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61:ケモミ族の種族事情。

「うわぁ〜、ケモミさんがいっぱい〜」

「あんたもケモミでしょ」

「えへへぇ〜」


 俺の前を歩くココットとエリュテイアが、楽しげに話している。

 俺たちは遂に、ケモミ族の村を見つけた。

 というか、案内された。


 俺を助けてくれたのはNPCのケモミ族たちで、この村の住人だ。

 そして有無を言わさず、俺は彼女等にひっぱられてここまでやってきた。

 仲間が居ると慌てて伝えると、3人も一緒に案内されてきたって訳だ。


「村っていうから、もっとこう……簡素な家みたいなのを想像してた」

「そうね、藁葺き屋根じゃないけど、そんなのを想像してたわ」

『しかしこれは、丸太を組んだログハウス的な住居ですね』

「うんうん。とってもステキ〜」


 などと女子等は感想を口にしている。

 彼女等の言う通り、森の中に突然現れた村は、『村』というより別荘地と言っても良さそうな感じだ。

 建物は丸太で作ったログハウスだし、造りもしっかりしてある。窓もあれば、土台部分に煉瓦を使ったお洒落な外観の物まで。

 そんな村に入って直ぐ、システムメッセージが浮かんだ。


【クエスト『月光の森の聖なる獣3』をクリアしました】

【クエスト『月光の森の聖なる獣4』が引き続き行われます】


 クエストクリア条件を確認したい。したいが……


「ここ、私達の村よ」

「ようこそ、外の世界の仲間よ」

「ケモミ族の男がやってくるなんて、凄く珍しい事よ」

「お前、男なのに強いな。私、強い男は好きっ」

「ちょっとメル! 抜け駆けなんてズルイでしょ!」

「はぁ〜ん、尻尾の毛並みが、ス・テ・キ」

「な、舐めても、いいですか?」

「私も舐めるぅ」

「誰か、助けてくれ……」


 身長189センチの俺に対し、130センチ前後のケモミNPCが群がってくる。

 こんなガキみたいなのに囲まれても、全然嬉しくない……。


「よかったわね。モテモテになって」

「モッテモテですねぇ」

『普通、男性は多くの女性に囲まれると喜ぶものだとありましたが、カイト様はお困りのようですね。どうしてですか?』

「どうしてですかって、そりゃお前、こいつらガキ並に小せぇじゃねーか! 俺はロリコンじゃねー!」

「ひっどぉーい! 私は立派な大人よっ。今年で18なんだからぁ」

「私だって去年成人して19になったんだから」

「貴方の村では、ケモミの女は大きいの? でもそんな話、聞いた事ないわ」


 俺の腕を掴むケモミどもが一斉に抗議の声を上げる。

 こいつら、実は全員20歳前後だったのかよ。

 身長だけじゃなく、胸だってつるぺただし、顔だってどうみても小学校上級年生か、良くて中学1年生ってところだぜ。

 こんなのが大人とか、どうやって信じろってんだ。


 っと思ったら、幼児としか見えないちまっこいケモミが走っているのが見えた。

 まぁ5、6歳ってところか。

 そこは別に驚く事じゃない。驚くのは、その後ろからやってきた夫婦らしきケモミだ。


 男は20代前半、俺と同じぐらいに見えて、身長も俺よりは少し低い程度と極普通の外見だ。

 その男と手を繋ぐ、恐らく幼児の母親だろう女は……。


「ガキがガキを産むのか……そしてガキを孕ませるロリ男」

『カイト様、ケモミ族としては極々普通の夫婦ですよ?』


 誰だよ、ケモミのデザインをこんなのにしやがったのは!

 しかもだ、しかもだぞ!

 夫婦の後ろから、何人ものケモミ女と幼児が走ってくるじゃねーか。

 女達は男の腕に絡みつき、男は困惑する訳でもなく普通に女達を交互に愛でやがってるし。


「おい! まさか一夫多妻制なのか!?」

『ケモミ族の男性は、出生率が低いので。必然的にこうなるのです』

「よかったわね、ハーレムで」


 っとエリュテイアは不機嫌そうに。


「よかったですねぇ〜」


 っとココットはへらへらしながら言う。

 俺を囲むケモミのNPCどもは、きゃっきゃと俺の腕に絡みついてくるばかりだ。

 身長が低かろうと、せめて外見通りの顔つき体つきだったら……いや、それはそれでバランスが悪いか。


「ねぇ、ここで暮らしなよ」

「外の世界は危険よ。私達が守ってあげるから、ね?」

「でも彼なら鍛えればきっと村を守れる立派な戦士になれそうよね」

「うんうん。人族の女は男に守られると、こぉ〜、きゅんっとするって言ってたけど。私もきゅってなってみたい〜」

「きゃぁ〜、わかるぅ〜」

「冒険者なんか止めて、私達とずっとここに住みましょう〜」


 こいつら、俺を勝手に婿候補にしてんじゃねーよっ。

 だがこう小さい女ども相手だと、怒鳴る気にもなれない。

 うんざりしていると、俺たちの前に受付嬢が立ちはだかった。


『カイト様は、おっぱいの大きな女性が好みなのです。貴女方のような小さなケモミ族は、異性としてカイト様のお相手は出来ないのですっ』


 って、そんな事言っちゃいますか?

 しかも『おっぱい』って。いやおっぱいだけどもさ。女がおっぱいなんて……卑猥っつーか、悶々としてもいいですか?


 心なしか胸を張る受付嬢の言葉に、俺を囲っていたケモミたちもたじろぐ。

 やや間があって、


「わ、私はこの村で一番胸が大きいわよっ」


 っと、たぬきなのかアライグマなのか微妙に解らない耳と尻尾のケモミ女が叫んだ。


「私だって負けないわよっ!」

「いいえ。私のほうが0.5ミリ大きいわっ」

「普段は皮鎧で締め付けてるけど、私、脱いだら凄いんだから」

「どう凄いのよっ。だったらここで脱ぎなさいよ!」


 ……ミリ単位の戦いですか。

 いや、どう見てもAカップあるかすら妖しい戦いだろ?

 しかも全員、目の前の受付嬢は見ないようにしているし。それはあれですが、目の前にある大きなおっぱいから目を背けているんですか?


「もっと現実をみろよ……」


 おっと、つい口に出してしまった。

 その瞬間、ケモミたちが落胆する姿が目に映る。


「ひ、人族とケモミ族は、ち、違うんだからぁ」

「人族なんて嫌いよ。ふえぇぇん」

「神様ぁ、どうして私達の胸を大きくしてくれなかったのぉ〜」

「私だって、私だって、おっきな胸が羨ましいんだからねっ」


 天を仰ぐケモミ女たち。

 一応、気にはしてたんだな……。






「なぁ、誰か新しいクエストのクリア条件教えてくれよ」


 おっぱい騒動のあとも、健気に俺を取り囲んだまま離そうとしないケモミ女たち。

 いつまでも解放されない俺は、痺れを切らして3人に尋ねる。

 受付嬢がタブレットを開いてその内容を教えてくれた。


『村の長を訪ねろ、とあります。あの家が長殿の住居では?』


 そう言って受付嬢が一軒の家を指差す。確かに周囲の家よりひと回りでかい。


村長むらおさにようがあるの?」

「この村に嫁探しをしに来たのでしょう? 私が長に紹介してあげる!」

「ちげーしっ! ようはあるけど嫁探しじゃねーよっ」

「「えぇ〜」」


 一斉に落胆する声を上げるNPCども。どんだけ男に飢えてんだよ!

 その途端、俺の腕を掴んでいた女達が手を離す。

 しめた!


「ダーッシュ!」

「あっ、逃げたわ!」

「やだぁ〜、待ってよぉ」


 待ってたまるか! ってか追いかけてくんなっ!

 急いNPCとの距離を取ると、慌てて『クローキング』を発動させる。

 姿を消した俺の気配を感知する事が出来ず、女達はうろうろと探し回るばかりだ。

 やったぜ。


「何遊んでるのよぉ。長の家に先入るわよ」

『きっと着いて来てるでしょうし、このまま中に入ってしまいましょう』

「モテるって、大変なんですね〜」


 っ糞。呑気な事言いやがって。

 受付嬢の言う通り、俺は『クローキング』状態で3人の後ろを着いていく。

 長に用があるというのを知っているNPC達が、慌ててこちらにやって来ようとしたのが見えた。なのですかさず扉を閉めてやったぜ!

 お陰で『クローキング』は解けてしまったけどな。


「おやおや、外が騒がしいと思ったら、お客さんかい?」


 扉を閉めた俺の背後で声がする。

 振り向くと、そこにはケモミの老婆が立っていた。

 信じられない。ちゃんと『老婆』じゃないか。


 頭には猫の耳が見え、模様からして三毛猫がモチーフなんだろうな。

 身長こそ小さいものの、顔には幾重にもしわが刻まれ、年寄りである事が一目で解る。


「貴女が長さんですか?」

「いかにも。わしは長を務めるミーケじゃ。外からの客人とは珍しい。しかもケモミ族の男が混じっておるとは」

「言っておくが、嫁探しに来たんじゃねーからな」

「それは残念な事じゃ。うちの村には美しく逞しい女子がたんとおるのに」

「えぇい! そんな事よりも聖なる獣だ! どこに居るか教えてくれれば直ぐにでも出て行くっ」

「なんと、聖なる獣に会いに来られたのか!?」


 かっと見開かれた目は、まさに猫そのものといった感じで、ちょっと怖かった。

 化け猫かよと思っていると、システムメッセージが浮かんでクエスト達成と新規クエストが発生した事を知らせる。

 ミーケばあさんが独り言を呟いている間にクエストを確認すると――


「月光の迷宮を見つけ出せ? なんだこりゃ」


 っという内容だ。

 森の中に迷宮?

 まさか、ダンジョンか!


「そう、その迷宮の奥に聖なる獣はおるのじゃ」

「迷宮って、洞窟ですよね?」

「は? 何をいうておるのじゃ。迷宮だからといって洞窟とは限らんじゃろ。お主もケモミ族ならば、もそっと勉強せい」

「はうぅ、ごめんなさぁ〜い」


 ココットの奴、NPCから説教されてやんの。

 けどまぁ、お陰で月光の迷宮ってのがフィールドタイプのダンジョンだろうってのは解った。

 獣が迷宮の奥に居るっていうのも、納得できる。

 あとはその場所だな。


「ばあさん、迷宮の入り口はどの辺りなんだ?」

「入り口は森の中央じゃ。しかし――」

「「しかし?」」


 全員がばあさんの言葉を待つ。

 そのばあさんは、窓を指差して、


「月が出ねば入り口は開かんのじゃ」


 っと、ニヤっと笑って答えた。


 だからこそ、『月光の迷宮』と名が付いたと。

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