表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/160

18:クレーマー

『にゅちゃんねる』で見た事をあいつに報告してやるかどうか……そんな事を考えていた。

 急いで飯をかき込み、風呂は後回しにして部屋へと戻る。

【Let's Fantasy Online】にログインすると、まずは受付ロビーに通される。ここで最新の公式情報が確認できるのだが……。


『カイト様、お帰りなさいませ』

「あ、あぁ。新しい受付嬢か」


 これまた美人の、今度は金髪ショートヘアの受付嬢だ。

 そして同じく鉄仮面。


「ログイン」


 そう簡潔に伝えたが、新受付嬢は俺の言葉を無視して質問を始めた。


『カイト様。現在のシステムに関してご満足頂けてますか?』


 っち。俺は1分1秒でも早くログインしてーってのによ。


「してる。それよりログイン」

『ありがとうございます。では【Let's Fantasy Online】をお楽しみ頂けておりますでしょうか?』

「……あぁ。楽しいよ。面白い称号も貰ったし、作ったポーションも即完売する勢いだし」


 完売したのはあいつの女王様プレイのお陰かもしれないが。

 っつか、人の話し聞けよこいつ。


『ありがとうございます。最後に、カイト様は【Let's Fantasy Online】を永続的にプレイしたいと思われますか?』

「んなもん、プレイするに決まってるだろ」


 とりあえずはな。


『即答、ありがとうございます。それでは【Let's Fantasy Online】をお楽しみください』


 新受付嬢がそう言うと、ようやく視界が薄れ――次の瞬間にはカジャールの工房に立っていた。






 ログアウトしてからリアルで約1時間ぐらいだが、こっちじゃ6時間が経過している。

 太陽の位置的には昼過ぎぐらいか。

 

 ん?

 受付嬢が居ないな。

 あいつ、俺がログアウトしている間はどうしてんだろう。

 辺りを探してみるが、どこにも見当たらない。

 

 あれ?

 もしかして……今までのプレイ時間は全部俺の夢だった――とか?

 ぼっち脱却したいという願望が生み出した、妄想……。

 は、ははは。まさか――な?


『こんにちは、カイト様』

「ぶほっ! こ、こんにち――って受付嬢か――、っは!? こ、こんにちはっ」


 知らない人に声を掛けられたと勘違いし、思わず二度見して緊張も二度襲われる。

 う、運営スタッフさんなのか?


『どうなさいましたか?』

「いや、その――どこにもお前の姿が無いから、どうしたのかなと思って」

『ご心配くださったのですか?』


 違う。いや、そうかも?


『ログインしたままで居ますと、プレイヤーの皆様に不審がられるかと思いまして。あくまでプレイヤーの振りとの事ですし、形だけでもログアウト状態を作っております』

「な、なんだ。そういう事かよ」


 首を傾げて口元に手を当てるような仕草をする受付嬢に、何でもないと答えてそそくさと移動した。


「そうだ。今こっちの時間解るか?」

『はい。14時12分です。時計が無いのはやはりご不便でしょうか?』


 露店通りに向いながら会話を続ける。

 その間にも、例の『萌えハンター』どもに見られていると思うと――何故かドヤ顔をしたくなる。


『カイト様。何か楽しい事でもありましたか? 現実世界はカイト様にとって、やはり素晴らしいものなのでしょうか?』

「は? な、何急に変な質問してくんだよ。楽しいっつーか、変な記事を見つけて思い出し笑いしてただけだ。俺にとって現実世界なんて……」


 友達は居ない。彼女なんて当然、年齢イコール居ない歴だ。

 対人関係が苦手で就職の面接もまともに受けられず、親父の知り合いのコネでピッキングバイトをやらせてもらってるぐらいだ。

 素晴らしいなんて事は一切無い。


「別に……素晴らしいなんて思ってたら、ネトゲにはまったりしねーと思うぞ」


 ぼそりと呟いて露店通りを目指す。ログアウト前に作ったポーションを売るために。


『そう、ですか……。変な事をお尋ねして申し訳ありません。ポーション屋を開かれるのですね。今度はしっかり売り子を行います』

「おう、頼むぞ。間違っても引き攣った笑顔やがはは笑い、あと高笑いも止めてくれよ」

『はい。今度こそお任せください。さきほどしっかり防具屋の奥様に、笑顔について教えて頂きましたので』


 やっぱり素で聞いてたのかよ。それを『萌えハンター』に聞かれたんだな。

 そういやあのスレの内容――


「なぁ、受付嬢。お前がさ――」


 某所では人気者になってるぞ。

 そう話したところで、こいつがどう思うか。いや、萌えを理解できるかも妖しいところだ。


『カイト様、どうなさいましたか?』

「んー、いや。なんでもない。さ、この辺りで露店出すぞ。それから繭の使い道を考えよう」


 首を傾げて唇を尖らせて見せたが、俺はお構い無しにござを敷いた。

 ホワイトボードに品物を書き、それをござの前に置く。

『リカバリーポーション』も今回作ったが、こいつは自分達用に取っておこう。


 レベル1の各ポーションはもう作ってない。『小さなライフ草』は全部レベル2ポーションにした。

 レベル3ライフとレベル2エナジーが、星なしと星一つから三つまで、各種揃った形になってしまっている。

 価格設定は面倒だとは思ったが――


『同じ価格で星有りと無しとでは、買ったお客様に不平がでるのでは?』


 っと受付嬢が尤もらしいことをいうので、変化をつける事にした。




-----------------------------------------


『ライフポーション:LV2 ☆☆☆』→34G


『ライフポーション:LV3 ☆』→50G


『ライフポーション:LV3 ☆☆』→53G


『ライフポーション:LV3 ☆☆☆』→56G


『エナジーポーション:LV1 ☆☆☆』→40G


『エナジーポーション:LV2 ☆』→70G


『エナジーポーション:LV2 ☆☆』→73G


『エナジーポーション:LV2 ☆☆☆』→76G


『解毒ポーション』→25G


-----------------------------------------




 よし、これでいい。ホワイトボードを置き、各種ポーションの見本も俺の前に並べて準備オッケー。

 レベル3のライフポーションなんかは、使用レベル30だからまだ使えるプレイヤーは居ないだろう。

 売れるか微妙だが、出してしまえ。


『では、まいりますっ』


 そう言って受付嬢がござの前に立つ。前回はこんな調子でとんでも行動にでやがったんだが……。


『いらっしゃいませ』


 おぉっ!

 普通だ。極々普通だっ!

 通りを歩く男共が一斉に足を止め、受付嬢へと視線を降り注ぐのが解る。

 メイド服着た美人が立ってれば、そりゃー目を引くだろう。誰もこいつがNPCだなんて知らない訳だしな。

 そしてふらふらと集まってくるプレイヤー達。

 それはまるで、甘い菓子に寄って来る蟻のようだった。


 だが、集まるだけ集まっても、誰一人としてポーションを買おうとしない。

 どうやらホワイトボードを見て、考え込んでいる連中ばかりのようだ。

 何か変な事でも書いてるか?

 もしかして価格設定がまずい?

 いやでも、NPCの価格を基準にしてるんだ。高くはないよな?


 っは!

 もしかしてNPCの価格が下方修正されたとか?

 そんな告知も無かったはずだし。いったいなんだってんだよっ。


 内心ちょっと焦っている所に、変なイチャモンつけてくる客が登場。


「おい。この星マークってなんなんだよっ。回復量が3割増し? どんな不正ツール使ってんだ!」

「ちょ、い、いい、言いがかりだ。ふふふふ、ふ、不正とか、俺がもももも最も嫌うこ、行為だぞ」

「はぁー? ちゃんと喋ろよ、このチート野郎」


 自分の知らないことは全てチート。

 そんな自己中な情弱が、ネトゲでは少数だが存在する。

 糞面倒くせーのがきやがったな。

 集まってきたプレイヤーも不審な目で俺も見始めるし、っくそったれ。


「チート使って女に貢ぎまくって手懐けたんだろ? 様付けで呼ばせるとか、変態プレイもほどほどにしやがれ。それともあれか、その女は商売女で、金渡してゲーム内の恋人プレイを依頼してんのか、この童貞野郎?」

「なっ。て、てめーっ。いい、いい、いいいいい加減にしやがれよ!」

「い、い、い、い、い、い、い、いい加減だってよ。だっせー」


 商売女だぁ?

 言って良い事と悪い事ってのがあるだろうっ。

 いくらコミュ障な俺でも、女にそれ言っちゃあダメだっての、解るぞっ!

 っ糞。

 対戦試合で緊張する事が無いのに、なんでただ喋るだけの時には緊張してしまうんだ。

 こんだけ馬鹿にされて、まともに言い返せないとか、くっそ!


 だったら殴ればいいんじゃね? 普通に殴れれば余裕で勝てる。そんな気がする。

 けど――

 殴りたい衝動に駆られると、面白いほどにシステムが反応して警告メッセージを寄こしてくる。


《町中での戦闘行為は禁止されています》


 ――と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ