45:ラーメンつけ麺オレぼっち
「飯食うのか?」
『そろそろ空腹時間になりませんか?』
「いや、まだなってないけど……」
受付嬢がそう言うなら、そろそろ時間になるのかもしれない。
タブレット時計は18時を示している。
現実的に考えると、まぁ確かにそろそろ腹が空き始める時間かもな。
「少しでも早くダンジョン攻略してーんだけどなぁ」
『でしたら、ナツメ様のようにサンドイッチなどをお買いになって、お持ちになればよろしいのでは?』
「おぉ! そうだよな。んじゃー……」
プレイヤー専門の露店が立並ぶ通りへと向うと、今朝よりもまた一層その数が増して賑やかになっていた。
やっぱ空腹感の実装故だろうな。食い物屋が随分増えている。
それなりに露店も整理されてて、中央の噴水広場から西と東側に食い物露店が密集。残りの南が物品露店だ。
時間もあってか、食い物露店が並ぶ通りは、かなりのプレイヤーでごった返している。
「手軽に食えるっつったら、一番はおにぎりか」
『おにぎりですか? 見える範囲には売っている露店は無さそうですね』
っち。たぶん売り切れてたりして店じまいしてんだろ。
さっさと買ってダンジョンに向かいたいんだが……。
そう思って辺りを見渡す俺の鼻が、なんとも懐かしく感じる匂いを捉えて離さなくなった。
こ、この香りは……
「ラーメンか? こんなファンタジーな世界でラーメンとか、似合わないだろ」
そう思いつつも、匂いを振りほどけないどころか、ぐいぐい引き寄せられてしまう。
ふらふら~っと誘われるがまま歩くと、10人ほどが列を成した露店を発見。
『カイト様、どうかなさいましたか?』
「ラーメンだ……」
『ラーメン?』
隣の受付嬢を無視し、俺は列の最後尾に並ぶ。
彼女も当然のように俺の後に付いて列に並んだ。
こいつは知らないだろうな。ラーメンというものの味を。美味いんだぜ。まぁ店によりけりだが。
あ、最近のインスタントもマジ美味い。
まぁ俺ん家はお袋が栄養士だってのもあって、インスタントラーメン食ってると怒られるんだけどさ。
栄養が偏るでしょ! ってな。
バランスの良い飯のお陰で、俺も体脂肪率10%を維持できてるから逆らえないんだよなぁ。
バイト帰りにこっそり食うラーメン屋が、これまた美味いんだ。
あー、思い出したら涎が……。
『カイト様。お口から液体が漏れていらっしゃいますが』
「……そこは『液体』って言うなよ。なんか余計に恥ずかしいっつーか、なんつーか……」
しかも列に並んでる客が一斉に振り向いて、俺の顔をガン見するし。
慌てて涎を拭いて何食わぬ顔で明後日の方角を見て誤魔化す。
ざわざわとする会話の中に「ケモミの男だと?」「チートか何かか?」というような声もちらほら。
っふん。じょ、情弱の戯言なんて、全然堪えねーもんっ。
内心ちょっぴりビクビクしながら順番を待っていると、ようやく俺たちの番になった。
「いらっしゃ――わぁー、ケモミの男の人だわっ」
ッビク!
まさにラーメン屋の屋台然とした露店の向こう側から声を掛けて来たのは、人族の女。
その彼女が俺を見るなり行き成りそう叫んだ。
嬉々とした彼女とは違い、俺の心臓は飛び出さんばかりにバクバクしている。
チートじゃねーぞ、これはクローズドベータの特典で――
「それってクローズドベータの特典にあるっていう、ケモミ族男の種族解放なんでしょ?」
「え? そ、そうだけど、あ、知ってる?」
「うんうん。wikiにもそういう情報あったから。見るのは初めてっちゃけどね~。希少種族が見れてラッキー♪」
ラ、ラッキー?
そ、そう言ってもらえると、ちょっと照れるなぁ。
「あはは。尻尾もよく動くねー」
「は、ははは。で、できればこれは、見ないでくれ」
「むーりー。あははは。ところで狐さん、メニューはしょうゆしか無いんだけど、いい?」
「あ、いい、いい。ラーメンは、な、何でも好きだから」
「そっちのメイドさんは?」
『メイド? ワタクシの事ですか?』
こいつ以外にメイド服来た奴がどこにいるんだ?
きょろきょろする受付嬢に、店主の女は笑いながら頷く。
『あ、はい。しょうゆなるもので結構です。できましたらワタクシの事は受付嬢とお呼びください』
「あはは、りょうかーい。そのメイド服アバターも特典でしょ? しかもどっちもレア度高いアイテムやったはず」
『はい。確率的には非常に低いアイテムですね』
「二人してそんなの引き当てるなんて、凄いわぁー」
「あ、いや、たまたま……」
『はい。レアアイテムを引き当てた者同士、目立っていたのが縁で知り合いました』
「あら、元々知り合い同士じゃないんだ?」
『はい』
「そそそう!」
受付嬢ナイス!
そうだよ。お互いレア物ゲットして目立ってから、偶然知り合った。これでいいじゃん!
周囲でラーメンを啜っていた奴等をチラ見すると「なんだそうかよ」みたいな顔をしている。
いいぞ受付嬢。なかなか学習してるじゃないか。
会話をしながらも店主はてきぱきと作業を進める。
大きな鍋で麺を茹で、茹でつつ器に黒っぽいタレのようなものを入れ、別の鍋で沸かしたお湯を注ぐ。
その中に茹で上がった麺を入れ、薬味を添えて完成。
「おぉ! チャーシューがある!」
「そういうの、NPCが売ってくれるっちゃよ。お陰でコストが高くなるんやけど」
っという店主は苦笑いを浮かべている。もしかしたらあんま儲けが無いのか?
そ、そうだ。ココットを習ってズバリ突っ込んでみよう。
「あの、儲けとか、その、あんま出ない、感じ?」
「ん~。今のところほとんど全部NPCから素材買っとるけん、赤字にならないギリギリラインばい」
「ギ、ギリギリか。それでも、料理するんだ?」
「うん。今まで狩り専プレイしてたけど、気まぐれで生産しはじめたらすっごく面白くって。今回はこっち専門でやってみようと思ったんよ。あと、とんこつラーメンを手造りしたい! 子供の頃からの夢やったんよぉ~」
と、とんこつラーメン……何故そこ限定?
「博子ちゃんのとんこつラーメンなら、絶対上手いよっ」
「完成したら毎日食べに来るぜ」
「博子ちゃん、やっぱ博多っ娘なんだ?」
っと、続々と客から声が掛かる。
そうか、彼女は『博子』っていうのか。
博多と言えばとんこつラーメンだよな。まぁ食ったのは地元の東京で一度だけだが。なんか思ってたんと違うっていう感じの味だったな。
お客の言葉に「ありがとう」とか「違うよー」とか言いながら、店主は次々に麺を茹でていく。
喋りながらきっちり仕事をこなすとは、今まで狩り専といいつつ、なかなかやるなぁ。
ラーメンを堪能しながら客と博子さんの会話に耳を傾ける。
お客のほとんどは男で、彼らは自分達の話を、まるで武勇伝のように彼女へと聞かせていた。
彼女もそれを楽しそうに聞き、時折相槌をうったり突っ込んだりしている。
いいなぁー。客とこんな風に会話できるって。
俺の場合、ポーション売ったらそれでお終いだし、客を長く滞在させる要素がどこにも無ぇー。
生産技能は『料理』にするべきだったかなー。
けど、俺が包丁持ってる姿とか、どうやっても想像できねー。っつーか怖ぇー。
あぁ、それにしても美味いなこのラーメン。
ってかラーメンとか作れるんだ?
それを尋ねてみると、オリジナルの創作料理っつー項目があるんだと。
「修得してるほかの料理からヒントを得て、調味料系を替えたりする程度なんだけどね。ラーメンはパスタのアレンジなんばい」
「ばい?」
「あー、これ北九州弁。福岡の一番東のほうの方言」
「そ、そうなんだ」
方言か……なんかいいよな、方言って。
ちょっとくすぐられる。
創作かぁー。これ聞くと、やっぱ俺に『料理』は無理だなと思う。
これだけ美味いしょうゆラーメンが作れるなら、とんこつの方も気になるな。
けど、まだメニューはしょうゆ一択。増やせない理由でもあるのだろうか?
「あ、あの、とんこつ、ラ、ラーメンって……」
頑張って話しかけようとした時、隣の男と視線が合った。
その男は俺の事を睨みつけた後、勢い良く立ち上がって博子さんに熱く語りだした。
「博子ちゃん、俺絶対に豚探してくるよっ! 南にはそれっぽいのが居なかったが、次は東に行くぜっ」
「いや、俺が見つける。一番最初にとんこつラーメンを食うのは俺だ!」
「いいや俺だ」
「俺だよ俺!」
「俺だってばよっ」
続々と名乗りを上げる男共。
こいつらの俺俺合戦はいいとして、そうか、材料が無いのか。
とんこつラーメンって言うぐらいだから、スープの材料は豚の骨ってことだな。
無いってことは、NPCでも売られてないって事か。じゃードロップだな。
何て事を頭の隅に置いて、おあいそして露店を後にする。
ラーメン一杯250G。安いのか高いのかは、いまいち解らない。
夜食用におにぎり露店探すか。
「ちょ、おにぎり1000Gって、高くね?」
『先ほどのラーメン屋さんが250Gでしたし、量から考えると高いですね』
「だろ?」
ようやく見つけたおにぎり屋にあったのは、塩おにぎり一択。
しかも1000G。
誰が買うもんかっ!
「思ってたんと違う」
N○Kの子供向け番組に出てくるとあるコーナーのタイトルなんですが、なんとなくこの語呂が好きです。
意味もなく主人公を訛らせたりしてますが、作者の趣味でs




