75:友情の証。どうしてこうなった?
俺、もしかしてやっちまっただろうか?
掲示板の反応を見る限り、おっぱいが重要視されているようにしか見えない。
だだだだだって仕方ないだろっ!
装備画像が必要なんだぞ?
受付嬢の装備っつったら、ブレストアーマーとショルダーガードじゃん? その二つが映るように撮影したら、どうしてもバストアップばっかりになるじゃねぇか。
俺が悪いんじゃない!
下心があった訳じゃない!
俺は、俺はあぁぁぁっ。
『カイト様。掲示板の反応はどうでしょうか?』
「っはひ!? あ、え、あ……」
こいつにはまだ掲示板を見られてないようだ。み、見せる訳にはいかない。
「な、流れが速いからな。少し触れられただけだが、まぁ上々じゃねえかな。うん」
『左様でございますか。ワタクシもどんなコメントが寄せられているのか、見て――』
「あぁぁぁぁぁっ! ほほほほら、北の村にもう一度行こうぜ。な? 豚骨貰いにさっ」
『博子様へのお土産ですね。解りました』
っほ。
なんとか話題を逸らせたな。
「よし、じゃ……おい、アオイ。行くぞ」
「ん? はいおぉ〜」
「んじゃソルト。ちゃんと宣伝はしといたからな。客が来るかどうかは、お前の武具のデザインセンス次第だ」
「それに関しては何の心配もいらないな」
どこからそんな自信が湧いてくるんんだ? まぁ確かにデザインセンスはいいけど……。
なんとなくモヤっとする。
まぁいいや。
今度こそ目的を忘れないように、しっかり豚骨をGETしねえとな。
「んじゃ露店でおやつでも買って、出発するか」
『はい。しかしカイト様よろしいのですか?』
「ん? 何がだ」
店を出ようとする俺に、受付嬢はソルトを指差して告げた。
『ここへ来た目的は、装備の強化素材を聞くためだったのでは? 情報料の変わりにお店の宣伝まで引き受けましたのに』
……あ。
はっとなってソルトに視線を向けると、奴はニヤニヤ笑いながらこっちを見てやがった。
こいつ、知ってて何も言わず送り出そうとしてやがったなっ。
「ちゃ・ん・と、教えやがれっ」
「わかったわかった」
詰め寄ってソルトの首根っこを掴むが、意外な事に赤い警告メッセージは出てこない。
別に殴ろうという意思は無いが、それをちゃんと判断して警告の有無を出してんのか。
ソルトから教えてもらった強化素材は何種類かあった。全部が必要なんじゃなく、その内のどれかがあれば良い。もしくは複数用意できれば、その分良い物が出来る。
っという話だ。
「採掘で取れるものもあるし、モンスターから奪えるアイテムもある。北に行くってんなら、森に生息するバーニングニードルの針とかお勧めする」
「バーニング……随分かっこいい名前だな」
「その森には裁縫素材を落とす奴もいたはずだ。親父は今、お袋と買出し行って居ないから確認は出来ないけど」
「イチャラヴだな」
「あぁ……2人で店番するようになって、更に……な」
なんか疲れたような顔をするソルト。両親が仲良すぎると、子供は大変みたいだな。
そのうち弟か妹ができるかもしれん。という愚痴をソルトから聞いていると、後ろの扉が開いた。
「あ、あのー。よ、鎧を見せてくれませんか?」
扉からひょっこり顔を覗かせたのは、犬耳の女の子だった。
え? まさか掲示板の書き込み見て来たのか?
「ど、ど、どうぞっ!」
「あ、ありがとうございます。あ、あのぉ、ケモミ族サイズの鎧で、その、可愛いのじゃなく、かっこいいデザインのとか、ありますかね?」
「ケモミ族用か。そ、そうだなぁ。ケモミ族だと小さいサイズだから、どうしても、その、子供っぽいのが多いな。あ、でも、ご希望があれば手を加えたり、いちから作るぜ?」
「本当ですか!? あの、レベルは――」
おぉ、早速客かよ!
あんなおっぱいスレみたいな所から、まさか女の子が来るとはなぁ。
それとも偶然か?
なんにしても、ソルトの奴、嬉しそうだな。
『お客様が来て、よかったですね』
「感謝しろよ」
「するのだぁ〜」
恩着せがましく俺たちが揃って言うと、ソルトが満面の笑みを浮かべてやって来た。
よっぽど嬉しいんだな。
そして俺の肩に腕を回すと――
「感謝してるぜ、友よっ」
っと、白い歯を光らせて言った。
ん?
今、『とも』っつったか?
それはお友達の『友』でつか?
にこにこ笑っているソルトの顔に、【『ソルトとの友情』称号を獲得しました】というメッセージが浮かぶ。
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【ソルトとの友情】
鍛冶職人ソルトと友情で結ばれた証。
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意味不明な称号をゲットしてしまった……。NPCと友情を築いてどうするんだ、俺。
もやもやしたまま店を出て露店通りへと向う。その途中、俺たちをガン見するプレイヤーと何度もすれ違った。そいつらが向っているのも、あの防具屋方向だ。
工房にっていう可能性もあるが……まさか掲示板の記事のお陰で奴の店が大繁盛――なんて事に?
もしそうなったら、今度たっぷりお礼をして貰おうかね。
『カイト様、何か良いことがございましたか?』
「尻尾ぉ〜、ぶんぶんだよぉ」
「良いことがあった訳じゃない。だが、未来で良いことがあるかもしれない。っさ、北に向うぞ。どうせだから、北の森関係のクエストを探しに支援ギルドに行って見るか」
『左様でございますね。報酬のあるクエストがあればよろしいですね』
そこ、大事だよな。
昨日の連続クエストは報酬無しだったからなぁ。昨今のネトゲじゃ、手紙を届ける程度のお使いだって経験値やらアイテムやら、金の報酬があるってのに。
経験値は俺個人としては要らない。モンスターと戦って得る方が、なんかレベルアップしてるなぁって実感湧くからな。
でも、金やアイテムは正直欲しい。特に今だと豚骨なっ!
露店で食い物を物色する前に、冒険者支援ギルドへと寄る。
昨日に引き続き、建物前はギルドメンバー募集広場と化してるな。
手当たり次第――な感じの連中数人から声を掛けられ、その度に尻尾が嬉しそうに反応してしまう。
でも直ぐに、『声を掛けるのは誰でもいい』な連中だと知ると、尻尾はしゅんっと垂れてしまう。
やっぱ『俺』を必要としてくれる方が嬉しいもんな。
必要とされてるからと言って、昨日の『ムーンプリンセス』みたいなギルドは願い下げだけど。
建物内に入ると、こっちも昨日同様に列が出来ている。
ちらっとカウンターを見て、昨日のオレンジ色の髪のNPCを見つけ、反応が面白いのもあって彼女の列に並ぶ。
「昨日より人が多いな」
『はい。ギルドがようやく機能し始めましたので、日増しに利用者は増えていくでしょう』
「ここで何するか?」
「ん〜、何と言われても。えっとな、ここはその……冒険者に仕事を紹介する場所なんだ。あと、冒険者同士の仲間を探したりとかな」
「ふぅ〜ん」
頭上から聞えるアオイの声は、興味無さそうな有りそうな、よく解らない声だった。
あっちこっち見てるようで、体が揺れるたびに俺の首に負担が掛かる。狐モードだったらもう少し軽いからまだ良いんだが、幼女モードはちょっときついな。
ここで狐モードに変化されても困るが、あとで人気の無い所に出たら狐に戻ってもらおう。
ようやくオレンジNPCの前まで進むと、俺と受付嬢が並んで椅子に座った。
『こんにちは、カイト様。昨日のクエストは無事にクリアされたようですね。おめでとうございます』
「あぁ、ありがとう。んでさ、昨日のあの村か森で出来るクエストが無いかと思って」
『了解いたしました。ではカイト様のレベルで受諾可能なクエストを検索いたします』
そう言ってオレンジNPCがタブレットを操作する。
検索はすぐ終わったようで、タブレットを俺たちのほうに向けて一覧を見せてきた。
幾つかあるみたいだな。
『一番上のクエストは、村の復旧作業です。これは村と、周辺の町の食品組合の方々が雇い主となるクエストです』
「食品組合?」
『はい。食品を取り扱うご商売をされている方が所属する組合ですね。もちろんプレイヤーの方では――』
そこまで言うと、彼女の後ろから男が割って入って来た。
『『E-11111SA』……あ、いや…………』
色白で金髪碧眼の男は、まるで執事のような服を着ている。男版のサポートNPCって訳か。
受付嬢を見ているようだったが、イーイチイチイチ……なんの暗号だ?
男は暫く黙って受付嬢と見つめあうと、今度は受付嬢の奴が立ち上がって頷いた。
『カイト様。所用がございますので、少しだけ席を外させて頂きます』
「え? あ、ああ。どうぞ」
『10分ほどで戻ってきますので、お待ちください』
そう言ってスタスタと建物奥へと歩いていった。
別にNPC専用の扉ではなく、プレイヤーも普通に入っている扉を潜り――そして見えなくなった。
同時に金髪の男も、NPC専用だろうカウンター奥の扉を潜って見えなくなる。
『『E-1111……』あ、いえ、受付嬢様には、その……』
オレンジNPCは小声で俺にだけ聞えるように囁く。
『先ほどからデータの不具合が出ておりまして。あ、プレイヤーの方にどうこうという不具合ではありません。自動的に処理できる伝票データが自動にならず、手動でしか登録できなくなっていたんです』
「事務処理的なものか。それをあいつに直して貰おうと?」
『はい。『E-11111SA』は最初期からのスタッフですので、とても優秀なのですよ』
「へぇ〜。君にとっちゃ先輩にあたるのか」
『先輩? 先輩とはなんでしょうか?』
真顔でずいっと近寄ってくるオレンジNPC。
先輩後輩の言葉も知らないのか。いや、まぁNPCには必要ないか。
「えーっと、先輩ってのはなぁ」
言葉の意味を教えようとしたら、何故か物凄い量の視線を感じた気がする。
友達増えました~っ。




