60:ケモミ、現る。
一月程前まで、森の聖なる獣とは友好関係にありました。
それは数百年に渡って保たれていた関係でして、それが突然、聖なる獣が村を守ってはくれなくなったのです。
「どうしてまた急に?」
「さぁ、どうしてなのかわしらにもサッパリでして」
エリュテイアの問いに答える村長は、心底疲れた様子で大きな溜息を吐いた。
今俺たちは村長の家に招かれ、テーブルに座って話を聞いている。
獣との友好関係が築かれる時に、何かしらの取引というか制約のようなものがあったらしい。
――森の動物を無闇に狩る事なかれ。
これだけだ。
食べる為に狩る。――のはいいらしい。
その制約も守っているというのが村長の話だ。
「わしらは家畜を育てておりますけん、森に行って狩りをする必要性も無いんですわ」
「そりゃそうだ。じゃあ別の理由で関係を崩したって事か……」
「その獣さんに会って話を聞けばいいんじゃないですかぁ?」
「そうしたいのは山々ですが、なんせ森にはモンスターもおりますけん。わしらには到底無理な事でして」
「「あぁ、なるほど」」
っと俺とエリュテイアが同時に喋り、ココットは首を傾げている。
受付嬢は黙って話を聞いているが、たぶんこいつは村長のセリフを全部知っているんだろうな。
じゃあ、っという事で、俺たちが森に入って聖なる獣とやらに会う事になる訳だ。
「ありがとうございますっ。獣がどこに居るかは、森に住むケモミ族だけが知っておりますじゃ」
村長が頭を下げると、次のクエストが発生。
【クエスト『月光の森の聖なる獣2』をクリアしました】
【クエスト『月光の森の聖なる獣3』が引き続き行われます】
「その聖なる獣の姿や名前はご存知なんですか?」
「お名前は解りません。じゃがわしらは『お狐さま』とお呼びしておりますじゃ。見た目は名前通り、狐の姿をしておりますゆえ、すぐに解るかと」
といって、村長は俺を見る。
エリュテイアもココットも、そして受付嬢も俺を見た。
「ちょ、こっち見んなっ!」
『月光の森の聖なる獣3』のクリア条件は、ケモミ族の村を見つける――という物だった。
村でケモミ族の村の場所を尋ねると、道に従って進めば辿り着けるとの事だ。
「楽しみですねぇ〜、ケモミ族の村♪」
「いや、別に俺は楽しみとかじゃないんだけど……」
「えぇ〜! どうしてですかぁ? 同じケモミ族じゃないですかぁ」
森の道を進みだして、ココットはずっと鼻歌交じりで歩いている。
NPCのケモミ族に会ったからといって、何かある訳でも無し。何がそんなに楽しいんだか。
森の中はフィールド以上にモンスターとの遭遇率が高かった。
鉱山ダンジョンでも見たゴブリンや、二足歩行の犬のような亜人コボルト、今度こそ狼男のローンウルフ。他にも植物系のモンスターが、次から次へと襲ってくる。
「こう数が多いと、範囲攻撃スキルがほしくなるな」
『お気持ちは解りますが、残念ながらワタクシたち盗賊には――』
「解ってるよっ。範囲攻撃なんて無いですからぁーっ!」
範囲スキルは二次職に期待するしかない。
囲まれると範囲攻撃手段も無ければ、回避率も下がってしまう盗賊涙目。
森の奥へと進むにつれ、ちょっと辛くなってきた。
俺と受付嬢の二人だけなら『クローキング』を使って、姿を消した状態で進む事もできるんだが……。
「が、頑張りましょう!」
「私の攻撃力がもっと高かったら……せっかく範囲攻撃持ってるのに、役に立てなくてごめん」
『そんな事はございません。エリュテイア様の範囲攻撃があるからこそ、ここまで来れたのですから』
剣士はいいよなぁ。一次職なのに範囲攻撃持ってて。
まぁ同じ一次職の範囲持ちでも、魔法使いには勝てないけどな。
なんとかギリギリな戦いを続けながら森を進んで行く。
戦闘が多いお陰で、途中、全員のレベルが1上がった。ありがたや。
「っかし、レベルが上がって早々これかよ」
『前方から5匹のローンウルフ。右からはウッドウォーク3匹。左からレッドウッドウォーク3匹です』
「み、右に入っていって、ウッドウォークから倒すっていうのは?」
「ダメだ。その奥にもウッドウォークの姿が見える。前に走って、ウルフのところまで行けば左右の索敵範囲に入らないかもしれない」
『いえ、索敵範囲内です』
っ糞。受付嬢がそう言うんじゃ、左右のウッドウォーク種との戦闘も避けられねーか。
あー、やばい。
せめてエリュテイアが俺たちと同じレベルで、VIT型だったらな……。
あぁ……だから『にゅちゃんねる』とかでも、盾職でVIT以外はネタだ地雷だのと言われるのか。
い、いや、俺はネタでなんでも、そんなの個人の自由だと思ってたじゃねーか。
ステータスの割り振りが可能なゲームで、定番ステじゃない奴相手に地雷だなんだの言う奴等は糞だ……そう思ってた俺が、そいつらと同じ思考してたなんて……。
「ちょっと、カイト!?」
「カイトさん、危ないですよ!」
『カイト様っ』
っへ?
呼ばれて我に返ると、いつの間にか俺はウッドウォークとレッドウッドウォークに囲まれていた。
他の三人はローンウルフ側に向って走っていたようだ。既に奴等との戦闘に入っている。
「今行くからっ!」
必死にエリュテイアが叫ぶが、ローンウルフのレベルは28だ。5匹も抱えて、俺を助けに来るのは無理だろう。
ここは――
「来るな! こいつらを連れてお前達から離れる!」
「な、何言ってるのよ!」
『エリュテイア様。ウッドウォークたちの索敵範囲から出れば、カイト様はスキルを使って逃げ延びる事ができます。だからご安心ください』
「盗賊スキルはこういう時の為にあるんだよ。合流するまで、なんとか耐えてくれっ」
自分で撒いた種だ。自分でなんとかするっ。
ウッドウォーク2種を抱えたまま、彼女等とは反対方向へと向って走り出す。
6匹を抱える事で回避率がやや下がるが、なんとか持ち堪えられるだろう。
あとは『クローキング』を使う瞬間に、攻撃を受けなければいいだけだ。
もうちょっと……もうちょっと3人から離れれば……。
後ろを気にしながら来た道を引き返す形で走っていると、突然目の前にローンウルフが3匹湧きやがった!
「っち、よりにもよって目の前に復活するなんて。っ糞」
前から3匹、後ろから6匹。
なら、前に進む!
全力で走り抜けて、その先で『クローキング』だ。
捕まるなよ、俺。
《ウォオーン》
ローンウルフの一匹が遠吠えしてから身を屈める。他の2匹はまっすぐこちらに向ってきた。
2匹を躱し、残りの1匹が――体を回転させながら突っ込んできたっ。
ステップを踏んで横に回避するが、伸ばされた腕で殴られダメージを受ける。
痛ぅー……あ、こりゃ拙い。目がくらくらする。
こんな、時に、限って……状態異常、かよ。
眩暈を起した瞬間、後ろから追いかけてきたローンウルフに囲まれ、ウッドウォークの足音も間近に迫ってきた。
あぁ……こりゃ初のデスペナコースだな。
まぁデスゲーム化してないってのは確認済みだし、安心して死ねるか。
女子を守って死んだとか、俺、ちょっとカッコ良くないか?
ふへへ。
自画自賛して嬲られ始めた時、俺の耳が空を切るような音を捉えた。
次の瞬間、ローンウルフの叫び声が木霊する。
その声は次々に発せられ、眩暈が治まる頃には既に虫の息となったモンスターどもがいた。
何か解んねぇけど、止めを刺すか。
「『シャドウスラッシュ』」
一番HPの残量が多いウッドウォークにスキルを叩き込み、他の奴等は二刀流による通常攻撃で止めを刺して回る。
その間にも、空を切るような音は続き、音の正体が矢である事を知る。
しかもだ、この矢――角度的には木の上から飛んできてるぞ。
木の上から矢を射るなんて、なんて器用なプレイヤーだ?
最後のレッドウッドウォークに止めを刺し、助けてくれたであろう相手の姿を探す。
見上げてビックリ。
さっきまで俺はモンスターに囲まれていたが、今は……
「うわぁお……ケモミに囲まれてやんの……」
周囲の木々には10人近くのケモミ族が登っており、全員が弓を手にして俺を見下ろしていた。
もちろん全員、ケモミ女子であり、見た目が少女ばかりだった。
あぁ、公式ロリってこういう事を言うんだろうなぁ。
一部のマニアが泣いて喜ぶシチュエーションだろう。
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名前:カイト
レベル:27
職業:盗賊 / 種族:ケモミ族
HP:3900 → 4100
MP:1080 → 1110
STR:62+36 → 67+40
VIT:17+35 → 17+38
AGI:99+37 → 99+40
DEX:15+8 → 15+9
INT:5
DVO:5
LUK:10+2 → 10+4
SP:0
スキルポイント:0
●アクティブスキル●
『石投げ』『足払い』『スティール:LV1』『シャドウスラッシュ:LV2』
『バックステップ』『カウンター:LV1』『ハイティング:LV2』『クローキング:LV2』
『スタブ:LV1』『スタンブロウ:LV1』
●パッシブスキル●
『短剣マスタリー:LV5』『ダブルアタック:LV5』『二刀流』
●修得技能●
【格闘:LV34→37】【忍耐:LV35→37】【瞬身:LV37→40】
【薬品投球:LV13→14】
【岩壁登攀:LV8→10】【ポイント発見:LV18→21】【採取:LV16→19】【製薬:LV10→12】
【採掘:LV5】【裁縫:LV1】
技能ポイント:1
○技能スキル○
『巴投げ:LV12』『ポーション投げ:LV12→13』『素材加工:LV7→9』『ポーション作成:LV8→10』
『電光石火:LV10→12』『ポーションアタック:LV2』『正拳突き:LV1』『助走』
●獲得称号●
【レアモンスター最速討伐者】【最速転職者】【ファースト・クラフター】
【ファースト・アルケミスト】【ダンジョン探求者・パーティーバージョン】
【鉱山を愛する者】
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ブクマ評価感想等、ありがとうございます。
頂いた感想からネタが浮かんだりもしますので、些細なツッコミでも大歓迎です。




