立て、白い歯を光らせた。
っぐ。無駄に熱く眩しい奴めっ。
無理だ。無理に決まっている。いくら他人とのコミュニティーを築く練習をしているとはいえ、お決まりのセリフパターンがある訳でも無い会話を、しかも大勢にしなきゃならないとか、無理ぃー!
「君にならできる! その耳、尻尾! 君は目立ってる! 君の頑張り次第で、サマスに居るプレイヤーの胃袋の生き死にが決まるのだよ!」
「ななななななんで俺なんか選んで連れてくるんだよっ。お、俺、コミュ障気味ななんだぜっ」
《アオイは頑張るお! 美味しいご飯の為に、美味しい物作ってくれる人、集めるぉ!》
その声は足元から聞こえてきた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
名前:カイト
レベル:29
職業:盗賊 / 種族:ケモミ族
HP:4250 → 4500
MP:1130 → 1170
STR:67+41 → 77+47
VIT:17+40 → 17+44
AGI:99+45 → 99+48
DEX:15+9 → 15+10
INT:5
DVO:5
LUK:10+4 → 10+5
SP:0
スキルポイント:0
●アクティブスキル●
『石投げ』『足払い』『スティール:LV1』『シャドウスラッシュ:LV4』
『バックステップ』『カウンター:LV1』『ハイティング:LV2』『クローキング:LV2』
『スタブ:LV1』『スタンブロウ:LV1』
●パッシブスキル●
『短剣マスタリー:LV5』『ダブルアタック:LV5』『二刀流』
●修得技能●
【格闘:LV41→43】【忍耐:LV40→42】【瞬身:LV45→48】
【薬品投球:LV16→20】
【岩壁登攀:LV10】【ポイント発見:LV21→24】【採取:LV19→22】【製薬:LV12→14】
【採掘:LV5】【裁縫:LV1】【伐採:LV6】
技能ポイント:1
○技能スキル○
『巴投げ:LV12』『ポーション投げ:LV15→17』『素材加工:LV9』『ポーション作成:LV10』
『電光石火:LV15→18』『ポーションアタック:LV2』『正拳突き:LV1』『助走』
●獲得称号●
【レアモンスター最速討伐者】【最速転職者】【ファースト・クラフター】
【ファースト・アルケミスト】【ダンジョン探求者・パーティーバージョン】
【鉱山を愛する者】【ソルトとの友情】
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