40:これじゃないダンジョン
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モンスター名:ゴブリンウォリアー
レベル:22
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「おぉ! レベル20超えじゃねーかっ」
「やっとダンジョンらしくなったねっ!」
『でもお二人から見ると格下モンスターですね』
そこ、一気に興ざめするようなツッコミを入れるんじゃないっ。
先頭に立ったエリュテイアだが、前方から現れたゴブリンは5匹。流石に一人で抱え込むには無理がある。
「俺たちがそれぞれ1匹ずつ攻撃するから、それを待ってエリュテイアは『タウント』で残りの2匹を抱えてくれっ。出来るか?」
「わ、解った。ちゃんと耐えてみせるわ」
「よし。じゃー盗賊軍団で1匹ずつな」
「オッケー」
『了解』
「あ、あの、私はどうすればいいの?」
飛び出そうとした俺の尻に、なんとも言いようのない感触が伝わってきた。
尻尾を掴まれ、尻の力が抜けてしまったのだ。
「ちょ、尻尾掴むの止めてくれっ」
「わっわっわっ、ごめんなさい」
パッと手を離すココットは、ならばとばかりに袖を掴んできた。
そうこうしてる間にも3匹のゴブリンがエリュテイアを襲い始める。
「お前はエリュテイアの支援だ。攻撃はしなくて良いから、タイミングを見計らってヒールをしてやれっ」
「わ、解りましたぁ~」
やっと解放された俺は、エリュテイアに群がる一匹に『シャドウスラッシュ』でダメージを与え、間髪いれず通常攻撃を入れる。
流石にミドルレア短剣だけあって与ダメージが高く、この二発でヘイトを奪えた。
直ぐ隣ではエリュテイアが奮闘している。
上手く盾を使ってゴブリンの攻撃を受け流し、小技を使って反撃している。
下手に大技スキルを使うと、防御が疎かになってしまうからな。
今回はこの戦い方が正解だろう。
尤も、エリュテイアのレベルがこいつらと同じか、それ以上なら大技でも問題ないんだけどなぁ。
俺たち盗賊軍団から見ると、受付嬢の言う通り『格下』モンスターでしかない。
各自が受け持ったゴブリンもあっさり倒し、エリュテイアの援護に向えば一瞬で蒸発させてしまった。
手応えが無さ過ぎる……。
「ここってさ、もしかすると適正レベル20ぐらいだったのかもねぇ」
「そうだな。俺たちには物足りないダンジョンだったのかもしれない」
そう考えて納得させるしかない。
こうなったらさっさとダンジョンボスを見つけて、フルボッコするぞっ。
流石に坑道だけあって、かなり入り組んでいる。
行き止まりがあれば引き返し、別の道を進み、また行き止まりだったらまた戻って別の道を――
幸いなのはゴブリン以外の敵もいた事。
「定番のスライムもいたねー」
「あぁ。レベル22だったなぁ」
「大きな蝙蝠もいたねー。こいつも鉱山だと定番モンスターだよねー」
「そうそう。以前やってたネトゲだと、真っ赤な奴とかもいたな。レベル21だったけど」
「土竜とかも居ないかなー」
「あと炭鉱夫のゾンビとかなー」
ナツメとのやりとりは実に――
「さっきから二人とも、なんでそんなにやる気の無さそうな口調で喋ってるの?」
「棒読みですねぇ~」
『恐らくダンジョンという、プレイヤーにとってハラハラドキドキするコンテンツが、こうも手応えの無いモンスターばかりなので気が抜けてしまっているのでしょう』
まさにその通り。
だが戦闘では手加減をしない。手加減なんかして、だらだら進行すれば無駄に時間を掛けるだけだ。
さっさとボス見つけてオサラバしてやるんだっ!
「あんたたちはレベル高いからいいでしょうけど、やっとレベルが20になった私からしたらどのモンスターも格上よ。結構ダメージだって痛いし……」
「んー、エリュテイアちゃんの盾って、何レベル?」
「え? えっと、15だけど……」
「まぁそうだよね。成功できるか解らないけど、手持ちの材料で盾作ってみようか?」
「「え?」」
ナツメのこの発言には、流石の俺も驚いた。
作ろうかって、今ここでなのか?
頷くナツメ。
いやでも作るって、ダンジョン内に工房なんて無いぞ?
「クローズドでは無かったアイテムがさ、今回売られててね。『携帯用溶鉱炉』っていうんだけど、携帯とか言う割にしっかりでかいんだよねぇ」
そう言いながらナツメがタブレットから小さな作業台のような物を取り出した。
見る見る間にそいつは大きくなり、机サイズの作業台+溶鉱炉になった。
マジか……外でも生産ができるって、ずるくね?
「こ、ここで盾が作れるんですか?」
「うん。ただ一発勝負だけどね。これ、消耗品でさぁ、鉱石の加工だろうか武器防具製造だろうが、一度使ったら消えちゃうんだよねぇ。
加工済みのインゴットもあんまり持ってないし、一回分しか材料無いと思うんだ。防具の製造スキルはレベル低くて無理だけど、盾は武器扱いだからギリギリ行けるよ」
ナツメはハンマーを右手に持ち、アイテムボックスから取り出した加工鉱石のインゴットを叩きだす。
インゴットの色は白っぽい銀――鉄か?
銅より硬い素材で、防御力の点でもこっちが上だろう。
坑道に響く音に引き寄せられてか、モンスターが寄って来た。
「おいナツメ。モンスターほいほいと化してるぞ」
「いいねぇー。雑魚ばっかりなのが残念だけど。ボクは動けないから、皆しっかりか弱いボクを守ってねぇー」
「だが断る」
「酷いっ」
『断ってもよろしいのでしょうか?』
「受付嬢さぁ~ん、断らないでボクを守ってぇ~」
『あー……はい』
「なんでそんなに適当な返事なの!?」
ナツメの悲痛な叫びを聞きながら、寄って来るモンスターどもを薙ぎ倒していく。
後ろからも集まってくるモンスターは受付嬢とエリュテイアに任せ、ココットはナツメの護衛に着かせた。
「ナ、ナツメさんまだですか!?」
「うんー。あと5秒ねー。――はい終わりぃ。やったね! 成功したよぉー」
ナツメが戦線に復帰し、集まったモンスターどもも一掃された。
「はい、どうぞー」
「ありがとうございますっ。どのくらいの素材を使ったんですか? 鉄鉱石なら700個ぐらい持ってます」
「えーっとね、鉄インゴットにするのに鉄鉱石が5個いるんだよね。今の盾は鉄インゴット30個分なんだぁ」
合計150個か。意外と少ないんだな。
まぁ失敗すればただのデータの藻屑となる訳だし、一つの装備作るのには必要素材を2倍用意してたほうがいい。
と考えれば、鉄鉱石700個で防具まで作れるかと言われれば、微妙な数なのかもなぁ。
どうやらエリュテイアはナツメに多く鉄鉱石を渡したらしい。
ナツメも嬉しそうに礼を言っていた。
「これで防御力が結構上がったわっ。今ならボスだってなんだって、私の盾で弾き飛ばしてやるわよ!」
「おぉ、随分頼もしくなったじゃないか」
「わぁ、紅い宝石がハマってるぅ。綺麗でエリュちゃんにピッタリ」
オーソドックスな五角盾の中央に、確かに紅い宝石がはめ込まれているな。
薄っすらと光を放つそれな、なんとなく炎の揺らめきにも見える。
『口にした事は現実になる――の法則というやつでしょうか?』
唐突に口を開いた受付嬢が、正面奥の壁を指差す。
全員が一斉にその方角に視線を向けると、そこには巨大な何かの影が映っていた。
「え? 本当に『今』なの?」
その影を見たエリュテイアが一言、ぼそっと呟いたのを俺は聞き逃さなかった。




