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77:そんなバナナアアァァァ

『カイト様に、名前を付けて頂きたい?』


 かくかくしかじかで事情を説明すると、どこか受付嬢の顔が引き攣って見える。眉も心なしかピクピクしてるし。


「け、けどな。数十人のNPCの名前を考えるなんて大変だろ? それに、こいつらはプレイヤーとの交流を深めたくて名前が欲しいって言うんだ。いっそイベントにしてしまって、プレイヤーから名前を募集したらいいんじゃねって話になったんだ」

『マザーからの許可も下りました。日程調整を行って、後ほど全プレイヤーに向け告知を出す事になっております』


 オレンジNPCの説明を受け、他のNPCも頷いている。

 それを聞いた途端、さっきまで怒り心頭にも見えた受付嬢の表情が一変する。


『それは良いですね。カイト様(・・・・)が命名するのではなく、他のプレイヤーの方々に命名して頂く訳ですね。それは素晴らしいですっ』

「だ、だろ? 俺ってばなかなか良いアイデア出したよな」

『『はいっ』』


 受付嬢も、そして他のNPC達も元気に応える。

 うん、俺、良いことしたな。

 だが、一人だけ元気のない奴が居た。俺の頭上に、だ。


「ぶぅ〜。アオイぃ〜、お腹空いたぁ〜。おにく食べたいぉ〜」

「あ? そ、そういやお前に何も食わせてなかったな。お前もステータスのマイナスペナルティとかって――いや、なんでもない」


 そもそもNPCにステータスがあるのか?

 受付嬢にはあるが、こいつはプレイヤーの振りをする為に与えられたようなもんだろうし。

 有無に関わらず、NPCであるからにはこのゲーム内で『生きてる』存在だからして、腹は減るよな。


『では、クエストデータだけ頂いて行きましょう。要らないクエストは削除すれば良いだけですし』

「なんだ、ここで受けるかどうか決めなくてもよかったのか」


 受付嬢の言葉に俺がカウンター向こうのオレンジNPCに確認を取る。

 一斉に頷く女子NPC達。

 じゃーって事で、クエストデータをタブレットに移動させて貰い、席を立った。

 そういやかなり長い時間、職員を占領していたな。

 っと思って振り返って見ると、後ろに並んでいたプレイヤーの怒りに燃える瞳が……。

 ヤバイ。早く退散しねーと。


 後ろに並んでた連中の鋭い視線から逃げるようにして、支援ギルドを飛び出した俺たち。

 アオイの飯コールに促され、当初の目的でもあったおやつの物色へと向った。






 アオイの要望に応えて、まさに肉! とも言うべき『から揚げ』を買って町を出た俺たち。

 掲示板にも『から揚げはSTR+5』という情報があったので、狩りの合間に食うには丁度良いだろうと思って。

 だが……


「ふわぁ〜! ふわぁぁ〜! なにこれ、なにこれぇ〜」

「ちょ、アオイ。俺の頭の上で暴れんなっ」

『アオイ、危ないですよ。落ちないようにしっかり捕まっているのです』


 アオイは大興奮でから揚げを食っていた。

 注文したのは3人分だが、目をキラキラさせたアオイにノックアウトされた店主が、おまけをくれた。そのおまけってのが、2人前な訳だが……。


「から揚げぇ〜、ほいひいねぇ〜」

「あぁあぁ、そりゃよかったな」


 流石に人の頭上でから揚げなんか食われたら堪ったものじゃない。

 から揚げの入った紙袋を持たせ、自分の足で歩かせよう。

 アオイの足にあわせて歩くと、流石に速度はガタ落ちだ。ゆっくり歩きながら、受け取ったクエストのデータを見て何を受けるか決めることにするか。


 タブレットでクエスト一覧を開き、内容を確認。


『村でのクエストは……柵の補強作業ですね』

「さっそくか。作業って何をするんだ?」

『はい。柵の材料になる木を伐採し、村人と協力して柵を建てるという物ですね』


 伐採か。っとなると、伐採技能が必要だよな。もしくは、伐採しながら技能修得か。


「伐採って、確かSTRにボーナスが付くんだったよな」

『はい。レベル5毎にSTRが+1され、10毎にVITが+1されます』


 VITにも付くのか。STRは欲しいよなぁ。


『森の中で出来るクエストには、ケモミ族の集落に行く物もございます』

「却下だ」

『森で採取できる薬草を集めて、サラーマの町に届けるというクエストもございます』

「サラーマ? 北の町か……行ってみたいな。よし、村での柵クエを終わらせてから、薬草クエをやろう。ついでに強化素材もゲットしておきたいし」

『はい。ではこの二つを受諾しておきます』


 よし、俺のほうのクエスト受諾作業も――終わりっと。



-------------------------------------------------------


【家畜を守れ!1】

 サマナ村の村長に会え。


-------------------------------------------------------


【薬草を届けろ!1】

 サマナ村の薬草師に会え。


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 どっちも連続クエストで、スタート地点は村だな。

 村までの距離は短くは無い。暗くなる前には到着したいものだが……アオイの移動速度だとなぁ。

 戦闘もしつつの移動だ。こりゃ村への到着は、夜になりそうだ。


 一つの戦闘が終わった頃、システムメッセージが鳴る。


「お? おぉ! NPCの命名イベント告知が来たぞ」

『はい。確認いたしました。日時は三日後の正午から。各支援ギルドの施設内ですね』

「各?」

『はい。町には一つずつ施設がございますので、その施設毎に職員スタッフが配属されておりますから』


 っぶは!

 つ、つまり、職員NPCってへたすりゃ数百人居るのか?

 おぅふ。俺が考えてやるなんて言わなくて良かったぜ。


「ちょっとイベント告知の内容見るから、あっちのモンスターの居ない所行っていいか?」

『はい。アオイの面倒は見ておりますので、ごゆっくりご覧ください』

「サンキュー」


 アオイの手を引いて、街道沿いにあった大岩へと向う。

 VRMMOの多くは、こういった移動の主だった街道沿いには湧きが少ないってのが定番だ。この『レッツ』でも同様で、街道を歩けばモンスターとの遭遇率も下がる。

 安全ではあるが、街道ばかり歩いて次の町に進んでると、レベルが上がらないっていう罠もあるけどな。


 さて、イベントはどんな感じかなーっと……



------------------------------------------------------------------------


【イベントのお知らせ】


『Let's Fantasy Online』を楽しみの皆様へ。

 アップデートによって新規に実装された冒険者支援ギルド施設では、多くの職員スタッフが配属されております。

 この職員スタッフには現在、個別の識別コードのみで名前がございません。

 プレイヤーの皆様とより交流を深める為にも、職員スタッフそれぞれに名前を与える事にいたしました。


 つきましては、プレイヤーの皆様に彼等彼女等の名前をお考え頂き、応募いただいた中から職員スタッフの

 名前を付ける事にいたします。


 このお知らせがプレイヤーの皆様に送信された後から、各町の職員スタッフには番号が胸元に付きます。

 名前の応募は各町の施設内に応募箱を設置しておりますので『番号・名前』をお書きの上、ご応募ください。


 また三日後の正午より、各町の冒険者支援ギルド施設にて、特設会場を開きます。

 ご応募頂いた名前の中から10点を選び、そこから更に会場にお越しになった皆様からの投票で、スタッフの名前を決定いたします。

 当日は会場にて、露店の出店も可能となっております。

 出店数には上限がございますので、ご希望の方は下記よりお申し込みください。


 *現在、機能している冒険者支援ギルド施設は、

 ・アイシス

 ・カジャール

 ・サイノス

 ・サラーマ

 の四つの町にある施設となっております。カジャール他三つの町では利用者が少ない為、そちらへのご応募もお願いいたします。

 御一人様、何度でも応募可能です。

 また、応募数の少ないスタッフの番号等も、都度発表させて頂きますので、ご協力のほどよろしくお願いいたします。



 引き続き『Let's Fantasy Online』をお楽しみください。


------------------------------------------------------------------------



 ほほぉ。露店も出せるのか。

 こりゃ本格的にお祭りっぽくなってきたな。

 焼き鳥とかリンゴ飴、たこ焼き焼きそば……屋台巡りの楽しみも出来るって訳だ。

 なかなかやるじゃん、マザー・テラ。名前が厨二臭いけどな。


「っふふふ。俺も命名イベントに応募すっかな」

『名前を応募されるのですか!?』


 行き成り真横で叫ぶ受付嬢。

 耳がキーンってなったじゃないかっ。


『カイト様っ、どのスタッフの名前に応募されるのですか? 複数ですか? 全員にですか?』


 ぐいぐい迫ってくる受付嬢は、どこか鬼気迫る様相だ。

 何をそんなに焦っているのか……そういや、名前ネタが出たとき、なんか怒ってたよな。


「な、なんでそんな、気にしてんだ? 他のNPCに名前が付くのが、嫌なのか?」

『嫌ではありませんっ。寧ろそうする事で他のプレイヤーの方々と交流が芽生えるのであれば、それは喜ばしい事ですっ』


 っと言ってる割に、顔は喜んでないんですけど?


「じゃーなんでそんな怖い顔してんだよっ」

『え?』


 無自覚かよっ。まぁ感情ってものがまだ理解できてねーんだろうし、仕方ないのか。

 いや、つまりこいつは……感情ってものを、身につけてるって事……だよな?

 何を怒ってんだろう、こいつは。


「他のNPCに名前が付く事は嫌がってない。なのに、俺が応募してみようかなといったら、声を荒げて怒ってるし。

 ――ん? 俺が応募するのが、嫌なのか?」

『そ、それは……』


 今度は急にしおらしくなって、もじもじしはじめる受付嬢。

 な、なんなんだ、いったい!?


『ワ、ワタクシの名前が、カイト様に頂いた名前で……他のスタッフから、その、羨ましがられておりました』

「へ、へぇ……」


 NPCにそういう感情、あったのか。


『カイト様に頂いたこの名前が、ワタクシの自慢でもありました』

「っぶほっ。い、いや、自慢するほどの名前じゃ……」


 寧ろ命名したつもりなかったしっ。たんに受付に居る女の人ってだけで、受付嬢と呼んじまっただけだしぃ。


『自慢です! この自慢を、他のスタッフに取られたくないのですっ! あ……』

「え……」


 そ、そんなにまでして『受付嬢』という名前を気に入っているのか。

 な、なんかすげー、申し訳無い気がする。

 安易に呼んだだけの名前、いや職業名とも言えるものを、そこまで喜んで受け入れてくれているなんて。

 マジ、ごめん。


『ど、どうしたのですか? 頭をお上げくださいカイト様』

「カイト、悪い事したぁ?」


 無邪気なアオイの言葉が胸に突き刺さる。


「いや、その……名前変更券とかあったら、お前の名前を今度こそちゃんと考えてやるよ」

『え? ちゃんとした? 今の名前でも十分――』

「いや、受付嬢っつーのは」


 成り行きで呼んだだけだというのを彼女に伝えた。

 眉一つ動かさずじっと聞いていた彼女だが、次第に頬を赤らめ、両手で自分の顔を覆ってしまった。

 ま、まさか、ショックのあまり泣いてる?

 俺、泣かせちまったのか!?


『あぁぁぁぁっ。なんとお恥ずかしい。そうとは知らず、名前として登録してしまったのはワタクシです。カイト様、申し訳ありません。もっとちゃんと確認して登録するべきでした』

「え?」

『ワタクシのミスです。あぁぁっ、お恥ずかしいっ』


 あれ?

 泣いてたんじゃなくって、早とちりした自分に、恥をかいてるのか?

 ま、まぁ泣かせたんじゃないなら、よかった。


「ままままままま、でもさ、ほら、お前の出で立ちって、まさに『受付嬢』的じゃん? だ、だから、似合ってない訳じゃないよ。うん」

『そうでしょうか? 寧ろメイドに似ていると思うのですが』

「いや、だからって『メイド』なんて名前にしたら、なんか卑猥じゃね?」

「ひわいって何ぃ?」

「お子様は黙ってろ」

「ひどいぃ。カイトのひわいぃーひわいぃー」


 本当は意味解ってんじゃね? っと思うアオイの叫びは無視。


「変更はやっぱ、出来ないよな……」


 どのゲームでも、名前の変更は簡単には出来ないもんな。

 サーバーの統合とかで、同じ名前が被る場合とか、そんな時でもないと名前の変更は出来ないってのがお決まりだ。


『出来ますよ』

「はひ?」


 え? 今、なんて言った?

 出来る、だと?


『冒険者支援ギルドでのクエストには、一部ですが、支援ポイントというのが貰えるクエストがございます。

 ポイントを溜める事で、さまざまなアイテムとの交換が出来ます。これらアイテムは、本来正式サービス開始後に販売される事になっていた、課金アイテムなのです』

「か、課金アイテムが実装されるのか!?」


 俺が叫ぶと、受付嬢ははっとしたように表情を変える。

 おや? どうやら教えちゃいかん類だったようだな。


『すみませんすみません。今のは聞かなかった事にしてください。実装はイベントと同日になっておりまして。内緒にしてくださいっ』


 今度こそ半泣き状態の受付嬢に、苦笑いで了承するしかない。

 名前変更が実装されるのか。

 だったら、頑張ってポイント溜めねえとな。


「ち、ちなみにだが、名前の変更アイテムに必要なポイントって、ど、どのくらいだ? 具体的な数字じゃなくていいから、多いのか少ないのかだけでも……」

『……お、多い、です。凄く、多いです』


 伏せ目がちでもじもじしながら『凄く』なんて言われたら、妙に可愛いんですけど?

 ん?

 かわ、いい?


 ブワッという音を立てて、尻尾の毛がこれでもかって程逆立つ。


『どうかなさいましたか?』

「……どうもいたしませんですっ」


 慌ててタブレットを捨て(ると同時に電子の藻屑になる)、村への道を急ぐ。


 可愛い……俺は、受付嬢の事を可愛いと思ったのか?

 俺は、NPCである彼女を、女として見ているって事なのか?


 そんなバナナぁぁぁぁぁっ。


「あ、にくぅ〜、無くなったぉ〜」


 足元からそんな声が聞こえてきた。


『5人分、完食でございますね』


 そんなバナナぁぁぁぁぁぁぁっ!

 ぎょっとしてアオイの方を見ると、空になった紙袋を物悲しげに見つめる幼女の姿があった。

 二重の意味で、俺は驚きに包まれるのであった。

今話にて3章の終了です。

市販でお勧めのから揚げ粉などありますでしょうか?

最近は「から揚げ作り」がお気に入りですが、一袋で一回分しかないんですよね。

子がから揚げ好きなので、美味しいものを作ってあげたいけど……

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