79:フラグ。
本日2話目の更新です。
「これで何本目だ?」
『今伐採した分を合わせ、120本目でございます』
「よし、目標数達成だな」
『はい』
返事をする受付嬢の顔を見ると、どうにも落ち着かなくなってしまう。昨日のあの後からずっとだ。
忘れろ。忘れるんだっ!
受付嬢はNPC。受付嬢はNPC。受付嬢はNPC!
っよ、よし。落ち着いたぞ。
サマスの村に到着したのは昨夜の事。
時間も遅いので村唯一の宿で一泊して、今朝からクエストを開始。
まずは村長の家に向かい、狐バージョンに戻っていたアオイに怯える村長からクエスト内容を聞いた。
村や牧場を囲む柵を強化する為、木を伐採して欲しいというのが最初の内容だ。
「しかし、月光の森の木をこんなに切り倒しちまって、お前のお袋が怒ったりしねーだろうな?」
《うんっ。大丈夫ぅ。木、いっぱいだと、森が暗くなって、モンスター増えるし、他の小さな木が育たないのぉ》
『間伐というものですね』
「へぇ〜」
間引きみたいなものか。
伐採できる木は決まってて、これまた『ポイント発見』でその木を見つけなきゃならない。
間引き対象の木が、伐採してもいい木になってる訳だな。
クエストクリア条件の材木60本×二人分を達成し、サマナ村へと引き返す。
伐採エリアにはモンスターが出てこなかったので、安全に伐採作業が出来たが、行き帰りの道中はモンスターの生息エリアだ。
もちろん強化素材ゲットも兼ねて、戦闘は回避しないで進んでいった。
戦闘をしながら村へと帰り、村長に伐採した材木を見せる。
「おぉ、有り難い。これで柵の補強も出来ますじゃ」
村の隅に集められた材木は、俺たちが持ってきた物以外にも山積みにされている。
この村では既に10人以上のプレイヤーがクエストの為に訪れていた。
村長に報告した事で【家畜を守れ! 2】が完了し、次のクエストへと続く。っち、まだ続くのかよ。
えーっと、次は――柵の補強作業だと!
おいおい、このぐらい村人だけでやれよ。
「ちょっと飯にしようぜ。クエストの続きはその後だ」
『はい。丁度お昼の時間ですね』
《ご飯!? からあげあるのぉ?》
「無い」
《がーん!》
こいつ、から揚げにとり憑かれやがったな。いや、とり憑いたと言うべきか?
ったく、狐つったらアゲだろ。
俺はラーメンだが。
当初の目的だった豚骨はまだ手に入らない。
「柵や家畜小屋を補強しなきゃ、家畜の繁殖が出来ないっつーけど、出来た所で直ぐには成長しないんだし、市場に豚肉が出回るのはまだまだ先か」
山積みになった丸太の近くに腰を下ろし、何人かの村人とプレイヤーが一緒になって柵の補強作業をしている光景を見つめる。
俺もあれに参加しなきゃならないのか……面倒臭ぇな。
『大丈夫です。ここはゲームですので、家畜の成長速度は現実のソレとは違いますから』
そう言って受付嬢は足元の草を根っこごと毟り取った。すると、数秒後には芽が生えてきた。
『伐採した木も、今頃だと元の六割ほどまで成長しているでしょう』
「間引き意味ねえじゃん」
『……そうなりますね』
ね。なんて言いながら首を傾げちゃったりして可愛いんだよくぁwせdrftgyふじこlp!!
受付嬢はNPC! 受付嬢はNPC!! 受付嬢はあぁぁぁっ!
『カイト様、大丈夫でしょうか?』
《尻尾ぷるぷるぅ。ぶわっ。ぷるぷるぅ〜》
「っはぁはぁはぁ。か、解説ありがとうアオイ。もう大丈夫だ。うん。さっ、飯食いに行くぞっ」
《おぉ〜》
『はい』
飯は村で用意されていた。流石に手伝ってやってんだから、それぐらい当然だよな。
質素、とは程遠いメニューがずらりと並ぶ。
鳥の丸焼きやら、牛ステーキ。色とりどりの新鮮サラダ。
昼間っから濃いなー。
アオイは嬉しそうに鶏肉にかぶりつくが、やっぱりから揚げのほうがいいらしい。
がっつり食いたい気もするが、昼からこれってのは胃にきついな。ステーキを小さく切り分け、半分を食う。あとはパンとサラダで済ませよう。
『カイト様、あまり召し上がられないのですね?』
「んあ? いや、まぁ……昼間っから脂っこいのはなぁ。少量ならいいんだが、こう多いと……」
《いっぱい食べないと大きくなれないって、ははさま言ってたぉ》
「うん。お前のははさまぐらい大きくなりたい訳じゃないからな」
九尾サイズになったら大事だぞ。いや、こいつもいつかはあのサイズなのか?
末恐ろしい。どんだけ食ったらあんなでかさになるのやら。
俺的にはここに来て、暴飲暴食をしているほうだと思っている。
栄養士のお袋が、バランスの良い飯ばかり用意してくれてたのもあるだろう。
その反動もあって、ここでの食生活を繰り返してると、太るんじゃないかと心配すらしてしまう。
「な、なぁ受付嬢」
『はい?』
可能な限り彼女と視線を合わせないようにして尋ねる。
「食いまくったからって、太ったりしないよな?」
体型の事を気にするなんて女みたいだ――とかは言わせねえ。
体が重くなると、VRでの反応速度にもちょびっとだけ影響するんだぜ。
ゲームは遊びじゃないんだっ。ゲームの為なら体脂肪率10%を維持してやるっ!
『はぁ。現時点では体型の変化は実装されておりませんし、予定にもございませんよ?』
「おぉ! じゃ、これからも未実装でよろしく頼むって、マザーに伝えてくれ!」
『は、はぁ……。体型を気にされるなんて、まるでじょせ――』
「あーあー、何も聞えなーい」
耳を塞いで聞えない振りをする。
よく漫画だとかで見るのは、ここで相手が呆れて苦笑いをするなんてシーンだ。
だが、相手が悪かった。
タブレットを取り出した受付嬢は、何かの操作を始めた。
青いシステムメッセージが浮かぶ。
《体型を気になさるなんてまるで女性のようですね》
……こいつ……。
NPCであるのを利用して、システムメッセージなんてものを送信しやがったぞ!
NPCずるい!
《ぷるぷる震えておいでですよ?》
「尻尾を観察してんじゃねーよっ!」
宿屋の広くは無い食堂で俺の声が木霊する。
同じく飯を食いに来ていたプレイヤーの視線を一身に受け、更に俺の尻尾は震えた。
チラりと見た受付嬢の顔は、どこか勝ち誇ったように見える。
っく……俺の……負けだ……。
《肉ぅ〜、うまうまだったねぇ。でもから揚げの方がもっとうまうまだぉ〜》
「はぁー、そうですか……」
弄り倒される俺を助けてくれる者なんていやしない。
宿を出て補強作業現場まで戻って来る道中、アオイは肉の感想ばかり口にしていた。受付嬢は『マザーに体型の件をご報告しておきます』と言って、時折笑ったりしていたし。誰と話して笑ってんだよっ!
「はぁ……俺を救ってくれるような友人は居ないのかよ。エリュテイアやココットとは友達になれたっぽいが、昨日以来音沙汰無しだし」
というかフレ登録する事とかすっかり忘れたし、相手は女の子だし、こっちからチャットメッセージ出してもいいものか悩むところだ。
せめてフレ登録でもしてれば、所在地が解って偶然を装って会いに行けたりもするんだが。
『お二人に会いたいのですか?』
「んあ? 会いたいっつーか、せっかくの友達……だしなぁ。けど、ここにあの二人が居たら、更に俺は弄られる事になりそうだ……」
『弄る? どなたかがカイト様を弄っていらっしゃるのですか?』
こいつ……無自覚かよっ。
やっぱりずるい。NPCずるいっ!
「やっぱ男友達が欲しいな。男同士なら弄ったりとか、あんま無いんじゃないかな」
『そうなんですか?』
「たぶん……きっと……」
確信は無い。だって同性の友達とか、まだ居ねーし!
あ、そういやソルトが……いや止めよう。NPCに過剰な期待をするのは止めよう。
作業現場まで到着し、クエストをもう一度確認。
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【家畜を守れ! 3】
村や牧場を囲う柵の補強作業を手伝おう。
一人で作業をしている村人に声を掛け、一緒に補強作業をする。
クリア条件:柵を50メートル補強を完了させる。
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なるほど。一人……ぼっち村人を見つければいいんだなっ!
ぼっちセンサーを起動させ、柵の周辺に視線を走らせる。お、発見!
「ぼっち村人見つけたぞっ。俺はあいつの作業を手伝ってくる」
『はい。村人版カイト様ですね』
「うおぉぉぉぉっ。今すぐ俺が手伝ってやるからなぁー!
村人版俺――なんて言われたら、なんか親近感湧くじゃないか。
もうこの際NPCでもいい! 村人だっていい! 俺と友達になろうぜっ!
一人汗を流す村人Aに駆け寄ると、ほぼ同時に別方向からエルフ男が駆けて来た。
「あ、ゴメン。お先にどうぞ」
「あ、ええっと……よ、よかったらどど、ど、どうぞ」
ほぼ同時に頭を下げて譲り合う。
ん? どこかで聞いた声だぞ。
顔を上げて相手の顔を確認すると――
「ナツメ!?」
「カイト君!?」
「「どうしてここにっ」」
あぁ、ネトゲ神よ……これはつまり、フラグってやつですか?
書き溜めがまた1話
消えました。
ピンチです。




