後日談
新しいゲーム……と言っても、システムなんかは『Let's Fantasy Online』の使いまわし。
その新作ゲームを始めて暫くしたある春の日。
システムは使いまわしだが細かい部分が変更されたこのゲームでは、ハウスシステムが無かった。
代わりにギルドハウスってのがあり、以前のシェアハウスメンバーでギルドを立ち上げ、必死に金を稼ぎ、ギルドハウスもゲットした。
ギルドハウスの一階部分はオープンカフェのようになっていて、ここまではメンバー以外のプレイヤーも出入りできるように設定してある。
そう。
俺が設定してあるのだ。
そう。
俺がギルドマスターなのだ。
何故?
ぼっちを完全脱却させるための試練だ――と教授は言った。
ギルドマスターだと否応なくメンバーの面倒を見なきゃならないから、いい勉強になると思うよ――とナツメは言った。
俺はやりたくないから――ともっさんは言った。
面倒くさい――と鋼は言った。
モテモテになるならやりマス――とクィントは言った。
面白そうだし、いいんじゃない? ――とエリュテイアは言った。
そして全員が頷いた。
そんな理由で俺はギルドマスターをやっている。
いや、やらされている。
以前からの仲間たちだけならいい。
特にメンバー募集をしている訳でもないのに、何故か新規加入希望者が集まってくる。
人数だけで言えば、ゲーム内TOP10入りするぐらいに膨れ上がっている。
『とはいえ、無差別に加入させている訳ではないのでしょう?』
「そりゃそうさ。不正や迷惑行為する奴はお断りだ。幸い、ナツメあたりは大手掲示板に精通しているからな。晒されてるようなのが面接に来たらすぐ教えてくれる」
『そういう方、いらっしゃったのですか?』
「まぁな。なんでそんな奴らが来るのか知らねーけど。ま、今は加入上限に達してるし、暫く新しいメンバーを増やす予定はない」
『ギルドハウス前に張り紙でもなさっては? 新規加入者の受付はしておりません、と』
そうだな。システム的に無理な状態なんだし、そうしておこう。
あぁ、なんか事務処理みたいなことが多くて、最近は思いっきり遊んでない気がするなぁ。
新規加入希望者の面接に、最低でも一時間は割いていたし、加入後はギルドの案内とか店の手伝いで忙しかったし。
『カイトさん。ストレスが溜まっておられますか?』
「溜まってる。たぶん」
まるで社長室かというようなギルドハウスの一室で、ふかふかの椅子に座って背伸びをする。
後ろで受付嬢が――いや、リズが――いや……受付嬢リズが肩を揉んでくれたりする。
なんでこいつは『受付嬢』まで登録するかなぁ。
受付嬢リズってなんなんだよ。
『久々に狩りにでもいかれますか? 難易度高めのダンジョンになど』
「お、いいねぇ。まだ行って無いダンジョンあるだろ。そこいかねーか? 雑魚が落とす素材に、超劇薬な素材があるみたいなんだよ」
それから作ったポーションを、ギルドイベントでの敗者に飲ませてみたい。
きっとウケル。
そんなことを思っていたら、社長室――俺の部屋の戸が勢いよく開かれた。
「マスターカイト、聞いてくれ」
入ってきたのは古参メンバー一同だ。
「教授、そのマスターカイトって呼び方どうにかしてくれよ……」
「メンバーにはうけているからいいではないか」
「そういう問題なのか?」
「そういう問題だろ?」
と、教授がみんなに問うと、一糸乱れぬ動きで頷く。
リズまで頷いてやがるし。
「で、みんなしてなんだってんだ?」
「実はカイトに報告したいことがあって」
ナツメがそう言うと、突然みんなが整列しはじめる。
二人一組になって……いや、男女ペアで並んでる?
なんかみんな……赤い顔して、どうしたんだ?
それからナツメの合図で全員が――
「「俺(私)たち、結婚することにしました!」」
――え?
「いやぁ、オフ会で意気投合してさー」
「せっかくの縁だもの。大事にしたいじゃない?」
「とんこつラーメン、好きって言ってくれたけん」
「運命なのデース!」
――え?
いや待って。
いつの間に?
どうしてそうなった?
俺、聞いてないよ。
「マスターカイトはどうする?」
「ど、どう? え?」
「そこに独身が余ってるじゃん」
「そこ――え?」
『え?』
リズと目が合う。
リズから視線を逸らす。
「え?」
『え?』
みんなが頷き合っている。
「マスターひとりだけ独身か」
「寂しいのぉ」
「ぼっち脱却できただけ、まだよかったかもねぇ」
「新しくギルドに入った方の中に、リズさんに憧れてる方多いですよね〜」
「中にはリズっち目当ての男もいるでしょ」
「「ねぇ〜」」
ねぇ〜っておい、それどういうこと!?
面接のときにそんな話、全然出てなかったぞっ。
「そりゃあそうだろ。こんな凶悪な顔のギルドマスター相手に『メンバーの女の子が可愛くて』なんて言ってみろ。瞬殺されるとわかってるだろ」
「それにリズさんはいつもカイトさんと一緒ですから。リズさんがーなんて言ったら、瞬殺どころじゃ済みませんよ」
「でもカイトがリズさんと結婚しないってなると、本気でアタックする人も出てくるだろうねぇ」
「「ニヤニヤ」」
何故お前ら全員で笑ってんだっ。
おい、リズ!
お前も『困りましたね〜』とか言ってないで、もっとましな反論しろよ!
「で、どうするんだ? マスターカイト」
「ど、どうするって。どうしろってんだ!」
「そりゃあ、もう〜」
「俺たちだって結婚するんだぜ。みんなで式上げようぜ!」
「合同挙式デース」
「ギルドイベントだな」
ご、合同……。
そ、そうか。
みんなで結婚式をするのか。
うん、それは……イベントとして盛り上がりそうだ。
そっか。
みんな、結ばれるのか。
なんだ、めでたいことじゃないか。
じ、じゃあ俺も……みんなにあやかって、この流れなら言える。
逆にこの機会を逃したら言えないかもしれない。
俺は立ち上がってリズと向き合う。
彼女の肩を掴み――
『あ……』
「ご、ごめん。力、入れ過ぎた?」
『いえ……つ、続きをどうぞ』
続きをと言われても……今更止められるか!
「リ、リズ」
『はい』
「お……俺……その……友達が欲しいって言って、お前が友達になってくれたけどさ……お、お嫁さんが欲しいって言ったら、よ……よ、よよ、よ、嫁になってくれるか!?」
『……は……い。ふ、不束者ですが、よろしくお願いいたします』
「はい頂きましたーっ!」
「ほら見ろ。今日が何の日か知らないで、マジ告白するって言っただろ」
「カイトさ〜ん。今日って、四月一日ですよぉ」
「儂らの結婚はうっそ〜じゃ」
「俺は本気で結婚したかったデース」
「クィント、あんた相手は誰でもいいって言ったじゃないっ」
「あ、とんこつラーメンは本気でおいしかった。匂いがちょっとアレだったけど」
「あの匂いがいいとよ?」
「で、ギルマスの結婚式はどうする? このままやる?」
「ウェディングドレスは本気デザインしたい! だから数日待って」
「オケ。じゃあ僕はケーキ担当するね」
「立食にする?」
「その方がメンバー全員入れるからいいんじゃない?」
「サンダーボルトにメッセージ送ったら、式に出たいってさ」
「ギルドハウスじゃ手狭になるな」
「いっそ町全体でやるのもいいんじゃない?」
「じゃあさじゃあさ、タキシードとウェディングドレスで町を練り歩く?」
「いやぁ〜ん。それちょっと憧れるぅ」
「タキシードに尻尾用の穴開けるの忘れないようにね」
「あんな凶悪な新郎だと、新婦を奪いに来る奴もいないだろうな」
「「言えてる」」
……。
「ああああぁぁぁぁっ、騙されたああぁぁぁぁぁっ!!!!」
今朝、思い付きで書いたものです。




