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37:美味しく焼けましたー?

 鉱山ダンジョンの内部は、まさに坑道そのもの。

 四角く掘削された通路は木材でところどころ補強され、横幅は3メートルほどしか無い。高さも2メートルちょいと、俺ん家の天井とほぼ同じだ。

 狭いってほどじゃないが、前後で挟まれると逃げ場が無いな。


 それにしても……


「中に入って15分ぐらいか? まだ1匹しかモンスター見てねーぞ。これでダンジョンなのか?」

『正確には18分と22秒です。あ、25秒になりました』

「いや、そこまで細かく教えてくれなくていいから……」

「レベルも18だったし、これならフィールドの方がまだ緊張感があるわね」

「でも見た目が怖かったぁ。緑色だったし、顔にぶつぶついっぱいあったしぃ」


 ココットが怖かったというのは、松明を持って現れたゴブリンの事だ。

 ダンジョンに入って10分ほどして遭遇した、第一ダンジョン人。もとい、ダンジョンモンスターだ。

 緑色の皮膚をし、顔には確かに疣のようなぶつぶつがいくつもあった。

 一見すると身長はココット程度だが、かなりの猫背なので実際にはもう少しでかいかな?

 でかい鼻とでかい口。その口からは下の歯が上に向って剥き出していた。

 醜悪なモンスターの代名詞とも言えるこいつは、やられキャラとしても有名だ。

 例に漏れず、遭遇したゴブリンも4人でフルボッコすれば、一瞬で蒸発してしまった。


「ま、モンスターとの遭遇率が少ないなら、さっさと奥に進んで採掘ポイントを探そうぜ」

「どうやって探すの?」

「あー、それはな――」


『ポイント発見』の技能で見つける。採取も採掘も、同じ技能でポイントを見つけられる。

 この辺りの坑道は、ぽつりぽつりと採掘ポイントがあるが、どうせなら固まった場所で効率よく採掘したい。

 奥に進むほどポイントの数も増えて行くので、このまま進む事にした。


 二度目のゴブリン遭遇では、3匹セット。

 それも呆気なく撃破し、地味にドロップに『銅インゴット』が混ざっていた。


「こいつら、インゴットを持ってるな」

「じゃあ採掘しなくても、敵を倒してれば素材が集まりますね!」

「10分に1回遭遇する程度の敵だけどな……」

「あぅ……」


 耳を垂らして項垂れるココットをよそ目に、先へと進む。

 分岐点では俺が『ポイント発見』を使って、より多くのキラキラが見える方角へと進んだ。

 暫く進むと、これまでと違ってやたら広い場所に出る。


「ここなら――『ポイント発見』」


 技能スキルを使うと、そこかしこがキラキラ光って見えた。

 よし!


「エリュテイアとココットは、そっちの壁をじーっと見てるんだ。あちこち余所見するなよ」

「え? なに? どういう事?」

「『ポイント発見』っつー技能を覚える為だ。じーっと見てれば、そのうちキラキラした部分が見えてくる。それでもまだじーっと見てろ。5分ぐらいすりゃ、技能を覚えられるからな」

「わ、解った。じっと見てれば良いのね」

「解りました~」

『ではワタクシは、向こうの壁のところで採掘いたしますね』

「あぁ。じゃー俺はこっちっと……」


 ツルハシを取り出し、キラキラした壁の一部に向って振り下ろす。

 カツーン……という音がするが、坑道に響くほどでもなかった。変な所でリアリティーに欠ける仕様だな。

 もう一振りすると、システムメッセージが浮かぶ。


《採掘に失敗しました。ただの石を獲得》


 捨ててやる!

 更にツルハシを二度振り下ろし、やっぱり失敗。

 っち、早く『採掘』技能を修得しねーと、ただの石が溜まっていく。

 二度振り下ろす度に採掘判定が入る仕組みだが、技能が無い内は失敗のほうが圧倒的に多い。

 あとでまとめて石を投げ捨ててやるからなっ。


 そのうちエリュテイアが、


「あっ。『ポイント発見』っていう技能を覚えたわ!」

『おめでとうございます。あとは『ポイント発見』っと目を凝らしながら唱えれば、採掘可能な箇所が見れるようになりますよ』

「本当? じゃー『ポイント発見』……凄い! 今までも光ってる所が見えてたけど、それ以上に見えるようになってるっ」

「えぇ~。私はまだ覚えてないよ~。どうして?」


 見てはいないが、たぶん予想としてココットは、あちこちきょろきょろしてたんだろうなぁ。

 まぁ、そのうち修得できるだろ。

 エリュテイアに、採掘の技能もそのうち技能を覚えるから、ひたすら光ってる所にツルハシを振り下ろせ。とだけ説明した。


 ココットがやっと『ポイント発見』を修得する頃、俺と受付嬢が『採掘』技能を修得完了。

 ふぅー、長かったぜ。


「さぁ、掘って掘って掘りまくるぜ!」






 他人が採掘した場所も、俺からすればまだ未採掘扱いになっている。

 なので他の三人が採掘した場所にも行って、キラキラしてる箇所がゼロになるまで掘りまくった。


「ねぇ、さっきの称号なんだけど、鉱山ダンジョンでのレア鉱石獲得率が云々ってあったじゃない?」

「あぁ、あったな」


 ざっくざっくと壁をツルハシで叩きながら、少し離れた所で同じようにざっくざっくやってるエリュテイアの話を聞く。


「レア鉱石って、何?」

「え……何って言われても……」


 クローズドベータでそんなものは見た事が無い。採掘も少しやってたが、鍛冶よりは製薬のほうが重宝しそうだと判断して、途中で投げ出したからだ。

 レアかぁ……


「えーっと、オリハルコンとか?」

『カイト様。その様な希少鉱石が、こんな低レベルダンジョンにあるとお思いですか?』

「じ、じゃあ、ガンダニウなんとか合金」

『カイト様、それは鉱石ではございません』

「ひ、ひひいろかね」

『カイト様、世界観的にそれは合わないと思いますよ』

「ミスリル銀」

『希少鉱石です』

「ア、アダマンなんとか」

『アダマンタインですか? オリハルコン同様です』

「エ、エリュテイア、解ったか? ここでレアは望むなって事だ」


 全て論破された俺は、かなり顔を引き攣らせてエリュテイアに答えた。

 だがあの称号、『鉱山ダンジョンでの』となっていたから、やっぱここでのレア鉱石獲得率なんだよなぁ?

 

「ここで効果の出る称号なのに、レア鉱石が無いなんて……」

「あっ」


 落ち込むエリュテイアの横でココットが声を上げた。

 全員の視線が彼女に向けられると、兎は嬉しそうに跳ねながら青い石を見せた。


「サファイア出たよぉ~」

『おめでとうございます。レア鉱石ですね』

「レアってそれかよっ!」


 普通に宝石ですやん!

 けど、換金率は良さそうだなぁ。

 俺も頑張ろう。


 ざっくざっくと壁を掘るが、面白い事に穴を掘ることは出来ないでいる。

 要は同じ所をひたすらツルハシで叩いているだけだ。

 30分ほどするとポイントが枯れてしまい、次のポイント復活時間まで待ってるのも暇だし再び移動開始。

 更に奥へと続く道へと入っていった。


 尚、ココットが最初にレアをゲットして以来、誰もレア鉱石を見ていない。

 10%の威力は低いようだ。


 相変らずモンスターとの遭遇もほぼ皆無なまま、辺りには奇妙な音が響く。


「ちょっと、誰のお腹が鳴ってるのよっ」

「凄い音ですねぇ~、ふふふ」

『ワタクシではありません。消去法で言っても、カイト様しかいませんね』

「すみません、俺の腹の虫です」


 って、なんで腹の虫が鳴るんだよ!


『そろそろ空腹時間ですね。そういえば……どなたか食べ物をお持ちの方はいらっしゃいますか?』

「空腹……そういやそんな物も実装されてたんだっけか。あっ」


 やべぇ。空腹のまま行動してると、ステータスにマイナス補正が付くんじゃなかったか?

 食い物、食い物!


「あ、山に登る前に倒した兎モンスターの肉があった。素材って書いてるし、料理用のやつだろ?」

「え、それ食べるの? どうやって??」

「兎食べちゃうんですか? 私食べられちゃうんですか?」

「誰もテメーなんか食わねーよ」


 潤んだ瞳で懇願するように「食べないで」と呟くココットは無視だ。

 ステータスにマイナス補正が付くのは拙い。非常に拙い。

 もし万が一ダンジョンボスなんてステキモンスターに遭遇した時、全力が出せないなんてのは俺のプライドが許さないからな。


「な、生でもいけるか?」

『中れば状態異常になりますよ。っと思いますよ』

「ダメかーっ。っ糞。どうやって火を熾せば良いんだ」


 こんな時に魔法使いでも居ればなぁ。


「ゴブリンは?」

「何唐突な事言ってんだよ、エリュテイアは」

「火でしょ? ゴブリンが松明持ってたじゃない」

「……それだっ!」


 ゴブリンどもが持つ松明で――そうだ、壁を補強してる木材を少し拝借して燃やせば……。

 俺のステータスに補正が入る前に、ゴブリンを求めてずんずん進む。

 5分ほどして道の向こう側から、ゆらゆらとした明かりに照らされた影が近づいてきた。

 ゴブリン!

 その数は4。


「うおぉー! その火を寄こせっ」

「……なんだか戦闘の趣旨が違った方向に行ってる気がするんだけど」

「じゃー、私はその辺に落ちてる木の棒を集めてるね~」

『ココット様が一人だと危険ですので、ワタクシがお供します』

「うぉー! 火ぃー!」

「そっちは一人でも大丈夫そう、よね? まってココット、受付嬢さーん」


 一人でも余裕!






 松明の火で木材を燃やし、さながら焚き火のようだ。

 採掘したての鉱石を取り出し、服の裾で綺麗に磨く。それを焚き火の中に置いて、更に鉱石の上に兎の肉を置く。

 その頃になると、残りの3人も空腹状態になった。


「そ、それ、本当に食べられるの?」

「素材だ。食える」

「味付けはぁ? せめて塩コショウとか……」

「贅沢言うな」

『今更ですが、どなたか料理技能をお持ちの方は?』


 受付嬢の言葉に、全員が首を横に振る。当然だが、受付嬢も技能は持ってないだろう。

 いつも俺と一緒に居たんだ。料理技能を修得するような行動はしてない。

 そして今この瞬間、不吉なビジョンが脳裏に浮かぶ。


 真っ黒に焼けましたー的に、炭化した兎肉の塊。


 数秒後、それは現実のものとなる。


「ちょ、おい。ほんの数秒で焦げるって、どうなんだよ!」

『そこはゲームですから』

「なんて都合の良いいい訳してんだよ!」

「わ、私が次やってみるわ。一人暮らしだから、料理ぐらい出来るもの」


 真っ黒に焼けましたーっ。


「えぇー!」

「は~い。次は私がやるね~」


 真っ黒に焼けましたーっ。


「っう……炭になっちゃったよぉ~」

『では、無駄だと思いますが、ワタクシが――』


 真っ黒に焼けましたーっ。


『やはり無駄でしたね。そのうち料理技能を修得できると思いますが、材料のほうが……』

「あと三つしかねーよ」


 成功率の事を考えて、少しでの可能性がありそうな……


『ステータス的にはワタクシが一番可能性があるようです』

「よし、頼んだぞ受付嬢っ」

『はいっ。お任せください!』

「頑張って、受付嬢さんっ」

「美味しいお肉じゃなくてもいいです。焦げてなければなんでもいいですぅー」


 俺は――エリュテイアは――そして、兎ケモミのココットさえも祈った。

 どうか成功しますように、と。






 真っ黒に焼けましたーっ真っ黒に焼けましたーっ真っ黒に焼けましたーっ。

 ましたーっ、したーっ、たーっ……。

『ダンジョンモンスター』

多くのMMOでは、フィールドとダンジョンのモンスターだと、同じレベルでもダンジョンモンスターの方がHPが高かったり、攻撃力も高いというのが多いです。

その分、倒して得られる経験値量も多くなりますが。




作者の近状を活動報告にて書かせていただきます。

更新休んでる日は「あー、そうなんだな」と思っていただけると助かります。


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