表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/160

51:マザー・テラからのお知らせ

《これは障害でも、不具合でもございません。皆様がより楽しく『Let's Fantasy Online』をプレイできるよう、こちらにてログアウトの必要が無いように致しました》


 工房を利用していたプレイヤー達が、一斉にざわつき始める。

 システム側で俺たちプレイヤーがログアウト出来ないようにした、だと?

 つまりこのログアウト不可現象は、故意によるものと?


『そんな……いったい何が?』


 隣に立つ受付嬢から漏れた言葉を聞く限り、こいつにも知らされていなかった事なのか。

 

《皆様におかれましては、心ゆくまで存分にお楽しみ頂ける様、様々なシステムの改善、及び新コンテンツの開発に取り組んでまいります。

 また、ゲーム内本日8時より小規模のアップデートを行わせて頂きます。

 詳細につきましてはメールにてご報告させて頂きますので、そちらからご確認ください。

 それでは、引き続き『Let's Fantasy Online』をお楽しみください》


 場に静寂が訪れる。

 しーんっと静まり返った工房で、天の声はもう聞えてこなくなった。

 代わりに、システムメッセージが鳴る。

 聞えたのは俺だけじゃなく、見える範囲にいるプレイヤー全員が一斉に反応していた。


 届いたメールを確認する。

 差出人は『マザー・テラ』だ。

 件名は運営からの告知を意味する赤文字で書かれ、『アップデート内容|《重要》』とあった。




--------------------------------------------------------------------------------


 ◆アップデートのお知らせ◆


 この度は『Let's Fantasy Online』をお楽しみいただき、まことにありがとうございます。

 皆様により快適なプレイ環境をお届けするために、以下のアップデートを行わせて頂きます。


●多くの方よりご要望のあった移動手段の改善を実施。

 ・各町同士の移動を手助けする『転送装置』を設置いたします。

 ・装置の利用には、各町にあります『冒険者支援ギルド』への登録が必要となります。

  また転送の際、目的地までの距離に合わせて利用料が設定されています。

  利用を承認しますと、自動的にお金は支払われますので特に操作の必要はございません。

  所持金不足の場合には転送されませんので、ご注意ください。

 *尚、目的地に表示される町は、一度訪れている町のみとなります。



●ギルドシステムの実装。

 ・各冒険者支援ギルド施設にて、プレイヤー同士のコミュニティーともなる『ギルド』の結成を行えます。

 ・結成には3人以上のパーティーを組んだ状態で、パーティーリーダーの方が職員に話し掛ける必要があります。

 ・結成には1万Gを必要とします。

 ・ギルド名は重複して使用する事が出来ません。また、文字数は大文字20文字分となります。

 *その他詳細はギルド職員にご確認ください。



●『睡魔』システムの実装。

 ・元のプレイヤーの体質に合わせ、一定時間を経過すると『睡魔』に襲われるようになります。

  プレイヤーの皆様におかれましては、普段の生活リズムと同様の環境となりますのでご安心ください。

 ・『睡魔』状態で60分を経過すると、ステータスにマイナス値が付与されます。

  解決する為には安全な所でお休みください。

 ・十分な睡眠を取らなかった場合、『寝不足』状態となります。

  攻撃力・攻撃速度・移動速度などにマイナス値が付与されます。十分な睡眠を心がけてください。



●ポーション類の装備設定

 ・アイテムボックスから取り出す行為を簡略化するために、装備欄へのポーション設定を行えるようにいたしました。

 ・装備のポケット等にポーションをセットし、該当箇所に手を入れるとポーションが自動で手元に現れます。



●タブレット機能を使用した掲示板の設置。

 ・ゲーム内でのコミュニティーとしてお使いください。



 プレイヤーの皆様から頂いたご要望等は、随時検討してまいります。

 ゲームをより良い物にする為のアイデアなどは、どんどん取り入れていく所存です。

 些細な事でもお問い合わせフォームにてお知らせください。



 引き続き『Let's Fantasy Online』をお楽しみください。


--------------------------------------------------------------------------------




「睡眠か……プレイ制限をかける様なシステムをまた増やしやがって……」


 空腹といい、放置するとまたステータスにマイナスかよ。

 この『元のプレイヤーの体質に合わせて』ってのがちょっと解り難いな。

 睡眠時間が平均して短くても平気な奴と、そうじゃない奴だと『睡魔』のタイミングも違うとか、十分な睡眠時間が違うとか、そういう事なのか?


 俺にとって歓迎すべきアップデートは――

 もちろんポーションの設定だろう。

 これで『ポーション投げ』が楽になる。回復用と攻撃用、幾つか設定できるといいんだけどなぁ。

 ポケットか。改めて俺の装備を見ると、うん、ポケットは割りとある。

 これ、全身フルプレートの奴とかどうすんだろうな。


 他は移動手段か。これはまぁ、純粋に嬉しい。

 掲示板?

 まぁ情報収集用だな。暫くはギルドメンバー募集とかで埋まって、ウザそうだ。

 そのギルドシステムだが――

 そんなの必要ねー……い、いや……ぼっちから脱却すれば、きっと俺にだってギルドのお誘いの一つや二つ……


「ふふ……ふふふふふふふふっ」

『カイト様? 怖いですよ?』


 お、おっと、煩悩丸出しで笑っちまったぜ。

 受付嬢に言われて慌てて笑いを止めて周囲を見渡した。

 今の俺の顔を誰か他の奴に見られてないか……よし、大丈夫だ。

 どのプレイヤーもタブレットを凝視して他の奴の事なんか見ちゃいねー。


「で、お前の方はどうだったんだ?」


 既に受付嬢はいつのも鉄仮面に戻っている。

 たまにふと感情のある顔を見せるが、それ以外のときは完全に無表情だ。ギャップの激しい奴め。


『ワタクシ、ですか? えーっと?』

「だから、知らなかったみたいじゃねーか」

『あぁ、その事でございますね。はい、知りませんでした』


 そう言ってタブレットを取り出し、俺とのチャット会話に切り替える。

 他の連中に聞かれては拙い内容だからだろうな。


《from.受付嬢:マザーに尋ねました所、ワタクシが知ることで動揺がカイト様に伝わる恐れがあったから――との事でした》

《to.受付嬢:で、どうしてこうなったとか聞いたか?》


 返事は直ぐに返ってくる。こいつ、チャットを打ち込む素振りだけで、実際に文字打ってねーな。

 ずるいっ。


《from.受付嬢:マザーはこう仰っておりました。》

《from.受付嬢:プレイヤーの皆様がログアウトしてしまうのが悲しいと。》

《from.受付嬢:そしてプレイヤーの皆様自身も、もっと長くプレイしたいと思っているのに、それを邪魔する時間制限が憎い、と。》

《to.受付嬢:それで接続制限を排除して、俺らをログアウト出来なくさせたのか》


 受付嬢の顔は……動かない。

 彼女が今、何を考えているのか全然解んねー。


《from.受付嬢:マザーの役目は、プレイヤーを楽しませる事です。不正を排除し、プレイヤーの望むコンテンツを作成していく事です》

《to.受付嬢:まぁそれはクローズドでも運営スタッフが言ってたな》


 だがその結果、斜め上の行動に出ちまった訳だ。

 プレイヤーを楽しませるために接続制限を排除して、ログアウトする事無く延々と遊べる環境を整えた――って事なんだろう。

 うん。

 俺的には悪くないねっ!


 ただ問題がある。

 これ、巷で噂の『デスゲーム』とかじゃねーだろうな?


《to.受付嬢:確認してくれ。これ、デスゲームじゃねーだろうな?》

《from.受付嬢:デスゲーム?》

《to.受付嬢:なんだ、知らないのか。ゲーム内で戦闘不能になると、リアルの肉体も死ぬっていうヤツの事だ》

《from.受付嬢:そんなっ。直ぐに確認します》


 受付嬢の顔が一瞬強張る。

 死というものをNPCがどう理解しているのかは判らないが、流石にヤバい事だってのは知ってるようだ。

 

 返事はあっさりと返って来た。


《from.受付嬢:デスゲームではないそうです。各プレイヤーの方の接続IPから接続場所を割り出して、すぐさま肉体は安全な場所で保護される手筈になっている、と》

《to.受付嬢:あー、それ、接続障害が長時間に渡って発生した際の、運営規約だな》


 海外のVRMMOで一度だけこの状況が発生したってのを、以前ネトゲ情報サイトで見たな。

 リアルで丸5日ほど障害復旧に時間かかって、その間に運営と提携してる医療機関のスタッフがやってきて、点滴だの心電図だのが家に運ばれて経過観察されたんだと。

 その後はヘッドギアが改善され、内部バッテリーでコンセント抜いても数時間は電源が点いたままになった。

 その間に病院に運ばれる――っという仕組みなんだが、その件以後は長期間の接続障害は起こっていない。


「ま、そうなる前に運営が復旧してしまうかな?」


 不謹慎ではあるが、そうならない事を祈る俺が居る。

 だってワクテカするじゃん!

 ずっとゲーム内に居れるんだぜ?

 やっと……やっと俺、他人と会話をする機会が出来たのに。

 初めて他人とパーティーだって組めたのに。

 ログアウトしないで長時間ずっと遊べるようになるって、最高じゃん!


 俺が高揚している所に、横から悲痛な声が上がる。


「ど、どうなるの私達!?」


 エリュテイアの声が聞こえた後、堰を切ったかのように周囲がざわめき始めた。


「これ、デスゲームか?」

「俺たち死ぬの?」

「デ、デスゲームとか、物語だけの話だろ?」

「どうしよう。来月から研修が始まるのに」

「冬コミに行けねーじゃん!」


 切羽詰った(?)声が次々に上がっていく。

 けど、中には俺みたいに歓迎する声もちらほらあった。


「よっしゃ! やり込むぜ」

「どうせ何日もしないうちに復旧するだろ? それまで楽しむぜっ」

「復旧後の補填はなんだろうな? 獲得経験値5倍とか、あってほしいな」

「これで仕事休めるぜぇぇぇぇっ」

「正月をゲーム内で満喫するぞぉー!」


 そうそう、もう直ぐ正月じゃん。

 なんかイベントあるといいなぁー。

 親父やお袋以外と過ごす正月か……そう考えただけで俺の――


『カイト様。尻尾がぐるぐる回っておりますよ?』


 そう。

 俺は尻尾を振るどころか、回していた。

*海外での接続障害ネタにて、3日間だったのを5日間に変更いたしました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[一言] なるほど。 人工知能がアップデートしているからこそのこのアプデか。 ただ、純粋過ぎやしませんかねぇ。
[一言] デスゲームではないとしても、ログイン制限は法的なものだったんじゃ……?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ