4:ハニーフ○ッシュ♪
サブタイトル変更しました。年齢がバレるとかもうどうでもいいんですハイ。
見た目は完全に蜂。
ただし、でかい。
頭から尻の先っぽまで、俺の身長と同じぐらいだ。
189センチの高身長な俺サイズの蜂だぞ。しかも頭には豪華な冠まで被ってやがるし。で、手にはほっそい槍みたいなのを握っていた。
指は無さそうだが、どうやって握ってんだ?
とか考えてたら先制攻撃を食らう。
手にした槍を突き出し、俺目掛けて突進してきやがったのだ。
「あっぶね! こっちはまだ戦闘準備も出来てないってのにっ!」
横に跳んで咄嗟に攻撃を躱す。
AGIステのお陰か、なんとか回避に成功。
《【格闘】技能がレベルアップしました》
《【瞬身】技能がレベルアップしました》
おぉ、無駄に技能レベルが上がったぞ。回避行動で上がったみたいだな。
『カイト様。どうされますか?』
どうされますかって、戦うしかねーだろ。
それに、クィーンなんて名前がついてて冠まで被ってるとなると……。
「こいつ、レアモンスターだよな」
レアモンスター。各エリアに極少数生息しているモンスターで、同レベルのノーマルモンスターより強く、倒す事でレアアイテムを落とす事がある。
っと、公式サイトにも書いてあった。クローズドベータでは一度も見た事が無かったけどな。
『左様でございます。クィーンハニィ、レベル5のレアモンスターでございます』
っち。レベル5か。
戦闘状態になった奴の頭上に青いHPバーが表示される。
勝てるか?
いや勝つっ!
レアアイテムが俺を呼んでいるっ!
再び襲ってきたクィーンハニィの攻撃もギリギリで回避。
左手でタブレットを呼び出し、アイテムボックスの画面を開く。そこに映し出される武器アイコンから、急いで『初心者用の短剣』をタップしてから手を画面に突っ込んだ。
何かに触れた感触を確かめると手を引き抜き、その手に短剣がしっかりと握り締められている。
「ぶっ倒す!」
『カイト様。パーティーを組みますか?』
「へ? ……あ、そうか。お前も戦闘に参加するんだよな……じ、じゃー」
パ、パーティーを作るなんて、俺、生まれて初めてなんですが?
だが結成方法は知っている。
どのゲームをプレイする時にも、ぼっち脱却に成功した時の事を想定して脳内シミュレーションしているからな。
クィーンハニィの攻撃を躱しつつ、震える手でタブレットを操作。
「ま、まずコミュニティーアイコンをタップして――あー、蜂がウゼェ」
『ではワタクシが暫くクィーンハニィの注意を引きつけますので』
「あぁ、助かるよ」
受付嬢は何食わぬ顔で短剣を掴むと、そのままクィーンハニィに躍りかかった。
よし、今のうちだ。
コミュニティー一覧から『パティー情報』をタップし、次に『パーティー結成』をタップ。
パーティーを組むメンバーの名前を入力するんだが……本当に、受付嬢でいいのか?
「お、おいっ。メンバー名の登録しなきゃならないんだが、お前の名前って……」
クィーンハニィの攻撃を華麗に躱す受付嬢に叫ぶと、返ってきた返答はまさに「受付嬢で結構です」というものだった。
いいのかよ、本当にそれで……。
命名しちまってなんだが、もう少しまともな名前を付けてやればよかったと後悔。
ま、いいや。
[パーティーメンバー:受付嬢|…]――っと。
OKボタンを押すと、マジでパーティーが組めた。
視界の隅に所属メンバーの簡易ステータスが表示される。
俺のステータスをコピーした物だって言ってたが、マジでHPとMPが俺と同じ数字だ。
『ありがとうございます。EXPの獲得方法を公平に設定して頂けますか?』
「あ、あぁ。そうだな」
言われて思い出した。このままだとEXPは、与えたダメージ量に応じて各々に分配される事になるって事を。
『パーティー情報』画面でEXPの獲得方法を公平に設定。
確かレベル差が7以内なら公平設定にできるんだったよな。
「よし、これでオッケーだ」
『はい』
っしゃー!
人生初のパーティーだぜぃっ。
但し相手はNPCだけどな……。
クィーンハニィの攻撃は単調だった。
所詮レベル5モンスターって事か。この辺りはまだ戦闘慣れしてないプレイヤーも多いレベル帯だし、それほど複雑な行動パターンは無いんだろう。
槍を構えて飛んでくるだけのクィーンハニィの攻撃はわりと躱しやすい。
時々回避しきれなくってダメージを受けるが、配給されている『初心者用ポーション』を飲んで凌ぐことができる。
――が、俺も受付嬢もゴミ火力だ。
戦闘を開始して10分は経つが、やっと敵のHPを50%まで削ったところっていうね。
途中、技能レベルが上がったというメッセージが何度か流れた。
「これでレアアイテム出さなかったら、正直泣くぞ」
『ハンカチ、必要でしょうか?』
……。いらねーし。
なんていうか、さすがと言うべきか。受付嬢には冗談がまったく通じない。
全てが糞真面目な返事ばかりだ。
ちょっと疲れる。
だが今は文句も言ってられない。
俺と同じステータスのお陰で回避は6割以上をキープできてるし、ゴミ火力とはいえ戦力にもなっている。
正直、これソロだとクィーンハニィのHP5割削るのに20分は掛かってる計算だしな。
クィーンハニィが上空に舞い上がり、槍を突き出して降下してきたところを、体を反転して躱し、返す刀でもって斬り付ける。
奴が振り向き様に懐に飛び込むようにして更に一閃。
そのまま奴の体を蹴り上げ、ばくてんの要領で距離を取る。
着地と同時に奴の懐へと飛び込み、気合と共に叫んだ。
「お前をぶっ倒す!」
《ブブブブ。キシェーーッ》
お?
こっちの言葉でも解ったのか、やけにご機嫌斜めなご様子だ。
っふ。親衛隊の居ない女王様なんて、哀れなもんだな。
《ブブブブブブ》
《ブブブブブブ》
《ブブブブブブ》
前言撤回。
親衛隊の居る女王様は、まるで勝ち誇っているようです。
クィーンハニィの雄叫びと共に出現したのは、三匹の蜂。
体長はクィーンの半分ぐらいだが、手には剣を握ったりしている。
だからどうやって握ってるんだっつーの。
「取り巻きとクィーンを同時に相手するのは回避率が下がって拙い。お前はクィーンのタゲを頼む」
『了解しました。カイト様は『ビーソルジャー』を倒されるのですね?』
「あぁ、そうだ」
取り巻きは『ビーソルジャー』っていうのか。確かに兵士だな。
降下してきたビーソルジャーの攻撃を横っ飛びで躱し、続いて降下してきた奴の剣を受け流して地面に叩き落す。
そのまま背中に短剣を一突きし、降下してきた三匹目に向って投げつけた。
よし、正面衝突してくれたぞ。
双方が衝突ダメージと落下ダメージを食らって、これで奴等のHPバーが2割にまで下がった。色は青から赤に変色している。
羽を切り落とし、飛行能力を奪うとあとはこちらの独擅場だ。
チクチクした剣での攻撃をたまに受けつつ、一匹にだけ攻撃を集中させ、やがて羽を失ったビーソルジャーが絶命した。
――ッピコン。
《レベルが上がりました》
《【格闘】技能のレベルが上がりました》
《【忍耐】技能のレベルが上がりました》
《【瞬身】技能のレベルが上がりました》
《レベルが上がりました》
っというシステムメッセージが浮かぶ。
一匹で随分と上がったな。取り巻きとはいえ、レベルが俺より高かったんだろう。
この調子で二匹目、三匹目も倒し終えると、レベルは4まで上がっていた。
急いでステータスポイントを振って、ゴミ火力を少しでも強化だ。
ステータスポイント15を、STRに10、AGIに5振る。
雀の涙ほどの攻撃力しか上がらないが、そこは気にしない。
「第二ラウンド、行くぜ!」
一人でクィーンハニィと対峙していた受付嬢の援護へと向う。
彼女のHPはやや削れているが、持ち堪えてくれているようだ。
取り巻きを召喚させまくってレベリングという手も思いついたが――
『それは不可能です。このレベル帯のレアモンスターは、取り巻きを一度しか召喚しませんので』
「っち。安易なレベリングはやらせないってシステムか。まぁその方がレアモンスターの独占とかされなくっていいんだけどな」
急降下してくるクィーンハニィの勢いを殺すようにして鷲掴みし、巴投げの要領で投げ飛ばす。
羽をばたつかせている間に、受付嬢が駆け寄って奴の羽を切り裂いた。
よし、上手いぞっ。
《【格闘】技能のレベルが上がりました》
《技能スキル『巴投げ』を修得しました》
はいはい。技能はあとでチェックするから、視界を塞ぐなっ。
奴は既にHPバーが真っ赤になり、羽も失って細い足で立ち上がって槍を構えている。
「うらぁっ。死にやがれ!」
『死んでください』
俺と受付嬢が交差し、クィーンハニィを切り刻んでいく。
残った羽が取れ、足が取れ、そして――
「これで最後だどりゃっ!
そう言って、奴の懐に飛び込んで短剣を突き立てた。
《ギエエエエエエエェェ》
昆虫の癖に断末魔の悲鳴を放つクィーンハニィが地に倒れた。
途端に鳴り響くシステム音。
《レアモンスターの最速討伐者となりました。称号『レアモンスター最速討伐者』を獲得しました》
《レベルが上がりました》
《レベルが上がりました》
『おめでとうございます、カイト様。現時点でレアモンスターの討伐に成功したのは、カイト様のみです。よって、称号が与えられました』
称号……クローズドには無かったシステムだな。
現時点でレアモンスターの討伐に成功って、まぁ普通に考えれば当たり前だろう。
今の時点でレベル5のプレイヤーなんてまだ居ないだろうし、この場所だってクローズドでも知られてなかったんだ。
「なぁ、レアモンスターの配置って、ここ以外にも初期エリアにあるのか?」
この問いに受付嬢はやや間を置いてから答えた。
『今のご質問に関してはお答えできません』
つまり、それを答えることで俺が他のプレイヤーにとって優位な立場になるから――だろう。
まぁいいや。
「さっさとドロップを回収するか。レアがあると良いんだが」
『左様でございますね』
俺と受付嬢は互いにタブレットを呼び出し、倒れているクィーンハニィへと向ける。
こうすればドロップアイテムを回収できるし、回収が終わればモンスターの死体も消える仕様だ。
けど、あんまり長く死体を放置しすぎると、勝手に消えてしまうので回収し損ねないよう注意が必要になる。
「っと、取り巻きの分もさっさと回収しねーと。制限時間って何分に設定されてたっけ?」
『5分です。しかし、この度の経験から見るに、高レベルになればなるほど召喚モンスターを倒してから本体を倒すまでに有する時間も長くなるでしょうし、調整は必要かもしれません』
「そうだな。ソロだったり今みたいなペアみたいだと、オチオチ回収してる余裕もないもんな。改善されればプレイヤーが喜ぶだろう」
『はい。マザーにご報告申し上げて、改善の検討をお願いしてみます』
お、なかなか臨機応変に対応してくれるじゃねーか。
人工知能の役目が、不正行為の即時発見やシステムの改善っていうが、対応が早いとそれだけプレイヤーにとっても有り難いからな。
なんでも改善すりゃーいいってもんじゃないが、何もしないよりはしてくれるほうが嬉しい。
受付嬢に感心するのを終わらせ、どきどくわくわくなドロップ確認タイムだぜ。
『PTM』
パーティーメンバーの略。