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129:撤退

「ふぇ〜ん。『月光水』が残り一本ですぅ」

「私はあと二本」

「オレはまだ五本ありマース」

「うちは三本。そろそろヤバい?」


 プリーストと変態が、各々の手持ち『月光水』の報告を行う。

 一人のヒーラーが死んだ場合、他のヒーラーが蘇生魔法を使えば済む。だが同時に複数人が死亡した場合、一人のヒーラーがそれを補うのは難しい。

 なんせ、ヒーラーが死ぬときには他の後衛メンバーもしんでいる事が多いからな。

 HPにしろ防御力にしろ、モンクはもちろんの事、後衛枠になるプリーストも魔術師系や弓手系と比べてもかなり高い。そんなプリーストが範囲攻撃で死んだ時には、当然のように他後衛職も隣で転がっているもんだ。

 だから今回のレイド攻略に参加している純ヒーラー三人と変態モンクは『月光水』を飲んで自己復活する機会が多い。

 ちなみに、俺は死に過ぎててココットの『リザレクション』のCTが間に合わず、アイテム復活するしかないなんて事になってしまっているが。


「エリートコボルトの属性は理解した。あとはリポップ条件が解ればいいんだがな」


 教授が腹立たしそうに言う。

 倒しても倒しても、次から次へとリポップするエリートコボルトたち。ムカつくのは、最初の頃より数が増していること。

 だがこのリポップ条件には心当たりがある。オンラインゲームではたまに見る類のヤツだ。


「全員一箇所に集まってくれっ。チワワ軍団を纏めるからっ。みかん、最大火力をぶっ放せ。教授も火属性の範囲あったら低火力でもいいから撃て。マック、火属性の罠とかあるか?」

「あるよ。レベル低いからダメージは期待できないけど」

「いい。とにかく土属性のチワワだけでも一瞬で全滅させてくれ」

「「了解」」


 鋼のおっさんの背後で『クローキング』を使う。直ぐにおっさんが『タウント』でコボルトキングやエリートコボルトのタゲを取ってくれた。

 そのままそっとコボルトキングの背後に回り込み、姿を現すと地味な一撃を加える。これでコボルトキングのタゲだけを俺が抱えることが出来る。

 コボルトキングを挟んだ向こう側では、どっかんどっかんと轟音と共に火柱が立ち昇った。

 当然、犬の悲鳴も聞こえる。


 次の瞬間――


《オオォーン》


 とコボルトキングが遠吠えした。

 さらに地団駄を踏み、真っ赤に燃える拳を俺に叩き付けた。


《戦闘不能に陥りました。セーブポイントへ帰還しますか?》

《YES / NO》


 うーん。回避の難しい火属性込み物理攻撃だよなぁ。地団駄の間にこっちはぴょんぴょん跳ねさせられるし、着地の瞬間に物理攻撃だもんなぁ。


 俺が死んだ事で再び鋼のおっさんにコボルトキングのタゲが移る。

 ん? なんか受付嬢が走ってきたぞ。


『カイト様、皆様の月光水の在庫も少なくなってきましたので、ひとまず撤退いたします。まずはカジャールで集合いたしましょう。よければセーブポイントに帰還してください』


 了解っと。

『YES』ボタンを押す。面白いことに、死亡時には幽体離脱みたいな感じで、半透明な自分の肉体になってボタンを押したりアイテムを使用したりする。

 ただし、動かせるのは手だけ。

 死んでセーブポイントに戻るのは初めてだな。直ぐには戻らず、十秒からカウントダウンするのか。

 カウントがゼロになって俺の意識が遠のいていく。

 暗転する視界の中で最後に聞こえたのは、


《ガ、ジャー、ル゛》


 というコボルトキングの声だった。






 元々俺のセーブ場所はカジャールにしてある。プレイヤータウンのおかげで、どの町でセーブしていようが、あまり関係ないからな。それに、他の町への移動も転送装置で苦労もしない。

 強いて言うなら、装備素材をソルトに売りつけるのに、移動が楽だからカジャールでセーブしている――ぐらいか。


 死に戻りすると町の教会に出てくる。

 案外、教会の中にもプレイヤーって多いんだな。こいつら全員、死に戻りなんだろうか?

 明らかにHP回復を待ってるような、椅子に座った連中もいるし。

 なんか恥ずかしいので外に出よう。


 ピコンという音が聞こえ、フレンドメッセージが飛んできた。

 各自で月光水を補給して帰宅せよ――という教授からだ。

 ま、このレベルだと『月光の迷宮』だってソロで余裕だけどな。んじゃサクっと行きますか。


 手持ちのポーションを一気飲みしてHPを回復。

 カジャールの町から出て、ヴォルフを呼び出してから真っ直ぐ北へと走らせた。

 モスの森を抜け平原へ。さらに北上して『月光の迷宮』に。

 

 迷宮の入り口には受付嬢が立っていた。


「案内人かよ」

『はい。カイト様をご案内いたします』


 そう言って彼女はにっこり微笑み、まるでキャビンアテンダントかなにかのような仕草で迷宮の方へと手をかざす。

 案内なんていらないつうの。

 でもまぁ、待っていてくれた事は嬉しい。


「蘇生アイテムを唯一拾いに行ける場所なんだから、ここに直接移動できるようにしてくれればいいのにな」

『左様でございますね。カジャールからですと、ライドを使っても数十分掛かりますし。今度、要望でも送ってみますね』

「おう。俺も出しといてやるよ――って、お前も要望を出すのかよ!?」

『……はっ。そ、そうですね。要望ではなく、直接マザーにお伝えすればよかったですね』


 おいおい、自分がNPCってことを忘れちゃいませんか?

 しかも今の口ぶりだと、既に要望を出した経験がありそうだし。うっかりのパターンがバージョンアップされてっぞ。


 まぁ……運営開発側の人間が、プレイヤーの立場に立って考えるのは良い事だ。

 この際人間じゃなくってAIだって違いは考えないで置こう。

 良い事は良い事だしな。


 迷宮の内部はショートカットコースであっという間に泉に到着。

 久しぶりのウンディーネにも挨拶をして『月光水』を補充させて貰った。


なんとか週2更新完了。

近々もう一本、VRの連載をはじめる計画です。

週2更新でなんとかやりくりしてみます。

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