表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/160

45:ラーメンつけ麺オレぼっち

「飯食うのか?」

『そろそろ空腹時間になりませんか?』

「いや、まだなってないけど……」


 受付嬢がそう言うなら、そろそろ時間・・になるのかもしれない。

 タブレット時計は18時を示している。

 現実的に考えると、まぁ確かにそろそろ腹が空き始める時間かもな。


「少しでも早くダンジョン攻略してーんだけどなぁ」

『でしたら、ナツメ様のようにサンドイッチなどをお買いになって、お持ちになればよろしいのでは?』

「おぉ! そうだよな。んじゃー……」


 プレイヤー専門の露店が立並ぶ通りへと向うと、今朝よりもまた一層その数が増して賑やかになっていた。

 やっぱ空腹感の実装故だろうな。食い物屋が随分増えている。

 それなりに露店も整理されてて、中央の噴水広場から西と東側に食い物露店が密集。残りの南が物品露店だ。

 時間もあってか、食い物露店が並ぶ通りは、かなりのプレイヤーでごった返している。


「手軽に食えるっつったら、一番はおにぎりか」

『おにぎりですか? 見える範囲には売っている露店は無さそうですね』


 っち。たぶん売り切れてたりして店じまいしてんだろ。

 さっさと買ってダンジョンに向かいたいんだが……。

 そう思って辺りを見渡す俺の鼻が、なんとも懐かしく感じる匂いを捉えて離さなくなった。

 こ、この香りは……


「ラーメンか? こんなファンタジーな世界でラーメンとか、似合わないだろ」


 そう思いつつも、匂いを振りほどけないどころか、ぐいぐい引き寄せられてしまう。

 ふらふら~っと誘われるがまま歩くと、10人ほどが列を成した露店を発見。


『カイト様、どうかなさいましたか?』

「ラーメンだ……」

『ラーメン?』


 隣の受付嬢を無視し、俺は列の最後尾に並ぶ。

 彼女も当然のように俺の後に付いて列に並んだ。

 こいつは知らないだろうな。ラーメンというものの味を。美味いんだぜ。まぁ店によりけりだが。

 あ、最近のインスタントもマジ美味い。

 まぁ俺ん家はお袋が栄養士だってのもあって、インスタントラーメン食ってると怒られるんだけどさ。

 栄養が偏るでしょ! ってな。

 バランスの良い飯のお陰で、俺も体脂肪率10%を維持できてるから逆らえないんだよなぁ。

 バイト帰りにこっそり食うラーメン屋が、これまた美味いんだ。

 あー、思い出したら涎が……。


『カイト様。お口から液体が漏れていらっしゃいますが』

「……そこは『液体』って言うなよ。なんか余計に恥ずかしいっつーか、なんつーか……」


 しかも列に並んでる客が一斉に振り向いて、俺の顔をガン見するし。

 慌てて涎を拭いて何食わぬ顔で明後日の方角を見て誤魔化す。

 ざわざわとする会話の中に「ケモミの男だと?」「チートか何かか?」というような声もちらほら。

 っふん。じょ、情弱の戯言なんて、全然堪えねーもんっ。


 内心ちょっぴりビクビクしながら順番を待っていると、ようやく俺たちの番になった。


「いらっしゃ――わぁー、ケモミの男の人だわっ」


 ッビク!

 まさにラーメン屋の屋台然とした露店の向こう側から声を掛けて来たのは、人族の女。

 その彼女が俺を見るなり行き成りそう叫んだ。

 嬉々とした彼女とは違い、俺の心臓は飛び出さんばかりにバクバクしている。

 チートじゃねーぞ、これはクローズドベータの特典で――


「それってクローズドベータの特典にあるっていう、ケモミ族男の種族解放なんでしょ?」

「え? そ、そうだけど、あ、知ってる?」

「うんうん。wikiにもそういう情報あったから。見るのは初めてっちゃけどね~。希少種族が見れてラッキー♪」


 ラ、ラッキー?

 そ、そう言ってもらえると、ちょっと照れるなぁ。


「あはは。尻尾もよく動くねー」

「は、ははは。で、できればこれは、見ないでくれ」

「むーりー。あははは。ところで狐さん、メニューはしょうゆしか無いんだけど、いい?」

「あ、いい、いい。ラーメンは、な、何でも好きだから」

「そっちのメイドさんは?」

『メイド? ワタクシの事ですか?』


 こいつ以外にメイド服来た奴がどこにいるんだ?

 きょろきょろする受付嬢に、店主の女は笑いながら頷く。


『あ、はい。しょうゆなるもので結構です。できましたらワタクシの事は受付嬢とお呼びください』

「あはは、りょうかーい。そのメイド服アバターも特典でしょ? しかもどっちもレア度高いアイテムやったはず」

『はい。確率的には非常に低いアイテムですね』

「二人してそんなの引き当てるなんて、凄いわぁー」

「あ、いや、たまたま……」

『はい。レアアイテムを引き当てた者同士、目立っていたのが縁で知り合いました』

「あら、元々知り合い同士じゃないんだ?」

『はい』

「そそそう!」


 受付嬢ナイス!

 そうだよ。お互いレア物ゲットして目立ってから、偶然知り合った。これでいいじゃん!

 周囲でラーメンを啜っていた奴等をチラ見すると「なんだそうかよ」みたいな顔をしている。

 いいぞ受付嬢。なかなか学習してるじゃないか。


 会話をしながらも店主はてきぱきと作業を進める。

 大きな鍋で麺を茹で、茹でつつ器に黒っぽいタレのようなものを入れ、別の鍋で沸かしたお湯を注ぐ。

 その中に茹で上がった麺を入れ、薬味を添えて完成。


「おぉ! チャーシューがある!」

「そういうの、NPCが売ってくれるっちゃよ。お陰でコストが高くなるんやけど」


 っという店主は苦笑いを浮かべている。もしかしたらあんま儲けが無いのか?

 そ、そうだ。ココットを習ってズバリ突っ込んでみよう。


「あの、儲けとか、その、あんま出ない、感じ?」

「ん~。今のところほとんど全部NPCから素材買っとるけん、赤字にならないギリギリラインばい」

「ギ、ギリギリか。それでも、料理するんだ?」

「うん。今まで狩り専プレイしてたけど、気まぐれで生産しはじめたらすっごく面白くって。今回はこっち専門でやってみようと思ったんよ。あと、とんこつラーメンを手造りしたい! 子供の頃からの夢やったんよぉ~」


 と、とんこつラーメン……何故そこ限定?


「博子ちゃんのとんこつラーメンなら、絶対上手いよっ」

「完成したら毎日食べに来るぜ」

「博子ちゃん、やっぱ博多っ娘なんだ?」


 っと、続々と客から声が掛かる。

 そうか、彼女は『博子ひろこ』っていうのか。

 博多と言えばとんこつラーメンだよな。まぁ食ったのは地元の東京で一度だけだが。なんか思ってたんと違うっていう感じの味だったな。


 お客の言葉に「ありがとう」とか「違うよー」とか言いながら、店主は次々に麺を茹でていく。

 喋りながらきっちり仕事をこなすとは、今まで狩り専といいつつ、なかなかやるなぁ。


 ラーメンを堪能しながら客と博子さんの会話に耳を傾ける。

 お客のほとんどは男で、彼らは自分達の話を、まるで武勇伝のように彼女へと聞かせていた。

 彼女もそれを楽しそうに聞き、時折相槌をうったり突っ込んだりしている。

 

 いいなぁー。客とこんな風に会話できるって。

 俺の場合、ポーション売ったらそれでお終いだし、客を長く滞在させる要素がどこにも無ぇー。

 生産技能は『料理』にするべきだったかなー。

 けど、俺が包丁持ってる姿とか、どうやっても想像できねー。っつーか怖ぇー。


 あぁ、それにしても美味いなこのラーメン。

 ってかラーメンとか作れるんだ?

 それを尋ねてみると、オリジナルの創作料理っつー項目があるんだと。


「修得してるほかの料理からヒントを得て、調味料系を替えたりする程度なんだけどね。ラーメンはパスタのアレンジなんばい」

「ばい?」

「あー、これ北九州弁。福岡の一番東のほうの方言」

「そ、そうなんだ」


 方言か……なんかいいよな、方言って。

 ちょっとくすぐられる。


 創作かぁー。これ聞くと、やっぱ俺に『料理』は無理だなと思う。


 これだけ美味いしょうゆラーメンが作れるなら、とんこつの方も気になるな。

 けど、まだメニューはしょうゆ一択。増やせない理由でもあるのだろうか?


「あ、あの、とんこつ、ラ、ラーメンって……」


 頑張って話しかけようとした時、隣の男と視線が合った。

 その男は俺の事を睨みつけた後、勢い良く立ち上がって博子さんに熱く語りだした。


「博子ちゃん、俺絶対に豚探してくるよっ! 南にはそれっぽいのが居なかったが、次は東に行くぜっ」

「いや、俺が見つける。一番最初にとんこつラーメンを食うのは俺だ!」

「いいや俺だ」

「俺だよ俺!」

「俺だってばよっ」


 続々と名乗りを上げる男共。

 こいつらの俺俺合戦はいいとして、そうか、材料が無いのか。

 とんこつラーメンって言うぐらいだから、スープの材料は豚の骨ってことだな。

 無いってことは、NPCでも売られてないって事か。じゃードロップだな。


 何て事を頭の隅に置いて、おあいそして露店を後にする。

 ラーメン一杯250G。安いのか高いのかは、いまいち解らない。


 夜食用におにぎり露店探すか。






「ちょ、おにぎり1000Gって、高くね?」

『先ほどのラーメン屋さんが250Gでしたし、量から考えると高いですね』

「だろ?」


 ようやく見つけたおにぎり屋にあったのは、塩おにぎり一択。

 しかも1000G。

 誰が買うもんかっ!

「思ってたんと違う」

N○Kの子供向け番組に出てくるとあるコーナーのタイトルなんですが、なんとなくこの語呂が好きです。

意味もなく主人公を訛らせたりしてますが、作者の趣味でs

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ