28:ご利用は計画的に
「っな! ミ、ミドルレアの短剣だと!?」
店で待っていたソルトに、ドヤ顔で手に入れたばかりの『水流のシュトゥーム・スティレット』を出してみせた。
神々しく光るスティレットを前に、ソルトは拝むように見つめている。
尚、実際には光ってない。きっと奴にはそう見えているんだろうなーって事で。
出して気づいたが、レベリングに夢中になっていたせいで装備レベルに達してるのに持ち替えるのを忘れていた。まぁ『ライトムーン・スティレット』の攻撃力も高かったし、使っててダメージ力が足りないって事が無かったからなぁ。
一度装備したアイテムは他人が装備できない仕様だし、売ったりとかも出来ねーんだよなぁ。
ま、とりあえずだ……
「こうして名刀を手に入れちまったからさ、25武器の製造は――」
『カイト様。製造依頼はされてみては?』
「え?」
ソルトへの依頼を取り下げようとした時、受付嬢が会話に割って入った。
「いや、ミドルレアの武器があるし――」
『はい。しかしカイト様は二刀流使いになるおつもりなのでしょう?』
「あぁ、二次職になってから、そうしようと思ってるんだが」
『二次職からですか……。あのスキルは1までしかありませんし、今取って二刀流になるのもよろしいかと思いまして』
あぁ、なるほどね。二刀流をするなら、当然武器も二本必要になる。
ん~、どうすっかな。
二次職に『暗殺者』は定番だろうから、あると思ってる。アサシンになってから二刀流が絶対かっこいいだろう、と考えてたんだが。
火力の補強という点なら、今から二刀流にして通常攻撃のダメージアップを図るのも有りだな。
スキルポイントは6余らせている。『シャドウスラッシュ』と『カウンター』のダメージコストを検証してから、どちらを先に上げるか、他のスキルを取るかを考えていたからだ。
使うためには前提条件が必要な『カウンター』よりは、まず『シャドウスラッシュ』だろうな。
タブレットを操作してポチポチとスキルポイントを振っていくと、『シャドウスラッシュ』のレベルMAXは5だった。
消費ポイントは4。ここで『二刀流』を取って残り1ポイント。
「よし、二刀流完了。ソルト、蟹の甲羅って幾つ必要なんだ?」
返事が無い。只の屍のようだ。
いや、スティレットに魅入ってるだけか。
「おいっ! 客の話聞けよ!!」
「んわっ、へ? な、なんだ急に?」
「急じゃねーよ……ったく。で、25武器作るのに必要な甲羅の数だよ。幾ついるんだ?」
「あ、あぁ――」
蟹の甲羅5個。それにシルバーインゴットという素材が必要らしい。
シルバーインゴットは鉱石の加工品だが、持っていないのでソルトから買う形になる。
「この素材も使えるか?」
この――とは、フット・ピラニアの鱗だ。
ん? 鱗が二種類ある?
「ドロップしたのは一種類のハズなんだけどなぁ」
「見せてみろ」
ソルトに二種類の鱗を、それぞれ1枚ずつ取り出して見せた。
一つはきらきら光っていて、名前は『フット・ピラニアの鱗 ☆☆』になっていた。こっちがドロップした方だな。
もう一つは、さほど綺麗でもなんでもない、グレーの鱗だ。この鱗、見覚えがあるな。
『こちらの鱗は、カイト様が『シャドウスラッシュ』で剥ぎ取ったものでは?』
「あっ! そうか、剥ぎ取った後もデータの藻屑にならないからって、アイテムボックスに突っ込んだんだった」
「データの藻屑? 何のことだ?」
『いえ、こちらの話でございます。この二種類の鱗も、素材として利用できますでしょうか?』
演出用、つまり一般のNPCはゲーム専用のシステムの事は知らない――という設定らしい。
そのくせレベルとか技能とか、タブレットの事とか知ってるんだもんなぁ。
慌てて受付嬢が話題を戻すと、ソルトは鼻息を荒げてにぃっと笑った。
こんな顔でもイケメンはイケメンのままか。羨ましい。
「こっちの光ってる方はすり潰して鉱石にまぶせば、切れ味が良くなる。そのまま使えば防具にもなるよ。グレーの方は硬度があるから、完全に防具向けだな」
「そうか。光ってる方は武器素材にしたとして……甲羅と合わせてどんな効果の武器になりそうだ?」
「んー、レア相当の武器は確実に作れるが、ミドルレア相当となると素材がちょっと足りないかもなぁ。高い攻撃力、水属性モンスターに対して追加ダメージ。このぐらいか」
特殊効果的には『ライトムーン・スティレット』のほうが上だなぁ。せめて攻撃速度が上がれば……。
「なら、余った風切り羽根を使うか?」
そう言って店の奥から出て来たのは熊のおっさん。手には風呂敷を二つ、抱えている。
「親父、余ったのか! 寄こせっ」
「おいおい、寄こせとはなんだ寄こせとは。2枚余ってるぞ」
「ピッピロウの羽根か。それを使うとどうなる?」
黒く、大人の掌よりも遥かに大きな羽根。それをおっさんが2枚出してきた。
残りは装備に使ったんだろう。
「確率の問題だが、速度系の能力がつきやすいんだ」
ソルトの言葉を聞いて即答した。
「それで頼む」――っと。
「ついでだからさ、二本作れねーか? 素材はあるからさ」
蟹の甲羅は『スティール』の甲斐もあって、合計26個拾えている。こっちも防具素材に出来るということで、おっさんに作って貰った装備の上から着れる、女物のブレストアーマーも頼んでみた。
必要な素材数は――
『蟹の甲羅』23個。『フット・ピラニアの鱗 ☆☆』10枚。『フット・ピラニアの硬い鱗 ☆』10枚。
それをソルトに手渡した。
「じゃ……」
そう言ってソルトが手を出してくる。
必要な素材を渡しても、まだ手を出したままだ。
もしかして、金か?
隣でおっさんも同じように手を出してきやがった。
やっぱ金か……。
「裁縫の依頼料、2着で15000Gだ」
「俺の方は短剣2本、ブレストアーマー1着で3万だ」
……そんな金ねーよ。どうしたもんか。
『あの、いくつか素材を買い取っていただけませんか?』
「おぉ、その手があったか」
「なんだ、金が足りないのか。まぁそれでもいいよ。なんなら要らない装備も引き取るけど?」
「お、マジで。『ブラックフェザー・カッター』とかあるんだが」
既に装備済みだし、そんなに良い値段にはならないだろう。
「ほほぉ、レア武器か。あんた随分と良い装備ばっかり持ってるじゃねーか」
「はっはっは。まぁレアモンスターとの相性が良かったんだろ」
受付嬢から貰った同じくピッピロウ産の『フェザー・ブーツ』。
半端に余った『蟹の甲羅』3個と綺麗な方の鱗が10枚、グレーの硬い方が12枚も買いとって貰って――
「合わせて5万でどうだ?」
「おぉ! 請求金額を超えたのか」
おっさんの提示した金額は、二人に依頼した(する)装備の金額を少しだけ超えた。
なんでも、鉱石系の素材はレアでもなんでもないノーマル品だし、元よりレア素材の金額のほうが圧倒的に高いんだとか。
そのレア素材を持ち込みしたんだから、製造手数料と鉱石素材料しか掛からないので安いんだと。
「この装備だって、普通に店に出せば1着で3万は取る品だ」
おっさんがテーブルの置いたままの風呂敷を指差す。
半値で2着作って貰えたのか。確かに安上がりだ。
「もう一本の、昨日、俺が強化してやった『ライトムーン』はどうする? あれも売るなら+7500だぜ」
「あぁ、依頼品の完成を確認してからだ」
「俺が失敗するとでも思っているのか? よぉし、絶対成功させて、一級品を作ってやるからなっ!」
叫びながらソルトが素材を抱えて奥に行ってしまった。
俺としては、完成品の特殊効果が気になって、念のため『ライトムーン・スティレット』を残しておくつもりだったんだが……。
ん? 待てよ。
「おい、職人に依頼しても、失敗することあるのかよっ」
『はい。その辺りはプレイヤーの方と同じ設定ですので』
「同じって、まさか失敗したら!?」
「失敗したらそりゃおめー、素材がパァになるだけだろ。がーっはっはっは」
真っ白い歯を剥き出しにして笑い出すおっさん。
笑いごとじゃねーよ!




