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34:イチャラヴなNPC爆ぜろ。

「げ、元気だしてください、カイトさん」

「だ、大丈夫よ。笑顔が苦手なら、クールフェイスでキリっとしていれば……あ、えっと、なんでもないわ」


 急に訂正するのは、クールフェイスでもイけてないからなんだよな?

 そう目で訴えると、エリュテイアはしれーっと目線を合わせまいと横を向いていた。

 いいんだ……どうせ俺は笑顔なんて作れないんだからよ。


「か、完売したんだし、くよくよしない! っね?」

「それも、二人の『可愛い女の子』が売り子をしてくれたお陰ですね。本当にありがとうございました」

「えへへ~。可愛いなんてぇ~、普通ですよ、普通」


 嫌味のつもりで言ったのに伝わらない悲しさ。

 あぁ、そうさ。

 笑顔が怖いと言われて落ち込んだ俺に対し、お詫びだと言って売り子を引き受けてくれたんだよこの二人が。

 二人がござの前に立って「ポーションいかがですか~?」と、マッチ売りの少女よろしくなノリで売り子をすると、それまで遠巻きに見ていた連中が一気に駆け寄ってきて――

 もうあっという間だね。

 5分もしないうちにポーション全部完売しやがったよ。


 完売したのは嬉しいが、マジ凹む。


「はぁ~……俺もNPCに笑顔の作り方を教わってみるかな」

「そんなの教えてくれるNPCがいるの?」

「あぁ……まぁ」

「ふぅ~ん。でも、どうしてあんな……その、威嚇してるっていうか、獲物を捕らえて今まさにかぶり付こうとしてる肉食獣というか、狂気じみた顔になるの?」


 獲物にかぶりつこうとしてる肉食獣って……どんな例えだよ。

 まぁそれだけ異様だったんだろう。

 どうしてって言われてもなぁ。

 うーん、威嚇してるような――あ、心当たりがあった。


「死んだ糞じじいに、試合では対戦相手を目で殺せってしつこく言われてたな」

「「対戦相手?」」


 ココットとエリュテイアの二人が同時に声を上げる。

 俺は、物心つく前から柔道、剣道、空手を習わされていたことを話した。

 剣道のほうはいまいち芽が出ず、小学校卒業前に辞めさせられたが。

 とはいえ、県大会3位までは行ったんだよなぁ。


「3位まで行ったのに、芽が出ないって言うの?」

「糞じじいにそう言われただけで、教室の先生なんかは勿体無いとは言ってたよ」

「そ、そうよね……え、じゃー柔道と空手は?」

「あぁ、そっちは小学校でも高校でも、全国大会に出場して空手は準優勝までが最高で、柔道なら優勝経験もある」

「「すっごーい!」」


 羨望の眼差しで見られている……。けど、これがまた喜べないんだなぁ。

 なんせこの習い事が原因で、ぼっちになったようなものだし。

 笑顔だってなー、


「へらへらしてちゃ、相手から舐められる。常日頃から周囲は全て敵だと思って、威嚇し続けろ。なんて言われてたもんだ」

「それって、笑うなって事?」


 エリュテイアの言葉に頷いてみせる。

 何故かココットは同情するような目で俺を見ていた。


「だから笑顔が上手く作れないのね……」

「笑っちゃダメだなんて、カイトさん可哀想」


 か、可哀想なのか、俺。

 そ、そうだよな。好きでもない習い事なんて、糞じじいの趣味でやらされて子供らしい遊び一つ、やらせてもらえなかったんだし。

 同じ年頃の子供と遊ぶことも禁止されてたしな。

 可哀想だよな、俺。


「大丈夫よ! 今からだって立派な笑顔が出来るようになるわ」

「そうですっ。いろいろ教えてもらいましたし、今度は私達がとってもキュートな笑顔を教えてあげますよ。っね? エリュちゃん」

「え? キ、キュート?」

「うん。すっごくキュートで可愛い笑顔♪」


 一抹の不安を感じるのは俺だけだろうか?

 いや、振られたエリュテイアのほうもドン引きしてるっぽいし、俺だけじゃないはずだ。


 売り物の無くなった店を閉じ、ござをアイテムボックスに直し込んでいると、


『お待たせしました、カイト様。無事にポーションは完売されたようですね。あら?』


 聞きなれた声、受付嬢がやってきた。

 ココットとエリュテイアの二人を見て首を傾げている受付嬢に、その二人がお辞儀をする。


「受付嬢さん、おはようございます」

「おはよう、受付嬢さん」

『はい、おはようございます、ココット様、エリュテイア様』

「や、やだ。様付けで呼ばないでよ」

「えへ~。受付嬢さんって、メイドカフェの店員さんみたい~」


 おい、女のお前がメイドカフェなんて行った事あるのかココットよ。

 俺だって行った事ねーのにっ。


『メイドカフェですか……』


 あ、受付嬢が止まった。またなんか検索でもしてんのか?

 数秒後、瞬きをした受付嬢は――


『はい。せっかくこのようなアバター衣装が当たりましたので、どうせならと思ってメイドプレイを行っております』


 なんてセリフをすれっと言いやがった。

 メイドプレイ……卑猥に聞こえるのは俺だけか?

 女子二人は深く考えていないようで、そうなんだーという声を掛けているだけだった。


『ところで、お二人はどうなされたのですか?』

「あ、実はさっき――」

「カイトさんにキュートな笑顔の作り方を教えてあげるの」

「キュートかどうかはまぁおいといて、昨日のお礼もあるから」

『はぁ……キュート、でございますか?』


 いや、こっち見んなって。

 キュートとか男の俺にどうしろってんだ。

 もう助けてくれぇー。


『カイト様、ログインされてからソルトさんの下へと向いましたか? ご依頼されていた武器が出来上がってると思うのですが』

「んあ? いや、行ってな――あぁ!」


 思い出した!

 そうだよそうだっ。武器だよ武器!

 生産工程の改善ってことで、そっちに頭が行ってしまってたが。

 メンテ中は時間が流れてなかったとしても、0時から4時半まではゲーム内の時間も進んでただろうし、丸1日は経過してるはずだ。


「悪い、俺、NPCに武器の製造依頼してたんだ」

「え? それって昨日も言ってなかった?」

「あ、あぁ。昨日は防具で、今回は武器なんだ」

「へぇ。NPCに頼んで作って貰えるんだ?」

「じゃー、カイトさんの新しい服って、そのエヌピーシーさんが作ってくれたものなんですね」


 ココットのニュアンスがちょっと気になる。

 まさかNPCなんて名前のキャラか何かだとか思ってないだろうな。


「ココット、NPCっていうのは人の名前じゃなくって、ノンプレイヤーキャラクターといって、ゲーム内に出てくる登場人物の事よ?」

「あ、そうなんだー」

「マジでそう思ってたのかよっ!」


 エリュテイアの説明に素で答えるココット。恐るべし。

 武器を受け取りに『防具屋』に行くと話すと、二人も同行したいと言って来た。

 次のレベルアップで20になるから、新しい装備を見ておきたい――という事か。


 二人を連れて工房の方へと向かい、その途中にある防具屋へと入った。






「いぃーらぁー、っしゃぁ~い」

「ばーちゃん、客を驚かせるの止めろって、毎日言ってるだろ?」


 薄暗い店内。カウンターの上に鎮座する妖怪ばばあ。

 その隣には爽やかなイケメン野郎が大きな溜息を吐きながら立っていた。


「っよ。出来てるか?」

「あぁ、出来てるよ。随分遅かったから、どっかで野たれ死んでんのかと思ったよ」


 ソルトから二振りの短剣を受け取る。

 一本は俺の分で、もう一本が受付嬢の分だ。


「それぞれ付与効果が違うから、二人のスタイルに合った方を使ってくれ。喧嘩はするなよ」

「解った」

「ところで、あの子等は、その……客か?」


 ソルトが店内をきょろきょろしているココットとエリュテイアの二人を見てぽつりと言う。

 客になるかどうかは、品物と価格次第だぜ。っと告げると、何故か慌てて店の奥へと引っ込んでしまった。

 直ぐ後にドタドタと走ってくる音が聞こえ、出て来たのはソルトだけじゃなく、おっさんも一緒だった。


「よ、ようこそお嬢ちゃん方。何かお探しで? 気に入ったものがあればじゃんじゃん試着してくれ」

「お、俺は鍛冶職人だ。そっちの剣士の装備は俺が面倒見るぜ?」


 おいおい、俺のときとまったく態度が違うじゃねーか。


「あらあら、お客様なの? まぁ、こんなに沢山!」


 そう言って出て来たのは、この前見かけた笑顔のステキな女性だ。

 やっぱこの店に居たのか。


「かーちゃんっ。み、店に顔出すなって」

「えー、いいじゃない、私だってお店に立ちたいんだものぉ」

「ダメだ。かーちゃんを狙うハイエナ共が居るから――」

「親父がそうやって勝手な妄想して、男のお客に威嚇しまくってるから閑古鳥が鳴いてんだろ! しかもばーちゃんに店番なんかさせるからっ」

「ふぇっふぇっふぇ。いらぁ~っしゃ~い」


 なんなんだ、この親子は。

 まるでコントだな。


 話を纏めるとこうだ。

 店先を掃除してた美人のお姉さんは、実は若作りなだけでソルトのお袋さんだった。

 で、男の客は全員、この美人奥さん目当てに集まって口説こうとしているんだと、ソリオのおっさんは妄想している。

 だから男性客に対しては喧嘩腰の態度で接してて、客が減った――と。

 ついでに、店番を頼んでたおっさんのお袋さんが、まるで妖怪ばばあなもんだから、女性客が怖がって居なくなった、と。


 アホだな。


「そりゃー、奥さんは美人だけどさ。全員が全員、下心があって入店してる訳じゃねーだろうに。おっさんやソルトの品に惹かれてやってくる冒険者だって居るだろ」

「言ってやってくれカイト。糞親父のせいで、作った商品を他所の店に卸さなきゃいけないんだ」

「奥さんと一緒に店番すればいいだけだろ? あんたの品を見に来た奴か、そうじゃないのか、あんたなら見れば解るだろう」

「そうよそうよ。お客さん、もっと言ってください」

『奥様がいかに口説かれようとも、ご店主を裏切る事はないのでは? それともご店主は、奥様に見捨てられるかもしれないという思いがおありですか?』

「奥さんの事、信用してないんですか?」

「えぇ~、奥さん可哀想ですよぉ」


 うぉ、女子三人はなんかきっつい事言ってるなぁ。

 まぁ熊みたいなおっさんと、美人で若作りな奥さんとじゃ吊り合い取れねーけどな。

 ナイスガイなイケメン中年が現れたら、完全におっさんは負けるだろう。


 女子3人の言葉の後、フリーズした親子。

 あー、こりゃなんか学習してるな。

 動き出したかと思うと、奥さんがソリオのおっさんに食って掛かった。 


「そうよ、あなた! 私があなたを捨てて、何処かの誰かに付いていくとでも思ってるの?」

「いや、あの――」

「私は、私は……あなた以外の人なんて、愛せないのに」

「か、かーちゃん……」

「「……」」


 どんな学習したんだよ、こいつらは!

 

「わ、悪いな。うちの馬鹿両親のおのろけシーンを見せてしまって」

「い、いや。な、仲が良くて、いいんじゃね?」

「そ、そうね」

「いいなぁー。私もいつかあんな風に言ってみたぁ~い」

『ココット様はご結婚されていらっしゃるのですか?』

「ううん。だってまだ大学生だもん。恋人だっていませーん」

『願望みたいなものでしたか』

「うんうん。女の子だったら、夢だよねー?」

「ちょ、私に話振らないでよ。別に、あんなセリフ言いたいとか思ってないし」

『人それぞれなのですね。なかなか奥が深い』


 どんな奥だよ……。

 俺とソルトは女子の会話について行けず、二人で短剣話を始めるのだった。

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