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68:レアなお水ゲットしました。

 ちょっと水を飲み込んじまったようだ。

 咽りながら周囲の状況を確認すると、今のタンク役はエリュテイアになっていた。

 どうやら無事にクィントのレベルが上がって、武器の聖属性を付与して貰ったんだろう。


「あ、あと、どのくらい、だ? っげほ」

『はい、ウンディーネのHPは残り10235……あ、いえ、約2%です』


 うっかりHPそのものを教えたな。

 残りHP約10000で2%ってことは、トータル50万だった訳?

 ひぇー……。

 みかんの風魔法で1200いくかどうかのダメージ。クィントは600程度。エリュテイアは400も出てない。


「お、俺も復帰する」

『はい。ワタクシも参りますっ』


 こいつ、ずっと泉の傍で待っててくれたのか?

 俺と受付嬢が復帰した事で、ウンディーネの最期は確実となる。

 風属性の付いたグラディウスで『シャドウスラッシュ』を叩き込めば、ダメージは1000オーバー。

 その隣で聖属性を付与された受付嬢が、渾身の力でウンディーネの体を――突く(スタブ)

 CTの合間に俺もレベル1スタブを挟んだ。ウンディーネの攻撃が物理攻撃だったら、カウンターでダメージを期待できたんだが……。


 全力で攻撃に専念するが、一向にヘイトを奪う気配が無いな。

 何度目かの『シャドウスラッシュ』が閃き、追撃するように受付嬢が高レベルの『スタブ』を決める。


 それが致命傷となり、ウンディーネは悲鳴を上げて四散した。


 降り注ぐ月光が、赤く染まった水から色を消し去る。

 その色を作り出していた元凶は、今俺の頭上に居た。

 血が流れ込まなくなった事で、泉の水が浄化されたんだろうか。


「やだっ。倒したのに、また水が集まってくるっ!」


 エリュテイアの悲痛な叫びで宙を見ると、四散していた水が彼女の言う通り、また集まってきやがった!

 おいおい、まさか第二ラウンドとか、言わないよな?

 再び集まった水は、やっぱり人の形を取る。

 で、やっぱりおっぱいが――いや、何も言うまい。隣でクィントが歓喜しているのが五月蝿いし、彼を見る周囲の女子の視線がすこぶる冷たい。そんなの見てたら、おっぱいおっぱいとAAを浮かべる気にもならないな。


 人化したウンディーネ。

 さっきまでと違い、今度のは半透明な水色をしている。

 そして、俺たちにペコリと頭を下げてきた!?


「お、おお? もしかして、正気に、戻ったとか?」

「水の乙女は清らかで美しいのデス!」

「お前、ちょっと黙ってろ」

「酷いっ」


 俺がクィントを押しのけている間に、エリュテイア達がウンディーネとの会話を試みる。

 それを耳だけで聞きながら、ふと、頭の上が気になった。

 手を伸ばすと、そこにはもふもふした物体がしっかりとあった。

 クィントがそれに気づいたのか、視線が俺の頭で停止。


「リトルフォックス、デスか? カイトはいつの間に子供を作ったのデス!?」

「ちげーよ!」

「あんたたち、五月蝿い! ウンディーネの話を聞いてるんだから、黙っててよっ!」

「すみません」「ソーリー」


 エリュテイアに怒鳴られ肩を落とす俺たち男子。

 子狐を掴み上げ、地面へと下ろしてやる。

 矢の刺さっていた後ろ足付け根や尻の部分を気にして、ゆっくり足踏みをしてみたり尻尾を振ってみたり。痛みが無いと解ると、子狐は大はしゃぎで飛び回った。

 クィントが手を出すが、子狐は奴を威嚇してすぐさま俺の後ろに隠れる。


「やっぱりカイトの子供じゃないデスかー」

「ちげーって言ってるだろっ」


 叫んでから慌てて口を塞ぐ俺たち。エリュテイアの目が怖ひ。

 ココットも子狐に気づいたらしく、慌ててこっちにやってきた。

 きゃーだの、可愛いーだの良いながら手を伸ばすが、やっぱり子狐は威嚇して俺の後ろに隠れる。

 っふふ。子狐は俺にだけ懐いてんだぜ。ちょっと優越感。


 話の終わったエリュテイア達が戻って来る。

 ウンディーネはその時には泉に戻ったのか、姿が見えなくなっていた。


「で、ウンディーネはなんて言ってたんだ?」

「彼女はこの泉の精霊で、血が混ざった事で狂える精霊になってしまったんだって」

『その血をカイト様が止め、ワタクシたちが彼女を弱らせた事でようやく月光によって浄化できたそうです』


 まぁありそうな展開だな。

 あれ? そういや……。


「な、なぁ。迷宮のボスって、ウンディーネじゃなかったのか? アイテムドロップは? レアアイテムは?」

「レアは、ある。凄いレア」

「ど、どこに!?」


 みかんはニヤっと笑って、後ろの泉を指差した。

 まさか、天然水がレアとか、言わないよな?


「泉の水、蘇生能力が、ある。だからカイトが死んでも、直ぐに蘇生されたの、ね」

「え?」

『カイト様は泉に落ちた際、HPがゼロになっておりました』

「え?」

『ですから、カイト様は泉に落ちた際、HPがゼロになっておりました』

「マジで?」

『マジです』

「マジデース」

「本当ですよぉ〜」

「死んだのよ、あんた」

「っぷ」


 な、なんだってー!?

 泉の水を飲むことで、戦闘不能状態、つまり死亡からの蘇生が出来るらしい。

 ただ、蘇生してHPが1になるだけで、回復はしないんだとか。

 子狐も泉に落ちたとき死んでしまったらしいんだが、水を飲んで生き返ったと。だが傷は回復しないおんだから、ずっと血を垂れ流したまま沈んでいたようだ。

 痛みと恐怖の混じった血は、ウンディーネに悪い影響を与えちまったらしい。


「俺のポーションで出血が止まり、泉の底から連れ出したからウンディーネも解放されたって訳か」

『その様です。そして、これでクエストがまた一つクリアされました』

「え? マジで?」

『マジです。ウンディーネさんが再び現れたとき、メッセージが出ていましたが、お気づきになりませんでしたか?』

「全然」

「オレもデース」

「男は、ウンディーネの胸に、目が釘付け、だったのね。っふふ」

「「ぎくっ」」


 ちちちち違う! い、一瞬だけだ。一瞬! クィントと一緒にしないでくれぇ。






 泉の水は少量であれば持ち帰っても良い。っと、ウンディーネが言ったらしい。

 製薬を愛する俺は、空き瓶の在庫をアイテムボックスの中に抱えている。

 試しに水を汲むと、アイテム名が『月光水』になった。

 この『月光水』を10本作ったところで、所持限界数に達しました――という、なんとも有り難くないメッセージが浮かぶ。

 他にメンバーにも空き瓶を分けて水を汲んで貰ったが、全員、やっぱり10本が限界だという事だ。


「うーん、万能アイテムなのに、数量限定かぁ。これ、減ったらまたここで補充できるのか?」

「えぇ、補充はいくらでも出来ると言ってたわ。ただ――」

「ただ?」

『取引不可能なアイテムですので、他人に売って儲けようなんて事は出来ないそうですよ?』

「っぎく。な、なんで俺が水を売って儲けようと考えてたなんて、おお、お、思うんだよっ」


 全員の視線が俺の胸を突き刺す。地味に子狐も見てやがるし。

 こっち見んなっ。


 改めて『月光水』を確認すると、確かに「取引不可」っと、説明欄の下に書いてあった。



---------------------------------------------------


【アイテム名】月光水

   【備考】月光の迷宮にある泉の水。

       戦闘不能状態から蘇生することが可能。


                    取引不可


---------------------------------------------------



 ショボーン。

 まぁいいや。これで心置きなく死ねるな。まぁ出来れば死なないに越した事は無いが。


 しかし、レアがこれだけとは。ちょっと残念な気もする。

 武器とかさぁ、防具とかさぁ、そういうの、無かったのかよ。

 はぁーっと溜息を吐く隣で、クィントも同じように溜息を吐いてやがった。こいつの溜息はどうせ、おっぱい見れなくなったからとか、そんなだろ。


「ねぇねぇカイトさん。この子、どうするんですか?」

「んあ? この子?」


 ココットは未だに触れない子狐を指差して言う。なんども触ろうと試みるが、その度に逃げられているようだ。


「んー、この場合、森へお帰りとか言えばいいのか?」

「っぷ。何それ、どこのアニメ?」

「笑うなみかん」

『カイト様、次のクエストをご覧になってください』

「次の?」


 って事は、まだ連続クエが続いてるのか。

 えーっと、なになに?


 タブレットを開いてクエストを確認しようとした時、泉の奥の茂みが揺れ、新たな道が出来上がった。

 その道の奥から、『コォォォォォォォォン』っという、狐の遠吠え(?)が聞こえてきたのだった。


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