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55:フラグ

「あ、あーありがとうございましましたっ」


 最後の客が俺の前から遠ざかっていく。

 作ったポーションは全て完売。売り上げは20万Gを少し超えた。

 超えたが、完売させるまでに3時間も掛かっちまった。それというのも――


『カイト様、完売おめでとうございますっ』


 どこで見ていたのか、人ごみから受付嬢が現れた。

 お祈りポーズみたいな仕草をしながら、それでも顔だけは真顔だ。

 その後ろからエリュテイアとココットが現れる。


 そう。俺は一人でポーション屋を開いていたのだ。

 否。一人でやらされていたのだっ。


「何時間掛かってるのよぉー」

「待ちくたびれちゃいましたぁ〜」


 っとか言いながら、二人は真新しい装備をちゃっかり着ていたりする。

 俺が一人で必死になってポーション屋やってる間に、おっさんの店に行って装備を受け取りにいきやがったなっ。


「なんだよっ。俺一人でポーション屋やらせておいて、待ちくたびれたって。ひでぇー」

「ぼっち脱却したいんでしょ? 自分で人との関わりを持つための作戦として生産取ったっていうんだし、売り子だって一人でやらなきゃ。どう? 少しは人と話するの、慣れた?」

「いや、なんつーか……いらっしゃいませ、何個買いますか? ありがとうございました。この流れしか……」


 案外、俺が思っていたほど会話は弾まないもんだ。

 そりゃそうだよな。目的はポーションだけなんだし。

 この前のラーメン屋みたく、食ってる時間がある分、店主と顔を付き合わせてる時間も長くなるし。

 ポーション屋なんて、どれにしようかとか選ぶ時間も無いもんな。


 エリュテイアの提案で一人ポーション屋をやらされた訳だが、最初はまったく声も出せず、道行くプレイヤーからも不審人物を見るような目を向けられていた。

 そのうち、今までの露店で客として来た事があるっていう人がやってきて――一人客が来るとチラホラと人が集まり、そしてまた途切れる。

 これの繰り返しでようやく今、全部のポーションが完売した所だ。


「はぁー、よりにもよって作ったポーションの数が多かったからなぁ」

『ワタクシも必要分以外は売ってしまおうと、カイト様に預けておりましたしね。ライフポーションだけでも3000本はあったのでは?』

「エナジーも合わせると5000近くあったぞ。あ、こっちはお前の取り分な」


 タブレットを出して受付嬢へとお金を受け渡す。

 回復用のポーションは300本もあれば十分だからと、余りを露店に出していた分だ。


「どんな会話でも、少しずつ慣れていけばいいのよ。カイトってさ、私達とは割りと普通に会話できてるじゃない?」

「うんうん。普通ですよぉー。緊張すると面白い喋り方になってますけどぉ」

「お、面白い……ココットの感覚だけは俺、理解できねーわ」

「理解しなくていいと思う。私もズレてるなって思うから」


 エリュテイアの言葉を聞いて安心した。俺がズレてるのかと思っていたから。

 二人の言う通り、受付嬢はまぁ……NPCだし? 知ってるのは俺だけとはいえ、知っているからこそ『人間相手』じゃないから普通に会話は出来る。

 エリュテイアとココットの二人とは、最初に出会ったときこそどもった口調だったが、今では普通に会話できている。

 二人曰く――


「慣れだと思うの」

「少しお話ししてれば、その人とは慣れてちゃんとお話しできるようになるんですよ。ほら、ナツメさんともそうだったじゃないですか」

「そ、そうなのか。初対面だと緊張して上手く喋れないだけで、時間が経てば平気なんだな」

『なるほど。それで、カイト様一人に売り子をさせる理由は?』


 そうそう。行き成り一人にされて、めちゃめちゃ緊張したぞっ!


「他人との強制会話に慣れさせるため。売り子なら、あれこれ世間話しなきゃいけないわけじゃないから、なんとかなるんじゃないかなと思って」

「いろんな人の応対に慣れれば、きっと初対面の人相手でもお喋りできるようになりますよっ」

「そ、そんなもの、かな?」

「「そんなものよ」ですよ」

「そ、そうか」

『なるほど。カイト様、頑張ってくださいね。ワタクシは遠くから見守っておりますので』


 やっぱ見てたのかよっ!

 まぁいい。

 確かに二人が言う様に、ポーション販売を通じて簡単な会話だけでも繰り返す事でどもらなくなってくれば……そのうち露店以外でも人とちゃんと喋れるようになるかもしれない。

 ポーション屋でぼっち脱却という、俺の当初の計画は間違ってはいなかったんだっ!






「はぁー、どっと疲れた。疲れると腹も減るもんだな。リアルと同じかよ」

『どちらかというと、そういう時間帯だから。ではないでしょうか?』

「そういえば、もう直ぐお昼ね。空腹感になる前に食べても、そのあたりのシステムに影響するのかな?」

「どうだろうな。要検証だろう。ちなみに俺もまだ『空腹』ゲージは出ていない」


 ダンジョンでの感じからすると、この後数分もすればゲージが出ると思うけどな。

 タブレットを確認すると、時刻は午前11時半。

 朝飯が早かったからか、腹が減るのも早かったな。


 食堂露店通りへと足を運び、嗅覚に任せて店を物色。

 お、この匂いは!


「ラーメン食おうぜっ」

「え? ラーメンなんてあるの?」

「私、クレープとかがいいですぅ」

『クレープ? ……薄い生地に果物やアイスを乗せて巻いたものですか。美味しそうですね』

「俺はラーメン食うぜ」

「じゃあ各自好きな物食べて、1時間後に噴水付近に集合でもする?」


 っというエリュテイアの提案に、全員が賛成して解散する。

 受付嬢もクレープにときめいたのか、ココットとエリュテイアに着いて行った。

 またぼっちか……。まぁラーメン屋で女子なんて、流行の店でもない限りあんまり見かけないしな。

 ラーメンは男のロマン!

 そのロマンを満たしてくれるのは……


「あれ? 狐のお兄さんいらっしゃい。今日は一人なんだ? メイド服の人は、もしかしてログアウトし組やったと?」

「あ、い、いや、その、きき今日は、べ、別行動中」

「あ、そうなんだ」


 博子さん、だっけか。

 美味いラーメンを作る女子。

 銀髪にも近い水色の長い髪をポニーテールにし、三角巾ってヤツを頭に巻いている。

 やや大きな瞳はオレンジ色で、明るく元気なという印象を受ける。

 際立って美人なキャラメイクって訳じゃないんだが、既に固定ファンというか客が付いているようだ。


「博子ちゃん、南の港町サイノスじゃ、新鮮な魚が釣れるらしいぜ? 魚介とんこつとか、どう?」

「魚介かー。でも下処理が凄く難しそうだし、魚介とんこつは邪道だと思うとよ」

「だよなだよなーっ! そんな奴の話は無視して、東の草原にイノシシが居たんだよ。レベルがちょっと高くて手出せなかったけど、今度一緒にどう?」

「あははぁ~。私、レベル18やけん無理ー」

「イノシシなんて俺が一人で狩ってやるよ。骨、持ってくるからね」

「えぇ、本当! イノシシか、とんこつスープになるかなぁ」


 もうね、ひっきりなしに話しかけられてるよ。

 コミュ力高い人って、すげーな。

 そんな事を思いながら、注文したラーメンをずるずるとすする。

 今日もメニューは『しょうゆラーメン』だけ。

 客との会話を聞く限り、みそラーメンが近日中というか、明日にでも出来そうだって話しだ。

 それは楽しみだ。


 けど、彼女の目的はとんこつラーメンっぽい。

 とんこつかー。豚の骨だよなー。

 豚、まだ見てねーな。

 普通に居てもおかしくないんだがなー。モンスターとかじゃなく、家畜として。

 どっかに農村地帯でもあれば……

 そうだ! こんな時こそNPCの知り合いだ。


「ご、ごっそさん」

「は〜い、まいどでーす」


 忙しくてもお礼を欠かさない博子さん。

 見習わねば。

 金を払って工房方面へと足早に向う。

 集合時間までまだだいぶあるし、情報収集するには十分だろう。


 防具屋を見つけて中に入ると、珍しくばーさんではなくソルトがカウンターの奥に居た。

 相変らず客は居ない。


「今日はばーさんじゃねーんだな」

「カイトか。ばーちゃんは近所の寄り合いに出かけてんだ」


 近所の……NPC同士集まって何するってんだ……。

 っと、そんな事よりも、だ。


「なぁソルト。豚って知ってるか?」


 まずはNPCの知識がどんなものか聞かなきゃな。

 そもそも『豚』という名前の動物がいねーかもしれねーし。


「豚? 肉になる、あの豚か?」

「そ、そう。ブヒブヒ言うヤツな」

「俺を馬鹿にしてるのか? 知らない奴がこの世界に居るとでも?」

「あーいやいや、その豚がどこに居るか知ってるかって話しだ。俺は知らないもんだからさ、ソルトが知ってたら助かるんだけどなーっと」

「なんだ、そういう事か。ここから北のサラーマっていう町に行く途中に村があるから、食用の家畜がいろいろ飼育されてるよ」

「おぉ、マジか」


 なるほど。北に向うプレイヤーは少ないから、まだ知られて無いんだな。

 行ってみるか。


「ただし――」

「ん?」


 お礼を言って出て行こうとした俺に、ソルトがやや真剣な面持ちで呼び止めた。


「最近は食用肉が高騰してきてんだ。理由は解らないが、たぶん」

「たぶん?」

「森に居るモンスターどもが家畜を襲ってるんじゃねーかな――と思うんだ」


 おっと、ファンタジーご定番の家畜襲撃だな。

 何かしらのイベントでも発生しちゃうか?


 ちょっと待ってみたが特にシステムメッセージも出ないな。


「まぁ詳しい事は冒険者ギルドにでも行くと、話を聞けるかもしれないぜ」


 っと言ってソルトは手を出す。


「おい、まさか金取る気か?」


 にやりと笑うソルト。

 っ糞。イケメンのくせしやがって、性格悪ぃーんだよ!

 ダンジョンで拾った鉄鉱石を幾つか渡し、店を出る。


 冒険者ギルドか。

 そういえば実装されてから一度も行ってねーな。

 転送装置ってヤツを使うためにも、ギルドに登録しなきゃならねーっていうし。

 どうせならエリュテイア達も連れて行っておくか。


 あ。

 ムーンモスの繭、買い取って貰うのすっかり忘れてたぜ。

 まぁ、また今度にするか。

博子ちゃんの方言を少し修正。 一応北九州弁のつもりなんですっ。

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