41:不真面目な盗賊たち
「え? 本当に『今』なの?」
苦笑いを浮かべて俺たちのほうを振り向くエリュテイアに、俺とナツメが全力で頷く。
いつ殺るの?
今でしょ!
「大丈夫だ! ナツメに新しい盾作って貰って防御力上がってるだろっ。それにいざとなったらスイッチして、タンク代わってやるさ」
「え? 大丈夫なのかい、カイト君?」
「あぁ。なんたって俺は、VIT強化技能で防御力が結構あるプチ硬い盗賊なんだ。タンクは任せとけ」
『同じく、VITを40まで上げちゃった系のプチ硬い盗賊です。何時でも盾役にしてください』
「……プチ硬いって、二人ともどうしてそんなステータスに……」
やや呆れ顔のナツメには後で説明しよう。
まずはココットだ。
支援スキルを全て上書きさせ、その上で俺の手持ちの『エナジー・ポーション』を投げた。
「ひゃう~。痛いし冷たいですぅ」
「文句言うな。1ダメージ受けるが、代わりにMP回復しただろ?」
「え~――あっ、本当だぁ」
「え? え? 何今の。ポーション投げて回復するの? え? なんでなんで?」
興味津々なナツメに説明している時間が勿体無い。
ココットの掛けた魔法は効果時間が限定されてるからな。
無視して正面の坑道を進む。
直ぐに曲り角があり、その先は巨大な空間になっていた。
坑道というよりは地下空洞に近いな。
天井と床を支えるような柱は、まるで鍾乳洞で見る柱みたいだし、人工的に手が加えられたような外見じゃない。
ただ、不自然なほど大きな椅子が奥にあって、見てくれ的には玉座っぽい。
あれに座るのは、もちろんこのダンジョンの主! だよな?
だが今はその主は座っておらず、ここの壁際を反時計周りに歩いていた。
さっきの影は、この入り口付近を通った時に見えたのか。
見えるのは3匹のゴブリン。
一匹は明らかに他とは違う巨漢の持ち主で、突出すべきは髪だっ。
金髪のふっさふさしたモヒカンで、歩くたびにその髪が揺れている。
後ろから追従している手下っぽいゴブリンは、鎧を着て斧を持ったゴブリンウォリアーで、禿だ。
モヒカン野郎は手下と違い、上半身裸で肩からクロスするように皮ベルトをかけているだけ。
イメージ的には格闘家とか、拳闘士とか、そんなところか。
「行くぞ」
小声でそっと呟くと、俺はまず取り巻き雑魚のゴブリンウォリアーへと向った。
ナツメがもう一匹のゴブリンウォリアーへと飛び掛る。
音も無く忍び寄った俺とナツメにゴブリン共が気づいたのは、2匹の雑魚がダメージを食らってからだ。
「エリュテイア!」
「は、はい! 『タウント!』」
一瞬、俺が攻撃した雑魚がエリュテイアに向きかけたが、すぐさま『シャドウスラッシュ』でヘイトを固定。
見るとナツメも『スタブ』を使ってダメージの上乗せをしていた。
ほほぉ、ナツメは『スタブ』派か。
雑魚は直ぐに片付く。
そう思っていたが、意外とそうもいかなかった。
「っげ。こいつらレベル24のゴブリンウォリアーじゃねーか」
「わ、本当だ。ボスのレベルってもしかして――」
ちらっと後ろを振り向いてボスのレベルを確認すると、
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モンスター名:ゴブリンリーダー
レベル:25
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あっちゃー。こりゃ本格的にエリュテイアじゃ荷が重いか?
よく見ると、完全に防御に徹しているようで、CTが明けた『タウント』だけで手一杯のようだ。
なのに――
『スティール!』
『……スティール!』
『……スティール!』
おいおい受付嬢よ。
一切攻撃もしねーで、何必死になって『スティール』してんだよ。
あ、俺もしとくか。
やっと瀕死になったゴブリンウォリアーに対し『スティール』を決行。
ッチリンっという金を落としたときのような音が聞こえ、何かを盗めた事を知らせる。
お、一発で成功とは、幸先いいなおい。
あとは止めを刺して、急いで回れ右をした。
「よしっ! タンク代わるから、エリュテイアは火力にシフトしてく――」
「ダメ! 今頑張ってヘイト貯めてるのっ。私、絶対こいつからヘイトを維持してみせるから、もう少しだけ待ってっ」
エリュテイアが叫ぶ。
あんな鋭い目をした奴を見たのなんて、柔道の全国大会決勝戦の対戦相手以来だぜ。
『カイト様、あと『タウント』4回で十分なヘイト量になります。それまでお待ちください』
「そうか。だからお前は『スティール』ばかりしてたんだな」
っち、さっき呆れて見ちまったぜ。俺の馬鹿野郎。
『いえ、する事もなく暇でしたので。それに、レアモンスターには常にカイト様も『スティール』していましたし、それが盗賊というものだと心得ましたから』
前言撤回。
こいつは盗賊の鑑だな。良い意味でも悪い意味でも……。
まぁ、俺もやっとくか。
ナツメも加わって3人で『スティール』合戦。
「ココットのヒールヘイトが溜まらないよう、俺がエリュテイアの回復も受け持ってやるよ。ココットはMPの回復の為に座ってろ」
「あ、はいっ。座ってると回復しやすいんですか?」
「あぁ。立ってる時より回復量が2倍だ」
『スティール』の合間にポーションも投げつける。
「ありがとうっ。『タウント!』」
あと3回。
「あ、ボクの勝ちぃ!」
『あぁ、負けてしまいました』
「っち。《スティール》出来なくなったんじゃ、暇になるじゃねーか」
エリュテイアの回復用ポーションを取り出していると、ふとアイテムボックスの隅にある『腐ったポーション』が目に入った。
「回復用の『ポーション投げ』でヘイト取らないなら、こっちではどうだ? ヘイト判定無いんじゃね?」
ちらっと物乞いのような視線で受付嬢を見ると、一瞬頷きかけて慌てて他所を見た。
っしゃー! 行くぜっ!
「これでもくれてやるから、あーんしろっ!」
《ッゴアァー!》
なんていい子だろう。
口を大きく開けたゴブリンリーダーに向って、毒々しい色の液体が入ったポーションを投げつける。
与ダメージは1ではなく、10。
持続ダメージの確認もすると、秒毎5のダメージだった。
奴のHPバーを見ても、微減すらしてない。
うん、ボスだもんな。HP5桁台だろうし、微妙過ぎるダメージだ。
「あっ! ちょっと、まだ攻撃開始しないでよ! 『タウント!』」
「大丈夫だ。俺専用の無ヘイト攻撃だから。それにダメージが微妙すぐる」
たとえヘイトがあったとしてこんなダメージじゃ、『タウント』一発分のヘイトを超える為には何十本も投げなきゃならないだろう。
CT明け毎に『腐ったポーション』を投げ、エリュテイアには『ポーション投げ』で回復を行う。
「ねぇ? あんたのポーションダメージ、増えてない? さっきは5だったのに、10になってるわよ?」
「は? んな馬鹿な」
っと思ってみたが、マジで増えてやがる。
持続効果は5秒以上、ダメージは上書きじゃなくって上乗せ式だったのか。
「あはは。カイト君って面白いスキル持ってるねぇ~。受付嬢さんから聞いたけど、最速ログインのご褒美だったのかー」
『っとカイト様からお聞きしましたので、ご説明いたしました』
「あぁ、そうか――って、お前らなにやってんだ?」
「『タウント!』」
完全に寛ぎムードの二人は、地面に座り込んでMPを回復してやがった。
あー、俺も『スティール』でMP減ってるし、座るか。
「どっこいしょ。おーい、あーんしろー」
《ゴアァーッ!》
叫びながらエリュテイアに怒りの矛先を向けるゴブリンリーダーに、おやつの『腐ったポーション』をくれてやる。
今度は持続ダメージの効果時間を確認しよう。
いーち、にぃー、さーん、しー……
なんだ10秒か。
1秒毎で5ダメージだから、トータル50ダメージ。
なんだろう、すっげー虚しくなってきた。
横ではナツメがゲラゲラ笑ってるし、受付嬢は鉄仮面でじっと見つめてくるし。絶対あいつ、今俺の事笑ってんだぜ。
「『タウント!』ちょっとあんた達! 遊んでないで、真剣に――」
スキル名を叫ぶエリュテイアの声が聞こえた瞬間、俺が――受付嬢が――ナツメが動く。
4発目の『タウント』だ。
受付嬢が言った『あと4回で十分なヘイトが溜まる』が、『溜まった』に変わった瞬間。
『電光石火』でゴブリンリーダーの背後へと回り込み、まずは『シャドウスラッシュ』を叩き込む。
おぉ、雑魚ウォリアーの時よりダメージが出てるな。背後からだと防御不能とかの判定でもあるのか。
試しにCTが明けると、今度は正面からの『シャドウスラッシュ』のダメージを見てみる。
背後からだと1240ダメージ。正面からだと953ダメージ。
誤差というのは、なかなか大きいな。
「ナツメ、背後からの方がダメージでかいぞ」
「あ、やっぱり? 道中の戦闘でも『バックスタブ』の時のダメージが大きかったんだよね」
敵の背後に回りこんでの『スタブ』を、自動コンボするスキルか。
こっちはわざわざ背後に回らなきゃいけないってのにな。
「『タウント!』 っく……『スラッシュ!』」
《ッゴフ……》
防御に徹していたエリュテイアが攻撃を開始し、ダメージヘイトも加算していく。
そうか。こいつ、『タウント』でヘイト溜めしている時には無駄なダメージ食らわないよう、亀に徹していたのか。
ダメージを食らえばココットからの『ヒール』が飛んでくる。そうすりゃ、ヒールヘイトが発生するしな。
っへへ、しっかり考えてんじゃん。
これなら安心して正面を任せられる。
身を翻しゴブリーダーの背後へと回り込んでから、攻撃を再開。
活動報告に小話書いております。
本編と違ってちょっと暗いというか、真面目というか……そんな内容になっております。




