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42:水芸

「カイト君の武器ってまさかミドルレア?」

「あぁ、そうだが何か?」


 っとナツメに向ってドヤ顔で答える。

 っふふ、これが自慢ってヤツか。楽しいな。


「だったら火力抑えないと。只でさえ二刀流使って通常攻撃のダメージがでかいから、ヘイト取り易いよ?」

「え? け、けどあんだけ『タウント』してたんだし、大丈夫じゃね?」


 ゴブリンリーダーのHPは着実に減っている。残り四割強といったところだ。

 何度か強烈な攻撃スキルをエリュテイアが食らっていたが、ココットの『ヒール』と俺の『ポーション』投げで容易に立て直せていた。

 そんな時にナツメのこの一言である。


「普通はさ、パーティーの時って火力職が抑えて、タンカーからヘイト取らないように気をつけるもんなんだよ。

 今回はエリュテイアちゃんがヘイト溜めしてたから待ってたりしたけどさ。

 カイト君のその武器だと、倒しきる前にヘイトを奪いそうな気がするんだ」

「いや、まぁ……奪ったとしても、ゴブリーダーの攻撃は躱せるし、耐えられもすると思うぜ」

「いやいや、それじゃーダメだよ。せっかくエリュテイアちゃんが頑張ってタンカーしてるんだし、彼女初心者じゃない?」


 その通りだと答えると、ナツメは声を潜めて俺に言った。


「頑張ってるタンカーからヘイト奪ったりすると、タンカー自身が凹むじゃん。

 上手くヘイト取らないように火力を調整するのも、PSプレイヤースキルのうちだよ。特にパーティーにおいてはね。

 全力でヘイト奪いに来る火力職は、パーティーだと地雷扱いされるからね」


 ッガァーン!

 お、俺が、地雷!?

 PSには極々少しだが、自信あったのにっ。


 項垂れて地面に両手を突いた俺は、ある事に気づく。


 地面が、温かい?

 それに、なんとなくだが振動を感じる。

 顔を押し付けて耳をそばだてるが、何かがおかしい。

 耳が地面にくっつく感触が――あ、


「っはっはっは。俺の耳は頭の上だったぜ」

「ちょっと、何一人コントやってんのよっ」

『カイト様、しっかりご自身の体を認識してください』

「えー? カイト君って顔の横に耳が付いてないの? じゃーココットちゃんも?」

「は~い。耳はこの兎のお耳だけで~す」

《ッゴルガアァァー》


 ゴブリーダーを無視してしまったせいか、自棄に怒りだしたな。

 緑色だった肌が紅潮して、赤く染まって……え? まじで全身赤くなってきたぞ!?


「っち、特殊攻撃でもして来る気か!」

『エリュテイア様、ガードしてください!』

「え?」


 まさに攻撃スキルを放とうとしたエリュテイアは、盾を構えてガードするタイミングを逃し――


《ッゴッハァー!》


 全身を真っ赤に光らせたゴブリンリーダーは、拳を地面に一度叩きつけてからエリュテイアに向ってタックルをかました。

 しかも、炎を纏って――だ。


「っきゃあ!」


 正面からタックルをまともに食らって吹っ飛ぶエリュテイア。

 急いで視界の隅に表示されているパーティー画面に目をやると、彼女のHPが今ので半減した。

 拙い。

 エリュテイアがピヨった!


 再びゴブリンリーダーが地面に拳を叩き付け――

 っ糞、間に合え!


「電光石火!」


 吹っ飛んで気を失っているエリュテイアの正面に駆け込むのとほぼ同時に、ゴブリンリーダーの胸板が目の前に迫っていた。

 敵が目前に迫ってくる光景を、俺は何百、何千と見てきた。

 決まって俺がやる事といえば、相手の道着を掴み、身を翻しつつ足を掛けて――


「どっせーっ!」


 投げるっ!

 俺の2倍はあろうかという巨漢を、華麗に一本背負い。

 判定は!?


 振り返ると、頭から3匹のヒヨコを浮かべたゴブリンリーダーが倒れこんでいた。

 うっしゃ!

 今のうちにエリュテイアの回復だっ。

 ポーション瓶を取り出し、気絶から回復して立ち上がろうとしているエリュテイアに投げる。

 ッパリンという音とともに1ダメージを与え、649回復。

 ココットも慌てて『ヒール』をし、別の回復スキルまで使っていた。


「い、今どうしてたの、私」

「気絶してたんだよぉ~。ふぇ~ん、大丈夫エリュちゃん?」

「う、うん。大丈夫。気絶ってどのくらい?」

「気にするな。5秒程度だし、システムとして逃れられない気絶だ。それより、来るぞっ」

「あ、うん! 今度はちゃんとガードしてみせるわ!」


 頼もしい一言だ。

 一応念には念を入れ、俺は何時でもエリュテイアの援護が出来るように彼女の横で戦うことにしよう。

 ナツメに言われたことを頭に入れ、スキル攻撃控え目で行くか。


 自慢の二刀流で閃かせると、さっきまでとは違うダメージ数字が浮かんだ。

 しかも右手に装備した『水流のシュトゥーム・スティレット』での攻撃のときにだけ、ダメージが約2割増になっている。

 なんでだ?


 すると横で盾を構えていたエリュテイアからも、受けるダメージ量が減っている(・・・・)という言葉を耳にする。

 それを聞いたナツメが、俺の疑問も解決してくれた。


「その盾、火属性の耐性をくっつけたんだ。真ん中の石が、火属性攻撃を弱める効果がある属性石なんだ」

「ってことは、ゴブリンリーダーは火属性なのか?」


 俺の『水流のシュトゥーム・スティレット』は、火属性モンスターにダメージアップ効果がある。

 だが、急に与ダメージが増えたり、被ダメージが下がったりって……。

 っは! あの赤くなった体か!

 赤くなってから属性チェンジしたって訳かっ。


 ダメージアップは嬉しい。嬉しいが、これじゃーエリュテイアからヘイト取っちまう。

 加減するか?


「カイト! 離れててっ」

「はい?」


 エリュテイアの叫び声に、反射的に体を動かす。

 左にステップを踏み、ゴブリンリーダーの正面からずれた。

 その瞬間、ゴブリンリーダーが俺の横を風を切って通り過ぎる。

 またタックルか!


 ガキィーンっという金属音が聞え、エリュテイアの盾がゴブリンリーダーの肩とぶつかり合う。

 今度は上手くガード出来てるじゃないか。

 よし、今の内に反撃――は手加減してっと。


「う……くぅ……」

「ん? っげ! エリュテイア!?」


 漏れ出す声に彼女の方を見ると、苦痛に歪んだ顔があった。

 HPバーを見ると3分の1ほどが減っている上に、更にじわじわとバーが減っていく。


「持続性……火傷か!?」

「な、に、これ? あ、熱い……」


 パーティー欄にあるエリュテイアのキャラ名の下に、焚き火のような火のマークが浮かんでいる。

 バッドステータス、状態異常だ。


「ままままままま待ってろ。えーっと、えーっと――あった」

『カイト様っ、また来ます!』

「ちょ、え、待て、今はダメだっ」


 今のエリュテイアじゃ、次の攻撃に耐えられるか解んねーっ。

 どうする?

 攻撃するか? 回復するか? 解除・・するか?

 タンクからヘイトを奪い取るのは地雷――地雷――。


 ゴブリンリーダーの体から炎が噴出す。

 あぁ、そうか。あれを受け止めたから『火傷』になっちまったのか。

 っ糞、えげつねー攻撃してきやがる。


 奴が右肩を前にして、足を踏みしめた。


 回復は、もう間に合わねー。

 だったら……


「エリュテイア、先に謝っとく!」

「え? な、んの、こと?」


 手に持ったポーション、『リカバリーポーション』をエリュテイアに向って投げ、『電光石火』で奴の正面へと回りこむと、駆け出した奴の懐に潜りこむようにして『カウンターinシャドウスラッシュ』を放つ。

 下から上へ。

 奴の拳を捉えた短剣は、そのまま黒い閃光を放ち貫通する。

 顎が跳ね上がり、後方へと仰け反るゴブリンリーダー。

 奴の金髪がぱらぱらと宙を舞う。

 それと同時に嫌な音が響いた。


 ッパキ――という音だ。

 慌てて『バックステップ』で奴との距離を取り、刃を確認すると見事にひびががががががががががががががががっ。


「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ」


 俺の大事なミドルレアががががががががががががが。


 ヌッコロス。

 

 ふらふらとした足取りのゴブリンリーダーの所まで『電光石火』で駆け寄り、怒りの鉄槌を下す。

 右手で短剣を握り締めたまま、正拳突きを打ち込んでやった。


《技能スキル『正拳突き』を修得しました》


 今そんなもんどうでもいいっ。

 俺の、俺の短剣の仇ぃー!


「カ、カイト! 燃えてる、燃えてるってばぁー」

「あぁ。今の俺は復讐に燃えてるんだ。邪魔はしないでくれエリュテイア!」

「そうじゃなくって、カイト!」

『カイト様、服が燃えておりますよ。ついでに尻尾も』

「は?」


 受付嬢の言葉に、流石に自分の姿を確認する。

 上着の裾から……火がぁっ!?


「ぎゃー! 燃えてる! 俺の服っ、俺の装備っ!」

「尻尾の心配しなさいよっ」

「尻尾なんて無くてもいい! でも装備が無くなったら困るぅー」

「あの、えと、『リカバリー』」


 ココットの間の抜けた声が耳に届くと、俺の服を燃やしていた火が消えた。

『リカバリー』って消火活動もできたのか! すげぇーぞっ。


「カイト君!? 今のパキって音、もしかして武器破壊されたんじゃないか?」

「っ糞がー。……あぁー、マジで壊れてる!」


 ナツメに言われて確認すると、装備画面にある『水流のシュトゥーム・スティレット』の文字が赤くなっていて「破損中」になっていた。

 怒りに任せてゴブリンリーダーを斬りつけるが、1すらのダメージが出ない。


 っくそう。あの拳を捉えたのがマズかったのか。

 微妙にタイミングもずれた気がするし、もしかして武器破壊攻撃だったのか。


『カイト様。武器は壊れても、アイテムとしての効果は継続されております。その武器は水魔法も使えたじゃないですか』


 離れた所から聞こえる天使の呟き。

 そうだ。俺にはまだ『スプラッシュ』がある!


 えーっと、どうやって使ったものか?

 エリュテイアからヘイトを完全に奪い取ってしまった俺は、ゴブリンリーダーの攻撃を躱しながらスキルの使用法をいくつか試す。

 短剣の説明項目にも特に書いてないし、試しに『スプラッシュ』と呟いてみると、じわわーっと短剣から水が零れ落ちた。

 おぉ、口で言うだけでいいのか。

 口調で発現の影響があるようだが。


 ゴブリンリーダーと正面から対峙し、『水流のシュトゥーム・スティレット』を天井に向って掲げ、気負いと共に叫んだ。


「『スプラァーッシュ!』」


 右手にひんやりとした感触が伝わると、剣先から勢い良く水が発射された。

 一筋の線と化した水は、ゴブリンリーダーの赤くなった体を――あれ?

 赤くない、だと?


「カイトさん、もう倒しましたよ?」

「はい?」


 既に息の根の止まったゴブリンリーダーの骸に、虚しく水を掛けただけ――だった。

「すいげい」で変換すると「水ゲイ」が出てくる。

誰かゲイでもいるのか?

次に変換すると「吸いゲイ」になった。ゲイを吸うのか?

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