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21:生理現象

「ケツに穴を開けねーとな」


 ……そこだけ聞くといろいろと誤解を招きそうだな。

 装備の製作依頼を受けてもらえることになり、今採寸の最中だ。

 ズボンに尻尾を通す穴をという話しなのだが、結果的には穴ではなく、ズボンの後ろにもボタンで留める切込みを入れることになった。

 俺の次には受付嬢も採寸され、おっさんのされるがままになっている。


『あの、ワタクシの採寸はどうしてでしょうか?』

「あぁ? 当たり前だろう。お前さん、そのレベルでそんな糞みてーな防御力じゃねーか」

『あの、それは……』


 しどろもどろに答える受付嬢。

 そういやあいつ、防具は転職時の装備のままなのか?

 それを確認すると、なんとそれ以前の初期装備なままだというのが判明。

 なんでそんなゴミ装備を……。


『あの、カイト様の【薬品投球】のレベルを上げて頂く為には攻撃を受けないといけませんので……』


 え? 俺の為?


『攻撃を受けるためには回避が邪魔だと思い、AGIを上げるのを止めました』


 え……。


『もっとダメージを受けるために装備を脱ぎました』


 え……。


『でも裸では恥ずかしいので、初期装備を着ました』


 ……は、裸!?


「っくぅ〜。泣かせるじゃねーか! おい、よくわかんねーが、ちゃんと彼女を守れよっ」


 太く大きな手で、おっさんが俺の背中を思いっきり叩く。

 おい今の、ピッピロウの足蹴りより痛ぇーぞ!






 採寸が終わって素材を渡す時、


「なぁおっさん。この素材も使って良い物作れねーか?」

「ほほぉ。『ビーの羽』と『黒い風切り羽』の二つは使えるぜ。残りの『クィーン・ニードル』と『ニードル』、『ピッピロウの卵の殻』は裁縫じゃなくって、鍛冶の素材だ」


 おっさんがそこまで言うと、突然店の奥から若い男の声が響いた。


「親父! 今、鍛冶の素材がどうこう言ったか!?」


 どたどたと慌しく音を立てて出てきたのは、10人の女が8人は振り向くだろうイケメン男。

 爽やかな水色の髪と、それより濃い青の瞳。

 おっさん同様にやや日焼けしたような肌。

 ……親父ってことは、親子なのか!?


「なんだソルト。聞えてたのか」

「あぁ、二階に居たがまる聞こえだった」


 二階に居て今の会話が聞えてたのかよ。どんだけ地獄耳なんだ。

 ソルトと呼ばれた息子の視線が俺に向けられる。

 年齢的には俺とあまり変わらなさそうだな。20代半ばか前半かって所か。


「あんたかい、素材を持ってるってのは?」

「あぁ。レアモンスターから出た素材なんだが――」


 クィーンハニィから出た『クィーン・ニードル』と、取り巻きのビーソルジャーから出た『ニードル』、それから『ピッピロウの卵の殻』をソルトに見せた。


「『ニードル』はレベル15武器の素材だが、これだけだとノーマル武器しか作れないな。これに『ピッピロウの卵の殻』を加えれば高品質になる。『クィーン・ニードル』も足せば属性も付くし、レベル20相当の武器にはなるかもしれない」

「今更15武器はなぁ……俺のレベルが今20だから、出切れば25武器のほうが有り難いが」

「そうか……だと『ニードル』はもう用済みだな。卵の殻のほうは装備の強化用と考えてくれ。25武器がほしいなら……そうだな、カジャールの北東にある森に、『森林クラブ』って名のモンスターがいるんだ。

 そいつから取れる甲羅が25装備の素材になるぜ」


 うぉ!

 素材情報をくれるとは、なんて親切なNPCなんだ。


 このまま狩りに行くには武器の攻撃力が心もとないな。レア武器とはいえ、レベル14のヤツだからなぁ。

 そういや卵の殻は装備強化に使えるのなら――


「なぁ、このライトムーン・スティレットを卵の殻で強化できないか?」


 タブレットから短剣を取り出し、ソルトへと見せる。


「こりゃーいい武器じゃないか。もちろん出来るぞ。よし、俺に任せなっ」

「やった! 頼むぜ」

「あぁ、ちょっっと待ってな。失敗したら勘弁な」

「へ?」


 おい、今なんつった?

 スキップしながら俺のライトムーン・スティレットを持って店の奥へと消えたソルト……。

 失敗したら――どうなるんだ?


「あぁあぁぁぁぁぁ、俺早まったかもおぉぉぉぉっ」

「ぶわっはっは。もう遅い。覚悟を決めるんだな。ぶわざーっはっはっは」

「笑ってんじゃねーぞ、熊! テメーの息子だろうがっ」

「ぶわぁーっはっはっは」

『ぶわーっはっはっは「女がそんな笑い方するんじゃありませんっ」――はい』


 っ糞。こいつらめぇ。

 ソルトの野郎、失敗しやがったらタダじゃおかねーぞ。






 程なくして戻ってきたソルトは、満面の笑みを浮かべていやがった。


「喜べ。成功だぞ」

「マジか!」


 受け取ったライトムーン・スティレットを確かめると、




--------------------------------------------------------


【アイテム名】ライトムーン・スティレット(+) ☆

【装備レベル】19

   【効果】月光の下で作られた名刀。淡く発光する刃を持つ。

       攻撃力+131 闇属性に+15%の追加ダメージ 攻撃速度+20

       月が出ている状態で10%の追加ダメージ


--------------------------------------------------------




 名前の後ろにプラス記号が付いてるな。攻撃力が20近くアップか。

 他の効果は据え置きみたいだが、こりゃなかなか良い。


「気に入ったか?」

「あぁ。見た目はそのままだが、攻撃力がかなり上がったな。強化素材を使えば、これ一本をずっと使い続けられたりしねーのかな」


 ある程度レベルが上がったら、また強化素材を使ってパワーアップさせていきゃいいんじゃね?

 っと安直に考えたりしたんだが――


「そりゃー無理だ。元の素材が強化そのものに耐えれなくなるからな。強化素材を使っての加工は、1回が限度だ」

「一度きりかよ。まぁそうしなきゃ、装備系の生産職が寂びれるもんな」

「そういう事だ。って事で――」


 ソルトが俺に向って手を伸ばしてきた?


「なんだ、その手は?」

「情報料と強化代金。『ニードル』がもう用済みだろ?」


 ……な、なんて奴だ。

 自分から情報を言うわ喜んで強化しに行きやがったくせに、後出しでせびってくるとは……。

 まぁいいや。確かに『ニードル』はもう必要ないしな。

 奴の手に6本の『ニードル』を全て乗せ――いや流石に乗らなかったのでテーブルに置いた。

 体長1メートル近い蜂の針なだけはあるな。大人の掌でも6本全部を乗せれるサイズじゃない。


 武器も強化されたし、これで殲滅速度が上がるだろう。

 あとは次の段階の装備を手に入れるために――


「よし。早速森に行くぞ! 素材集めてくっから、待ってろよっ」

『ではまた後ほど』

「あぁ。明日には装備を用意しておいてやるから、取りに来いよっ」


 おっさんの声を背後から聞きながら、俺と受付嬢は足早に店を出て行った。

 森林クラブか。名前からすると蟹……だよな。うーん、硬そうだ。






 北東に進む通路を歩きながら、受付嬢の装備について話しをする。


「次からはちゃんとした装備付けろよ」

『はい。でもしかし――』


 今は転職時に支給されている装備に変えさせている。狩りでノーマル装備でもドロップすれば、その都度着替えて貰おう。

 俺の技能を上げさせる為だとはいえ、レベルが上がれば上がるほど、対するモンスターの攻撃力が高くなってくる。

 ポーションの回復量じゃ追いつかなくなってくるからな。

 それに――


「新しい技能スキルが攻撃用だ。その為のポーションも作ってある。技能レベルはそれで十分上がるだろ。お前が装備を新調したからって、絶対に『ポーション投げ』が不要になるって訳じゃない。状態異常の回復なんかでもポーションを投げれるんだ、心配するな」


 やや考えてから、ようやく受付嬢は納得してくれた。

 それからステータスがどうなってるのか尋ねてみると、またとんでもない事をしていやがった。


『カイト様から、盗賊ならAGIだと教えていただきましたが、

 回避が上がっては攻撃を受けられなくなりますし。

 攻撃を受けなければ『ポーション投げ』をしてもらう事もできませんので。その、他のステータスを上げておりました』

「他の?」

『はい。しかしこれも失敗いたしました。

 VITをあげることで防御力が上がることを忘れておりましたから』

「はい?」


 今、VITっつったか?


『現在、VIT40まで上げておりまして。残りはSTRに振っております』


 まじかよ……。『耐久』技能もVIT増えるんだぜ?

 こいつ、このままだとプチ硬いの『プチ』領域を超えるな。

 なんか微妙にやっちまった感が歪めないステータスと技能になっちまったなぁ。

 しかも、ステータスに関しては俺の為だったという事だし。

 これじゃー責めるに責められないじゃねーかっ。


 けど、内心ではちょっと嬉しいなんて思ったりとかは決してしてないからな。


『カイト様、何か嬉しい事でもありましたでしょうか?』

「……いや、無い。断じて無いっ」

『しかし、尻尾が――』

「尻尾はただの飾りですからっ!」


 もう、嫌!

 感情ダダ漏れ装置に改善を求める!


 あ……。興奮したからか、ちょっとしもに違和感が。

 急いで飯食ってログインしたのはいいが、よく考えたら小便してなかった。

 体が尿意を感じると、同じ現象をゲーム内でも起させ、それを知らせてくれる仕組みだ。

 だがここでログアウトはしたくない。便所なんか行ってると、あっという間にゲーム内じゃ1時間とか過ぎてしまうし。


『カイト様、どうかなさいましたか? 尻尾が小刻みに震えていらっしゃいますが』

「き、気にするな。ちょっと小便行きたくなっただけだが、まだ我慢できる」

『しょうべん? ……あっ』

「ん?」


 町を出るために歩いていたのだが、急に足を止めた受付嬢は、両手で顔を覆って恥らう姿勢を見せる。

 な、なんか俺、セクハラまがいな事でも言ったか? 小便って、ダメなの?


『が、我慢はお体によろしくありませんよ』

「いや、ログアウトしてたらあっという間にこっちの時間が過ぎてしまう。平気だ。このぐらいの尿意ならそのうち忘れて収まってくれる」

『あの、ではこういたしましょう。宿のお手洗いを借りるのです』

「は?」


 何言ってるんだ。ゲーム内の便所を借りて用を足したって、尿意が収まるわけねーじゃん?

 そう説明しても受付嬢は聞く耳を持たず、俺の手を引いて一軒の宿へと入っていった。

 受付の若い従業員に便所の場所を聞き、俺をそこまで案内する。


『さぁ、どうぞっ』

「いや、あの、どうぞと言われても。ゲームの中だぜ?」

『はい。騙されたと思って、入ってみてください』


 ……まぁ、騙されたと思って行ってやらなくもないが。

 すごすごと便所の中へと入りると、まさかの先客がいた。プレイヤー……だよな?

 そう思いながらもすごすごと用をたす。


 おかしい。

 何故だ。

 何故出るんだ!?

 しかもスッキリしていくぞっ!!

 はぁ〜、気分爽快。


 手を洗って出て行くと、受付嬢が眼前に居た。

 近いっ、近いってば!


『カイト様、どうでしたか?』

「は? どうですかって……あの、その……」

『スッキリなさいましたか?』


 あぁ、もう嫌っ。

 女の子にそんな事、言えるかよっ!

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