64:お手手繋いで夜道を行けば~♪
「外から見たのと、中はまったく違うのね」
『別エリアになってますね』
光るワープホールは予想通り、ダンジョンの入り口だった。
外、つまりフィールド扱いになっている森からワープホールの向こう側を見ると、真っ直ぐ伸びた一本道が続いているのに対し、実際には曲がりくねった道になっていた。
ただ、道幅は4メートルぐらいあって広い。
「次のクエストは、最深部への到着とあるわね。2人は?」
「オレも同じデース」
「以下、略」
三つの違うタイトルのクエストだが、ほぼ内容は同じっぽいな。
道は曲がりくねってはいるが、枝分かれしている道は少なく、あっても直ぐに行き止まりで引き返すだけで済む。
モンスターは案の定多くて、正直、みかんとクィントが居なけりゃ苦戦どころじゃねーなと思った。
「同じ魔法なのに、私とみかんさんと全然違いますねぇ」
「そりゃーお前、攻撃魔法の専門職と、支援の専門職との攻撃力が同じだったら、魔法使い涙目だろ」
「そう。涙目。ぽろぽろ」
「そうですけどぉ〜。みかんさんって、どういうステータスなんですか?」
「私……INTカンスト。残り全部DEX」
やっぱ魔法使いだとINTとDEXの二極になるよなぁ。
「オレはAGIとSTRの二極デース。でも、このゲームって、最後は四つか五つのステータスが、カンストする計算デスよね」
「する、わね」
うむ。するはずだ。
レベルが上がればステータスポイントが5貰える。その数字がそっくりそのまま振れるんだし、現状のステータスカンストポイントは99だ。
レベル99までの総ポイントが490だから、このポイントだけでも四種類のステータスがカンストする。
キャラ作成時のポイントの事も考えれば、五種類はカンストできるだろ。
っとなれば、ほとんどのプレイヤーがバランス型のステータスになるよなぁ。
ちらっと受付嬢の方を見るが、彼女の表情はまったく変化せず、何を考えているのかさっぱり解らない。
っち、いつものうっかりは無しかよ。
「あのー、良く解らないんですけど、いろんなステータスが、その、上限まで上げられるのって、良い事じゃないんですか?」
んむ。実に初心者らしい質問だココット君。
でも違うんだなー。
これだと物理職、魔法職かで全プレイヤーのステータスはほぼ同じになっちまう。
そんなの、ネトゲとして楽しい訳がない。
それに、自由にステータスを割り振り出来る意味も無い。
「だから、きっと何か裏があるのデスよ」
クィントも俺とまったく同じ意見なようで、思っていた事をそっくりそのまま代弁してくれた。
そう。
俺はクィントとみかんがパーティーに加わって、ほとんど喋ってない。
喋ろうとすると、緊張して歯がカタカタするからだ。
ナツメの時の事を考えると、暫くすれば慣れてちゃんと話せるようになるみたいだし、その時を待つ!
ただ不思議と、戦闘中には――
「クィント、右のを頼むっ」
「OK」
「植物系モンスは火に弱いハズだ、みかん、頼むぜ」
「ふふ、全部、燃やす」
何でだろうな。
まったりしてる時の会話だと緊張するくせに、戦闘時だと緊張しなくなるって。
そこまで俺は廃人だったのか。
「これで終わり。『ファイアー・アロー』」
「HAHAHAHAHAHAHAHA。木屑になるのデース!」
ある意味、クィントも戦闘になると口調が変わるな。
こう、悪魔神官的な?
戦闘を終えると、エリュテイアのレベルが上がるエフェクトが見えた。
「やった〜。これで25レベル!」
『おめでとうございます』
「おめデース」
「おめ」
「エリュちゃん、おめでとう!」
お、おお!
これが噂の、レベルアップおめ攻撃か!
お、俺も……
「お、おめで、た」
あぁぁぁぁぁぁっ!
おめでとうと言うはずが、おめでたになっちまったぁ!
「っぷ。おめでた……妊娠、なの?」
「ちょ、妊娠なんかしてないわよ! っていうか、そもそも結婚もしてないし、まだ学生だし!」
「ちちちちちちち違うんだだだだ。まままっまま間違っただけですらー」
「っぷ。デスラー……どこの、総統?」
意味解んねーし!
その後もみかんに弄られ、俺は暫く口を閉じることにした。
うねうねと続く道を30分以上歩いたか?
「あまり、遅くならないうちに、クエスト、クリア、しないと」
「え? どうしてですかぁ?」
うんうん、なんでだよ?
「眠く、なるから」
なんだ、眠く――あっ!
眠くなるからとか、お子様だな。なんて思ったが、そうだよ! 『睡魔』なんてものが実装されてんだよ!
つまり、夜遅くなりゃゲーム内でも眠くなる。って仕様だ。
しかも空腹同様に、ステータスにマイナスが付くって言うし。
それはちょっと、拙いぞ。
拙いのに、夜しか開かないダンジョンって、鬼畜仕様だな。
「だ、誰か眠く――いや、『睡魔』状態になってる奴、いるか?」
慌てて皆を見渡すが、全員首を横に振る。ふぅ、助かったぜ。
『皆様、いつもはどの位の時間帯にお休みになられてますか?』
今度は受付嬢の質問か。
んー、俺は……、
「ゲームやってる時は4時だな」
「次の日次第デース。早い時は12時過ぎで、遅い時はカイトと同じぐらいデース」
「2時、半」
「12時ぐらいかな」
「は〜い。10時にはベッドで〜す」
ココットはまぁ、やっぱりなという時間か。
クィントとみかんも、俺同様にギリギリまでゲームして寝るらしい。可能な限り1日の接続上限までプレイすると言う。
こいつら廃ゲーマーだな。
『なるほど。では、ココット様が一番最初に『睡魔』に襲われそうですね』
「えぇ!? ど、どうしてですかぁ?」
「普段の生活リズムと同様と、告知には有りマシたね」
「えぇ〜。い、今何時……ふぇ〜ん、もう9時だよぉ〜」
タイムリミットまで後1時間。
それまでに最深部に辿り着き、クエストを終わらせねーと。
いや、これでクエストが終わる訳じゃないだろう。聖なる獣とやらにまだ会ってないんだし。
せめて月光の迷宮関連まで終わらせられれば。じゃねーと、明日また来なきゃならなくなる。
「ココット先生、頼むから耐えてくれ! もしボス戦とかあって、その途中で眠くなるとかだけは勘弁してくれよ?」
「うぅ〜。誰かコーヒー、ブラックで入れてくださ〜い」
「コーヒーって、ゲームの中なんだから、あるわけないじゃない!」
自然と俺たちの足も速くなる。
だが、クィントとみかんがどうしても遅れてしまう。
称号の効果、だよな。
そ、そうだ!
「クィント、手出せ」
「ハイ?」
まるで犬のように素直に手を出すクィント。その手を掴んで、後は……
「みみ、みみ、みみみ」
「ミミ、ズ?」
「ちげーし! てててて手ぇ出せ」
「断ってみても、いい?」
「断るなっ!」
「ふふ、強引、ね」
あぁぁぁぁぁぁぁっ!
せ、背筋に悪寒があぁぁぁぁぁぁっ!
「えぇ!? カイトはゲイだったデスかー!?」
「ちげーよ! これには深い訳があるんだよっ」
『ゲイ……なるほど、ボーイズラヴと類似するものですね』
「分析すんなっ!」
その後、受付嬢がサラっと俺の『助走』スキルの説明をしたので、要らぬ誤解を生まずには済んだ。
っ糞。
なんか最近、受付嬢のヤツが俺を弄るようになった気がするんだが?
『2極』
二つのステータスだけを上げる育成タイプの意味。
基本、1極は無いと思います。育成途中では1極も存在しますが、レベルが上がってくればカンストするので、その後は別のステータスに振ることになるでしょう。
私が初めてプレイしたMMOでは、「攻撃が早い&回避できたらかっこいい!」と思いAGI(敏捷)を上げ、攻撃力高いほうが戦闘が楽だろうと思いSTR(筋力)を上げ、HPも多いほうが良いと思いVIT(耐久)を上げ、運が高いほうがアイテムのドロップ率がいいのかもと勘違いしてLUK(幸運)を上げ、馬鹿は嫌だからとINT(精神力or魔力)を上げ、攻撃が当たらないと意味ないからとDEX(器用度)を上げ……気づけば全ステータスを平均に上げたキャラになってました。
究極の器用貧乏だったけどね!




