表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/160

72:命名

「そういえば、北に行く目的ってとんこつラーメンのスープ作りの材料だったわね」

「そういえばそうでしたねぇ」

「本来の目的を忘れるなんて……っぷ」

「oh! ヌードル好きデース!」


 博子さんの店で、新メニューだというみそラーメンを食ってから他のメンバーと合流して豚骨の話をすると、こんな感じだ。

 はぁ、また村に行かなきゃならないか? 面倒くせぇ。


 各自へのポーションを配布し、アイテムボックスがスッキリすると――


「じゃ、私は、これで。おつ」

「おつデース。楽しかったデス。またどこかで〜、Good Luck」


 みかんとクィントが、さも当然のように去って行った。

 突然の事に俺は動けず、何も言えないまま二人の姿を見失ってしまう。


 あれ?

 こんなにあっさり、解散しちゃう訳?


「私たちも暫く休むわ。連戦に野宿に、流石に疲れちゃったし。あ、別にステータスがどうこうじゃないの。精神的に疲れたって感じかな」

「はぁ〜、まだログアウト出来ないんですかねぇ。映画見に行きたかったのになぁ」

「私はお風呂に入りたい」

「あ〜、私もぉ〜」


 え? え?

 お前らも行っちゃうの?


 手を振って露店通りの方へ向ったエリュテイアとココットを見送り、呆然と立ち尽くす俺。隣で受付嬢が、2人に手を振っている。

 俺も引き攣った顔で、なんとか手だけは振って応えた。

 それが精一杯だった。





 

 ぼっち再び。

 いや、俺はぼっちじゃねぇ!

 だ、だってだって、フレンドリストには登録者の名前が入ってんだぜっ。今までのネトゲ人生で、こんな事一度も無かっただろ?

 それに、今俺の横には『友人』がいるんだぜ? 今までのネトゲ人生で、こんな事一度も無かっただろ?


「……脳内で叫んでてこれほど虚しいことは無いな……はぁ」

『どうかなさいましたか?』

「いや、なんでもない」


 フレンド登録者も、隣の『友人』も同一人物だ。しかも、NPCっていうね。

 ふとこいつがNPCだってのを忘れる事もあるが、いざ思い出すとこんな風に虚しくなるもんだな。


《カイト、元気ない?》


 ぺちぺちと前足で俺の額を叩く生き物が居る。そういや、今は子狐も一緒だったんだよな。

 頭に掛かる重さも慣れちまって、存在を忘れそうになるな。


「そういや、お前の事、これから何て呼べば良いんだ? 子狐って呼ぶのもアレだしなぁ」

《名前!? な、名前は、その……》

『無いのですか? ならばカイト様に名付け親になって貰えばよいですよ』

「え? お、俺が? い、いや待て。俺のネーミングセンスなんて……」


 お前が一番知ってるだろ? と言いたかったが、『受付嬢』ってのがセンス無い名前だと教えるのは、酷だしなぁ。

 名前変更チケットとか販売されりゃあ、それ買って付け直してやるんだが。

 いや、そうなるとどんな名前にするんだ?

 うーん……。


《カイト! 名前ちょうだいっ》

「は? え? マジで名前無いのか?」


 頭の上の子狐を摘まんで目の前で抱える。抱えられたまま子狐は首を左右に振った。

 あるのに教えてくれないor新しい名前が欲しいのか?


《名前、教えられない。教えて良いのは、はんりょになる相手だけ》

「はぁ、はんりょ、ね。ん? 伴侶!? っけけけけ結婚相手って事かっ」


 こくりと頷く子狐。

 心なしか、恥かしそうにもじもじしている気がする。

 そ、そういう事なら、まぁ、仕方無い。

 ここは一つ――


「受付嬢先生。子狐に名前を付けてあげてください」

『ワタクシがですか? それは……出来ません。名前を付けるという事は、創作創造にも等しい行為ですので。それをワタクシが行う事は、権限として持ち合わせておりませんので』


 っち、こんな時だけNPC規定みたいなのを持ち出しやがって。

 っくそぉ〜。名前、名前……狐だろ? フォックス? いや、これだとまるで男の名前じゃんか。

 狐で何か頭に浮かぶもの――えーっと、えーっと。


「ゴン!」


 唐突に浮かんだのは、某絵本に出てくる狐の名前だ。

 子狐は嬉しそうに尻尾を左右に振る。


『……検索いたしました。カイト様、それは雄狐の名前ではないでしょうか? それに、その、少し悲しい結末になるお話のようですし』


 子狐の尻尾は項垂れる。

 よく考えたら、確かに『ごん』も男の名前だよな。話の内容までは思い出せないけど。


「うーん、狐からヒントを得るのは止めるか」

『外見などからは? ワタクシの名前も、ある意味そういう所から付けてくださったのでしょう?』

「そ、そうだけど……」


 受付ロビーに立ってるんだから『受付嬢』と思わず呼んでしまったんだが。見た目そのままだと『メイド』になるぞ。

 どっちも一部マニアには受けそうな、なんとなくエッチな響きがする。


 うーん、外見かぁ。外見つっても、狐だしなぁ。

 狐色のふさふさした毛並み――ふさふさした尻尾――ふさふさ――ふさ……いやいや、『ふさ』とか名前じゃねぇだろ。

 他に特徴があるとしたら――蒼い目?

 蒼い……あおい……お?

 漢字は違うが、実際に「アオイ」って名前の女とか居るよな。いいんじゃね?


「『アオイ』ってのはどうだ? 目の色が綺麗な蒼で印象的だし、実際にそういう名前の女もいるからおかしく無いだろ?」

『アオイですか。良いですね』

《アオイ……アオイ! わたし、アオイ!》


 尻尾ぶんぶん丸で喜ぶ子狐改めアオイは、ぼんっと白煙を上げて幼女化した。

 そのまま俺の顔にしがみついて頬ずりをして来る。


「ちょ、やめっ。幼女化すると途端に重くなるんだよ、お前はっ」

「ととさま、名前、ありがとうっ」

「親父じゃねぇよ! さっきはカイトって呼び捨てにしてやがった癖に」

「ととさまぁ」

『ふふふ。まるで本物の親子のようですよ』

「ふふふじゃねぇよっ」


 幼女化のままアオイは頭をよじ登り、肩車状態で居座りやがった。

 世の親父たちは大変なんだな――っと、今の俺なら解る。肩車、かなり首に負担がくるぞ。






 自分達に必要なポーションだけを残し、あとは露店で売る事にした。

 エリュテイア達は居ないが、ここは頑張って俺だけの力で完売してみせるっ!

 っとは思ったのだが、俺から離れようとしないアオイを横に座らせているだけで、客は勝手に集まってきた。

 中には鼻息の荒い奴もいて、睨みを利かせていないとアオイに手を出そうとするので大変だった。


「なんか嵐のようだったな」

『個数単位での販売時間でしたら、これまでで最速の完売速度でした』

「ポーション屋、おもしろいねっ」

「面白かったのか、あれが……俺はどっと疲れたぜ。お客との取引はNPCと違って、個別にしか出来ねぇからな」

『屋台を購入されますと、自動取引機能もございますよ?』


 あぁ、それもいいな。店主が居なくても取引できる仕組みだし、狩りに行きたいときなんかは、設定だけして屋台をおきっぱにしときゃいいんだ。

 けど、販売物を盗まれたりとかないのか? 売れたお金はどうなるんだ?

 それを受付嬢に尋ねながら防具屋を目指す。

 そろそろレベル30装備の事も考えなきゃならないしな。手持ちの装備を強化するか、新しい物を作って貰うか、もしくはレアモンスター探して手に入れるか。それを決めなきゃならない。

 ドロップ狙うにしても、レアモンスターが何時でも見つかるとは限らないしな。

 オープンベータ開始から結構経ってるし、あちこちのレアモンスターも結構狩られてる頃だろう。遭遇率は以前よりは下がってるハズだ。

 っとなると、強化材料を聞いてやってもらうほうが無難かもしれない。


『屋台の仕組みですか? 販売スタッフに尋ねればお聞きできますが、ワタクシからご説明いたしますね』

「おお、頼む」

『自動販売では、売るアイテムと数、価格をそれぞれ設定します。設定が終わるとアイテムボックスから該当アイテムが設定数だけ屋台に移動します』


 まぁその辺は解る。

 で、屋台にある引き出しはアイテムボックスと同じ仕様で、四次元ポッケさながらな構造になっていると。

 実際に引き出し明けたら、アイテムが入ってます〜みたいなのではないらしい。それ以前に、引き出しは店主以外には空けられない仕様だとか。


『お金はデータとして屋台に蓄積される物ですので、店主が戻ってきたときに清算されますと、所持金に振り込まれるのです』

「なるほど。アイテムも金も、どうやったって他人が盗む事は出来ないんだな」

『はい。安心してご利用ください』

「ふむ。しかしなぁ……屋台とか出すぐらいなら、ちゃんとした店を構えたいよなぁ」

「お店!? やるっ。アオイもお店屋さん、やるぉ!」


 アオイが尻尾を振って俺のうなじを擽る。

 エプロン付けた幼女が店番か。なかなか繁盛しそうだが、変態も集まってきそうだ。

 とりま、こじんまりしててもいい。自分の店を持って、薬棚みたいなの作って、ポーションをずらぁーっと並べて……

 最高の笑顔で「いらっしゃいませ。お求めのポーションは、なんでしょう?」とか言ってみたいよなぁ。


「なぁ、『レッツ』にはハウスシステムとか、実装する予定は無いのか?」

『……実装予定にあるもの、無いもののご質問にはお答えできません』

「っち。うっかり喋りやがらなかったか」

『お答えは出来ませんが、ご希望でしたら要望をお出しになっては?』


 防具屋を目の前にして、話はここで終了。

 そうだな。あとで要望でも出しておくか。


 防具屋の戸を開いて中へ入ると、相変らず客の居ない店内にソルトの姿があった。

『ハウスシステム』

ほぼ名前から想像できるシステムですが、MMOではプレイヤーキャラが住める家を作ったり買ったりできるタイトルもあります。

中には家ではなく、アパートの部屋だけみたいなものもあるようです。

作者は残念ながら、こういったハウスシステムで「良い物」に出会えておりません。

一定期間ごとになにかしらのアイテムを使わなきゃ黒煙が立ち昇り、利用できなくなるとかいう変な仕様のゲームでした。そのアイテムはクエストで手に入るけど、それだと数時間しか持たないとか。

数日間黒煙を昇らせたくなければ課金アイテムを買え――とかね。


ハウスシステムによっては、家具が相当数の種類があり、自由に置く場所を決められるのもあります。

そういうMMOをやってみたかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ