36:ダンジョンへ行こう!
エリュテイアとココットに追いつくと、事情を話してパーティーに加わった。
事情っつーのは……
「次の装備を作る為の鉱石集めなんですかぁ」
「25の新しい装備になったばかりだってのに、もう次の事を考えてるの?」
「あぁ。早くから集めておいた方が、直前になって慌てるより良いだろ」
っという適当な嘘だ。
本音はダンジョンを満喫したいだけ。
まぁ30装備用に鉱石を集めておくのも悪くはないしな。
町を出る前に雑貨屋に向かい、鉱石を採掘するのに必要なツルハシを購入。
これには耐久値があって、数値がゼロになると壊れて使えなくなる。
クローズドでの感触としては、300から400回使うと壊れたかな?
「何本か買っておけよ。買いすぎるとアイテムボックスを圧迫するから、せいぜい5本ぐらいにしとけ」
「これって装備品扱いで、アイテムボックスの枠を1本で一つ埋めるのね」
「ダンジョンに行くと、ドロップ品の種類もあれこれ拾うことになるからな。出来るだけ枠は空けといたほうが良い」
「解りましたぁ~」
『では5本購入しておきますね』
全員が1本500Gのツルハシを5本購入し、いざフィールドに出撃!
南に進む事30分。
前方には小高い山が見える。
部分的に木や草が生い茂る山で、スカイツリーほどの高さがあるかな?
ダンジョンに行きたいのも山々だが、まずはおっさんが言ってた糸を集める。
「糸っつったら……蜘蛛?」
「えぇ!? く、蜘蛛から糸を集めるの?」
「蜘蛛の糸で作った服……やだぁ~っ」
やだぁ~っつったって……。
俺たちの服なんて、蛾の繭から作られた糸だぜ?
それを話すと、カイコの糸から採れる絹はリアルでもあるものだからいいんだとかぬかしやがる。
ったく、女子って生き物は面倒くせーな。
『でしたら、あの芋虫の糸はどうですか? カイコっぽく見えますし』
「「え?」」
受付嬢が指差す先に、土色の巨大芋虫が居た。
「やだやだやだやだ、大きすぎじゃない!」
「わぁ~、ぷにぷにしてそうで可愛い♪」
「「え?」」
『あれは可愛いといわれる部類のものでしょうか? カイト様』
いや、俺に聞くな。
エリュテイアも流石にドン引きしてるぞ。
蜘蛛は嫌で、芋虫は可愛いってココットの感性が俺にはサッパリ解らん。
近づいていって試しに倒してみると『上質な糸』ってのをドロップした。
「どうやらこれみたいだな……」
「これなの!? こんな大きな芋虫と戦うなんて……」
『エリュテイア様。この『キャタピー』に限らず、現実世界の動物か昆虫を巨大化させたようなモンスターは、この先沢山出てきます。慣れですよ、慣れ』
「えぇ~……うぅ~」
「慣れろ」
諦めのつかなさそうなエリュテイアに、ビシっと言い捨てる。
ココットは嬉しそうに巨大芋虫『キャタピー』を杖でつんつん突いてるし……突いてるっ!?
突かれたキャタピーが怒って反撃。
口から糸を吐き出し、ココットの体を絡め取った。
「ふぇ~ん、突いてただけなのにぃ~。どうして怒るのぉ?」
そりゃそうだ。
触っただけでも一応は攻撃扱いだからな。ダメージだって出る。
芋虫の糸に絡まってもがくココットは、まるで芋虫みたいだった。
……なんか寒いな。
「もう、ココット何やってんのよっ。『タウント!』」
《ギュピピー》
杖のダメージは低く、エリュテイアのヘイトスキル『タウント』で簡単にタゲが飛んだ。
「そいつのレベルは18だ。お前ら二人でも倒せるだろ。俺らは別のキャタピーを倒してるから、お前らはお前らで頑張れ」
「わ、解ったわ」
『危なくなったら呼んでください。直ぐに駆けつけますので』
「今助けてぇ~。この糸、どうするの~?」
「ほっとけ。時間の経過で消えるだろ」
『はい。えっと、ココット様。耐えてください』
「ふぇ~ん」
情けない声を上げるココットを置いて、俺は手近なキャタピーに攻撃を仕掛けた。
レベル差がありすぎて、手応えなんてものは無い。
二刀流になった通常攻撃2回で倒してしまう……。まぁ斬りつける回数は4回だけどな。
20分程度で俺の手持ち『上質な糸』は80個にった。受付嬢はそれよりも多い100個超え。
『スティールもしていましたから』
「……忘れてた」
っく。なんて優秀な盗賊だよっ。
エリュテイアとココットコンビは25個程度と少ないが、まぁ同格レベルのモンスターだし、初心者だってのを考えればこんなもんか。
数としては十分だろう。
「いざ、ダンジョン!」
「「いざダンジョン!」」
『まだ距離があるようですが?』
そういう突っ込みは、よせ。
山までは徒歩で30分。登りはじめて15分。
東側斜面を歩いているが、入り口らしい所は見つからない。
「柵がしてあるって言ってたよな」
「他の人が入ってたら、柵は取り除かれてるんじゃない?」
『いえ、まだ誰も入っていな――あ、ほ、ほらっ、草が生えてるから、見つけ難いかもとソルトさんが仰ってましたよ』
誰も入っていな……い。と続けるつもりだったのか?
ほほぉ。まだ誰一人としてダンジョンに足を踏み入れてないのか。
ワクテカすんな。
ソルトの話を思い出した所で、鬱蒼をしてる茂みなんかも調べる事にした。
しばらくして、ココットがつる草に覆われた木の柵を発見。
「ここか」
「ここみたいね」
「ここだよぉ~」
『ここですね』
受付嬢も断言している。
よし、邪魔な草を切ってしまうか。
片方の手で短剣を引き抜き、歩くのに邪魔な草を切り捨てていく。
受付嬢とエリュテイアも同じように草を薙ぎ払っていった。
数分もすると柵の奥にぽっかりと口を開いた洞窟が……。
「おぉー。ダンジョンだ」
「く、暗くない? 大丈夫?」
「大丈夫だよエリュちゃん。私の魔法で明るくできるからぁ」
っと得意気なココットが、杖を振りかざして魔法を唱えた。
杖の先が光ってる気がするが、ここはまだ明るいので効果を感じられない。
「じゃあ、俺が先頭を歩く。次がエリュテイア、ココット、最後尾が受付嬢だ」
「え? わ、私が先頭のほうが良くない? 盾だってあるし、防御力だって……」
「エリュテイア。お前のレベルは19なんだろ? 俺は25だ。回避率だって高いし、技能の影響で防御力も普通の盗賊よりは高い」
「そ、そうなの……」
やや落ち込み気味のエリュテイア。
もしかして、盾職としてのプライドを傷つけた、とか?
けどなぁ、レベル差の事や回避の事、俺の防御力が高いのも事実だしなぁ。
そりゃあ、彼女が俺と同じレベルなら最前列を任せるけどよぉ。
『エリュテイア様。カイト様は夜行性性質を持つのケモミ族です。暗い場所でも夜目のお陰で比較的見渡せる能力がありますので、その点でもカイト様が先頭の方が何かと便利なのですよ。
戦闘になればエリュテイア様が前に出てココット様をお守りください』
「え、ケモミってそういう能力があるの?」
「えぁ! 私は? 兎も夜行性なの?」
『兎も夜行性です。夜目能力もありま――すと思います』
「やった~。早く中に入ろうよぉ」
ココットが急かすので全員で中に入った。
《ダンジョンに最初のプレイヤーが進入しました。これにより該当ダンジョンへの道が開かれます》
突然流れるアナウンス。
無機質な女の声は、なんとなく受付嬢に似ていた。
その後、今度はシステムメッセージが可視化されて視界に浮かぶ。
《ダンジョンへの最初の一歩を踏み入れました。称号『ダンジョン探求者・パーティーバージョン』を獲得しました》
《鉱山ダンジョンへの最初の一歩を踏み入れました。称号『鉱山を愛する者』を獲得しました》
称号二つか。
パーティーバージョンってことは、ソロバージョンでもあるのか?
きょろきょろと驚くエリュテイアと、呑気に首を傾げているココットには、何が起こったのか解ってないようだな。
「え? 何今の?」
「アナウンスの通りだろ。俺たちが一番最初にダンジョンに入ったプレイヤーってことだ。道が開かれたってのは、なんだろうな?」
『入り口は簡単には見つからない場所にありました。誰かが侵入した事で、その道がマップに示されるようになったとかではないですか?』
尤もらしいことを言う受付嬢。
それを確かめるために一度外に出てマップを開くと――あー、あった。
マップの俺が今立っている位置に×マークがあり、そこに指を這わせると『鉱山ダンジョン』という文字が浮かぶ。
これでこのダンジョンに他のプレイヤーが押し寄せてくるな。
「っち。他の連中で溢れる前に、さっさと奥に行くぞ」
中に戻って洞窟の中を進む。
歩きながら称号の説明をしてやると、二人とも称号を確認して大喜びしていた。
俺も確認すると、うん。こりゃ嬉しい称号だ。
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『ダンジョン探求者・パーティーバージョン』
パーティーを組んでダンジョンに挑んだ場合、アイテムのドロップ率5%上昇。
ダンジョン内での移動速度+10。
『鉱山を愛する者』
鉱山ダンジョン内で採掘をする際、レア鉱石の獲得率10%上昇。
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