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69:お狐様降臨。

 狐の声が響くと、足元に居た子狐が身を震わせ尻尾をピンっと伸ばした。すぐにその尻尾をぶんぶんと振り出し、弾むように駆け出す。

 子狐が新たに出来た道に入る直前、俺たちの方を振り向く。まるで「着いて来い」と言っているようだな。


「行くか」

『はい。それがクエストのクリア目的でしょうから』

「え? そうなのか?」


 受付嬢を振り向くと、その後ろにいたココットとエリュテイアも一緒になって頷いた。

 クィントとみかんを見ると、二人は首を左右に振る。


「オレたちはここでクエスト、終わりデス」

「貴方達に、何が見えているか、解らない。けど、私には、狐が向う先には、何も見えないの」

「クエスト内容の違いで、道が見えないのか」

『そうだと思います。ワタクシたちはあくまでも、聖なる獣を探すというのが目的ですから』


 それに比べてみかんとクィントは、迷宮ダンジョンの最深部でボス=ウンディーネを倒す事が最終クエストだったらしい。

 正確に言えば、泉の秩序を取り戻せ――か。


「オレたちはここで待ってるデスよ」

「いてら」

「行ってきまぁ〜す」


 二人に見送られ、俺たち四人は子狐の後を追って森の奥へと進んだ。






 小道をちょっと進むと、さっきほどではないが開けた場所に出た。

 出た瞬間、思わず身構えてしまう。

 そこに狐が居るだろう――とは思ったが、まさか俺より遥かにでかい狐だとは、誰が想像するかよっ。


『よく来た。愛しい我が子を救ってくれた礼を言おう』


 狐から聞こえてきたのは、なんとも妖艶な女の声だ。

 寝そべっていた姿勢から立ち上がり、お座りポーズで頭を垂れる女狐。

 よく見ると、奴の尻尾が――ひぃ、ふぅ、みぃ……うっへ、9本かよ。九尾の狐ってか。

 その九尾の下に子狐が駆け寄っていく。あいつの尻尾は一本なのにな……これが親子とは。


「そ、その子を助けたのは、カイトだけなんです」

「お礼なら、カイトさんに言ってあげてください」

「え? い、いや、おお、お前らの協力あってだから。そもそも泉まで来れなきゃ、助けようがなかっただろ?」


 急に振られて焦る俺。

 正直、一人だったら泉まで来れなかった気がする。まぁレベル29ぐらいだったら、ソロでも来れただろうが。


 子狐が何かを母親(?)に言っているようで、コンコン鳴いている。

 途中、九尾の目がくわっと開き、俺を見て首をぶんぶん振っていた。あの子狐、何を言ったんだ? 親の反応を見た後は、尻尾と耳を項垂れてションボリした様子だ。


『っこほん。我が子から経緯は聞きました。そこなケモミの男よ、お前には不思議な技があるようだな』

「っはひ? わ、技です、か? えーっと……」

『傷を癒すポーションとやらを他者に投げ、回復させる技じゃ』

「あぁ、『ポーション投げ』ね。俺だけの、まぁユニークスキルみたいなもんだ」

『その技のお陰で、子は助かったと言っておるのじゃ。なんぞ、お礼をせねばならぬのぉ』


 お礼! もちろんレア、いやミドル、いやいや、レジェンド級のアイテムでお願いします!

 っと叫びたいが、欲望丸出しだと相手を怒らせて何も無し。なーんて事になると拙いんで、ここはぐっと我慢だ。


「いやいや、そんなのお構いなく。当然の事をしたまでですからっ(ッキリ」

『そうか、欲の無いケモミじゃ』

「へ?」


 なんだってー!

 お、おい、嘘だと言ってよ。

 まさか今の返事でお礼無しになっちゃった訳?

 っがーん!


『して、主らは何故にかような所まで参ったのじゃ? 本来であれば外の者をここまで招いたりはせぬが、今回だけは特別じゃ。じゃが、返答次第では――』


 そう言って九尾は牙を見せる。

 脅しかよ。返答次第とか言われたって、どの返答が逆鱗に触れるのか解らねーじゃんか。


「村の村長さんに、聖なる獣さんに会って欲しいって頼まれたんです」

「どうして村との友好関係を、破棄してしまったのか。それが知りたくて」


 って、普通に答えてるんですけど、うちの女子さんたち。

 俺は知っている。

 九尾との関係が破棄された理由は、若い男がこの子狐を狩ろうとしたからだ。そしてその若い男は、村長を探している時に登場したあの男だった。

 聖なる獣との制約は、無闇に獣を狩るな――だったはず。

 まさかその聖なる獣の子供に矢を射かけたとは思ってもみないんだろうけど、なんであれ動物を狩った事に変わりは無い。

 制約を破ったのは村人なんだから、破棄されても仕方ないだろう。


 九尾は口を開かないが、代わりにその目が怒りに燃えているようにも見える。

 ここで逆鱗に触れて戦闘なんかになったら、なんとなくだが勝てない気がする。こいつは今の俺たちじゃ挑めないクラスのモンスターに違いない。


「お、おいお前ら。聖なる獣と村が交わした約束の事を思い出せ。怪我をした子狐は、村人に矢を射られて泉に落ちたんだぞ」


 ぼそぼそと女子達に話しかける。

 エリュテイアとココットは意味が解らないといった顔でおれを見ているだけだ。受付嬢まで首を傾げている。


『カイト様、何故ご存知なのですか?』

「は? だって――あぁそうかっ。泉に落ちた俺だけが見た映像だったんだもんな。あれはウンディーネと子狐の記憶だったのか……」


 助けて欲しい子狐と、助けてやって欲しいと願うウンディーネの記憶が、モニターに映ったのだろう。

 あそこで見た内容を手短に説明すると、エリュテイアもココットも慌てて九尾に頭を下げた。

 その様子を見て、九尾は目を閉じ、暫くじっとして何も言わなかった。

 目を開いたとき、九尾はどこか悲しげに映る。


『よい……。そなた等に怒りをぶつけるのは、筋違いであった。解ってはおるが、我が子がこのまま命を落としたやもと考えると……』

「母親としては、許せませんよね。無神経な事聞いて、ごめんなさい」

「お母さんが助けに行ってあげられなかったんですか?」


 ココット先生。それはきっと、シナリオ上そうしちゃうと、クエストその物が無意味になるからだと思います。

 つまり、大人の都合ってやつだ。


『我もそうしたかった。けれど、我が汚染された泉を浴びる事で、我もまたウンディーネのようになっては森が枯れてしまうのじゃ。だからせめて、ここから子の無事を祈る事しかできなんだ……』


 頭を垂れ、愛おしそう足元の子狐と鼻をすり合わせる九尾。

 一応はそれらしい理由を作ってはいるんだな。

 親の祈りってのが、あの光る球体だったんだろうか。だったら飛び込んで球体の中に入って、下まで降りていけばよかったんじゃね?

 っとか思ったが、そもそもこの巨体は泉に入らないか。


 長い沈黙の後、九尾は自ら――


『制約を破った村と、再び絆を結ぶつもりは無い。少なくとも、我がこの森に居る間はじゃ。この子が成長し、自らを傷つけた者を許すというのであれば……その時、村の誠意が見られればあるいは……』

「村長さんに伝えます。でも、そうなると村の家畜はどうなるのかしら?」

『何もあの村に限らず、人は自ら頭を使い、魔物から家畜を守る術を持っておる。あの村は長きに渡って我が守っておったから、自衛の術を必要としなかっただけじゃ』

「まぁそりゃそうだよな。村だってすっげー簡素な柵で囲ってただけだし、モンスターの住む森が直ぐ近くになるんだから、もっと頑丈な塀でも作ればいいだけだろ」


 俺の言葉に九尾も頷く。


『つまりこれで、冒険者支援ギルドからのクエスト発生に繋がるのですね』

「んあ? あ、あぁ! なるほどねぇ」

「え? 何がなるほどなの?」

「つまりだ――」


 モンスターの襲撃から村を守る。

 ネトゲでは至極メジャーなクエスト内容だ。そのクエストが、今回の事で『発生』するようになるって訳だな。

 

「ふーん……クエストを作るっていうのも、難しいものなのね」

「いや、普通はこんな回りくどい事しねぇから」


 そんな会話をNPCでもある狐親子は首を傾げて聞いていた。


『主達の話はよく解らぬ。さぁ、もう行くがよい』


 最初の時のように、艶のある口調で優しく促す。

 ここでクエストクリアのメッセージが浮かび、次のクエストも発生する。

 次は村長の所に戻って、ここでの会話の報告か。これで終わってくれよと、内心思う。

 只でさえもう夜も遅いってんだ、早く終わらせて休みたい。


「あの、最後にお聞きしていいですか?」

『なんじゃ? 人とエルフの子よ』


 ん? エリュテイアがハーフエルフってのは、見た目で判断してるのか?

 実際にはエルフを弄って作った外見だと思うんだが。


「あの、さっき子狐ちゃんと話ししていたようですが、焦って首を振っていましたよね? 何を話されていたんです?」

「あー、なんか最初にそんなのあったな。その後子狐の奴、随分ションボリしてたようだが」

『落ち込んでおられましたね。まるでカイト様のように、尻尾に元気がありませんでしたし』

「それは今話さなくていい」

『はい』


 余計な事を……。

 その話を聞いて九尾が小さく噴き出す。


『っふふふ。そうか、似ておるのじゃな』

「な、なんだよ?」

『っふふ。この子は生まれたときから父親を知らぬ。そして、この子が我に言ったのは――』


 そこまで言うと、九尾は真っ白な煙を上げて姿を消した。

 いや、変化した!?


 煙の奥から現れたのは、着物を着崩したような衣装を纏った妖艶の美女。

 それはもう、ぼんっ! きゅっ! ぼんっ! な女さ。

 クィントが居なくて本当によかった。

 金よりはやや薄い髪。瞳は真っ蒼で、この辺りは元の狐の時と同じようだ。

 あと、尻から生えた尻尾の数も。


『そこなケモミ族の男が『父ではないか?』と尋ねてきたのじゃ』

「っぶほっ!? お、俺を父親だと思ったってのか?」


 九尾美女はにっこり微笑んで頷く。

 途端に自分の顔が熱くなるのを感じた。

 これ、NPCって解ってるのに、すっげぇ恥ずかしいんですけど?


「カイトがととさまだったら良かった」


 っと、幼女の声が下から聞こえる。

 目をやると、5、6歳ぐらいの幼女が立っていた。

 金よりは薄い色のふわふわした髪と、真っ蒼な瞳。そして、クリーム色のワンピースから覗くふっさふさの尻尾が――。


「えぇ!? お、お前、あの子狐なのか!?」

「やだ、可愛いっ」


 にっこり微笑む幼女は、そうだと言わんばかりに再び狐の姿に戻り、そしてまた人の姿に変化して見せた。

 そ、そうだよな。母親が変化できるんだ、娘だって――ん? 娘?


「えぇ!? お、お前、雌だったのか!?」


 っと二度目に叫んだところで、幼女の表情が変わって思いっきり手を噛み付かれた。

 な、何か気に障ることでもいいましたか?

*幼女化シーンに服装を加筆。

といってもワンピースって書いただけですが。

間違っても全裸じゃないですからねっ!

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