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16:ログアウト

 ほくほく顔で草を毟る。

 ほくほくしているのは懐――というかアイテムボックス?


『よかったですね。レア武器が出て』

「あぁ。まぁスティールしたのが『毒麟粉』なんつー、危なそうな素材だったのが残念だが」


 それでもムーンモスからゲットできたのはこの二つだけじゃない。




--------------------------------------------------------


【アイテム名】ライトムーン・スティレット ☆

【装備レベル】19

   【効果】月光の下で作られた名刀。淡く発光する刃を持つ。

       攻撃力+119 闇属性に+15%の追加ダメージ 攻撃速度+20

       月が出ている状態で10%の追加ダメージ



【アイテム名】月光絹のグローブ ☆

【装備レベル】19

   【効果】ムーンモスの繭から作られた絹糸で編まれた手袋。

       防御力+39 攻撃速度+10

      『スティール』の成功率+5%



【アイテム名】毒麟粉

   【備考】素材。



【アイテム名】ムーンモスの繭 ☆

   【備考】素材。


--------------------------------------------------------       




 グローブの性能は良いってもんじゃない。

 スキルポイントの都合上、『スティール』は1だけ取って様子見をしようと思っていたからな。

 レベル1で成功率5%しかないし、これを装備すれば純粋に成功率2倍だ。嬉しく無い訳がない。

 毒麟粉は一つではなく、50個もあった。これ、固定ドロップ数なんだろうな。

 繭は一個なんだが、気になって取り出してみてビックリ玉手箱。

 直径150センチもある巨大繭だった。グローブの素材になってるぐらいだ、良い装備が作れるだろう。

 繭ってことは絹糸だし、【裁縫】技能か……うーん、【裁縫】を取るのは面倒くさいなぁー。


「なぁ、今から俺が【裁縫】技能取ったとして、レベル20装備を作れるようになるまで、どのくらい時間掛かると思うか?」


 システム的な内容だ。答えてくれないか?


『どのくらい……ですか。数時間は掛かるのではないでしょうか? 技能を使うためには素材も必要ですし、その素材もご自身で集めるとなると――』

「あー、いい。そうだよな。素材集めからやってたら、半日以上掛かるよな。ありがとう」

『いえ……ワタクシは予想・・できる内容をお答えしたまでですから』


 採取の手を止め受付嬢の方を見た。

 予想?

 つまり、本当の事を話しているわけではない。だが、嘘でもない。オブラートに包みつつ答えてるって事か。

 変な所では臨機応変なんだな。


「そういやお前、さっき『きゃー』とかって叫んでただろ」

『え? あ、はい。その……おかしかったでしょうか?』


 は?

 こんな返答が返ってくるとは思わなかった。

 おかしいかって聞かれれば、その――


「い、いや。別におかしくねーよ。寧ろその、女らしくて、えっとだな、あー」

『女性らしいですか? 本当ですか?』


 目の前までやってきた受付嬢は、食い入るように俺の顔を覗き込んでくる。

 近い。ひじょーに近い。

 女としてはやや長身気味の受付嬢だが、それでも俺の189センチには届かず、背伸びをして顔を近づけてきていた。

 

 そんな彼女に俺は顔を背けるしかない。


『カイト様。ワタクシを女としてご覧になられてますか?』


 ぐいぐい押してくる受付嬢。

 おいおい、女としてって、どういう意味だよ。お前はNPCだろ。

 女ってのはデータ上の外見を現すものでしかなくって女としてみているかときかれればそうかもしれないしでも下心とかそんなのはあってしかるべきだし俺だって男な訳だから悶々とかもする事だってあるかもしれないがそれがお前に対してとかはさっきちょっと思ったけど断じてそんな事はあってはならないっ。


「って何考えてんだ俺はあぁぁぁっ」

『何をお考えなのですか? お聞かせくださいカイト様』

「教える訳ねーだろーっ」


 と、とにかく無心だ。無心になれ。

 そして草を毟るんだっ。






 あの後も散々受付嬢から質問されまくったが、逆に彼女の質問の意味を聞いたら俺があまりにも間抜けだったことが判明した。


「な、なんだよ。データとしての存在か、人としての存在か、そういう意味だったのかよ」

『はい。ワタクシは所詮データ上での存在です。ですが、可能な限りカイト様のご友人として、人らしさを追求したいと思っております。ですから、カイト様がワタクシを女としてご覧くださっているのなら、とても嬉しく思いまして』


 そこ、最後だけ『女』に切り替えんなよ。妙な勘違いを生みそうだろ。


「ま、まぁ……さっきみたいな悲鳴はいいんじゃねーか。小っせーダメージでいちいち叫ばれると鬱陶しいが」

『なるほど。頻度も大事なのですね。他にアドバイスなどありますでしょうか?』

「アドバイスって……そ、そうだな」


 採取を終えレベルを20まで上げてカジャールへと戻るを計画を立てて崖を下る。

 群れていたはずの『モスガー』の姿はまばらになっていたので、ゆっくり殲滅しながら話の続きをした。


「その、まず表情のトレースを俺からするのは止めろ。男と女とじゃ、いろいろ違うだろうからな」

『では他の男性プレイヤーや男性演出スタッフの表情トレースもダメなのですね?』


 演出スタッフ……あぁ、NPCの事か。

 どうも受付嬢はNPCの事を『スタッフ』と呼ぶな。そう呼ぶことで、データとしての存在である事を忘れたいような、そんな意思でも働いているんだろうか。

 まさかなぁ〜。


「男は止めとけ。だからってポーション売り子してた時みたいな、あの高飛車なのも正直、俺は苦手だけどな」

『高飛車……』

「いったい誰をトレースしてきたか知らないが、それだったら素のお前の方が何十倍もマシだぞ」

『え、本当ですか?』


 だーっ。だから近いって!

 しかも鼠のモンスターにかじられたままこっち来んなっ。

 至近距離だったのもあり、ポーション瓶を受付嬢の頭でかち割る形になった。

 お陰で1ダメージ表示が目の前に浮かぶ。


『ありがとうございます、カイト様』


 そう言った彼女の顔はどこか煌々と輝いているように見え、何故か俺の胸がきゅんっとした。

 なんだろう、このきゅんってのは……。

 そうかアレだ。

 ホラー映画なんかを見たときになる、戦慄を覚えるってあれだ。

 そう、心臓に悪いっつーか、どきどきするっつーか。

 うん、そうだ。そうに違いない。






 朝になり、レベル20になったところで狩りを無事に終わらせた。

 まさに朝帰りだな……。


『カイト様、この後はどうなさいますか?』

「んー、そうだなー。そろそろ連続接続時間に引っかかる頃だろう」

『はい。こちらの時間ですと、あと2時間ほどで強制ログアウトが執行されます』

「じゃー、その2時間は【製薬】で時間を有効活用しよう」


 ログアウトしたら晩飯と、それからwikiと掲示板チェックだ。

 工房に向う途中、防具屋の前で軒先を掃除するNPCと目が合った。

 30前後ぐらいの、わりと美人なNPCだが、目が合うなりにこやかに微笑みかけてくれた。

 うん。女ってのはあーじゃねーと。


「あ、そうだ。笑顔をトレースするなら、あのNPCにしとけ。あんな風に微笑まれたら、男は喜ぶからな」

『あんな風……カイト様もお喜びになられますか?』


 またなんつー妙な質問しやがる。

 あー、はいはい。嬉しいですよ。

 っと投げやりに答えると、何故か受付嬢はさっきのNPCの下へと向ってしまった。

 おい、何をする気だ。


『カイト様、暫くこの方とお話がしたいので、先に工房へ向ってください』

「お話って……」


 あいつ、NPCを脅して喜怒哀楽データを奪う気じゃ……。

 いや、普通にコピーすればいいだけの話か。話ってのもそういう事なんだろう。


「解った。じゃーあとでな」

『はい。製薬、頑張ってください』


 頑張れと言われても、頑張ったところで成功率はレベルとステータス次第だからなぁ。


 一人工房で製薬を繰り返し、何となく素材選択で『毒麟粉』なんてのを選ぶと、案の定『大失敗』した。

 出来上がったのは、




-----------------------------------------------


【アイテム名】痺れ毒薬

   【備考】飲むと30秒間、動けなくなる。毒瓶。


-----------------------------------------------




 これ、『ポーション投げ』が存在しなかったら、だだのネタアイテムだな……。

 これを50本作り、他の『腐った草』もポーションに変えた。


「今まで『小さなソーマ草』が少なかったのは、日中だったからか? 今回はやけにソーマが多いな」


『小さなライフ草』が1200枚弱なのに対し、『小さなソーマ草』は800枚強。

 日中の対比に比べると、格段に今回はソーマが多い。

 陽が上り始めると途端にソーマが取れ難くなったし、たぶん夜に咲く草設定なんだろう。

 これらを全部ポーションに変える頃、遂にシステムメッセージが現れた。


《間もなく連続プレイ時間を超過します。速やかに安全地帯に避難してください》


 もう安全地帯だっつーの。

 このメッセージが出てくるのと同時に、視界の右下付近にはタイムカウンターが出現。

 10分後に強制ログアウトしますよ的なものだろう。

 カウンターが回り、あと1分となったところで受付嬢がやってきた。


『カイト様。お待たせいたしました』

「随分長かったな。もうログアウトする時間だ。じゃ、晩飯食ってくるわ」

『え……あ、はい……いってらっしゃいませ』


 しゅんっと肩を落とし、顔を伏せてしまった受付嬢。

 ちょっと唇を尖らせているあたり、不貞腐れてる、のか?

 い、いや、これはあれだ。NPC同士で喜怒哀楽情報の交換をした結果、こいつが学習した機能なんだ。

 そ、そうに違いない。


 タブレットの接続情報画面からログアウトを選択し、その場にじっと佇む。

 10秒後にはログアウトだ。


 視界が消える瞬間、受付嬢が顔を上げたのが見えた。


 眉を顰め、目を潤ませた――どうみても『悲しんでいる』顔だった。






◆◇◆◇◆◇◆◇


 名前:カイト

 レベル:20

 職業:盗賊 / 種族:ケモミ族

 

 HP:3150 → 3500

 MP:810 → 900


 STR:28+24 → 28+27

 VIT:17+29 → 17+33

 AGI:23+25 → 23+29

 DEX:15+4

 INT:5

 DVO:5

 LUK:10+1


 SP:80

 スキルポイント:3 


●アクティブスキル●

『石投げ』『足払い』『スティール:LV1』『シャドウスラッシュ:LV1』


●パッシブスキル●

『短剣マスタリー:LV5』『ダブルアタック:LV5』


●修得技能●

【格闘:LV24→27】【忍耐:LV29→33】【瞬身:LV25→29】

【薬品投球:LV7→9】

【岩壁登攀:LV4→5】【ポイント発見:LV7→9】【採取:LV10→13】【製薬:LV7】


 技能ポイント:1


○技能スキル○

『巴投げ:LV1』『ポーション投げ:LV7→9』『素材加工:LV5』『ポーション作成:LV6』

『電光石火:LV4→5』『ポーションアタック:LV1』


●獲得称号●

【レアモンスター最速討伐者】【最速転職者】【ファースト・クラフター】

【ファースト・アルケミスト】


◆◇◆◇◆◇◆◇

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