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19:お断りさせていただきますっ(キリッ

「おらおら、何とか言ってみろよぉ」


 しつこい。マジしつこい。


「だ、だからこれは、そその、ケモミ族で――」

「はぁ?」


 男は俺を見下し、尚も言いがかりを続けた。

 その時気づいたが、この男、『小さなライフ草』の匂いがする。

 もしかして同業者か。


 男が俺の襟首を掴もうと手を伸ばしてくる。

 ちょっとでも触ってみろ、警告無視してぶん投げてやるからなっ。


 だが、それよりも先に男の腕を掴む、細くてしなやかな手があった。


『お客様。言いがかりはお止めください。カイト様のポーションは、ケモミ族所以の品物です。どなたか、公式サイトにありますケモミ族の種族特性を覚えていらっしゃる方はいませんか?』


 男の腕を掴んだのは受付嬢だ。

 辺りがざわつく。

 そんな中、一人のケモミ少女が手を上げて野次馬の中から出て来た。


「ケモミの女性はとても勇敢で、生まれ持っての狩人気質だとか」


 それを聞いた受付嬢が頷く。


『では、男性の特性が書かれていたのはご存知ですか?』

「あ、はい。ケモミの男性は森の知識に富み、彼らの作る薬は、他のどの種族が作るそれよりも優れており……あ、そういう設定なんですか?」

『そうです。実際、カイト様が製薬なさると、こうして熟練度というのが付き、それに合わせて回復量が増えるのですから。不正ツールなどより、尤もらしいと思いませんか?』


 辺りのざわつきが増す。

 ケモミの少女が言った内容を知っているプレイヤーも多かったみたいで、特にケモミ族の女子達は納得したような声が聞こえた。


「じ、じゃあ、なんで男がケモミ族なんだよ。男はケモミを選べねえはずだろっ」


 男は尚も食い下がる。

 っち、やっぱ殴っとくか。

 そう思って立ち上がると、これまでに無いほどの警告メッセージが視界いっぱいに現れる。

 赤文字のメッセージが邪魔で、まともに前すら見れねーじゃん。こりゃPVどころじゃねーな。


 反射的にメッセージを避けて前を見ようと、背伸びしたり上体を横に傾けたりしていると、一瞬、誰かが俺の前に立ち塞がったように見えた。

 いちゃもん野郎か?


「しつけーよあんた。ケモミ族はクローズドベータ参加者に配られた福袋から、種族解放チケットでるんだ。何にも知らないくせに、なんでもかんでもチートチート叫ぶの止めろよ」

「っな、なんだよっ」

「そうだそうだ。不正ツールかどうか、問い合わせりゃ解ることじゃないか」

「そもそも不正ツール使ってたら、ログインサーバーで弾かれるじゃん。そんな事も知らないのかあんた」

「っていうか、そいつあっちでポーション露店だしてた奴じゃん。しかもすっげーぼったくり価格で」

「安いポーション屋見つけたから潰しにきたのか。性格わりーな」

「男の人がケモミ族になると、あんな背が高いんだ〜」

「あんな大きな人と一緒にいたら、私達が子供にしか見えないよねー」

「保父さんよ、保父さん〜」


 どこの誰かも解らない連中が、俺を庇ってくれている。

 う、嬉しい……。

 あ、なんだろう……目頭が、熱い。


「見てっ、尻尾がぶわってなってる。ぶわって!」


 一瞬の沈黙の後、何故か笑われる俺。

 嬉しいという感情が駄々漏れしやがった。

 いそいそと尻尾を隠そうとするは、この糞でかい尻尾を隠せるほどズボンに余裕は無い。上着にもだ。


「っち。覚えてやがれ。ぜってー潰してやるからな」


 男がこの場に乗じて逃げようとする。

 いつの間にか消えた警告メッセージのお陰で、男の位置は直ぐに判った。


 謝らせてやる。ぜってー、謝らせるっ。


「ま、まてこの野郎! さっきの言葉、訂正しろ!」

「あぁ? な、なんだよっ」

「訂正しろ! 商売女と言った事」


 商売女じゃなくって、NPCだ!


「う、五月蝿ぇー! リア充なんざ死ねよっ」

「リッ……勘違いしてんじゃねーよ、俺はこいつとは――

「『ただの友人だ(です)』」


 俺と受付嬢の声が同時にはもる。

 うん、良いタイミングだ。

 口ごもってまもとに喋れない俺を、なんとかフォローしようとしてくれた事に報えただろうか?


「……五月蝿ぇ、ばーかっ」


 あ、あの野郎!

 追いかけていって一本背負いかますぞっ。


《町中での戦闘行為は禁止されています》


 しつけーよっ!


 結局取り逃がしてしまったいちゃもん野郎。

 だが後悔はしていない。

 集まっていた野次馬達が、突然拍手喝采で俺を囲ったからだ。


「最初はろくに喋れもしないキモ野郎かと思ったけど、最後はビシっと決めたじゃねーか」

「顔はともかくかっこよかったぞー」

「そうか友達か。二人は友達なんだな。うんうん」


 褒めちぎられてケツが思いっきりこそばゆかった。

 そして男女問わず、ポーションを買い求める客が押し寄せ、あっという間に完売した。

 最後には、


「次はいつ露店出すんだ?」

「ずっとカジャール? 次の町に進むの?」

「まじ神値段。でももう少しぐらい値上げしていいと思うぜ」


 などなど、なんとも嬉しい言葉を聞けた。

 前回もそうだが、客が押し寄せて来たときはかなり焦る。今回は受付嬢も手伝ってくれたので、迅速な対応ができたと思う。

 ほくほく顔でござを畳み、露店通りを後にした。

 56000Gを超える稼ぎ……う、美味い。美味すぎるよ!


 っとは思ったが、採取や製薬に掛かった時間を全部、狩りに充てた場合はどの位稼げるのか。

 森でのレベリングで稼いだ収集品の売却価格は、えーっと確か、4万Gぐらいだったよな。

 このレベル帯になるとノーマス装備のドロップも増えて、収集品の売却単価も跳ね上がるから稼ぎが一気に良くなったなぁ――あ?

 狩りで4万稼ぐまでに、時間にして4、5時間。

 今回の露店分の採取製薬に掛かった時間は、同じぐらいだな……。


 このまま狩りでの稼ぎが順調に増えていけば、生産での儲けにも追いつくな。

 うん、そんなに美味いってほどじゃない。


『カイト様、どうなさいましたか? 喜んだり、考え事をしてみたり、落ち込んでみたり』

「尻尾を観察するなっ」

『……お言葉ですが、お断りさせて頂きます』

「っな!?」


 こ、こいつ、今口ごたえしやがったぞ!


『驚いていらっしゃいますね?』

「っく、そ、そんな事はないっ」

『いいえ、カイト様の尻尾がそう申しておいでです』

「く、糞っ」


 な、なんだこの敗北感は。有り得ない、NPCが口ごたえして、あまつさえ俺を弄ろうなんて。

 受付嬢を見返すと、にっこりと営業スマイルをよこしやがった。

 っ糞。なんかきゅんとしたぞ。

 またか、またホラー映画を見たときみたいな、あの胸の締め付けなのか!?






「それでだ、ムーンモスの繭をどうしようかと思ってな。今更【裁縫】技能取っても、レベル20装備作れるようになるまで、時間と労力が相当いるだろ?」

『左様でございますね。他のプレイヤーの方に生産をご依頼するのですか?』

「いや、それはちょっと……」


 以前、別のネトゲで見ず知らずの生産者に製造を依頼したことがあって、その時まんまと詐欺に遭ってしまった過去を持っている。

 素材は持っていかれるし、手数料も取られたし、他所で製造するから待っててくれと言われたまま、奴は二度と戻ってこなかった。

 運営に通報はしといたが、どうなった事やら未だに解らない。

 なので、信用出来る相手にしか頼まないのだ。

 もちろん、そんなプレイヤーは一度も現れてないけどな。


『では、町の職人にご依頼してみては?』

「NPCに? 出来るのか?」

『……えっと、これはあくまでワタクシのではありますが、お聞きになられますか?』


 ん? 今やたらと『勘』を強調したな。

 さては、大きな声では教えられないけどって奴か。


「解った。勘でいい」


 受付嬢がほっと胸を撫で下ろすような動作を作る。

 それから小声で教えてくれた。


『武器や防具を取り扱うお店の店員の中には、職人の方もいらっしゃいます。表立って生産依頼を受け付けている訳ではありませんが、頼めばやってくれる事もあります。あ、いえ、やってくれると思います』


 さらっと訂正したな。

 つまり、やってくれるって訳だ。


「頼めば簡単に作ってくれるんだろうか?」

『その辺は職人次第ですね。頑固な職人もいらっしゃいますから』

「そういうのに限って、良い物を作ってくれるんだろうなぁ」


 まずは職人探しだな。

 そうだ、今朝見かけた美人が居た防具屋に行ってみるか。

 他の武器防具屋は全て町の中心近くにあるのに対し、あの店だけが工房から近い場所に店を構えていた。

 タダそれだけの理由だが、なんとなく店主は職人なんじゃないかなーっと。

 あの女の人が【裁縫】技能持ってる、なんて可能性も有りそうだし。


「よし、行くか」

『PV』

正しくは『PVP』。プレイヤーvsプレイヤーの略。

チャットなどでは簡単に『PV』と書くプレイヤーも居ます。(ここだよここっ》

多くのMMOにはプレイヤー同士の戦闘行為が出来るコンテンツが存在します。

専用エリアでのみ行われるゲーム形式のコンテンツから、一部のフィールドを除き

通常フィールドのどこででも行える、待ったなしの戦闘行為が出来るものなど

種類はさまざま。

ただ、日本人プレイヤーには対人コンテンツはいささか不人気なため、海外産のMMOでも

対人コンテンツは修正されてアップデートされることが多いです。


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