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44:再びぼっち? いいえ、友達が居ます。

「何? 俺に裁縫技術を習いたいだと?」


 おっさんが何故か拳をポキポキ鳴らしながら凄んでくる。

 俺にだけ――だ。

 更には奥さんまで詰め寄って、真剣な表情でダメ出しをしてきた。


「カイトちゃん、せっかく常連さんになってくれたのに、夫の仕事を取ってしまうなんてそんな悲しい事、言わないで?」

「カ、カイトちゃん……ってか、いつの間に常連認定!?」

「おう、お前ぇーが裁縫技術を習うって事は、もう俺様の商品を要らないって事だよな?」

「いやまて、話を最後まで聞けよ」


 だからポキポキ鳴らすなって。

 どんなに凄まれようが、俺は怯んだりしねーっつーの。

 かくかくしかじかで、対ボス戦だと装備破壊が飛んできた事を告げ、その場での修理を可能にする為だけに技能を修得したいんだと話した。


「何? ボスだと……。そうか、やっぱお前ぇーは只者じゃねーな。しゃーない。そういう事なら教えてやろう」


 おっさんに手招きされて店の奥へと入っていく。

 扉一つ向こう側は住居で、おっさんたち一家の生活スペースになっていた。

 プレイヤーが入ってくることを前提に、こういう所まで作り込んでいるんだろうか?

 廊下の突き当たりには台所。あの妖怪ばばあが椅子に鎮座していた。

 脇には二階へ上がる階段があり、階段下には収納スペースなんかもあった。

 階段横の壁に扉があり、その先がおっさんと息子ソルト専用工房になっている――と言って案内された。


 室内かと思いきやそうではない。

 家と一続きになっているガレージっぽい作りだ。

 スペースの半分は床板が張られ、残り半分である外側は地面が剥き出しになっている。

 板張りスペースのほうに、テレビなんかで見た事のある機織器みたいなのが置いてあるな。そこがおっさんのスペースなんだろう。


「破れた部分なんかの直し程度なら、直ぐに覚えられるから安心しろ。そしてそれ以上の技術は身につけるな。いいな?」

「もとよりそのつもりだ」


 そのつもりだが、脅してまでいう事か?

 よっぽど客が来ないもんだから、その客が自分で装備を作るようになるのが困るんだな。






「上質な糸だとお前らにはまだ使えない素材だから、ほれ、これを使え」


 と言っておっさんが持ってきたのは『汚れた綿花』


「まずはこの綿花から種を取り除いてくれ」

「「はい」」


 俺とココットは言われた通り、出された綿花10個の種を取り除く。

 次に竹で作った弓みたいな物で、綿花を弦を使って弾くような作業を繰り返す。

 あー、糞面倒くせー。

 暫くバチバチやってると綿花が解れる。

 解れたヤツを――


「こいつで糸を紡いでいくんだ」

「わぁー、こういうの昔のアニメの再放送で見ましたぁ。山小屋で目の見えないおばあちゃんがやってたんです」


 きらっきらした目でこっちを見られても、俺は知らないし。

 また確かにイメージとしては、年寄りのばーさんがやってそうではあるが。


「っは! 殺気!?」


 を感じて振り返ると、妖怪ばばあが戸口からこっち見てやがった!

 怖ぇーよ。まじ怖ぇーよ。

 おっさんの凄みとかどうでもいいレベルなのに、ばあさんのは身の毛もよだつ感じでちびりそう。

 俺と視線が合ったばばあは、にやりと笑ってすすすーっと出て行った。

 何しに来たんだよ……。


 糸紡ぎの機械、糸車は1台しかなく、交替で使うことにした。

 まずは俺が――


 既に糸車に巻かれている糸に、解した綿花の繊維を引っ張り出して擦り合わせるようにしていく。

 片手で綿花を持って、足元のペダルをゆっくり踏んで糸車を回す。

 綿花をしっかり握ってしまうと糸が切れ、緩すぎると太い糸になるぞとおっさんが説明。

 っというより、勝手に成功失敗判定が入るからどう握ってても関係ねーんだけどな。


「はぁ、はぁ……綿花10個分の糸、出来たぞ」


 なんかすっげー精神使うな。たった10個分なのに、冷や汗みたいなのが出るし。

 おっさんに報告したところで【裁縫】技能を修得。

 製薬と違って完成品10個じゃないあたり、やや温い仕様だな。


「よし、じゃー技術を磨く為にこいつを100個ばかり糸にしろ。そうすりゃレベルも上がるだろう。上がったらそれ以上やるなよ?」

「解ったよ」

「は~い」


 意地でも裁縫レベルを上げさせたくないらしい。

 言われなくても、製薬と並行して他の生産技能なんか上げてられるかっつの。


 せっせせっせと糸を紡いでいくと、100個と言わず80個ぐらいで技能レベルが上がった。

 技能ページにはしっかりと『お直し』というスキルが発生している。

 なんで『お』が付くのかは謎だな。


「これで自分の服を直せるようになるだろう。直す為には素材が必要で、その素材は直す物によって違うからな」

「素材ってどうやって調べられるんですか? ナツメさんが壊れたカイトさんの武器を調べてましたけど」

「それはアレだ。直したい装備の素材が何かを調べるしか無い」


 なんてアバウトな。

 あとでナツメか受付嬢にでも聞こう。


「それにしてもお前ら、いったい何処のボスにやられたんだ。まさか寂れた鉱山じゃなかろうな?」

「え? そうですよ?」

「っかぁー! やっぱりか。それにしては随分帰りが早かったな。あの鉱山は地下二階層だって話だから、攻略には随分時間が掛かるだろうと思うんだが」

「「え?」」


 俺とココットが同時にそう言った瞬間――


《寂れた鉱山ダンジョンの第二階層への解放トリガーが発動されました》


 っというアナウンスが流れた。






「はぁ~……」

「はぁ~……」

「ちょっともう、何辛気臭くなっちゃってるのよ二人とも」


 エリュテイアの言う二人ともっていうのは、俺とナツメの事だ。

 アナウンスを聞いて急いでおっさんの店を出て工房に戻ってきた俺たち。

 まさかゴブリンリーダーが只の門番で、あいつを倒し、且つNPCのセリフがトリガーになって第二階層が解放される仕組みだったとは。


「これってつまり、最初にダンジョンに入ったボクらって、他プレイヤーの為の生贄みたいなものだった訳?」

『いえ、そうでは――無いと思います。少なくとも一度クリアしている第一階層は迷う事無く進めるでしょうし』

「えぇー!? 道順覚えてないですよぉ~」

「あ、俺はたぶん覚えてるわ」

「ボクももう一度いけば思い出しながら進めるかな」


 だから他のプレイヤーより早く進める。

 っというのが受付嬢の言い分だが、今現在カジャールにいる俺たちにそれを言っても、説得力ねーだろ。

 だってその間にもダンジョンに入ってる連中は続々と第二階層を目指している訳だし。


「はぁー……ボク今からでも行ってこようかなぁ」


 っとナツメが漏らす。

 それって、それって!?

 つまり誰かに付いてきてほしぃなーっていうアピールか?

 来た。キタァー!

 もちろん同行するぜ! 火力でも回復でも、どんと任せてくれ!


「ん? カイト君どうしたん? なんか尻尾が凄い事になってるよ?」

「わはっ。カイトさんの尻尾ふりふり~」

「本当によく動くわね、その尻尾」

「う、五月蝿ぇー! 観賞用じゃねーぞゴルァ」

『動画で撮影しております』


 するなっ!

 尻尾を抱えて動かないよう固定。


「あぁ! ナツメさ~ん、お洋服の修理素材の調べ方教えてください~。防具屋のおじさんったら、難しい事言うんですよぉ」

「あ、そうそう。教えてくれよナツメ」

「うん、いいけど。スキル項目にやり方書いてるはずだよ?」

「「え?」」


 俺とココットがまたもや同時に言う。

 そしてタブレットを取り出し技能ページを見てみると――


【*素材の調べ方:『お直し』スキルを選択し、修理したい装備を選びます。他プレイヤーの装備を修理する場合は、相手のタブレットと触れ合わせておく必要があるので注意してください。】


 っとあった。


「はっはっは。うん、あったわ」

「でしょ。それじゃーカイト君の武器を修理しとこうかね」

「お、サンキュー」


 他人の装備修理も、同じようにタブレットを触れ合わせていれば勝手に取り出せるらしく、彼の手に今『水流のシュトゥーム・スティレット』が握られている。

 これって、下手すると持ち逃げの危険性とかないのか?

 

 ハンマーで二回ほどカンカン叩くと、ナツメの手から『水流のシュトゥーム・スティレット』が一瞬で消え――ええええええっ!?


「ナ、ナツメ?」

「わあぉ。こういう仕様なのか。実は修理って初めてだったんだけど、修理が終わった瞬間、元の持ち主の所に戻るみたいだよ」


 っと笑顔のナツメが俺の右腰を指差す。

 慌てて腰に手をやると、確かに『水流のシュトゥーム・スティレット』があった。

 引き抜くと、ひびがどこにも見当たらない。


「うぉぉぉ! ナツメ、マジ感謝」


 愛剣に頬ずりをし、そっと鞘に収める。

 その横でエリュテイアとココットが、


「じゃあ、私達は防具屋のおじさんの所にいって材料を渡してくるわね。そのまま一旦落ちて休憩するわ。今日はありがとう」

「ダンジョンは楽しかったですけど、ちょっと疲れましたぁ~」

「え? 二人ともログアウトしちゃうの?」

「うん」「はい」


 同時に返事をした二人は、「また縁があったら」というような事を良いながら防具屋の方へと向っていった。

 ナツメはさも残念そうに二人を見送り、大きな溜息を吐く。

 まぁ二人はネトゲ初心者だ。初めてのダンジョン経験だし、疲れるのも無理無いだろう。

 だからさ、俺と――


 一緒にダンジョン行こうぜ。

 そう言いたくて仕方が無いのに、口が開かない。

 僅かに開いたものの、声が出せない。

 なんだこれ?

 な、何かの不具合か?


 必死に声を出そうとしている俺の目の前で、ナツメがタブレットを操作している。

 その表情がぱぁっと明るくなり、


「ごめん。昨日パーティー組んでた人から誘われたから、行ってくるね。じゃ、またねカイト君」

『いってらっしゃいませ』

「いってきま~す、受付嬢さん」


 え?

 誘われた?

 行くのか?

 

 俺は何も言えないまま、ナツメの後姿を見送る事になった。


 エリュテイアとココットも居ない。

 ナツメも居ない。

 俺、またぼっちになった……。


『……ト様? カイト様? カイト様!?』

「っはひ? な、なんだ?」


 突然受付嬢のドアップ顔。

 近い、近すぎるって!


『ダンジョン、行かれるのですか?』

「っへ? あ、その、えっと……」

『行きませんか? ワタクシと』

「え?」


 受付嬢と?

 ……。

 そ、そうだ。俺には受付嬢がいてくれるんだ。


『銀鉱石を見つけておきたいので、ワタクシももう一度ダンジョンに向いたいですし』

「あ、あぁ。二人で行くか」

『はいっ』


 いつにも増して元気な彼女の声に、俺は何となく嬉しくなるのであった。

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