66:対ウンディーネ戦
おうふっ。
高圧洗浄器から出る水を顔面に食らったみたいだ。いや、実際に食らったことは無いけど。
ただこれ、通常攻撃だったようでダメージ自体は700程しか無い。直ぐにココットからの『ヒール』で回復した。
『程』と思ったが、属性効果だからか物理ダメージよりは多少高いな。
「カイトッ、大丈夫? ごめん、私の攻撃、全然当たらないのっ」
「俺のHPは3600あるから、今の攻撃ならそれほど痛くはない。それより、当たらないって……」
『カイト様、実はワタクシの攻撃も当たっておりません』
「はぁー!? な、なんでだよ!」
ウンディーネを挟んだ向こう側で受付嬢がしれっと言う。マジかよ……。
あ、まさか……精霊相手に物理攻撃が効きません! とかなのか?
俺のソルトスペシャルには属性が入ってて、だから攻撃が当たってる、とか?
「属性武器、じゃないと、攻撃、できないの、ね。鑑定、してあげる」
「は? 鑑定?」
言ってる間にみかんが何かの魔法を使った。
すると、俺の武器が光った。
「カイト、風属性。クィント、せい属性」
「なぁみかん。今クィントのところで、性別の『せい』のつもりで言わなかったか?」
「気のせい。聖なる属性、の『せい』よ」
嘘だ。
だが、これでエリュテイアと受付嬢の武器が無属性だってのは解った。
どうやらさっきのは、魔力を感知するスキルみてーだな。その証拠に、ウンディーネもぎんぎんに光ってるし。
「水属性だと、さっきのカイトみたいに、ダメージじゃなく、ヒールに変えてしまう。火属性は、ダメージを半減、させる。風と雷は、ダメージアップ。他は、いつもと同じ」
「なるほど。クィントも地味に属性武器だったのか」
「ハーイ。レアモンスター倒して、GETしたデース」
「私と受付嬢さんだけ、役立たず? どうしようっ」
「俺がタンクになる。エリュテイアはココットに飛んでくる魔法の防御に専念してくれっ」
『ワタクシは『ポイズンブロウ』で地道に削ってまいりますね。カイト様、失敗作のポーションを分けて頂けませんか?』
失敗作とか言うな。意図的に作ったヤツなんだからな。
その場にポーションを置き、急いでウンディーネを抱えて移動。泉を背にして対峙し、出来るだけ他の連中に水弾が飛ばないようにする。
「取り巻き出てきてほしいデース」
「なんでだよ?」
みかんの火力に負けないよう、必死にスキルコンボを叩き込んでいく。MPがゴリゴリ減っていくぜ。
クィントは取り巻きをご所望しているが、正直まともに戦えるのが3人だけな時点では勘弁してほしい。
「あと1.5%でレベルが上がるのデース」
「あぁそうかよっ。よかったな!」
そのぐらいなら、こいつを倒せば上がるだろ。わざわざ取り巻きなんか望まなくたって、いいじゃねぇか。
「スキルポイントが増えれば、『ホーリー・ウェポン』という聖属性付与のスキル、覚えられマース」
「取り巻きはよっ!!」
ちょ、それを早く言えよっ。
ならいっそ引き返して雑魚でレベル上げるか?
エリュテイアもそれに大賛成をしている。が――
『ワタクシたちがここに入った時点で、入り口は閉じられております』
「は?」
『ここから出るには、狂える水の精霊を倒すか、全滅するかしかありません』
「はいー?」
『ここから出るには、狂える水の精霊を倒すか、全滅するかしかありません』
「いや、聞きなおしたわけじゃ無いから」
相変らず大事な事は二度三度言う奴だな。
ウンディーネの体から透けて見える向こう側、俺たちが入って来た所を見ると……あぁ、確かに道が無くなってる。
木々で囲まれたここは、どこに道があったのかさえ解らない。
ひでぇー。リセット無しかよ。
ならやっぱり……
「取り巻きはよ!」
「はよハヨッ!」
『取り巻きはよです』
「早く出してぇー」
叫びつつ、『エナジーポーション』がぶ飲みでスキルコンボを決めていく。
かれこれ30分以上は戦ってるな。
『ポイズンブロウ』を使うのに必要な毒瓶ポーションも底をつき、受付嬢も今は何もしていない。
エリュテイアは属性付与が来た時の為に。俺からヘイトを奪わない程度に『タウント』を使用している。
ココットは無駄なMPを消費させないため、支援に徹して貰っていた。彼女も『ホーリー・ウェポン』は持ってなかったので仕方が無い。
3人だけの戦闘で、やっとウンディーネのHPが半分になった。
「な、長い……」
「1時間、コース」
「あと30分、アレを見られるデスね」
「死ね! エロ神官め!」
「oh、酷いデース」
おっぱい堪能しながら攻撃してんのかよ。なんつー器用な奴だ。
俺なんて恥ずかしくって、なるべくそこは見ないようにしてるってのに。でも見ちゃうけどな。
「男って、馬鹿ばっか」
冷たい口調でみかんがそう言い放つと、彼女唯一の風魔法を唱えた。まともにダメージを出せる魔法が一つしか無かったことで、手数が少なく、今までなんとか俺がヘイトを維持する事ができたぐらいだ。
その風魔法『エアー・シュート』がウンディーネの体を切り裂く。奴の体が四散するが、魔法を食らうといつもこんな感じで派手に飛び散った。
直ぐに水は集まってきて元の形に戻る――はず……あれ?
「おいおい、戻ってこねーと俺たちが攻撃出来ないってのに」
「oh.NO! これじゃボディが見えまセーン」
エロ神官め……。いや、一瞬だけ同じ事思ったけど、口が裂けてもそんな事は言えない。
四散した赤い水はそのまま地面に垂れ、水が垂れた土がぼこぼこと音を立てて盛り上がる。
こ、これはっ!
「来ましたぁー! 取り巻き召喚の儀式デース!」
「うっしゃー! エリュテイア、受付嬢っ。出番だぞっ」
『はいっ』
「解ったわ……うっ、ちょ、ちょっと、これは……」
元気に応えたかと思ったら、急に歯切れの悪い口調に変わる。
再び赤い水が集まってきて、元の女体に戻ったウンディーネ。その体越しに見えるのは、どう見ても腐ってる動物達。
「ふぇぇぇぇぇ。ゾンビな動物さんたちですよぉ〜」
「それアンデットな。ゾンビはまた固有名詞のモンスターだから」
「カイトさん、真顔で教えてくれなくてもいいですからぁ〜」
いやいやここはネトゲの先輩として、正しい知識を教えてやらねば。
辺りには犬っぽいのやら狸っぽいのやら、そして兎っぽいアンデットモンスターが地面から生えてきている。
受付嬢は顔色ひとつ変えず、生えてきたばかりのアンデットどもを容赦なく切り付けていく。
やっぱり火魔法が得意なのか、みかんもアンデットに向って攻撃を始めた。
聖属性武器を持つクィントも、相性としてはアンデットのほうが優位に戦えるだろう。案の定、ウンディーネそっち除けでアンデットに走っていきやがった。
随分派手にやってるなぁ。
クィントの前に俺のレベルの方が上がったぞ。
ただ今はステータスポイントを弄ってる暇は無い。
「1対1か……」
ヒーラーのココットまで、魔法をぶっぱしてアンデットアニマルと戦ってるし。
俺、ぼっちかよ!
やってやる。一人だってやってやるぜ!
「お前らしっかり雑魚どもを倒して、経験値稼げよ!」
そう叫んでからウンディーネを見据える。
目だけがやたら真っ赤で、そこだけは向こう側の景色すら透けて見えない。
その目が一段と輝いた。
スキル攻撃が来る!
咄嗟に判断して身構えると、ステップを効かせて左右に細かく動く。
ホーミング系の魔法でなければ、躱す事が十分出来る。これがVRの良い所だよな。
そしてウンディーネが繰り出した攻撃は、ホーミングではないものの……こんなの躱せる訳ないですからぁーっ!
なんだよこれっ。ゴルフボール大の水弾が数十個現れ、それが一斉に飛んできたぁ。
「あいてっ。っ糞、痛ぅ、待て、ちょっ――」
水弾に押され、一歩、また一歩と後退する。
一発食らうたびにHPがぎゅんぎゅん減り……あれ? これ、マジでやばくない?
ココット、ヒール頼む。
クィントでもいい。ヒール・ミー・プリーズ……あ、聞えてない?
寧ろ見てもいない?
誰か……
『カイト様!?』
あ、誰かが気づいてくれた。
誰かが走ってくる。
けど、その姿を確認する前に俺は後ろ向きに倒れ、盛大に水しぶきを上げ泉へと落ちた。
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名前:カイト
レベル:28
職業:盗賊 / 種族:ケモミ族
HP:4100 → 4250
MP:1110 → 1130
STR:67+40 → 67+41
VIT:17+38 → 17+40
AGI:99+40 → 99+45
DEX:15+9
INT:5
DVO:5
LUK:10+4
SP:5
スキルポイント:1
●アクティブスキル●
『石投げ』『足払い』『スティール:LV1』『シャドウスラッシュ:LV2』
『バックステップ』『カウンター:LV1』『ハイティング:LV2』『クローキング:LV2』
『スタブ:LV1』『スタンブロウ:LV1』
●パッシブスキル●
『短剣マスタリー:LV5』『ダブルアタック:LV5』『二刀流』
●修得技能●
【格闘:LV37→41】【忍耐:LV37→40】【瞬身:LV40→45】
【薬品投球:LV14→16】
【岩壁登攀:LV10】【ポイント発見:LV21】【採取:LV19】【製薬:LV12】
【採掘:LV5】【裁縫:LV1】
技能ポイント:1
○技能スキル○
『巴投げ:LV12』『ポーション投げ:LV13→15』『素材加工:LV9』『ポーション作成:LV10』
『電光石火:LV12→15』『ポーションアタック:LV2』『正拳突き:LV1』『助走』
●獲得称号●
【レアモンスター最速討伐者】【最速転職者】【ファースト・クラフター】
【ファースト・アルケミスト】【ダンジョン探求者・パーティーバージョン】
【鉱山を愛する者】
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