24:怪魚戦
足の生えた魚。
はたしてこいつは魚類なのか、それとも両生類なのか。はたまた動物?
モンスターにも、それぞれ種族があり、種族によって苦手得意属性なんかがあったりする。
動物なら火属性が苦手だし、魚類なら雷が。両生類は氷が苦手だ。
「うん。弱点云々考えたところで、俺たちは物理戦闘職だからそんなの関係ねーっ!」
『弱点ですか? 魚類なので雷かと思いますが』
「だから、雷魔法も無ければ雷属性が付与した武器も持ってねーって」
『左様でございますね。『クィーン・ニードル』で強化加工を依頼しておけばよろしかったですね』
あぁーっ! そうだったっ。
森林クラブも水属性だろうし、雷は有効だったろうに。
くっそぉー。
っていうか、この足つきピラルクは魚類扱いだったのか。
えーっと、モンスター名が?
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モンスター名:☆フット・ピラニア
レベル:24
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「おいっ。明らかにネーミングがおかしいだろ! これのどこがピラニアなんだよ。おい!」
『す、すみません。しかしモンスター名のほとんどはデザイナーによるものですので、その……』
ちゃんとネットで、ピラニアとピラルクの外見チェックしてから命名しろよな……。
魚類――の癖に浅瀬に立っているフット・ピラニア。
どうやってエラ呼吸してんだ?
っと思いきや、体の表面に水の膜を張ってやがる。
「っち。切り付けてもなんか手応えが重いと思ったら、水の膜でダメージが上手く通ってねーのか」
『そのようですね。凡そ一割ほど防がれております』
「だぁー、やっぱ『クィーン・ニードル』で雷属性付けて貰うんだったぜ」
『引き返しますか?』
馬鹿言えっ。相手はレアモンスターだぞ。
他の誰かに見つかったら、獲物を取られてしまうじゃねーかっ。
幸いあの足のせいか、動きは遅い。時間は掛かるかもしれねーが、地道にHPを削り取っていこう。
「奴は川から上がってこねみてーだな。だからって川の深みに行けば奴の独壇場だ。足場は悪いが、この浅瀬でなんとか倒すぞ」
『はい。では――スティール』
「いきなりかよ!」
『はい。そして盗む事に成功しました』
「マジかよっ!」
こいつ……サポートAIより盗賊向きじゃね?
俺だって『スティール』したかった……ま、まぁいい。その分のMPを攻撃に――
「ぐぬぉーっ! 『シャドウスラッシュ』」
前傾姿勢でフット・ピラニアの横を掠めるようにして過ぎ去る。
その際、短剣を一閃させて奴に多少のダメージを与えた。
すると、鱗が1枚舞い上がり、その部分の皮膚とでもいうのか? が顕になった。
「流石に図体がでかいだけあって、鱗もでかいな……」
なんとなく掴んだ鱗は、俺の掌よりやや小さい程度の大きさがある。
あ、鱗っていやぁ、スケールメイルとかスケールシールドとか、ファンタジーでは定番の装備素材じゃねーか。
データの藻屑にならないあたり、このままアイテムボックスに入れればゲットできるんじゃね?
『カイト様っ、攻撃が来ますっ』
「うわっと、あっぶ――へぶしっ」
べろんっと生暖かい何かが俺の顔を舐めまわす。
な、何が起こった?
今、何が俺の顔を舐めた?
背筋が凍るような、そんな錯覚さえ覚える。
見ると、目の前のフット・ピラニアが長い舌を出して俺を見つめているではないかっ!
ちょ、待てっ。
魚だろ?
なんで舌があるんだよっ!
なんで魚のくせにウィンクしてんだよっ!
「き、気色悪ぃーんだよ! この、魚類!」
《ギャァーッ!? ブッチーン!》
ブッチーンっておいっ!
ちょ、尾っぽ振り上げて何する気だ?
あ? まさかビンタの構え?
んなもん、余裕で躱してくれるわっ!
――っといつもなら華麗に回避行動に移れるハズだったんだが、膝辺りまで水に浸かっているせいか足が思うように動かない。
いつものようなスピードも出せず、モロに尾っぽビンタを食らって500近いダメージを貰ってしまった。
レベル1のライフポーションを取り出し、一気に飲み干す。
空になった瓶はデータの藻屑となって消え、光の粒子を撒き散らした。
「やってくれたなっ!」
ざばざばと岸のほうに移動し、奴をもう少し浅瀬に引き寄せる。
なんとか足首あたりの水深の所まではひっぱれたな。
「っしゃー! 行くぜっ」
再び『シャドウスラッシュ』を仕掛ける。今度は水深の深いほうに向ってではなく、上流から下流に向かい感じで走った。
そこに『電光石火』も加えてターンし、通常攻撃をお見舞いする。
鱗が剥げ、しっかりとそれを確保した。
その鱗が剥げた箇所に、受付嬢が短剣を突き刺す。
「お、その構えって、スキルか?」
『はい。突き系攻撃の『スタブ』を取ってみました。鱗が剥げた所なら、防御が落ちているかと思いまして』
盗賊の攻撃スキルの中で、俺的には微妙だと思っているヤツだな。
派生スキルの前提になってそうだから、そのうち取ろうとは思っていたが。
後で派生スキルが出てるかどうか聞いてみよう。
それよりも今は目の前のこの妖魚だ。
鱗が剥げた部分への『スタブ』は、どうやら有効らしい。
しかし逆に、鱗の部分に『スタブ』をしてもほとんどダメージが通ってない。
硬い鱗が突き攻撃を防いでしまっているのか。
で、俺の『シャドウスラッシュ』で鱗が剥げる――っと。
こりゃコンビプレーが必要だな。
俺が鱗を削り、受付嬢がむき出しになった箇所に『スタブ』を打ち込む。
コンビプレーで楽に倒せるかと思ったが、流石にそうはいかなかった。
まず鱗は『シャドウスラッシュ』一発で剥げる訳ではなく、どうもランダムな確率だったらしい。
その後、なかなか鱗が剥げずに苦労した。
したが、受付嬢は既に剥げている二ヶ所を集中して攻撃していたので、奴のHPをじわじわと削り続けられた。
「っはぁはぁ。残りHP、やっと5割か――なんかいつもより時間食ってる気がするな」
『ここまで25分ほど掛かっております。これまでで最長の戦闘時間になるかと』
「っ糞。『スタブ』以外じゃ対したダメージも与えられねーしな」
だからって今スタブを取る気にはなれない。スキル取りに失敗しても、取り直しが出来ねーんだからな。
何十回目かになる『シャドウスラッシュ』を打ち込もうとした時、奴の体が震えだし音を発した。
鱗同士を擦り合わせたような、そんな音だ。
すると、辺りの岩場から森林クラブが――
「ちょ、こいつ蟹を召喚するのかよっ」
『そのようです』
「俺が蟹を倒していくから、お前は魚のほうを頼む!」
『了解いたしました』
俺の『シャドウスラッシュ』じゃたいしてフット・ピラニアにダメージを与えられない。
なら俺が蟹を倒すほうが効率が良いだろう。
6匹出てきた蟹に一撃ずつ加えて、全部のヘイトを取る。
そこから一匹ずつ確実に仕留めていって――ついでに『スティール』も忘れちゃいない。
こんな時にも素材の甲羅の事は忘れてないんだぜ。
全部を倒し終わって、いざピラニア退治――っと視界の端に映る受付嬢のHPがレッドゾーンに突入している!?
急いで彼女の方へと視線を向けると、やたらとボロボロになった姿が目に入った。
「おい、受付嬢!?」
『カイト様、フット・ピラニアの噛み付き攻撃にご注意くださいっ』
「ご注意って……ピラニアの名前は伊達じゃなかったのかっ」
見ると、鋭い歯を剥き出しにして受付嬢に突進していくじゃねーか。
ギリギリで躱してるように見えるが、どうやら当たり判定が広いらしい。
受付嬢のHPバーが、今の攻撃でがばっと減った。
拙い。あの残り方だと、ヘタすると残りHPは二桁じゃねーか?
急いでタブレットからポーションを取り出し、それを受付嬢に投げつける。
この『取り出す』動作がもう少し簡略されればな……。
その間にもフット・ピラニアの攻撃は止まない。
尾っぽを振り上げ、往復ビンタの構えに入る。
っち、アレを食らったら500ぐらいのダメージが入るぞ!
間に合え――『電光石火!』
一瞬にして間合いを詰める俺の脳裏に、一つの単語が浮かび上がる。
「カ、『カウンター!』」
フット・ピラニアと受付嬢の間に割って入った俺は、振り下ろされる尻尾を掻い潜って奴の懐に潜りこみ、短剣を横一閃に走らせた。
尾っぽは受付嬢に届く事無く、俺も無傷だ。
だが当のフット・ピラニアは大ダメージを食らってもがいている。
その間に受付嬢の回復だ。
もう一本ポーションを投げつけ、彼女自身もポーションを飲むことでなんとかHPバーを80%ぐらいまで回復。
『す、すみません。回避が十分ではない為に、連続攻撃を全て受けてしまって』
「いや、仕方ねーよ。回避ならスキルにある『バックステップ』でも出来るはず。まぁスキルを使うタイミングが重要になるだろうけどな」
『なるほど。足りない回避率はスキルで補えますね』
「ポイントが余ってれば考えてみればいいん――」
『はい、修得しました』
っぶ。マジかよ……。
もうちょっと考えて取ろうぜ。
噛み付き攻撃、尾っぽビンタ。
それら特殊攻撃のモーションが出た際に、素早く俺が受付嬢の前に立ちはだかり『カウンター』を一閃。
反撃に使用する攻撃は通常攻撃だけではなく、スキル攻撃にも対応している事が解った。
更に『電光石火』を挟めば、ダメージ倍率も上昇。
奴の一撃必殺の攻撃が、奴自身の命を削る結果となり――やがて幾つもの鱗を残して水面に倒れた。
ピクピク動く生足が妙にシュールな光景だ。忘れよう。
戦闘時間40分超え。
『カウンター』が有効だと知ってからも、元々の防御力が高かったのもあって時間が掛かったな。
けど、『カウンター』の使い所も解ったし、より効果的な使用法も見つけられた。
あとはレアをドロップしていれば言う事無しだぜ。
直前で一部加筆。
どこかといえば……べろりんちょの下り。
やりすぎた。
反省している。




