26:助太刀いたす
夜中の戦闘は予想以上に快適だった。
っというのも、『ムーンライト・スティレット』の効果が働いたからだ。
「夜になると追加ダメージが入るってことを、すっかり忘れてたぜ」
『左様でございますね。その武器を手に入れられて、初めての夜ですし。初体験でもありましょう』
初めての夜、初体験……朝帰り……
イ、イカンイカン。邪な事を考えるな俺!
ゲームは遊びじゃねーんだぞ。全身全霊を掛けてゲームに没頭するんだっ。
邪念を払いのけるようにしてモンスターを倒していく。
そして東の空が白む頃、俺たちのレベルは25になった。
「フット・ピラニアと戦ってから何時間ぐらい経ったか?」
『フット・ピラニアとの戦闘終了時刻が17時13分です。現在時刻は午前5時2分です。12時間を超えたあたりですね』
フット・ピラニアを倒した時点で、レベル22目前だったが――それ考えるとレベル3と少し上げるのに12時間もかかったのか。
一気にマゾゲー化してきたな。
っふふ、望むところだ。
簡単にレベルが上がっちゃー、遣り甲斐なんてものも無くなる。
そのうち1レベル上げるのに1日以上とかになってくるだろう。
そうなってくると、装備の良し悪しが更に影響してくるってもんだ。
「さぁ、町に戻って依頼してた装備を受け取りに行くぞ」
『はいっ。朝帰りですね』
朝帰り――そう言う受付嬢を振り向いた時、丁度朝日が昇って彼女を照らした。
逆光になっていて彼女の表情は解らない。
解らないが、俺の顔が熱を帯び始めた。
邪念よ吹き飛べっ。
町に戻るといいつつ今の時間を考えると、まだ防具屋の開店時間にもならない事が判明。
「っち。リアリティーを出すためにって、NPCは夜になると寝るとかどうなんだよっ」
『VR――バーチャルリアリティですから』
MMOの時代には昼夜問わず、イベントでも無い限りNPCの店を利用できなくなるなんてことは無かった。
初期の頃のVRMMOもだ。
なのに、昨今のVRときたらーっ。
時間を潰すためにカジャールの真北にある森のほうで採取をした。
ムーン・モスは昨日の夜に倒したばかりだし、流石に復活しなくて残念。
二時間半ほど採取をして町に向う途中――
「ふえぇ~ん、エリュちゃん助けてぇ~」
「ま、待って! こっちも手一杯なの。頑張って、自分にヒールしててっ」
草原の真っ只中で聞えてくる女子の声。
どちらも切迫したような……いや、前者の声は危機感に欠ける声か。
声の方を見てみると、ペアで狩りをしている女子二人の姿が見えた。うち一人はバニーガールのような頭だ。
「っと思ったらケモミの兎か」
『どうかなさいましたか?』
「いや、なんか囲まれてヤバそうなパーティーがいるなーっと思って」
なんとなく指差した方角を受付嬢が見て、
『お二人ともHPが半分以下でございますね』
っと解説する。
パーティーを組んでいない相手のHPなんて、本当は見えないハズなんだけどな……。
ケモミ兎のほうは神官なようで、必死に自己ヒールをしている。
もう一人の紅色の髪の女は剣士か。被ダメージエフェクトが噴水のように昇っては落ちている。
拙そうだな……。
『お助けしますか?』
「え?」
受付嬢の言葉に、一瞬頭が真っ白になる。
助ける?
えーっと、助けるって他人を?
そんな事、一度も考えたことが無かった……。
『お助けしますか? そうしたいのではありませんか?』
「え? お、俺が?」
『はい。急ぎませんと、お二人とも戦闘不能になってしまいますよ』
「え、あっ。い、行くぞっ」
『はいっ』
俺は急ぐためにも『電光石火』を使って、まずは兎に群がるモンスターを狙う。
「助太刀」
そう短く伝えてからモンスターに一撃を加えていった。
ヒールヘイトもあったが、俺のダメージヘイトの方が上回る。
追いついてきた受付嬢が、剣士の加勢に入った。
同時に俺がポーションを取り出し、剣士に狙いを定めて投球。
っぱりんという乾いた音を耳で聞きながら、目の前に居る兎にヒールを控えるように伝える。
「あの、でもエリュちゃんが」
「回復は俺がやる。あんたは彼女が攻撃してるモンスターを一緒に殴るか、魔法で攻撃してろっ」
「は、はいっ」
少し語気を荒げたからか、兎女子は背筋をビシっと伸ばしながらもあたふたしている。
うーん、どうも初心者っぽいなぁ。
もう一人の剣士のほうも、いまいち攻撃が下手だし。
見ていると、まったくスキルを使う気配も無い。
MPが無いのか、使い方を知らないのか……。
「おい、スキルを使うときはスキル名を叫べ。そうしたら体が勝手に反応するからよ」
「え? そ、そうなの? えっと――『スラッシュ』」
案の定か。
赤毛の剣士女子がスキル名を叫ぶと、刃が青白い光を放って一閃する。
すぐさま『スラッシュ』と叫ぶが、スキルは発動しない。
CTの存在も知らないのか。こりゃ二人ともネトゲ初心者だなぁ。
「スキルにはクールタイムっつー、待機時間があるんだよ。連続で使用できないから、別のスキルと通常攻撃と、交互に使えっ」
「わ、解ったわ。じゃ……『シールド・スタン』」
盾をモンスターにぶつけて昏倒させるスキルか。
モンスターの頭上に、ヒヨコがパタパタと飛ぶエフェクトが現れる。
ほぉー、スタンさせるとあんなのが出るのか。
「えぇーいっ」
お、兎女子はようやく自分のやるべき事を理解できたようだ。
残念なのが片手杖でモンスターをポクポク殴ってるところだな。攻撃力がゴミ過ぎる。
助太刀に入った受付嬢が2匹のモンスターを倒しきり、俺に視線を向けてきていた。
「俺の方は回避してるから放置してていいぜ。残りのモンスターはそっちの二人に倒させよう」
『了解いたしました。では見守っておりますね』
俺の周りに5匹のモンスターが居る。
バッタのような姿をした二足歩行のモンスターだが、150センチほどのサイズがある。
でかいが、弱い。ノーマルモンスターだ。
そいつらが忙しく俺の周りをピョンピョン跳ねて足蹴りを繰り出している。
それら全てを俺は躱していた。
同じモンスターと赤毛の剣士も戦っているが、こちらは躱す余裕は無さそうだ。ダメージ量を見ていても、低いとは言えない。
もしかしてバランス型のステータスか?
初心者にはお勧めできないんだけどなぁ。
5分ほどしてようやく全てのモンスターを倒し終え、二人はその場にへたり込んでしまった。
「あ、ありがとうございます。お陰で死なずに済みました」
「怖かったぁ。どうして急にバッタさんがこっちに来たんだろう?」
「ココットは手を出してなかったのに、なんでだろう?」
「エリュちゃんに魔法を使ってからだよぉ」
それはアレですか。『ヒール』ですか?
ヘイト概念も知らないみたいだな……。
ここはビシっと教えてやるべきか? けど教えるって事は、やっぱ喋るって事だよな。
で、出来るか? 俺に。
見ず知らずの女子相手に……いや、やるんだっ。ぼっちからの脱却を目指しているんだろう!
「あー、えっと、あの、あんたがモンスターに殴られたのって、ひ、『ヒール』のあとからじゃないですかねっ?」
『カイト様、大丈夫ですか? 声が上ずっておられますよ?』
あばばばばばばば。緊張しるぎた――あ?
……目を開くと超至近距離に受付嬢の顔が……
……。
……ぶふぉっ! い、息止まってた。
「ほ、本日は晴天なりぃぃっ」
『カイト様?』
「だ、大丈夫だ。うっほん。あー、その、『ヒール』にもヘイトってのがあってだなー。あ、いや、まずヘイトが何か、お、お前ら知ってるか?」
女子二人は顔を見合わせて、同時に首を横に振った。
うん、やっぱりだよな。
ようやく他のプレイヤーが出てきました。
ブクマ評価ありがとうございます。
暑くて脳みそ溶けそうですが、今月中はなんとか毎日更新頑張れそうです。
来月からは……執筆速度にあわせた更新になるかと。
二日に一話ぐらいは更新したいと思っております。
よろしくお願いしますです。




