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46:うっかりではありません。臨機応変なのですっ。

 鉱山へと向う途中の平原。

 薄暗くなったフィールドには、昼間見た芋虫の姿が消えていた。代わりに狼や蛾のモンスターが徘徊している。

 そいつらを蹴散らし、急いで鉱山を目指す。

 匂いに釣られてラーメン食ってたぶん、時間をロスしちまってるからな。


「もう誰か鉱山ダンジョンクリアしてるんだろうなぁ」

『現時点では、まだ攻略者はいません』

「マジか!」

『はい。攻略者が出ましたら、先ほどのようなアナウンスが出ますので』


 あ、なるほど。

 何かしら最初の一人が現れると、アナウンスが入る仕様になったのか。いや、そういう仕様だったのか?

 まぁいいやどっちでも。


 気合を入れてフィールドを走る。

 いつになくからだが軽く、力が漲っている気がする。


「なぁ、ケモミ族は夜の方が、その、こう、なんつーか、動きが俊敏になるとか、あるのか?」


 直ぐ隣を走る受付嬢に尋ねる。


『いいえ、そういう設定はございません。もし移動速度が速くなったように感じるのでしたら、料理の効果ですよ』

「料理? あ、そういやステータスボーナスが付く料理があるって、アップデートにあったな」

『はい。パーティーを組めばバフアイコンが表示されますので解りやすいかと』


 なるほど。

 さっきのパーティーは、エリュテイアがリーダーをしていたので解散した後だ。

 改めて受付嬢とパーティーを組みなおし、視界隅に出てくるパーティー一覧に目を向ける。

 俺の名前が一番上に来て、その下が受付嬢だ。

 お互い、二つのバフアイコンが付いていた。


「マッスル・パワーと韋駄天か。まぁ名前通りの効果なんだろうな」

『はい。STR+5効果と、移動速度+8%上昇ですね。アイコンに指先を合わせると、残り効果時間も表示されます』

「おぉっ。あと2時間あるな。あれから1時間ぐらい経ってるし、効果時間3時間か。結構なげーな」


 こりゃありがたい。

 周囲に他のプレイヤーが居ないときは、近づいてくるモンスターも無視して走り続ける。

 何度か戦闘はしたものの、予定より早く鉱山へと到着した。

 入り口には多くのプレイヤーの姿が見える。

 ここで飯を食ってるパーティーも居れば、鉱石の買取を叫んでるプレイヤーも居る。ここなら安く買い叩けると思ったんだろうな。


「よし、入るぞ」

『はい』


 夜目を持つ俺が先に入り、受付嬢を先導する形で進んで行く。

 尤も、カジャールの町でランタンを買って来ていたので暗闇ではない。

 その上、『寂れた鉱山』までは他プレイヤーとも共有エリアだ。あちこちランタンの灯りやら、魔法の灯りが見えてそれなりに明るい。


「ランタン、いらなかったかもな」

『備えあればと申しますし。あって困る物でもないですから』

「そうだな。俺はまぁ良いが、お前は真っ暗だと困るだろう」

『……お、お気遣いくださり、その、ありがとうございます』


 ん?

 なんか、凄く、NPCらしくない返事、だな?

 振り返って後ろを歩く受付嬢を見ると、視線を落とし、なんだか元気の無さそうな表情をしている。

 いや、元気の無さそうな表情すら、こいつとしては不自然だ。

 学習の成果なのか?

 だとしたら、なんで元気が無いんだ?


「お、おい。どこか具合でも悪いのか? もしかして食って直ぐ走ったから、横っ腹が痛むのか? まさかそんなもんまで実装されてんのかっ」


 っ糞面倒くせーアップデートしやがって。


『え? あ、あの、違います。ど、どうしてそのように思われたのでしょうか? ワタクシがどこか悪そうに見えましたか?』

「はへ? ち、違うのか? いや、その、俯いて歩いてたし、いや、なんか、そう見えた」

『さ、左様でございましたか。ご心配をお掛けして申し訳ありません。

 あ、それでその、カイト様のお気遣いが、その、嬉しく……、どういう顔をしていたのかはワタクシにも解りませんが、どこにも異常はございませんので、ご安心ください』


 な、に?

 俺の気遣いが、う、嬉しかった?


 俺、受付嬢の事をいつ気遣ったんだ?

 ……考え中……考え中。

 答え:解りません。


 ま、まぁ彼女が喜んでいるんだ、いいじゃないかそういう事にしておけば。


 それにしても、気遣うって、どんな事だろう?






 2度目の『寂れた鉱山ダンジョン』地下一階部分はあっさりと攻略。

 二人になったものの、お互いプチ堅い盗賊だし、装備も充実している。

 加えて優秀だったのが――新しく取ったスキルだ。


「5匹セットか、無視しよう。『クローキング』」

『了解しました。『クローキング』』


 二人揃って姿を消し、音も無く歩いていく。

 パーティーを組んでいると、仲間の姿が半透明になって見えるもんだな。

 このスキルは『ハイディング』っつー、姿を消して敵が通り過ぎるのをじっと待つっつースキルの派生版で、『クローキング』の方は移動も可能になる。

 ただし、『クローキング』中は喋れないし、スキルも使えないし、もちろん戦闘も出来ない。

 出来ないと言うよりは、それらの行動を取ると『クローキング』が解除される仕様というべきか。

 このスキルを使って、不要な戦闘は避けれるようになるって訳だ。

 制限時間もあるし、使用中は秒単位でMPがゴリゴリ削れるから多用はできねーけどな。


 モンスターをこうやってやり過ごし、ゴブリンリーダーの居た場所までやって来る。


「やっぱパーティー組みなおしたから、ゴブリーダーが復活してやがるな」

『左様でございますね。レアモンスターと違って、ダンジョン内のモンスターは、生成される度に復活しますから』

「まぁだからこそダンジョン攻略が装備集めの要になるんだけどな。じゃ、作戦通り行くぜ」

『はいっ』


 まずは俺が飛び込み、手下2匹に攻撃を仕掛ける。

 すぐさま受付嬢がゴブリンリーダーを攻撃して、タゲを確保。

 俺が手下を倒す間に、彼女がリーダーを引き受けてダメージヘイトを蓄える寸法だ。


『ワタクシは攻撃に専念しますので、カイト様はリーダーへの『スティール』もお願いいたします』

「解った。けど、LUKが低いから成功率がなぁー」


 っとぼやきながら手下を倒し終え、『スティール』をするべくリーダーに駆け寄る。

 まぁ簡単には成功しないだろうから、その間に受付嬢が十分にダメージヘイトを稼ぐだろう。

 今回は受付嬢がタンクで、俺がアタッカーだ。

 後半戦になってからの『炎傷』タックルに、『ポーション投げ』で対応するためだ。

 俺が『リカバリーポーション』で状態異常を解除、受付嬢自身がライフポーションを飲んでHP回復。というやり方だ。


「って訳で、最初の『スティール!』」


 チャリン――っという音が俺の耳に聞こえる。

 ……なんてこった。

 どうして時間を掛けたい時に限って、一発目で成功するんだろっ!


『お、おめでとうございます?』

「あぁ……すまん」

『お気になさらずに』


 やや引き攣った笑みの受付嬢は、MPをフルに使ってスキルコンボを叩き込んでいく。

 せめてエナジーポーションでも投げておこう。

 尚、盗んだのは金髪――だった。

 改めてリーダーを見てみると、心なしか髪が薄くなっているような……いや、気のせいだろう。






《フゴォォォォォッ》


 ゴブリンリーダーの断末魔が木霊する。

 今回は武器破壊も無く、無事に討伐に成功した。

 それと同時に奥の壁が崩れ、地下へと続く隠し階段が現れた。


「よし、アイテムを回収して、MP回復したら降りるぞ」

『はい。修理スキルを修得しましたのに、なんだか残念です』

「やめてっ。そこで俺の武器を見るのはやめてっ」


 うっとりしたような目で俺の腰を見つめるなっ。そんなに修理したけりゃ、自分の武器を壊しやがれっ。

 マジ見ないでぇー。


「か、回収だ回収っ」

『はい。……くす』


 い、今笑いやがったっ!

 なんだ、この敗北感は!?

 と、とにかくアイテムの回収が先決だ。さっきは素材しか出なかったからなぁ。しかもレアな金髪が二束……。使い道は、やっぱ裁縫なんだろうな。

 で、今回はと言うと――


「ん? 腕輪? これアクセサリー扱いなのか」

『おめでとうございます。腕輪もアクセサリーですね』

「お、なかなかいい効果じゃんか」


 タブレット画面に映るアイテム情報には、

『門番の腕輪』装備レベル25。STR+8、DEX+8、防御力+25とある。

 特殊効果として、火属性攻撃を15%吸収――とある。ダメージ受けても、15%分は回復するって事か?

 まぁ要検証だな。


「っふふふ。レア装備がまた一つ増えた。なかなか順調にレアだのミドルレアだのが揃うなぁ。今回はレア運に恵まれてるぜ」

『よかったですね。しかし、レアモンスターを倒していれば、レア以上の装備が揃ってくるのも必然ですし、寧ろレアモンスターにこれほど遭遇できているのが幸運かと』

「ん? 必然?」

『はい。レアアイテムは、レアモンスターやダンジョン内に配置されたボス属性のモンスターからのみ出ます。レアモンスターはその数が少ない事から、レア級アイテムが必ずドロップする設定になっておりますので』

「うへ、マジか。ってか、そんな事喋って大丈夫なのか? お前って、ついぽろっとプレイヤーにとって有利になりそうな情報を、喋ったりしてるだろ」

『え? あ、いえ、あの、その――』


 急にうろたえ始める受付嬢。

 顔を真っ赤にして、頬を隠すような仕草であたふたしている。

 その動きがはたと止まると、真顔になって、


『あ、大丈夫です。情報にはランクがございまして、下からB、A、Sとなり、Bはお話しても一切支障の無い情報。Aは支障は無いものの無条件で教えるべきではない情報で、オブラートに包んでお話しさせて頂いております』

「Sは?」


 ここで受付嬢は、人差し指を口元で立てて――


『シークレット――です』


 っと、蒼い瞳を細めて妖しく微笑んだ。

 いつのまにこんな表情まで覚えたんだ……っごくり。

 い、いや待て。べ、別に魅入ったりしてねんだからなっ!


「いいいいいい行くぞっ。おおおお俺たちのももももももも目的は、ちちちちちじゅっかぶへっ」

『噛みましたか?』

「ううううふへー、かんれねー。ひゅーボフ目的しゃねーんらよ。さっさと降りるろ」

『思いっきり噛んでいらっしゃいますね』


 うっうっ。痛ぇー。

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