63:パーチーってすんばらしいっ。
「『アヴォイスト』、『アタック・レイズ』」
破壊僧から飛んできた魔法の光が受付嬢を包む。
スキルのCT明けを待って、同じ魔法がエリュテイアも包んだ。
「俺は最後かよ!」
「YOUは男の子デース。男より女性を優先するのは、当たり前なのデース」
っく。なんだこの発音のおかしい奴は。
まぁいい。それよりも、だ――
「『ファイアー・アロー』……『アイス・アロー』、『フレイム・ウォール』。ふふふ」
エルフの女魔法使いの連続魔法ぶっぱが止まらない。
CTの合間にポーションを飲んでいるあたりは、MP回復用の『エナジーポーション』なんだろう。そこまでして連続で魔法ぶっぱをしたいのか……
アロー系が単体用の攻撃魔法で、ウォールは壁を使って敵にダメージを与えつつ防御も出来るスキルみてーだな。
っかし、やっぱ魔法使いの火力はすげーな。
こっちがスキル込みで4、5発殴って倒すモンスターも、アロー2発で沈めちまうんだからな。
「っと、羨ましがってないで、俺も仕事するか」
破壊僧の支援スキルを貰い、攻撃速度と回避率が上がった気がする。
『アヴォイスト』と名の付くスキルを盗賊も持ってるが、回避向上スキルだったはず。なら、敏捷系に補正の付くバフスキルで間違いないだろう。
『アタック・レイズ』はその名から想像すると、攻撃力上昇か。
殴り神官らしいスキルチョイスだ。
殲滅力が上がり、援護もあってようやくモンスターを全滅させる事に成功した。
「ありがとうございます。助かりました」
「気にしないでくだサーイ」
「そう。肉壁、お疲れ」
「え?」
女魔法使いの言葉にエリュテイアは首を傾げる。
あの魔法使い、俺らを肉壁言いやがったぞ。さすが魔法使い、自分以外は全て壁扱いか。
『お二人はこの森へはクエストで?』
「デス」
破壊僧はにこにこしながら答え、魔法使いの方はにやっと笑って頷く。この魔法使い、怖い……。
「他にもクエストを受けてるプレイヤーが居るんですねぇ」
「クエストってのは『月光の迷宮の探求者』というヤツですよネー?」
「「え?」」
「え?」
「ふふ。どうやら、別のクエスト、ですね」
破戒僧が口にしたクエスト名は、俺たちのとは違う。
ただ、同じ迷宮名が出ているあたりは、目的地は一緒っぽいな。
「お、おお俺たちはその、『月光の森の聖なる獣』っつークエストなななんだが」
「今進めてるのが、月光の迷宮の入り口を探せって所なんです」
「そうデスかー。オレも入り口を探せって段階デース」
「私は、『月光の迷宮よりいずる闇』という連続クエスト、です。同じく、入り口を見つけるのが、クリア、条件」
ちょ。破戒僧と魔法使いのクエストも違うのか!?
こりゃー、『月光の迷宮』絡みで数パターン用意されてるっぽいな。
『カイト様、これは好機ですよ?』
「っはひ? な、なんの好機だよ」
『パーティーですっ』
拳を握り締め、力強く答える受付嬢。
まさか、この2人をパーティーに入れろと?
いや、人数的にはピッタリだし、魔法使いに補助ヒーラーと、それはそれは好都合な2人ですけどぉ?
「パーティー……おっけー」
「シーフ2人とは、オレとの相性はとってもGoodデス。喜んでご一緒するデース」
「え? 本当ですか?」
「やったぁ〜。よかったですね、カイトさん」
「え、あの……」
『募集する手間が省けましたね』
「「よろしくお願いしまーす」」
あ、そう、なるのね。
「クィントでーす。殴りの頂点を目指して頑張ってマース。スキルは攻撃補助が主体なのデス」
破壊僧改めクィントは、見た目的にはイケメンエルフだ。
薄紫色のサラッサラした短髪に、同じ色の瞳を持つ、発音のおかしな神官。っと思ったら、素で外国人だった。
「日本の大学に留学中デース。帰国子女なのデスよー」
帰国子女という言葉の意味を間違っている気がするぞ。
で、魔法使いの方が――
「みかん。魔法、大好き」
っと、これまた日本語がおかしいエルフの女だ。まぁ俺も人の事言えた義理じゃねーけど。
クィント同様にエルフで、この2人はエリュテイアと違って『エルフらしい長さの耳』をしている。
みかんは金髪のおかっぱ頭で、瞳の色もこれまた金だ。
妖しい雰囲気をかもし出す風貌で、言葉数も少なく、魔法使いっぽさがにじみ出ている。
それぞれが自己紹介をし、二人をパーティーへと向いいれた。
レベルはクィントが27と俺たちと同じで、みかんは29だった。エリュテイアとココットのレベルが24なので、公平という点では安心だな。
タブレット画面のマップを見ながら、ひたすら森の真ん中を目指す。
わらわらと湧くモンスターも、2人が加わった事で殲滅速度が上がり薙ぎ倒して進んで行く。
いやー、マジぱねぇっすわ。
「みかんさんの魔法、凄いですね。さっきまでの戦闘とは比べ物にならないぐらい、楽だもの」
「すみません、苦労ばっか掛けて」
『申し訳ありません』
「ちちちちちち違うのよ! カイトや受付嬢さんが悪いわけじゃないの、私が悪いんだからっ」
慌てて否定するエリュテイアだが、彼女の言葉は俺も思っていることだ。
モンスターの1グループを殲滅するのに時間が掛かると、追加モンスターに襲われることが多い。
その度にスキルをフルで使って、殲滅を急ぐ羽目になる。なけなしのMPが常にピンチな状態だった。
それが今、魔法使いが加わった事で殲滅速度が上がり、更にクィントのバフスキルで俺たちの火力も上がって短い時間でモンスターを倒せるようになった。
「パーティーって、素晴らしいな」
「ちょっと、何ぼそっと呟いてるのよ」
『噛み締めていらっしゃいますね』
「な、何でもねーよ」
正直、パーティーの有り難味を噛み締めてます。
ずっとぼっちだったから、ダンジョン攻略もソロだったし、ソロで攻略できないようなゲームは鼻っから手を出してなかったし。
ココットの持つバフスキルは、全ステータスをちょっとだけ向上するタイプだ。
対してクィントのは、特定ステータスだけを向上させるもので、上げ幅はココットに比べるとひと回りでかい。
更にこの2人のバフが合わさって、かなりステキな事になっている。
こんな素晴らしい物を、俺は今まで一度も知らなかったのだ。
いや、知識っつーか、データとしては知っていたが、実際にそれを貰った経験がなかったからこんなに素晴らしい物だとは思いもしなかったのだ。
「マジ、パーティーって素晴らしい」
天を振り仰いでゲームの神様に感謝する。
「この人、大丈夫デスか?」
「置いていきましょ」
『よっぽどぼっちが長かったようですね』
「ぼっち……っぷ」
「みかんさん、笑っちゃかわいそうですよぉ」
天に昇った月を眺めながら、心で泣く俺であった。
あ、月!?
「おいっ! 月、昇ってるぞ!!」
本気で俺を置き去りにして歩いていく連中を慌てて追いかける。
技能効果のお陰で、移動速度は他のプレイヤーよりは速いんだ。こういう時は便利だよなー。
「おいー、月ぃー!」
「見れば解るわよっ。っていうか、さっきから見えてたし」
「え? そうなの?」
『はい。15分51秒前から見えておりました』
「あ、そう……じ、じゃあ、入り口探そうぜ。っはは、っはは」
「っふふ。尻尾、笑ってない」
「っふぐっ!?」
こ、この俺がいつの間にか背後に回りこまれていた、だと!
振り向くと、黄金の瞳をぎらつかせたみかんが、妖艶な笑みを浮かべて立っていた。
やっぱ、怖ぇーよこの人。
尻尾に悪寒を感じながら進むこと十数分。木々の隙間から月光が差し込む場所に、光るワープホールのようなものを発見した。




