62:助っ人現る。
俺の貞操がピンチになる前に、早々に村を出発した。
ケモミのNPCどもは手を振って、「戻ってきてねー」「結婚してー」などと口々に叫んでいたが、全力で断る。
「このクエスト、最後にまたケモミ村に戻って報告とかねーだろうなぁ」
「それは進めてみなきゃ解らないでしょ? でもあんたって変わってるわね」
「なんで?」
前を歩くエリュテイアが振り向きながらそう言った。
人とあんまり話しした事もねーから、変わってるなんて言われるのもある意味初めてだ。
「NPCとはいえさ、あんなに女の子に囲まれてるのに、全然嬉しそうじゃないし」
「私のお兄ちゃん達なんて、ゲームで女の子にチヤホヤされたといって自慢してきますよぉ〜」
『ココット様にはお兄さまがいらっしゃるのですね」
「うん。4人居るのぉ〜」
4人も兄貴かよ!?
俺なんて一人っ子だぜ。
しかし、エリュテイアの言葉には納得できない点がある。
何が悲しくってNPC相手にチヤホヤされて喜ばなきゃならないのかと。
だってなー、あいつらってプログラムによって動いてる訳だし、きっとケモミの男プレイヤーだったら誰彼構わず結婚アピールしてくるんだろ?
他にもケモミチケット手に入れた奴が居たとしたら、村に行けば同じ目に合うに決まってる。
つまり、誰でもいいってことさ。
「俺はやっぱり、俺だけを見てくれるオンリーワンな女性とお付き合いしたい」
「あぁ、そういう願望はあるんだ」
「そうですよねぇ〜。やっぱり自分だけを見てくれる人がいいですよねぇ。私もそういう男の人がいいですぅ」
『カイト様も恋する男子なのですね』
「いや、まだ恋とかしてねーし」
などとまったく緊張感の無い会話が続くが、実際にはそこそこ緊張感のある戦闘が続いている。
時刻は午後5時過ぎ。
森の木々で月はまだ見えてない。出ているのかすら解らない。
解っているのは、モンスターが夜型にシフトした事。嫌な事に、夜型になるとレベルが上がっている事だ。
日中の最高レベルがローンウルフの28だったのに対し、今戦っているのは28と29レベルの混合モンスターパーティーだ。
俺と受付嬢はまだしも、エリュテイアとココットには荷が重くなってきたな。
特にエリュテイアは、盾という点ではレベル差+5はかなり厳しい。
こりゃあケモミ村の周辺でレベル上げしたほうが良さそうだな。
「少し引き返すぞ。お前ら二人のレベルがちと足りないみてーだから、村周辺でレベリングだ」
「だ、大丈夫よ!」
「ケモミさんの村に戻ってもいいんですかぁ?」
っぐ。痛いところを突いてきやがる。
でもなぁ、迷宮とやらに入れば、更にモンスターのレベルは上がると思うんだわ。
そうなると、俺と受付嬢の二人じゃ倒すのに時間が掛かっちまう。
「やっぱ魔法使いとか、パーティーに欲しいところだよなぁ」
『そうでございますね。高火力職が一人居れば、随分戦闘は楽になるでしょう』
「あぁ。あとヒーラー……いや、準でもいいからもう一人いれば、ココットの負担も軽くなるだろうし」
「だ、大丈夫ですよ私はぁ」
とか言ってるが、連戦でMPかつかつなんですが?
俺のエナジーポーションだって無限じゃない。まだ300本は持ってるが、この分だと迷宮クリア前に枯渇しそうだ。
『パーティーメンバーを募集されますか?』
「「へ?」」
受付嬢の言葉に全員が声を漏らす。
「そういうの出来るの?」
「わぁ、友達が増えるんですねぇ」
え、待って?
パ、パパパパパパーチー募集!?
違った、パーティー募集!?
『新しく実装された掲示板を使って、パーティーの募集も盛んに行われておりますので』
「へぇ、そういえば掲示板とかあったわね。まだ見た事ないけど」
「見てみますぅ〜」
「い、いや、でもこれ、クエストだろ? 受けてない奴が迷宮に入れるのか? そもそも俺、知らない奴が加わるとその、ちょっと、ドキドキすんだけど?」
「なによドキドキって。恋でもするの? まぁ対人恐怖症じゃないみたいなんだし、慣れよ慣れっ」
「ナツメさんのときは平気だったじゃないですか〜。あ、掲示板見ぃつけた」
「ナ、ナツメはその、フィーリングっつーか、同じネトゲやってたのもあってだなぁ」
『書き込みなさいますか?』
人の話し聞けよっ。
ど、どうするんだ。このままだと知らない奴とパーティーを組むハメになるぞ?
パーティーの最大人数は6人。今4人居るから、あと2人募集できる。
2人……。
知らない人が、2人。
そう考えただけで俺の足はガクブルし始めた。
こ、これは武者震いだ!
「うーん、どう書けば良いのか解らないわ」
「こういう掲示板って初めてぇ」
『ワタクシも初めてです。カイト様は?』
「あ? お、俺か? そ、そうだなぁ。は、初めてで良く解りません」
嘘だ。
どうみても『にゅちゃんねる』と同じ仕様の掲示板。
滅多に書き込むことは無いが、もちろんsageだのなんだの暗黙のルールは知っている。
でも知らないと言っておこう。
「じぃー」
「じぃ〜」
『じぃー』
「や、止めろっ。俺をそんな目で見るなっ!」
うぅ、バレバレかよ。
3人の視線から逃れるように明後日の方角に目を泳がせると、俺はある事に気づいた。
「なぁ、囲まれてるぞ」
「「え?」」
『囲まれておりますね』
陽が傾きかけた森の中、俺たちは10数匹のモンスターに囲まれていた。
「俺と受付嬢が5体ずつ受け持つ。行けるな、受付嬢?」
『はい。盾がございますので、なんとかいけます』
「俺は回避しながらエリュテイアが抱えるのを殴るから、1匹づつ確実に倒して行くぞっ」
『はいっ』
「わ、わかったわ」
「ココットは支援に徹しろっ」
「は、はい!」
エリュテイアには『タウント』を使わず、素殴りでタゲ取りを指示する。
俺と受付嬢がそれぞれ、同じように殴って5匹のタゲを確保。
それからエリュテイアがタゲを取った4匹に対し、一体ずつ集中攻撃を開始した。
流石に格上5匹を抱えると回避率も下がる。
じわじわ受けるダメージは、武器の効果でHPを奪って回復。
ココットのヒールヘイトでモンスターのタゲが跳ねないよう、たまに抱えてる奴等を殴ってダメージヘイトも稼ぐ。
『追加のモンスターです』
「っち、倒せば倒したぶん、補充が入りやがるっ」
「もう少し……もう少しでレベルも上がるのに」
「ふぇ〜ん。MPが無くなりそうですぅ」
拙い。
ココットのMPが枯渇したら、全滅フラグだぞ。
俺はポーションを投げてる余裕もねーし。
逃げるか?
ある程度逃げれば、縄張りリセットが掛かるだろう。そのままケモミ村まで引き返して、安全にレベル上げをする方がいいかもしれん。
「逃げるぞっ!」
「え?」
『カイト様、走るのでしたら『助走』効果をっ』
「その手が合った――いやでもあれ手握らなきゃダメじゃないですかぁー!」
手を繋げば、いや、体に触れてさえいれば俺と同じ移動速度になる。
確かに俺は他のメンバーより、少しだけ歩くのが早い。
けど、体に触れるって……。
モンスターと必死に戦うエリュテイア。その彼女になけなしのMPで『ヒール』を唱えるココット。
2人の体に、触れ。ってか?
「いいいいいいいいかん! それはいかーん!」
「もう、何言ってるのよ! 逃げるの? 逃げないの?」
「ヒールはあと一回で終わりですよぉ〜」
「あぁぁぁぁぁ。逃げるっ、今すぐ逃げ――」
叫んだ俺の背後で、けたたましい爆音が響き渡った。
振り返ると、今しがた追加補充されようとしたモンスターの団体様が、半消し炭化しているところだった。
「呼ばれて飛び出てジャジャジャーんなのデス!」
「きっと、誰も、呼んでない」
そんな事を言いながら現れたのは、エルフ女と、同じくエルフの男。
女は両手杖を掲げ、男はメイスを振り回しモンスターへと踊りかかる。
魔法使いと――殴り神官!?
「HAHAHAHAHAHAHAHA、死ぬのデース!」
もとい、破壊僧だ。
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