73:隠し撮りではありません。撮影会です。
「相変らず閑古鳥が鳴いてんなぁ」
「五月蝿い。ほっといてくれっ」
イケメンなのに口は汚いソルトの事は、男として嫌いではない。変な意味ではなく、だ。
NPCには何の緊張もなく、スラスラ喋れるのになぁ。こんな風に『人』とも喋れれば、友達だって直ぐ作れるだろうに。
「で、今日は何の用だ?」
「あぁ。今装備してるヤツの強化素材を聞こうと思ってな。レベル28になったし、30装備の事も考えようと思って」
最初はこのまま35まで――とも考えてたんだが、思っていた以上にレベルの上がりが遅く感じてきたからな。
35レベルまで、明日明後日じゃ上がらないだろう。
「強化素材か」
「あぁ。もしくはレア以上の30装備の製造素材でもいい」
「レアに拘るなぁ。まぁ一度レア以上を手にしてたら、ノーマル品には戻れないよな」
っと言って、恒例とも言うべき手を出してくる。
今日は前金かよ。
「それとお前さん、子持ちだったとは知らなかった」
「いや、これは俺の子じゃねぇから。人様からの預かりもんみてーなやつだ」
「なんだ、てめえの子供じゃないのか。割とソックリだけどな」
アオイは幼女化してると、まるっきりケモミ族だもんな。しかも狐だし。
けど、金髪碧眼だぞ?
俺の方は目も髪も黒だし、似てねぇだろ。
当の本人は俺と似ているといわれ嬉しかったのか、うなじに尻尾がぱたぱたぶつかってこそばゆい。
「で、強化素材か。教えてやるのは良いが、条件がある」
「おい、情報料取る気満々なくせに、条件まで付けるのかよ」
「おっと、これはただの癖だ。条件を飲むなら金は要らない」
癖って、どこまで金にセコイんだ。
「んで、条件ってのは?」
「あぁ。お前さ、いやお前達というべきか」
『ワタクシもですか?』
ソルトが頷く。
実は、俺や受付嬢に装備を作っているうちに、くすぶっていた職人魂が再び燃え上がったのだとか。
「今まではよ、他所の店に作品を並べてもらってたんだが、誰が買ったのかすら解らない訳だよ」
「まぁそりゃそうだろうなぁ」
「けどよ、直接こうしてあんたに依頼されて武器作って、直接手渡して……もうな、感動もんなんだよっ!」
じょじょに高揚していったソルトは、最後には拳を握り締めて天井に向って叫んでいた。
意外に熱い奴だな。
「で、本題の条件ってのは何なんだよ」
『なんでございましょう?』
「な〜に? な〜に?」
アオイまで一緒になって何何攻撃を開始。
ソルトは暫く目を閉じたまま、何かを溜めているような様子だ。
一つ深呼吸をしてから目をカっと見開き――
「お前等っ。これからも俺の客で居てくれ!」
「は? そ、そんな事なのか?」
「ついでに俺の作品を宣伝してくれっ!」
『宣伝……どのようにでしょうか?』
「カイトはさ、ほら、ポーション屋やってるだろ? お袋が店出してるの見たってよ。繁盛してるらしいじゃねぇか」
「ま、まぁな。っふ」
ご満悦なドヤ顔でソルトの奴を見返す。
「お前んとこの客にさぁ、この店を紹介してくれよ」
「えぇ!? し、紹介……」
ってどうやってするんだ?
いやそれ以前に、紹介となると「いらっしゃいませ、ありがとうございました」以外に沢山喋らなきゃならないじゃねーか。
そ、そんな事……あ、もう、緊張してきた。
「お前の武器を見せて興味持つ奴が居たらさ、俺が作ってやるぜって――」
『ワタクシの防具もお見せすればよろしいのですか?』
「そうそうっ。つってもあんたは、その服で防具が隠れちまってるしなぁ」
『はぁ……申し訳ございません』
「その服の上から防具を着れないのか?」
『……ちょっと上と相談してみます』
「おう、頼む」
どどどどどどどうしよう。し、し、紹介っつーと、その、レビューみたいな?
いい、いや、あれはテキストでの紹介だし。あ、テキストで紹介できればいいのにな。
『お待たせしました。この衣装の上から装備を付けて、外見を変更できる許可を頂きました。そうなると、一度脱いで着替えなおさなければ……』
「あぁ、だったらそっちの更衣室を使ってくれ。その服に合うデザインかどうかも確かめたい。合わなきゃ作り直すからよ」
『では使わせて頂きます』
「アオイもほしぃ〜」
「あ? チビにもか? お前、そんなナリで戦うつもりなのかよ」
「アオイも何かほしぃ〜っ」
「だぁ〜。解ったよ。じゃあ、じゃあ……」
そ、そうだ。
掲示板! あれに書き込もうっ。
スクショとか撮れたりしないのかな? 撮れるならアップして宣伝するんだが……。
ヘルプを確認してーっと――あったあった。撮れるじゃんか。
グラディウスをカウンターの上に置いて、タブレットを翳してカメラモードのアイコンを押す。
シャッターボタンを押せば、簡単に写真が撮れた。
よし、次は掲示板だ。
「おいカイト。さっきから何やってんだ?」
「んあ? 武器の宣伝準備……あ、あのさ。ポーション屋はさっきやったばっかでよ、次いつ店を開くか解んねぇんだ。だからさ――」
だからプレイヤー、もとい、冒険者の間で使われている情報交換の場になっている掲示板っつー所に、防具屋を紹介する記事を載せる。
っと説明した。
「おぉ! それでも全然オッケーだぜっ。良い記事書いてくれよな」
「あ、あぁ。任せとけっ」
っほ。これで長文セリフを喋らなくて済むぞ。
あとは受付嬢の防具写真も撮らせて貰ってーっと、あれ?
そういや受付嬢の奴、どこいったんだ?
「カイトみてみてぇ〜」
「あ? ……どうしたんだよ、その腕輪」
「腕輪じゃねぇよ。一応ガントレットだ」
「は? ガントレット? んあ? なんだその手は。情報料取らないんじゃなかったのかよ」
「チビ子のガントレット代」
「はいぃ?」
目をキラキラさせながらアオイがガントレットを見せている。
ガントレットというが、どう見ても腕輪にしか見えない。銀色のソレは、アオイの目の色と同じ蒼い石がはめ込まれ、小さな模様も描かれていた。
簡素ではあるが、それなりに綺麗な腕輪だ。
ただ残念なのは、アオイの服装が袖の無いワンピースっつーか、寧ろシャツ?
そんな格好で綺麗な装飾品を付けても、全然豪華さが伝わらない事。
で、なんで金を要求されるハメになったんだ?
「お前、俺たちの会話を聞いていなかったみたいだな」
「聞いてない、聞いてなぁ〜い」
「な、何を喋ってたんだ?」
「チビ子も何か欲しいっつーからさ、即興でこれを作ってやったんだ」
「え? つく、え?」
お、俺そんな長い時間、緊張したりスクショ撮ったりしてたのか?
あたふたしていると奥からカーテンが開くような音が聞こえ、受付嬢が現れた。
『お待たせいたしました。実際に装着するとなると、なかなか難しいもので。時間が掛かってしまい申し訳ございません。どうでしょうか、ソルトさん』
「おぉ! 製造に取り掛かった時から、服のデザインに合わせて作ってはいたんだが。うんうん、俺のセンスは間違ってはいなかった!」
え? なんで? どうして?
胸元が白いブラウスで、大きさを強調するように茶色いメイド服が胸を押し上げるようなデザインになっている。
白いエプロンは腰から下にしかなく、丈も短い。
そんなメイド服だったのが、白いブラウスの部分が銀色の胸当てになってて、肩はまるでフリルのようなデザインの肩当が装着されていた。
た、戦うメイド、さん?
よく見ると、ブレストアーマーにもショルダーガードにも、細かい模様が描かれてるな。
それにしても、鎧なのに、なんつー……おっぱい強調アーマーなんだっ。
ソルトの奴め、相当なスケベ野郎だな!
『カイト様。おかしくありませんか?』
「おかしいはずがないっ!」
『本当ですかっ。嬉しい……』
よ、よし。受付嬢のスクショも撮って……あ、ついでだからアオイのガントレットも撮るか。それから掲示板を――
「と、とととと、撮るぞ」
『はい。いつでもどうぞ』
撮影会となった今、俺はタブレットを持って受付嬢の正面に立っている。
スクリーンショットを撮る。ただそれだけだ。
なのに――だ。
どうしてこんなに心臓がばくばくするんだっ!
ブレストアーマーとショルダーガード。この二つを撮影する。彼女を掲示板で晒す訳にもいかないので、顔が映らないよう注意。
その二つを意識して撮影しようとすると、どうしてもおっぱいガン見になってしまう。
『カイト様、どうなされましたか?』
「カイトぉ、顔あかい〜」
「う、五月蝿ぇ。と、撮るぞっ」
『はい。先ほどからずっと待っておりますが』
「とと、撮る。今度こそだっ」
無我夢中でシャッターボタンを連打したった。
時折アオイを撮ってはおっぱいアーマーから視線を離し、冷静さを取り戻す事に務める。俺がロリコンだったら、アオイの撮影時にも変態ゲージがアップして冷静になんてなれなかっただろうな。
「こおするぉ〜?」
「いや、ワンピースの裾を持ち上げてポーズとか、無駄に取らなくていいからな」
「ウケもやってるぉ」
「ウケって誰だよ」
『ワタクシの事でございます』
受付嬢だから『ウケ』なのか。アオイのネーミングセンスも、かなり酷いもんだ。
ガントレットのスクショだと言ってるのに、腕だけの撮影をなかなかさせて貰えない。
腕組みしたり、腰に手をやったり、両手を頬に当てたり……ある意味、受付嬢以上にアオイの撮影には気をつけねーと。児ポに引っかかってしまう。
「これは〜?」
『カイト様、こういったポーズは如何でしょう?』
子供のお姫様ごっこかというように、くるんと回ってスカートの裾を掴んでお辞儀をするアオイ。
売り物が並ぶ棚に腰を下ろし、体育座りでこちらを見つめる受付嬢。際どいラインは……見えない。
って、そうじゃなくって!
「頼むから普通にしててくれ、普通にっ!」
それでもシャッターを押す俺であった。




